22話 出立
「じゃあ、この子を引き取って頂けるかしら」
「はい!いつも、格別のお取引誠に有難うございます!では、お嬢様行きましょうか」
「お父様、お母様、立派な淑女になって、帰ってきますわ!」
アリアが、檻で大人しくしてる俺の方を、チラチラ見ながら、悪い顔をしている。
売り物である俺に、手を出す気しか無くて困った子だな。
引き取るという名目でも、商人はアンタの家に少なくない金を払ってるんだぞ?商品に向かって本気で、テイムする気か?
まあ、俺としてはそちらの方が、好都合だから良いんだけどさ、下手したらお家の信用問題だよ?
アルネアお嬢様の為に、心を鬼にしますかね。アリアのお嬢ちゃんに、命の危機が迫る訳でもないし、しっかり怒られてもらいましょうかね。
お爺さんの伝手の商人だろうし、多少の無茶は大丈夫だろうって、俺の中で結論に至ったしな。
卵の状態で、アルネアお嬢様に連れてかれたと思ったら、進化しても檻で違うお嬢ちゃんに連れてかれるなんて、売られる運命なのか……。
「それにしても、こいつ大人しいな」
「本当にテイム前なんすかね?」
「いや、テイムされてても、もう少し動くぞ。死んでるんじゃないか?」
生きてるよ〜。
出来る限り大人しくしてようと、多少商人の護衛達に啄かれても、身動ぎ一つしなかったもんだから、死体だと思われてるのかも。
「檻から出してみるか?」
「いやいや、団長。スティンガープラントの棘にズタズタにされた挙句、毒に罹りたく無いですよ!」
「強さ的には、ウチの新人の相手には良いかもな」
嫌だよ。模擬戦でも、叩かれたら痛いんだぞ。多分痛みが有るのは、核とその周りぐらいしかないけど。
傭兵だと思うけど、Dランクのモンスターぐらいは、腕試しで倒せるぐらいの連携や、戦闘技術がないと、やっていけないんだろうな。
しかし、モンスター退治は『高貴なる者の義務』貴族の御役目じゃ無かっただろうか。
いや、定期的な巡回はするが、突発的なモンスターの襲撃までは、面倒見られないか。護衛は必須だな。
貴族だけでは、手が回らない部分も有るよな。貴族よりも、平民のが多いんだから。
「私も荷台に乗っていいかしら?」
「アリアお嬢様。御者台のが、お尻が痛くないですよ」
「お爺様の所まで、どれくらいだったかしら」
「ふむ。少し遠くの所まで、荷の積み下ろしをしながら通過するので、かなりかかるかと」
「あら、そうなの?」
「えぇ、取引を間近で何度も見た方が覚えがいいだろうとの事です。お嬢様の顔を売るのも、今回含んでおりますので」
「そう、よろしくね。でも、お父様とお母様から離れるのは、少し不安だわ」
「ハッハッハ!多少御不便はおかけすると思いますが、貴重な商品を運ぶ時に、必ず頼んでいる傭兵団に今回頼みましたので、心配ご無用ですとも!」
注意すべきは、モンスターだけじゃないもんな。貴族のお嬢様とか、山賊なんかは大好物だろう。身代金が、ガッポガッポだ。……ガッポガッポって、まず聞かないよな。
「今回の護衛を務めます、団長のグララウス・ダウナードです。よろしくお願いしますお嬢様」
ふむ。傭兵で、それなりに敬語が使えるって事は、やっぱり良い傭兵なんだろうな。
日本とは違うからな。
識字率が高い訳じゃない世界で、一見乱暴そうな傭兵が、敬語を使えるのは、それだけでそこそこの評価に繋がるなずだ。
貴族や豪商の護衛なら必須だろうが、そんな上物の依頼は極小数だろうから、一般の傭兵が敬語を使う機会なんて、殆ど無いだろうしな。
「えぇ、よろしくお願いしますわ。グララウス・ダウナードさん」
「これは、ご丁寧に。私以外にも、何人か居ますが、警戒中以外は、雑用にでも使ってやってください」
「助かるわ。メイド達が居ないなんて、初めてだもの」
うひゃー流石にその辺は貴族だな。
あれ?アルネアお嬢様も貴族なのに、全然違う気がする……。
貧乏男爵家とは、話が違うのは、仕方ないか。人生の分岐点で、卵買うしか無いような家だもんな。悲しいかな貧乏貴族。
アルネアお嬢様が特殊で、アリアとかが一般的な貴族なんだろうな。
「それで、少しだけでいいから、荷台に乗ってみたいのよ!」
「分かりました。多少ですが、危険なものも積んでますので、無闇に荷物に触れないでくださいね」
「分かったわ!」
「特にこの植物系モンスター。スティンガープラントいうのですが、棘には毒が有り危険ですので、お手を触れないように、お願いしますね」
「大丈夫よ。流石にモンスターに触れたりしないわ!まだ、死にたくないし」
和やかな雰囲気が流れてるけど、檻の中から外を眺めてるだけで、時間が過ぎるのは、なかなかにシュールだな。
前世で、檻に閉じ込められた事無いからな。あったら大問題だけどさ。
下らない事を考えていると、お嬢様が俺の載ってる荷台に乗り込んできた。
おいおい。初日からやらかす気ですかい。おっそろしいな、おい。
「フフッ……よろしくねレルレゲンド」
いや、俺モノリなんだけど。
勝手に名前付けんな。
しかし、レルレゲントか。モノリーフだから、モノリよりは、多少マシか?
なんか、レルレゲントって、アレルゲンみたいで、あんまり嬉しくないな。
「う〜ん。レルレゲントとガルバッチオか悩んだんだけど、この棘の感じが、レルレゲントって感じよね!」
良かったレルレゲントで。ガルバッチオって……いや、それでもモノリよりは適当感薄れるな。
「あれ?お嬢様。こいつに名前付けてるんですか?」
グララウス団長が、アリアに話し掛けた。独り言が聞こえてしまったんだな。これは、ちょっと恥ずかしい。
「良いでしょ!レルレゲント」
「ん〜モルバルークルスって、感じじゃないですかね」
「フフッ……!おかしな名前ね!」
「ガルバッチオよりは良いかと」
「あら、言うじゃない」
「それよりお嬢様。売り物に名前を付けてしまうと、別れる時に辛いですよ」
「そんなにヤワじゃないわ!」
「そうですか?まあ……程々に」
「任せなさい!」
別れる気、皆無だもんな。もう、既に自分のものだと思って幅からない傲慢さは、貴族っぽくて良いかも。なんか、異世界って感じ。
視界の端?感知の端で、商人が何度も頭を下げるのが見えると、こっちに来た。
「さて、皆さん。準備は良いですかな?」
「えぇ、私達は大丈夫ですよ」
「私も大丈夫よ!」
流石、優秀な商人は機敏だな。一体いつの間に、別れの挨拶をしに行ったんだろうか……。
合図と共に、馬車がゴトゴトと揺れ始める。
檻は固定されてる訳じゃ無いので、大きく揺れた際に、檻がアリアにぶつからないだろうか不安だ。
押し潰してしまっても困るしな。棘で床に、ちょっとだけ固定しておくか。
少しだけガリガリと床を削る。あんまりやり過ぎると、荷馬車の床を破壊してしまうし、馬車を壊したとなれば、凄まじい非難を受けるだろうな。
非難っていうか、モンスターなので、その場で切り殺されるまである。
アリアに偽テイムされるまで、大人しくしてないとな。処分だけは、御免こうむる。
こうして、俺の荷馬車の旅〜鉄の格子を添えて〜が始まった。
どうでもいいけど〜添えて〜って、やると料理っぽい。うん。マジでどうでもいいなこれ。
願わくば、アリアのお爺さんのところまで、何も起きませんように。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:スティンガープラント(ヴドァ)
Lv1/30
HP82/82
MP53/53
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《擬態Lv.2》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.2》《魔力感知Lv.1》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.3》《血液吸収》《毒Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.4》《斬撃耐性Lv.3》《打撃耐性Lv.2》《刺突耐性Lv.2》《火耐性Lv.1》《風耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》《魔導の心得Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘
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