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3話 卵孵る

卵からとんでもないモノに……。

 卵だから寝るという感覚が無いのか、気付いたら運ばれているような揺れを感じていた。


 しばらく揺られていると、揺れが止まると共に声が聞こえてきた。


 どうも試験が始まったようだ。


 長ったらしい試験官と思わしき声の主の説明が終わる度に「テイム!」という叫び声が聞こえてくる。


 一喜一憂の雰囲気が、殻越しに伝わってくるせいで、卵なのに俺は緊張していた。


「緊張する卵ってレアじゃね?」等と、どうでもいい事を考えていると、少しの揺れ時間の直後、あちらこちらから大きな笑い声が聞こえてくる。


 殻のせいで、遠くの声は拾えないが、馬鹿にされているのだけは分かる。


「本当によろしいのですね?」


 凛とした大人の女性の声が聞こえてくる。


「は、っはい!」


 昨日俺を買った女の子の緊張した声が聞こえてくる。当然だろう。昨日の彼女の愚痴を聞く限り、俺のテイムで人生が決まる。


 しかも、俺を売ってた婆さんの言葉は真実だ。俺は弱いモンスターとしてしか産まれられない。モノリーフの評価が、俺の想像以上に低ければそれで終わり。


 殆ど勝率0%の賭けに対するベットは、彼女の人生そのもの。


 周りからは嘲笑。試験官の言葉には、所々呆れが感じられる。


「では、始めてください。一定以上の評価のモンスターをテイムできれば合格です。今回は卵で、テイムは誰にでもできますので、テイム後に産まれたモンスターの強さを評価とします」


 やっぱりテイム後直ぐに産まれるみたいだ。ホワイトスライムなってみたかったな。残念。


 それにしても、自然孵化と魔力孵化で、産まれてくるモンスターが違うってどういう現象なんだろうな?


 魔力孵化っていうぐらいだから、弱い卵に魔力が干渉することで個体が変質する。みたいな感じなんだろうか。冷静に考えると魔力孵化怖過ぎだろ。

 こっちではそれが常識かも知れんが、俺が覚えてる世界で、鶏の卵から犬が産まれたら大事件だぞ。


「行きます!テイム!」


 少女のその発生と共に、目の前に表示が出現する。


 "あなたはテイムされました。卵なので抵抗出来ません。進化先を選択してください。"


 少しだけ驚いたが、ファンタジー世界だと理解していたので、特に抵抗無く、空中に文字が表示される現象を受け入れた。


 進化先選択モノリーフ!


 モノリーフの選択肢を念じると、真っ暗だった空間に白い光が迸る。卵が割れる音が鳴る度、世界に白い罅が増えていく。


 一際大きな音がすると、世界が開けた。太陽なのか室内の光源なのかは分からないが、初めて感じる光は目に眩しかった。


 目が光に慣れてくると、試験官の持つ水晶玉みたいなのに、俺と思われる顔が映りこんだ。


 大きな単眼を中心とし、その目玉から直接五枚の葉っぱが四方に生えている。脚と呼んで良いのか分からないが、地面から目玉に根が複数伸びていて、自由に動かせるようだ。


 俺キモッ!?!?


 なにこれ気持ち悪い!


 そういえば、俺の中にあるファンタジー知識でも、アルラウネやドリアードみたいな人型以外の植物系モンスターは、軒並み気持ち悪い外見してたな。


 動く葉っぱというよりは、動く目玉に、葉っぱと根っこが生えてる感じだな。


 モノリーフって単眼のモノだったのね。


 これはスライム選択しなくて良かったかも。俺の外見から考えるに、こっちのスライムは多分、ドロドロヌチャヌチャした外見の、不気味な動くヘドロみたいなモンスターだと予想できる。


 可愛い流線型のスライムじゃなくて、リアルスライムというか、モンスター然とした、スライムだろう。


 強さを求められて無いなら、可愛いと断言されていた、フィーフィア一択だったな。流石に見た目が悪過ぎる。


 少し落ち着いた俺は周りの反応を伺うと、一番近くに不安顔の少女と、キツそうな三十代女性(美人)。遠くの方に、不安顔の少女と同い年ぐらいの少年少女が沢山居た。


 少女達の中には、俺を見て「うえぇ」みたいな顔をしてるのが何人かいる。いや、君達失礼だかんね。俺も自分の姿見て、同じような反応したけどね。


「モノリーフですか。この辺りだと少し珍しいですが、一般的な植物系モンスターですね」


 俺ってこの辺りじゃレアなのか。ちょっと嬉しいな。でも、この言い方だと、俺みたいなのが、ワラワラいる場所もあるって事だろ。絶対行きたくないんだが。


「根っこを自在に動かす鞭のような攻撃と、自分の体に時折生えてくる薬草を使って、回復や状態異常を使ってくるモンスターです」


 なんか一見強そうに聞こえるが、薬草が生えてないと、回復も状態異常も使えない訳だろ。実質、攻撃方法は、根っこによる触手攻撃しかない訳だ。


「評価は、ゴブリンと同じEクラスですね。最弱であるFクラスの一つ上ですので、試験は合格とします。植物系モンスターは、何故か室内にずっと居ると弱るので、毎日外に出してあげてください。餌は水だけでよいので、欠かさずあげるように」

「は、はい!ありがとうございました!」


 そりゃね、植物系モンスターずっと室内とか、拷問だもの。餌無いのと殆ど同義だもの。


 それにしても、ゴブリンと同レベルか。スライムやミニゴブリンよりは、ちょっと強いだけか。評価微妙だな。

 せめて、薬草を頻繁に生やせるようになれば、強いんだけど。後は、生えてくる薬草の種類を、選べるといいんだけど。


 取り敢えず、ステータス確認をしよう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:無し 性別:不明

 種族:モノリーフ(リーフィリア)


 Lv.1/10

 HP10/10

 MP8/8


 状態:普通

 能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.1》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》

 魔法:《土魔法Lv.0》

 称号:意思ある卵 従魔(人間に服従したモンスター)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 見たところ、モノリーフはリーフィリアの下位種みたいだな。一段下か、二段下かは分からんけど。成長すれば、そのうちリーフィリアになるんだろう。


 《土魔法Lv.0》ってレベルゼロかよ。熟練度的なのが足りないんだろうな。しかし、使える素養は有ると。


 あっ、薬草って自生してるんじゃなくて、栽培してるのか。生成のレベルを上げれば、種類とか効能を増やせそうだな。植物成長速度を上げれば、沢山薬草が取れそうだ。

 ん?人手によるものじゃないから栽培じゃなくて、自生か?いや、もう分かんねぇから栽培でいいや。


「あなたがモノリーフね。良かったわ、戦えるみたいで」


 おう、よろしくな!とか、言いたいけど、口が無いんだよなぁ。目は有るけど、目しか無い。目蓋すらない。


 意思疎通が一方的なのが問題だな。この世界の文字を覚えれば良いんだろうけど、俺は語学に堪能な訳じゃないしな。なんとか身振り手振りで頑張ろう。


「おいおい。なんだよ、その気持ち悪い雑魚モンスターは!」

「そうだな。テイマーの品性が知れるというもの」

「我々の優雅で強いモンスターとは、訳が違いますな」


 如何にも嫌味な、小太りの貴族貴族した奴が出てきたな。服装が成金趣味っぽくて、生理的に受け付けない。それと微妙な取り巻きが二人。

 如何にも馬鹿貴族で、勉強とか出来なさそう。でも、プライドだけは人百倍。そんな感じの服装だ。小太り加減が拍車をかけている。


 ただ、従魔はどう見ても俺より強い。綺麗な鷲ぐらいの鳥。人の半分は有る火を纏った蜥蜴。甲冑を纏った騎士。


 どれぐらい強いか調べてみるか。


 ……。


 うん?使えないみたいだ。どうやら《調べる》は、自分にしか使えないみたいだな。地味にスキルの検証が出来てしまった。


「あら、子爵様方ご機嫌よう」


 口調は穏やかだが、額に青筋が浮かんでるぞ。落ち着け、俺を従えるお嬢様。


「ふん。貧乏貴族に相応しい、貧相な従魔だ」

「しかし、試験に卵とは、貴族としてのプライドは無いのかね」

「本当に貴族か怪しいものだ」


 何でコイツらこんなに絡んで来るんだろうと思ったが、周りをざっと見回してみると、他の奴等の従魔は、コイツらのより強そうだ。


 あーなるほどね。爵位が下で、女の癖に自分より成績がいいお嬢様が、気に食わないと。そんでもって、お嬢様は貧乏貴族で、爵位が一番下の為に、他の貴族に強気に出れないと。

 要するに、相手に反撃が出来ないと分かってて、やってる訳だ。控えめに言ってクソ野郎だな。


 しかも、お嬢様が結構な美人なところをみると、もしかしたら、このリーダー格の子爵様は、お嬢様が好きなのかもな。

 小さい男の子が、好きな子をいじめて気を引こうとするあれだ。普通に考えて逆効果なんだよなぁ……。


 ギリィという、十二、三歳ぐらいの女の子から聞こえちゃいけない音がする。

 お嬢様。歯軋りは歯に悪いです事よ。


「お前ら!何をやっている」

「チィ!」


 スラッとした体型に、サラサラの流れる金髪。線が細い色白の儚げなイケメン。どう見ても乙女ゲーのメインヒーローが、お嬢様をいじめてる貴族を、咎めに入って来た。


 お父さんお母さん。モンスター育成系RPGかと思ったら、モンスターが出てくる乙女ゲーでした。


 イケメンの方が爵位が上なのか、イケメンに聞こえないレベルの舌打ちをした後、頭を下げて踵を返して行った。


「全く。彼奴らと来たら。大丈夫だったか」

「えぇ。ありがとうございますわ。伯爵様のお陰でなんともございません。お手数をお掛けしましたわね。失礼致します」


 お嬢様は早口で捲し立て、スカートの裾をちょびっと摘むと、颯爽と去っていった。理由は周りの目線だ。お嬢様への嫉妬の視線がヤバかった。

 女の子ってもしかしたら、視線だけで人殺せるんじゃないの?ってぐらい嫉妬の視線が集まってたよ。オラァ二度とあんな針の(むしろ)はゴメンだ。


 俺は慌ててお嬢様の後を着いていく。


 その前に「ありがとなイケメン!イケメンってだけで気に食わないけど、俺が進化して口が生えたら、礼ぐらいは言いに行くぜ!」って、適当にイケメンの前で、足兼武器兼手をもにょもにょさせてから立ち去った。


 ヤバい。お嬢様意外と速い。何でそのスカートでそんなに速いの?俺が遅いのん?あーでも、植物系モンスターって足遅いイメージ有るよね。


 ドアの前で立ち止まってるお嬢様を見つけると、ドアノブを掴んだまま、それはもう深海より深い溜息をついていた。中学生なりたてぐらいの女の子の溜息じゃねー。

 お嬢様は知らないだろうが、喰われる運命から、助けてもらったんだし、俺頑張ろう。せめて、お嬢様が溜息をつかなくて済むぐらいに。

名前:無し 性別:不明

 種族:モノリーフ(リーフィリア)


 Lv.1/10

 HP10/10

 MP8/8


 状態:普通

 能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.1》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》

 魔法:《土魔法Lv.0》

 称号:意思ある卵 従魔

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