30話 かの者達は
『右手に銀のりんごと左手に小瓶を持つ聖印に封じられし悪魔の戒律』『厳粛の王の戴く血の冠を盃にする不浄の蛇』『悪る常病の荊を持つ女王の背律』『苦艱﨟たし不死嶺貫く王笏』
黒い炎が燃え盛り、黒き風が吹き荒び、黒き氷塊が飛び、黒い稲妻が黄昏を劈く。
街道を抜けた少し先、静かであるはずの森から、突然魔法が飛来した。
「でりゃあ!」
飛来した複数の魔法を、グララウスが気合一閃切り払った。
グララウスさん。不意打ちの魔法を切り払うとかどんだけ強いんだよ。チートか。
「クッソ……!一体何人居るんだ!」
初撃が当たらなかった動揺か、一瞬攻撃が止んだが、今度は撃たれる魔法の数が増えた。
グララウスの号令とともに、傭兵達が森へと散開し、あちらこちらで、怒号が上がる。
「おい団長!きりがない。どうする!」
『天の誉れたる獅子に龍顎を与えし万物の狂い人』
「俺だって『イジャールの狂信者』を、複数相手にするなんて思ってなかったってーの!」
今俺らは、魔導師達から何故か襲撃を受けている。
こいつらに出逢うまでは、平和過ぎてつまらない道中だったというのに……!
グララウス達は上級の傭兵だけあって一歩も引かず、負傷してるのは新米や中堅だけで、最前線のグララウス寄りの強者達は、効率的な回復やアイテムのおかげで殆ど無傷だ。
だが、アイテムも魔力も無限ではない。
薄暗い黄昏時の森に紛れて攻撃してくる魔術師を一人一人撃破していくのは骨が折れるうえに、時間がかかり、一歩、また一歩と追い詰められていく。
かくいう俺も、得意の森での戦闘なので、移動と擬態を繰り返し、地面から触手を生やしては締め上げているのだが、全く数が減らない。
どうなってんだ?かれこれ十数分は戦っているはずだ。命懸けの戦闘で、薄暗い森からの魔法の不意打ちを受けないために、鎧姿で常に動き回る。人間の体力や集中力を考えたら、グララウス達は一歩も動けないレベルで疲労してるはずだ。
それでも、グララウスレベルの彼等は、未だに高いパフォーマンスを維持している。異世界とはいえ、人間の中では化物と呼ばれていい類の戦闘力だ。
十分以上も鋼鉄の塊である剣と鎧をつけて、高速で動き回れる奴が化物クラスじゃないというなら、俺はこの世界の人間とは何があっても戦わないと誓える程に、グララウスクラスは恐ろしい。
前世の人間である俺だったら一分。いや、見栄を張ったな。重鎧を着た時点で、十中八九動けないだろうな。
グララウス達に気を取られていると、俺にも魔法の炎やら毒の矢が、凄い勢いで飛んでくる。
「あーもう鬱陶しい!」
アリアは俺と一緒に森に入り、木々に紛れながら、魔導師達を狩っていた。一向に減らない魔法にお怒りだ。
アリアは子供で小柄なので草木に紛れやすく、金属鎧を着てないので、俺の擬態で一瞬で隠せる為、ゲリラっぽい戦法が非常に使える。アリアも魔法で戦うタイプなので、動き回る必要が無く、擬態に紛れ込ませせやすい。
ゲリラ戦を仕掛けてる奴に、擬態でゲリラ戦をし返す。狐と狸の化かし合いみたいな泥沼っぷりだ。
ところでアリアさん?いや、グララウスでもいいんだけど『イジャールの狂信者』って、どんな集団なの?
わざわざ傭兵つきの行商人に戦闘を仕掛けてくるなんて、物資調達にしても、正気じゃない。山賊にしては強過ぎるし数も多い。更に魔導師しかいないってどういう集団だよ。
先程まではこちらの位置が分からず、魔法が飛んできた方向に適当に撃ち込んでたようだが、急に敵の攻撃精度が上がった。
どうも、位置が完全にバレたらしい。
一度、アリアを抱えて木の上に移動する。
「レルレゲント一度身を隠すわよ!」
もうやってるよ!
触手が何本も焼けたり凍り付いたり、吹っ飛んだりして、触手が減る度に擬態率のようなものが下がるらしく、先程から見つかる回数が増えてる気がする。
今のところ擬態しかろくに使えてないので、要検証が必要だな。なるべく木の上の方に逃げ見つかり難くすると同時に、アリアが魔法を撃ちやすい位置に移動する。
いや、攻撃せずにグララウス達が勝つまで逃げおおせるか。グララウス達が勝てないなら、俺とアリアじゃ勝てないし、一旦大分後ろまで引いてから、ちまちま減らしてく方が良いだろ。
わざわざ戦場のド真ん中で、逃げ回って攻撃を繰り返す必要も無いだろ。
そして、グララウス達が負けたら、アリアだけ連れて、森へと一目散に逃げる。
完璧な作戦だ。
なんか俺逃げてばっかりだな。
いや、俺一人なら多少無謀に挑んでもいいんだけどね。アルネアお嬢様といいアリアの嬢ちゃんといい、守らなきゃいけない場合が多いから、逃げるのは仕方ないんだよ。
戦って勝って守るなんてのは、勇者がすればいい。というか、勇者が居たら、いたいけな(?)少女であるアリアが襲われてるんだから、そろそろ助けに来てくれてもいいと思うんだが?
すみません。勇者様まだですか。はよはよ。
逃げてる間にも、熱感知で見えてる敵も仲間もバタバタと倒れていく。
真面目に、そろそろ加勢か、グララウスが新たな力に目覚めるかしないと、本当に不味い。
「分かったわ!」
何が?
ちょっと急に止めてくれる?驚くし、見つかるでしょ。
アリア?マジでふざけんなよ?怒るぞ。
「レルレゲント引き返しなさい!」
引き返しても敵を数人道連れに出来るぐらいで、大して役に立てないどころか、グララウス達が俺達の守りを気にしなきゃいけなくなるので、最早戻っても足を引っ張るだけでマイナスにしかならない。
「ちょっと?聞いてるのレルレゲント!分かったのよ!召喚士が敵にいるの!でなければ、あの数はおかしいわ!」
なるほどな。召喚士を倒せば、一気に形勢逆転大勝利って訳だ。
で、あのローブだらけの集団から、どうやって召喚士を探し出すんだ?
「召喚士だから、一番安全なところに居ると思うの!だから、一番後ろの敵がそうに違いないわ!」
う〜ん。
一理あるか?
傭兵達にも結構情が湧いてるし、敵を片っ端から倒せば良いじゃない!とか、言われないだけマシか。
安全策をとって、戦闘地域を迂回して背後をとるか。
引き返して数分。森の中を迂回していると、正面から魔法が飛んでくる。
見当違いのところに被弾したが、明らかにこっちを狙って撃っている。
何故バレた?
大分迂回してるはずなんだが……。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:スティンガープラント(ヴドァ)
Lv3/30
HP90/90
MP60/60
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《擬態Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.4》《魔力感知Lv.4》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.2》《植物成長速度Lv.2》《植物鑑定》《水汲みLv.3》《血液吸収》《毒Lv.4》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.4》《斬撃耐性Lv.5》《打撃耐性Lv.3》《刺突耐性Lv.2》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》《魔導の心得Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘
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