24話 対人戦闘訓練
「よし、お前ら!これから戦闘訓練を開始する!」
団長のグララウス・ダウナードがそう宣言すると、同意三割、否定二割、面倒臭いが五割ぐらいの「えぇ〜」が、あちらこちらから上がる。
「相手は、Dランクのモンスターだから、新人以外は真面目に警戒にあたれ!」
それを聞くなり、強そうな奴と、熟練者っぽい顔付きの奴は、すぐさま元の警戒状態に戻った。
Dランクモンスターと聞いて興が削がれたのか、手馴れてるからなのか、はたまたは両方か。
「アリアお嬢様のテイムモンスターだから、間違っても仕留めるなよ」
「特殊個体である、レルレゲントは、そんなに柔じゃないわ!倒せるなら、倒しちゃっても怒らないわよ?」
「……だ、そうだ。倒してもいいぞ」
「という訳で、全力で戦いなさいレルレゲント!私に貴方の優秀さを証明するのよ!」
こんな風に言ってるが、どちらかが危なくなったら、団長止めてくれるよな?信じてるよ?
「リタ、カルモド、タウルの新人3人と、回復と解毒が出来るポドルの4人で戦うように」
「はーい!頑張るよ!」
真っ先に反応したのが、リタだろう。
リタは、背中に弓を背負っているので、戦い方は見れば分かるな。ミディアムぐらいの髪で、ダークグリーンのような髪色に、幼い顔立ちの女性だ。如何にも新人なのか、そわそわしている。
後方からチクチク攻撃されるのも面倒なので、回復役を倒したら、直ぐに倒してしまおう。
弦の張り具合を確かめながら、矢をつがえずにこちらに向け、射るフリをしてきた。
「団長さんよぉ……。勝ったら何かイイことないんすかぁ?」
「あん?……じゃあ、スープの肉の量を増やしてやる」
「おぉ!地味だが確実に嬉しいな。しゃぁね、勝ちますかぁ」
カルモドと呼ばれた男は、小型の弓と腰に片手剣で、盾はなく軽装。レンジャー的な役割だと思われる。
明るい茶髪。長髪で後ろに纏めている。見るからに優男で、傭兵という感じでは、あまりない。酒場で女性を引っ掛けてそうだ。
軽装なので、素早いかもしれない、要警戒かな。
「カルモド。Dランクモンスター相手とはいえ、舐め過ぎだ」
「タウルは、心配性だなぁ。大丈夫だって、模擬戦だし?ポルドさんも回復役で居るしなぁ」
タウルは、背は平均ぐらいだが、腕と胸についた筋肉の隆起が見事な男で、近くに鎧が置いてある。重装備なので、見たまま盾の役割だろうな。
あの頑丈そうな鎧を徹すことはできなさそうなので、なるべく無視したい。
短髪で民族風の刈り込みが入っており、くすんだ赤髪と相まって、非常に厳しい印象を受ける。本当に新人かよ。
「スティンガープラントは、触手のトゲに毒が有るので、少しでも受けたら教えてくださいね。直ぐに解毒しますから、安心して戦ってくださいね」
ポドルは、重苦しい神官服を、動きやすい様に改造してあり、要所要所にハードレザーと思わしきものを、装備している。首から提げている聖印のレリーフは、見たことの無い意匠のものだ。
緩くウェーブのかかった薄桃色の長髪は、傭兵と思えない程艶がある。
回復役なので、真っ先に倒したい。
異世界だから知らんけど、髪色豊かだな。生まれつきピンク髪なんて無いだろうから、染めてるのかな?
まあ……傭兵だし、目立つのも仕事の内か。
戦う四人が集まったところで、団長が状況を設定しだした。
「そうだな。今回の想定は、仕事後消耗時の遭遇戦を想定した訓練をしよう。野営の準備も終わって、そこそこ疲労も溜まってるだろうしな。よし、アイテムは使用禁止だ。勿体ないしな」
そりゃそうだな。
模擬戦でアイテム消費して、実戦で足りませんでした!とか、笑い話にもならんからな。
モンスターとの遭遇戦とか、チップが命だから、割に合わない気もする。
「他のメンバーは、正面で他のモンスターを受け持ってるから、お前らは、背後のスティンガープラントを担当する。そういう想定だ。だから、勝利条件は倒す事。敗北条件は、お前らより後ろに行かれるか、お前らが全員倒れるか、だ」
団長が説明を終えると、揃った声で了承が返ってきた。
「了解!」
ふむ。声が揃ってるし、連携の練習は既にしてるんだろうな。
それを、俺みたいな特殊なモンスターを相手に、何処までやれるかって、事だろうな。
四人プラス俺は、拓けた部分に移動し、模擬戦を開始する。
相手は、タウルを前衛に据えてきた。
リタが中衛、ポドルを後衛に。カルモドは遊撃なのか、少し外れた位置にいる。
俺が植物系モンスターなので、森での戦闘を想定しているのか、タウルと俺の距離は二十メートル程。
触手が、滅茶苦茶長い俺からしたら、三回瞬く程度の距離だ。地中の触手はもっと速い。
森でこの距離で遭遇したら、傭兵側は非常に不利だろう。
そもそも遭遇戦の時点で、想定されてないモンスターな訳だし、有利で開始する状況がそもそも無いんだから、傭兵側に不利な条件で始めるのは当然か。
開始の合図共に、リタとカルモドから、矢が飛んで来る。
「はっ!」
「ふっ!」
いつも通り、触手で盾を作って防ぐと、触手が燃え上がった。
なんだってぇえぇ!?くっそ、神官の補助系の魔法か?
まさか、属性のエンチャントが使えるとは……。
冷静に燃えてる触手の部分を切り離し、被害を最小限に抑える。それに加え、盾を作った時に、一緒に地面に潜り込ませた触手を、全員の足元まで移動させた。
後は、この触手を出すタイミングだ。
タイミングさえ完璧に決まれば、勝ちは必然。
そんな事をしてる間に、タウルが正面に迫り、短剣に持ち替えたカルモドが、側面から一撃を加えてくる。
「うおぉぉぉ!!!」
「おらよぉ!」
短剣は、俺の核まで届かないので、無視を決め、タウルの攻撃を触手の薙ぎ払いで受ける。
やはり新人だからか、必要以上にトゲを警戒しているのか、犠牲を覚悟した触手が、切り飛ばされる事は無かった。
トゲに注意を割きすぎて、タウルの踏み込みが甘かったんだな。
カルモドは、短剣が俺の核に届かないと分かったのか、距離をとろうとしたので、触手で退路を塞いでやる。
ついでに、矢筒を弾き飛ばしておく。
これで、背後や側面から、弓で核を狙われる心配が無くなった。
「くっそ、やられた!矢が!」
「大丈夫ですか!?」
「怪我は無い!」
一人を完全無力化出来たので、これで三対一だ。
意図せずタウルが、十分近付いて来たので、タウルの後ろを上から狙う。
地面から、注意を逸らさせるのが目的だ。
タウルは、カルモドを助けようとしたのか、より近付いて来たので、直ぐに上を通り抜ける事が出来た。
「ちょ、タウル!こっち来たんだけど!?」
「ちくしょう!長過ぎるし、数が多過ぎるだろ!」
それは、俺も全面的に同意する。
ポドルはメイスで触手を払おうとし、リタは身軽に上からの攻撃を避けてる。
「いくら、タウルを越したからって、こんな単調な攻撃当たらないんだから!」
そうだろうな。いくら、新人とはいえ、俺もそこまで舐めちゃいない。
むしろ、今からやるのは、初見殺し。戦い慣れてない上に、アイテム使用禁止まである、新人相手だから通用する手段だ。
団長相手なんかにやれば、防御が薄くなった本体を、半分に割られて終わるだろうな。
地面に潜り込ませた触手で、ポドルとリタの足を絡めとる。
「きゃぁ!?」
「ひゃわぁ!?!?」
上ばっかり見てるから……。
残った触手を、前から後ろから、上から下から、タウルに襲いかからせる。
懸命に触手を切り飛ばそうとしていたタウルだが、やはりトゲが気になるのか、一本切るのに大分時間が掛かっていた。
「ぐあぁぁぁ!」
ゲームセットだ。
「そこまでだな。お嬢様レルレゲントを引かせてください」
「レルレゲント止めなさい!あなたの勝ちよ」
ドヤァ……!俺様強くね!
まあ、こんなイカサマじみた手、新人以外には、通用すると思えないけど。
「くっそ、まさか地面からとは」
「ハッハッハ!すまんな。俺も、地面から触手出てきた時は驚いたぞ!」
「団長も知らなかったんですか?」
「植物系モンスターは知能が低いからな。流石にやられたりしないが、俺でも何発かもらってただろうな」
「いや、頭の良い植物系モンスターは厄介だな。良い勉強になった!だが、安心しろ。一般的なスティンガープラントは、体感的にコイツの半分ぐらいの弱さだと思うぞ」
それを聞いて、明らかに四人に安堵の色が宿る。
「良かったですよ。全員コイツと……」
「レルレゲントね!」
「すみませんお嬢様。全員レルレゲントと同じぐらい強かったら、俺二度と森に入らない所でしたよ」
「あぁ、一安心だな!矢筒を狙い撃ちにされるとか、冗談じゃないぜ」
「あたしも驚いたよ!」
「私も、地面から来たのは予想外でしたね」
いいぞ〜!もっと褒めるんだ!褒められる機会が、人間に比べて圧倒的に少ないからな。
優越感に浸っていると、団長が話しかけてきた。
「レルレゲントに俺の言葉が分かるか知らんが、最初の矢を触手で防いだのは、悪手だったな。矢には、魔法を込めたり、毒を塗ったりする事が多いからな、避けるか、弾くに限る」
しょ、精進致しやす……。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:スティンガープラント(ヴドァ)
Lv1/30
HP82/82
MP53/53
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《擬態Lv.2》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.2》《魔力感知Lv.1》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.3》《血液吸収》《毒Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.4》《斬撃耐性Lv.3》《打撃耐性Lv.2》《刺突耐性Lv.2》《火耐性Lv.1》《風耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》《魔導の心得Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘
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