23話 荊棘道中
「テイム……!」
夕暮れ時を迎えた、静かな焼け空の中。平和な馬車内に、小さなテイムの声が発せられる。
アリアのお嬢ちゃんなんの躊躇もなくやったよ。
皆野営の準備で忙しいもんね。見つからないなら今のうちってのは分かる。
"貴方はテイムされました。しかし、既にテイムされています。受け入れますか"
神様ってヤツの仕業かなんかだろうけど、いきなり空中に文字が出てくると、少し驚くな。
冷静に考えれば、魔法がある世界で、神様が空中に文字書けないわけ無い。
勿論、テイムの答えは『いいえ』
俺は、アルネアお嬢様だけのモンスターですよ。
例えお嬢様が、身を守る為に他のモンスターを既にテイムしていて、お嬢様従魔に戻れなかったとしても、自発的に守ればいい。俺は人間の感情と脳を持つ、特殊個体なのだから。
……。
俺は自発的にアルネアお嬢様を守れるのだから、俺のテイムを破棄してもらって、もう一匹違うモンスターをテイムしてもらった方が、お嬢様安全度が上がるんじゃなかろうか。
今度、アルネアお嬢様の元に戻った時に、提案してみよう。
大事な事は、魔法的な繋がりでなく、アルネアお嬢様の安全だからな。そちらの方が良いだろう。
「ん〜初テイムだけど、これでいいのかしら?何も感じなかったけれど……」
テイムにのみ言及するなら、全然良くないよ。出来てねーもん。
「試してみればいいのよね!さぁ、右手を上げなさい!」
どれだよ!
右手どれだよ!
手なんかねぇよ!
いや、目も耳も鼻も口も足も無いけどさぁ!
見たことも聞いたこともねぇよ。何処の世界に、植物系モンスターに、手を上げろって奴がいるんだよ。目の前かぁ、目の前なのかぁあん?
「あれ?おかしいわね」
お前の頭がな。
「……。触手を一本、こちらへ寄越しなさい」
やっと気付いたか。
驚かせない速度で、言われた通りに差し出す。
「命令を聞いてるし、テイム出来たってことかしらね?じゃあ、商人に言って出してもらうわ」
我が道を行ってんなぁ……。なんというか、アリアのお嬢ちゃんは、何が起こっても図太く生きそう。
「な、なんて事を!?」
まあね。そうなるよね。
頼まれた貴族の娘が、お転婆じゃじゃ馬姫だったら、そんな反応になるよね。
「代金は、お爺様に言って、上乗せしてもらうからいいでしょ?」
「お嬢様。そういう問題では……」
「もう、してしまったんだもの!色々言っても始まらないわ!」
「はぁ……。お爺様には、良く言い含めておきますからね」
「うっ……。多少怒られるは仕方ないわね。さぁ、檻から出してあげて」
「はい。お嬢様」
トップのお孫様に、強く言えるわけないよな。なので、お爺様に丸投げと。
うむ、俺でも同じ立場なら、同じ事するな。機嫌でも損ねられたらたまったもんじゃない。
流石に、お嬢様につけるレベルの商人は、判断が迅速である。
少し背の高い鉄格子の箱が、少し油を差した方がよいような、大きな音を立ててゆっくりと開く。
鉄格子なのだから、盛大に隙間があるわけで、空気など変わらないはずだが、空気が美味い。
空気というか、解放感だな。
身体?枝?幹の部分を伸ばす。……伸びないけど。
「おや、出しちゃって大丈夫なんですか?」
傭兵団団長のグララウス・ダウナードが、当然のように気にかける。
「えぇ、テイムしたのよ!」
「お嬢様が?モンスターテイマーの才能が、おありなんですね」
「当然よ!」
「でも、お嬢様って、攻撃魔法も使えましたよね」
「なんでも出来るわ!」
清々しいぐらいのドヤ顔。しかし、子供のドヤ顔は可愛いもんだな。ある程度育ってからやられると鼻につくが。
「試しに剣もやってみますか?」
「いいえ。やっぱり攻撃は、派手な魔法に限るわ!」
「そうですか。でも、魔力切れでも、多少は動けるように、短剣なんてどうですかね。覚えておいて損は無いと思いますが」
「私の万能ぶりを披露してあげるわ!」
「ハハ、楽しみにしてますよ」
勇者型は凄いな。万能にして早熟。才能の塊……か。
最早、存在が反則だな。
もしかして、こいつが復活した魔王を倒す勇者とか?
そんな馬鹿な。
そんな都合良く、転生者である俺が、魔王が復活して直ぐに現地の勇者に出逢うか?
タイミングが良過ぎるだろ。そんな訳が無い。
多分こいつは勇者じゃなくて、一般的に天才と呼ばれる部類なんだろう。
というか、転生者である俺が、勇者じゃないのはなんでだろうな。いや、勇者とか絶対嫌だけど。普通に向いてないし。
もし、万が一アリアが勇者なら、俺は勇者の従魔として、魔王との戦いに連れ出されてしまう。
そんなのは断固拒否だ。御免こうむる。
勇者も嫌だが、勇者の仲間も嫌だぞ。
当然だろ。碌な目に合わない。
天才が、勇者でないことを祈ろう。なんか、祈ってばっかな気がする。
雑魚モンスターである俺に、出来ることが少な過ぎるのが、最大級の問題だよな。おぉ、神よ。
野営の準備が終わり、食事の時間のようだ。
俺があんなに苦労して起こしてた火を、傭兵が赤い石を使って、一瞬で点ける。
なんか、納得いかん。
熟練の傭兵が、火起こしに手間取ってても嫌だけどな。
「そういえば、レルレゲントは、何を食べるのかしら?……木の実?」
木の実食べるように見えるんかな?口ないけどね。
搾ってかけるとか?
……ベッタベタになるだけだろうな。
「お嬢様。植物系モンスターは、綺麗な水が有れば良いらしいですよ」
「安上がりなのね。ポーションでも飲ませてみようかしら」
「ポーションあげ続けたら、そのうち樹液がポーションになるかも知れませんよ!」
「面白い実験ね!お爺様に頼んで、一生分のポーションを揃えようかしら」
分泌するのが、毒から回復液に変わるんだろうか。
毒持ちのモンスターの食餌を変えて、食べさせ続けたら、生態自体が変わるのか、確かに気になるところではある。
でも、実験体が自分なのは、ちょっとなぁ……。
成功したらしたで、被検体番号とか付けられて、研究所に隔離されそう。
なので、その実験は、俺以外でお願いします。
「まあ、普通に水でいいんじゃないですかね。変に作用したら、枯れちゃうかもしれませんよ」
可能性はあるな。未知の物質が作用して、枯れるかも。除草剤的なね。
まあ、そんな効果があれば、森に行く人間がこぞって持ってくるだろうし、植物系モンスターが脅威になる訳ないか。
「ふ〜んまあ、いいわ。さぁ、レルレゲント。周囲を警戒しなさい!」
「植物系モンスターやゴーレム系のモンスターは、疲労とは無関係ですから、臨機応変に動ければ、非常に優秀なんですけどね。難しい命令は、理解しないので」
「あれは、特殊個体だから大丈夫よ!」
「ほう。ちょっと、戦ってみたいですなぁ。賢い植物系モンスターが、どれほど強いのか、興味があります」
「あら、面白そうね。レルレゲント戦いなさい!」
「神官戦士も居ますから、毒対策も問題無いですし、新人育成にもってこいです」
「そう、ならレルレゲント殺さない程度にね」
「私達もレルレゲントを倒さないように、気をつけますよ」
俺はモノリだけどな!もういいよレルレゲントで。
なんか戦う流れになってるし、いっちょ優秀なところを見せますかね。
それに人間相手に戦う事も、これから幾らでも有るだろうし、模擬戦は大歓迎だ。
いくぞ、模擬戦開始だ……!
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名前:モノリ 性別:不明
種族:スティンガープラント(ヴドァ)
Lv1/30
HP82/82
MP53/53
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《擬態Lv.2》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.2》《魔力感知Lv.1》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.3》《血液吸収》《毒Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.4》《斬撃耐性Lv.3》《打撃耐性Lv.2》《刺突耐性Lv.2》《火耐性Lv.1》《風耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》《魔導の心得Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘
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