27話 交流街喧騒
迷子のアリアを探知系の能力で探す。
熱感知より、魔力感知の方が、アリアは探しやすい。同年代の子供と比べて魔力量が多く、攻撃的な色合いをしているので、感知の端でも引っかかれば、直ぐに見つかるはずだ。
宿に戻るのは、見つけてからで良いだろう。ゆっくり探すか。
取り敢えず、大きな通りに出てるか。
裏路地を覗き込みながら大通りを目指していくと、獣の営みとは違う、文明的なやり取りが聞こえてくる。
「それなら、これぐらいでどうだ?」
「う〜ん。もう一声」
「これを買ってくれよ」
「要らんよそんなガラクタ」
「ガーガプル採りたてだよ!美味いよ!」
「ギューア!ギューア大特価ぁ!」
「へっへっへっ、コイツを装備すれば膨大な魔力を手にできるよ?……どうだい?」
「オヤジ!これ全部持ってこい!」
羽振りのいいおっさんもいるんだな。体格も良いし、傭兵家業やトレジャーハンターなんかだろう。
どうも、来た道と違う所に出たみたいだ。これだけ人がいれば、アリアも紛れてるかもしれない。
更に喧騒へと歩を進めると、騒がしさがどっと大きくなる。
なんだろう。大名行列でもきたのかな?
「おい……あれ」
「いや……魔じゃ……」
「術者は?」
「兵士達は何をやってるんだ!」
なんだ?人が増える度に声も増えるのは、ごく自然だけど、どうにも空気が不穏な感じだ。犯罪でも起きたのだろうか。
「モンスターだ!」
「モンスターが出たぞ!」
「うわぁぁぁ!?」
「逃げろぉぉぉ!!!」
俺か!
大勢の人間がひしめきあう中で、数人の動揺と悲鳴は、驚く程速く隅まで伝播した。
人間なら捕まるだけで済むかもしれないが、モンスターは問答無用で切られるだろうな。いや、問答のしようが無いんだけど、喋れないし。
逃げていく民衆と裏腹に、こちらに駆けてくる人間達が見える。警備兵的なのだろう。
「囲め!囲め!」
「2班は避難誘導しろ!」
大事になってきたな。三六計逃げるに如かずだな。
アリアを探しながら逃げよう。
この騒ぎに気付いて、気になって寄ってきてくれると良いんだが。
「ってぇ!」
バスッという音が、足元?根元ですると、矢が飛んできていた。
街中で弓撃つかよ!人に当たったらどうすんだ!
避難させてるにしても、逃げ遅れた人とか考えないんだろうか。
兎に角逃げる!脱兎の如く逃げる!
人のいなさそうな路地を、右へ左へ。
右!
右!
左!
もっかい右!
「逃がすな!追え!」
「うおぉぉぉ!!!」
しつこいなコイツら。魔王が復活したから、警戒状態だったのだろうか?やけに、数が多い気がする。
狭い路地に差し掛かると、一斉に矢を放って来たので、先を確認する間も無く、左の道へ逸れる。
不味い!袋小路だ!
「俺らは真っ直ぐ行く。お前らは向こうを見てこい!」
「ハッ!」
そう聞こえたすぐ後、袋小路に数十人入って来る。
「何処へ行った?」
「真っ直ぐ行った方が正解だったみたいだな」
「異常無し!」
「復唱!異常無し!」
「本隊へ合流しろ!」
……。
行ったか。
《擬態Lv.4》
これが無かったらやられてたな。
危ない危ない。早いとこアリア合流しないと、命が幾つあっても足りないぞ。
家に這ってる蔦に擬態したんだけど、意外と誤魔化せて俺の方が驚いてる。擬態もレベルが四もあれば、そこそこ使えるみたいだな。
兵士達が、魔力感知や生命感知なんかが使えたら、危なかったかもしれないな。
もしくはレベルより下の感知能力には捕まらないのが、擬態の能力なのかもしれない。同レベルだったら、隠れられるのか見つかるのか気になるな。要検証だな。
しかし、この警戒状態で、どうアリアを探せばいいんだ?
下手に動けば見つかるし、擬態のしようがないところじゃ、擬態は使えないし。
万事休す……?
街中でゲームオーバーとか有りかよ。
「おや、こんな所に大きな蔦有りましたかね?」
ん?なんか、聞き覚えのある声だな。
あ、あの人は!
擬態を解いて、ゆっくり近付く。
相手は一瞬驚いた表情をしたが、直ぐに柔和な表情に戻った。
「もしかして、先程のお嬢さんの?」
はいそうです!と、飛び付きたいが無理だな。
「ふむ。襲ってきませんし、あっているようですねぇ。先程のお嬢さんは、とても良い身なりをしていました。高級宿はそれ程多くないので、回って伝えて来ましょう」
分かってくれた!有難い!
「沢山買っていただけましたし、お気になさらないでくださいな。店の奥が倉庫になってますので、そちらに隠れていてくださいね」
のたうって感謝を伝えようとするが、やっぱり無理だったので、大人しく倉庫に隠れさせてもらう。
アリアの母親もそうだけど、意思疎通は出来なくても、モンスターの事が何となく分かる人間が、一定数居るみたいだ。
どれだけ時間が経ったかは不明だが、体感的に2時間ぐらいだろうか。
一緒に来た見た顔の護衛二人が迎えに来た。
「まさかとは思ったが、本当にアリアお嬢様の従魔とは」
「勝手に脱走するなんて、後で怒られるだろうな。俺らの給金にも響かないといいが」
「取り敢えず、コイツを宿に置いて、アリアお嬢様を探しに行くぞ」
「こいつ一人で逃げ出したりしないか?」
「大丈夫だろ。特殊個体って言ってたし、こっちの言葉は通じてるはずだ」
「そうだったけか?」
「おいおい。護衛対象の情報ぐらい頭に入れとけよ」
「モンスターが急に護衛対象になるなんて思わねーよ」
「それもそうか」
これで、俺の安全は確保されたな。
迷子の女の子を探し出すどころか、自分が保護されるなんて、つくづく主人公体質じゃないな。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:スティンガープラント(ヴドァ)
Lv3/30
HP90/90
MP60/60
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《擬態Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.4》《魔力感知Lv.4》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.2》《植物成長速度Lv.2》《植物鑑定》《水汲みLv.3》《血液吸収》《毒Lv.4》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.4》《斬撃耐性Lv.5》《打撃耐性Lv.3》《刺突耐性Lv.2》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》《魔導の心得Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘
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