20話 勘違いは誰にでもある
足跡の熱の残滓を辿っていくと、途中で途切れてしまった。やっぱり低レベルじゃ駄目か。時間が経って熱が完全に霧散してしまった。
まだ森から出られていないのに、続いてるはずの足跡はもう見えない。
途方に暮れていても仕方がないので、熱感知範囲を最大にして、モンスターを探しがてらしばらく動き回っていると、熱感知に人型の反応が四つ引っかかった。
森の外にどれだけ近付いたか分からないが、四人中二人は子供みたいだ。こんなモンスターが蔓延る森で何をしてるんだろうか。
ピクニックだろうか。魔王が復活してモンスターが凶暴化した森で?んな、アホな……。いや、まだ調査中だったな。
どうしても気になったので、擬態を使って、ずるずると忍び寄る。
『怪異!忍び寄る棘!』とか、ゴシップ誌に写真を出したら買い取ってくれそうだ。
「2人共ここで遊んでいてね」
「日が落ちかけた頃に、迎えに来るからね」
「はーい」
「え〜」
「ほら行こうアリア」
「分かったわよアレク」
子供達は六歳ぐらいだ。良く似た顔立ちに、綺麗な銀に近い薄紫色の髪。藤色の瞳をしていた。多分双子だろう。
ヘンゼルとグレーテルかよ。
子供をモンスターが出る森に捨ててくのか?もしかしたら違うのかもしれないと、心の何処かが訴えているが、無視をした。
例えモンスターに襲われずとも、こんな鬱蒼とした森で、夕方まで遊んでいたら、迎えに来ようが無い。
昼間でも薄暗いのだ。それが夕方になればどうなるか、あの両親に分かっていないはずはない。
幸い俺は食える木の実なんかが判別出来るし、水も地面深くから汲み上げられる。あの両親を多少懲らしめた後で、双子の面倒をみよう。
いや、今脅かせば、子供を連れて逃げ帰るかもしれないし、子供を置いて帰ったらそれはそれで、俺がなんとかしよう。
お嬢様に再会した時に、恥ずかしくない植物系モンスターになってないとな。
地面に触手を潜ませて、親が帰ろうとしたタイミングで、道を塞ぐように触手を出現させる。
「早速出てきたか。お前達」
「丁度良いんじゃないかしら」
「遊び相手はっけーん!アレク早くしなさい!」
「分かってるって」
ん?なんか思ってた展開と違うぞ。
「喰らえぇ!ファイア!」
「ウィンドショット!」
女の子が炎を、男の子が風の塊を撃ち出して来た。
異世界だった!植物の身体馴染みすぎて忘れてた!
って事は、本当に遊び場なの!?
早とちりした俺も俺だけど、親切心が裏目に出たな。
俺は姿を晒して無いので、触手が三本風の塊でズタボロに切り裂かれ、二本燃えたぐらいで済んだ。当たって直ぐに触手を切り離したので、ダメージは無い。
や〜焦った。
「僕の勝ちだね!三本も倒したよ!」
「たまたまよたまたま!次は負けないんだから!」
親に捨てられた子供は居なかった。それは嬉しいが、自分が攻撃される羽目になっているので、素直に喜べない。
慌てて残った触手を地面に引っ込ませる。
「いなくなった!?」
「えっ、どうしよう」
「仕方ないな。このモンスターだけ見ててやろう」
「もう、貴方。意地悪なさらないで、助けて上げてくださいな」
「い、いや、だが、それでは訓練にならない」
「位置を教えてあげるぐらい、良いじゃないですか」
「う、うーむ。今回だけだぞ。お前達!次は自分達で見つけられるように」
「はい。お父様」
「お父様!私は倒す方が得意ですわ!」
「そういう話では無くてだな……」
「アレクが索敵魔法を覚えれば良いんだわ!早く覚えなさいよ!」
「……なんで僕ばっかり」
きっと双子でも、女の子の方が姉なのだろう。悲しいかな、いつの世のも、姉とは世界で一番、弟に理不尽な生き物である。
「では、良く見ているように。《サーチエネミー》」
彼がそう唱えると、周囲に波が広がったのが、体感で分かった。ソナーっぽい魔法なのね。
「いない……だと?」
「どうしたんですかお父様」
「早く戦いたいわ!」
娘さん戦闘狂過ぎません。
「いや、それが見当たらないのだ」
「じゃあ、先程の触手のモンスターは、敵意が無かったという事ですか」
「そうなるな」
「人を襲わないモンスターなんて居るはずないわ!手当り次第攻撃しましょう!」
森を焼く気か!?
「森を焼く気か!?」
パピーよ。
まさか、こんなに思いが通じるとは。父君は俺の運命の人かもしれない。んなわけねーけな。
「さっきの触手は、明らかにモンスターのものだ」
「でも、敵意が無いなら、攻撃したら可哀想じゃないかな?」
「はぁ?何言ってるの?アンタ馬鹿でしょ。モンスターはモンスターなんだから、モンスターなのよ!」
「意味がわからないよアリア」
「アレクの癖に生意気!」
この両親がいる時に出てけば、何とか意思疎通出来るんじゃないだろうか。可能なら、仲良くなって、森の外へ行きたい。
そ〜っと地面から、一本だけ触手を出す。
「あっ!いたわ!アレクあれやるよ」
「一本だけなのに、もったいないよ」
「早くしなさいよ!また、どっかいっちゃうでしょ!」
「はぁ……」
「ファイア!」
アリアが先程のように火魔法を唱えると、重ねるようにアレクが詠唱した。
「ストーム!」
先程よりもファイアへの魔力量が多いのか、大きい炎になっていた。その炎を、アレクが出した竜巻が巻き込み、周囲に拡散する。
「「ファイアストーム!」」
炎のダメージ範囲が大きく広がり、風の刃が炎と共に、木々を蹂躙する。
おいふざけんな!ここ森だぞ!人為的森林火災でも、起こす気か馬鹿野郎!
哀れな触手は、焼けただれ、切り刻まれ、地面に落ちて燃え尽きた。
幸い周囲には燃え移らなかったが、当然双子は、両親にしこたま怒られたとさ。
こんな広大な森で、延々と燃え広がったりしたら、国賊どころか、世界中から指名手配されるまである。
貴族の子息子女といえど、千差万別なんだな。アルネアお嬢様の従魔で、本当に良かった。
「3人とも待って。攻撃して来ないで、帰り道を塞ぐって事は、何か用が有るんじゃないかしら?」
そうです。奥さんグッド。
「そういえば、おまえは少しだけモンスターの心が分かったな」
「はい、あなた。声をかけて見ますから、攻撃しないでくださいね。勿論、貴方達もよ」
「はい。お母様」
「モンスターなのに?」
「殆ど知られていないけれど、知能の高いモンスターは、人間と取引したりするのよ」
そうなんだ。初めて知った。俺、モンスター側だけどね。
「モンスターさん。攻撃の意思が無いなら、出てきてくださるかしら?」
その声を受けて、ゆっくりと出て行く。
「こやつはスティンガープラント!それよりも、植物系モンスターが、人間の言葉を理解しているだと!?」
「あなたは、私達を攻撃したかったの?」
いいえ!違います!伝わんのかこれ?
「違うって」
「知能の高い植物系モンスターか。非常に珍しいな。特殊個体か」
「貴方は、私達に何か用があるの?」
えっと、従魔なんです!従魔!アイアム従魔?ディスイズ従魔?ん〜とにかく従魔なんです!
「従魔?貴方はテイムされたいの?」
違うよ!テイムされてるの!テイムされてるけど、二重テイムって、可能なのかな。
「えっと、テイムすればいいのかしら?」
や、違うって。はぐれたんです!森の外まで連れてってもらえませんか!
「えっと、テイムされる為に森の外へ出たいのね?」
なんか微妙に噛み合ってないけど、森の外に出られるなら、もうそれでいいよ!
「森の外に出たいそうよ」
「ふむ。植物系モンスターが、擬態の出来ない森の外へ出たいとは、何とも不思議なものだ」
「お母様。特殊個体を初めて見ました!」
「えっと、燃やしていいの?」
人の話聞いてた?
アリアお嬢さん?ママの話はちゃんと聞こうね。
それに比べ、アレク坊ちゃんは大人しいな。
「スティンガープラントは、鋭い棘と棘に毒がある、森の中では厄介なモンスターの一種だ。テイム用に連れて帰って売れば、それなりの値段が着くだろうな。特殊個体であれば、研究者が買うかもしれん」
おっと、いきなり凄く着いて行きたく無くなったぞ。
「本来なら、毒も棘も危険なスティンガープラントは、見つけ次第焼き払うべきだが、Dランクのモンスターだ。我々4人では、犠牲が出るかもしれん。大人しくしていてくれるというなら、それに越したことはない。要求を聞くとしよう」
「Dランク!?この棘意外と強いのね」
「僕達じゃ、棘にやられてたかもね」
取引と呼んで良いのか分からないが、取り敢えず、森の外へ出られそうだ。
感謝の気持ちを込めて、実が着いてる触手を四本、奥さんの方に差し出す。
「あら、くれるの?」
あげるよー。だから、外までよろしく。人間と一緒なら、見た目が凶悪でも襲われないはずだし。
「スティンガープラントは、危険なモンスターだが、その実は大変甘く、美味しいと聞くな」
「森の外へ出してくれるお礼の先払いって、ところかしら」
「人間が利益で動くと理解してる辺りは、非常に賢いな。中身は人間だったりしてな!アッハッハッ!」
「もう、あなたったら、そんなはずありませんわ」
「それもそうだな」
いや、オッサン大当たりだよ。ひゃービックリした。植物系モンスターじゃ無かったら、動揺しまくってたね。
「ねえ、結局焼いていいの?」
「アリア。もう少し戦い意外に興味を持とうよ」
「綺麗な服と甘いお菓子より、血を浴びてる方が楽しいわ!」
「正面から殴りつけるタイプのアリアが、なんで魔法を使えるのか、不思議でしょうがないよ。魔法って頭が良い人間のものなんだけどね」
「直感でこう、グッとやってバーン!ってやれば使えるわよ!」
「アリア勇者型なんだけど、イメージが過激過ぎるから、火魔法しか使えないんだよ」
「魔法は魔法でしょ」
「……」
これはあれかな。スティンガープラントが仲間になった!
チャラララランランラン!
みたいな、音楽が流れるシーンなんだろうか。若干一名に薪にされそうだけど。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:スティンガープラント(ヴドァ)
Lv1/30
HP82/82
MP53/53
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《擬態Lv.2》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.2》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.3》《血液吸収》《毒Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.4》《斬撃耐性Lv.3》《打撃耐性Lv.2》《刺突耐性Lv.2》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘
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