17話 VS凶悪鹿
今日はヘラジカ(凶悪)を退治するには、良い日だな。日が燦々と……照ってないわ。鬱蒼とした森の中は、相変わらず昼間でも暗い。
太陽さんよ。もっと熱くなれよ!闇を照らす日輪の如くさぁ!……いや、無茶苦茶だな。
ドラゴンを倒すのに、ドラゴンの素材が必要。
みたいな理論になってる。
さて、ヘラジカちゃんは何処かな?俺をビビらせた挙句、触手を切り飛ばしてくれた恨み、はらさでおくべきか!
と、思ったけど、アイツ何処に居るんじゃ?
せめて、巣を見つけておくべきだったな。巣って、蜂かよ。なんて言うのコロニー?サナトリウム?
……巣だな。動物なんだから、巣でいい。間違ってないはずだ。
夜は、寝床にしてる巣があるはずだ。
一晩中考えて、寝てる間に奇襲すればええやんけ。と、何度か考えたが、一匹襲って仲間が後ろからワラワラ来たら倒せない。
あの馬鹿げた凶悪角に囲まれたら、モノリーフの串刺し活き造りになる未来しか見えない。
とっても新鮮だぜ!って、ならんように気を付けないとね。
まあ、要するに、はぐれジカを狙うしか無い訳だ。
群れ社会からハブられた、可哀想な一匹狼ならぬ一匹鹿を狩る。もしくは、群れから遅れた、憐れな仔鹿が俺の標的だ。
大分表現を遠慮して、悪役ってところだろう。
率直に言えば外道。俺マジ外道。
外道戦隊ヒドウナンジャーのレッドぐらい外道。ただ、戦隊ものの割に、目玉レッドと、触手グリーンしかいないのが問題だな。実質一人。
完全に戦隊(哲学)になってるよ。超イカしてる。いや、頭がイカれてるだけか。
そういえば目玉レッドと、触手グリーンは良いとして、皿替わりにしか使ってないこの葉っぱ、何の意味が有るんだろう?
凄いデカい割に、使い道が良く分からない。見た感じ、攻撃力は無さそうだし、今のところただのランダム薬草生成機だ。
こんなデカいのが、五枚も付いてるのに、薬草がたまに生えてくるだけとか、そんな事ある?
……新しく能力を手に入れるまでは、草生える葉っぱでいいか。
SNSがあれば『やっべwww草www葉っぱなのに草生えるとかwwwマジ草生えるwww草www』とか、投稿するんだけどな。
まあ、触手タッチパネルに反応しないだろうから無理か。
余計な事考えながらずっと探してるけど、鹿居ないな鹿。
シーカー鹿しかシーカシカ〜っと。
うん。居ない!
デッカイ蛾とか、ヤバそうなイモムシとか、気持ち悪い蜘蛛とかは、沢山居るんだけどな。鹿がいない。
ノットディアー。
それ「鹿いない」じゃなくて「鹿じゃない」になってるな。
適当に探すんじゃ無くて、昨日遭遇したところまで戻って、足跡でも探すか。
ふむ。流石単眼のモンスター。鹿と鹿じゃない足跡の区別がしっかりつく。
慎重に辿ること数時間。
親愛なる鹿を発見する。英語ならDearDeerだな。鹿力高いわ。
さて、親愛なる鹿の諸君を、発見したのは良いんだけど、群れなんだよな。
数は六体。内仔鹿が一体。
確か、俺が知ってる一般的な鹿は、十数匹ぐらいの群れだった気がするので、少し少なめだ。やっぱり、モンスターだからだろうな。個体が強いから、自然と群れの数は減るんだろう。
数は少ないにしても、俺の触手を一撃でぶった切るような角の持ち主が六体。あれに突っ込むのは自殺というか、狂気の沙汰というか、正気じゃないな。
俺の考えは正しかった。はぐれ鹿を狩るしかない。外道上等。非道結構。生き抜く為には、甘っちょろい事は言ってられない。
てか、安全な群れが有るのに、わざわざ一体になる鹿って、何がしたいんだろうな?反抗期ですか?プークスクス。こっどもー!……鹿反抗期可愛いな。
それよりも、全部角ついてるけど何体かはメスだよな?いや、どうせ倒すんだし、何でもいいか。
一体になったところを攻撃する為に、木の上に登って、執拗にストーカーしますかね。
ヘラジカ(凶悪)追跡開始。
一時限目「鹿、草を食む」
二時限目「鹿、じゃれる」
三、四時限目「鹿、移動す」
五時限目「鹿、水を飲む」
六時限目「鹿、移動す」
……って、やってられるかぁ!学校の自然観察でも、こんなに長くねーよ!暇か!
大体、時間感覚分かりづらい!
でも、我慢だ我慢。
あーくっそイライラしてきた。俺は鹿の観察員じゃないんだよ。鹿を倒す者なんだよ。なんだよ、鹿を倒す者って、格好良くねーつか、者じゃない。者というより草。鹿を倒す草。
字面にすると意味不明だな。鹿を倒す草。
鹿を観察する事、更に数時間。
仔鹿が、フラフラと何処かへ行く。何か興味を惹かれるものがあったのだろう。どの種族でも、子供を見守る親は大変だな。あっちへフラフラ、こっちへフラフラと。
まあ、そんな仔鹿を狩るんだけどね。弱肉強食だからね。仕方ないね!
音でバレないように、木から触手を使って、ヌルッと降りる。別に湿ってないよ。
いけ、外道グリーン!
地面の中を這わせて、奇襲する。
脚を絡め取り、宙にあげ、一気に首を締め上げる。
「キャキィ!キュー」
驚いたような声の直ぐ後に、絶命の声をあげる。よし、仕留めた。
俺の心に一応言い訳すると、コイツら可愛くないんだよ。モンスターだから、角は危険だし、目は血走ってるし、毛皮はおどろおどろしい色してるからね。正直角がヘラジカ似だから、一応鹿って、言ってただけだから。
見た目がヤバいので、攻撃しても罪悪感はあんまり無い。
やっぱ、見た目って、大事だわ。
中身自称人間の目玉の化け物と、超絶イケメン金持ちのシン伯爵。どっちが殴りやすい?ってなれば、建前上両方人間でも、皆俺を殴って来るのは確か。
だから、やっぱり植物系モンスターでも、知能の高いドリアードなんかが、美女に擬態するのは理にかなってるよな。
仔鹿を仕留めて、少し思考に浸っていると、後ろから「ギャーギャー」という、鳴き声が聞こえる。
ハイハイ。親鹿ですね分かりますよ。子供を探しに来ちゃったんだね。でも、群れからは、大分離れてる。
一対一だ。
相手は、仔鹿をやられて怒り狂ってる。そう、冷静じゃ無いという事!即ち、こちらがビビりまくって萎縮せずに、冷静を保ち続ければ倒せる!……多分。
凶悪鹿は、思いっ切り地面に角を叩き付けて攻撃してくる。
地面と角がぶつかり合ってるのに、金属みたいな音がしたので、相当頑丈。擬音にするなら「ッガスン!」みたいな音だった。ヤベェよ。マジヤバい。
重量級のスポーツ選手が、全力疾走で、折れない剣を突き刺してくる感じが、マジでヤバい。
マジヤバイ
超ヤベェよ
マジヤバイ
絶望の五七五が出来たな。やっぱり俺、前世は日本人だわ。
鹿が追撃してくる前に、慌てて距離をとる。
あの破壊力、角の攻撃範囲もかなり広いな。刺すのも切るのも出来ると。
メイン攻撃は、凶悪角をフルに使った突進。ヘラジカっぽい角なので、突進中の正面は、殆ど無敵だと思っていいな。
なら、倒し方は一つ。
木を使って、側面か背面を取り続けて、触手で叩く。
仔鹿は、スピードもパワーも弱かったし、簡単に倒せたけど、成体はそうはいかないか。そもそも、毛皮が柔いとは思えん。
最低ランクの兎ですら、かなり頑丈な毛皮してたからな。
こちらの疲労しないアドバンテージを、十全に活かした、超長期戦を挑む。軽微なダメージと疲労を蓄積させまくって、動けなくなったところを、一気に畳み掛ける以外の勝機は無い。
やっぱり外道だわ。
いいんだ。雑魚植物系モンスターが勝つには、搦手しかないんだよ。真っ向勝負は、主人公がすればいい。俺にはプライドよりも、道理よりも、お嬢様のが大事なんだから。
鹿が突進してくる。ギリギリで避ければ避ける程、多く俺に反撃のチャンスが与えられるが、そんな博打はしない。
止まれないぐらい、スピードが乗ったのを見計らって、避ける。
すると当然、周囲に生い茂ってる高い木にぶつかる。
あのスピードだ。幾らモンスターいえど、あんなスピードで巨木にぶつかって、ノーダメージって事は無いだろう。
本当は、木に角が刺さって抜けなくなる。とかが理想的なんだけど、世の中そんなに上手くいかないよねぇ。
意外とギリギリで回避したのか、気付けば念の為用意していた守備の触手が数本、切り飛ばされていた。
速さを見誤ったな。昨日の鹿より、強い個体だ。個体差か、怒り狂ってるからかは、定かじゃないが、兎に角昨日のより強い。
木の上の安全圏から一方的に叩ければ、いうことは無いんだが、相手が冷静になって帰られでもしたら面倒だ。相手のが圧倒的に速いからな。
みすみす経験値を逃してたまるか。
なので、相手が倒せると思う位置で、戦う事は重要だ。
触手を最高速で伸ばし、枝を掴み移動する。枝の強度は計算してないので、耐えられる事を祈ってる。
改めて、超絶ガバガバな作戦だな。作戦と呼んで差し支えるレベルだ。
俺が司令官の部隊には、死んでも参加したくない。
擦れ違いざまに何発か入れる。
やはり防御力が高いな。効いてる気が全然しない。
木にぶつける方が良さそうだ。
また、鹿が突進攻撃を仕掛けてくる。ここで避ける!
今度は、角が触れるか触れないかの直前で避けれた。触手も切り飛ばされていない。順調だ。
おっと、また単調な突進か?もう、見切ってんだよ!さっさとやられな!
今度はさっきより少し余裕を持って躱す。ふん、遅いな。さっきより遅い。
……さっきより?
先程よりもスピードに乗っていなかった鹿は、木の直前で止まり、些かの隙もなく、両前足を上げて蹴り飛ばしてきた。
一応用意していた、防御触手を容易く破壊して、俺の目玉部分を、前足で踏みつける。
痛い!めっちゃ痛い!
ステータスは……!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:モノリ 性別:不明
種族:モノリーフ(リーフィリア)
Lv8/10
HP50/65
MP34/34
状態:普通
能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.9》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.3》《擬態Lv.1》《恐怖耐性Lv.2》《斬撃耐性Lv.1》《打撃耐性Lv.1》《刺突耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おいおい。一撃で、15も体力持っていきやがったよ。そりゃ衝撃だけで殆ど全損する森王なんかよりは、マシもいいところだけど、俺に比べて鹿がかなり強い。
また、突っ込んできた。今度はどっちだ?取り敢えず、防御にまわす触手を増やしてだな。
よし、このタイミングで回避!
回避したと思った角に、触手ごと目玉を切り裂かれる。
ん〜この角相手に盾替わりの触手を増やしたところで、意味は無さそうだな。
回避に全振りでいこう。
体力は、残り30か。角はもう受けれないな。
地面に、触手をもう一度忍ばせて、木の上に移動する。
切り飛ばされても、されなくても良いので、十本の触手を一本ずつ出しては潜ませて、チクチク攻撃していく。
ここまで体張ったのに逃げられないか、少し不安ではあるが、命には変えられない。
長い時間をかけて、ダメージになってるのかなってないのか分からない攻撃を、地道に積んでいく。
早く疲れて、へたり込まないかな。
相手が触手を半分以上倒した頃には、動きが三割減ぐらいになっていた。
地面に潜み、全方向から攻撃してくる可能性のある触手を相手取るのは、モンスターといえど、相当の体力と集中力を消費したはずだ。
更に多くの触手を地面に潜り込ませ、本体の目玉を地面に降ろす。
好機と見たのか、案の定鹿が突進してきた。
馬鹿め!既に我が手の内よ!
三割ものスピードを失ったお前を、捕らえるなど容易いわ!
潜ませた触手で、後ろ脚を掬ってやると、宙に浮いて半回転し、背中から落ちた。
勝機!
オラオラ!触手を地面のも含めて、総動員で、やたらめったら叩く。
十分ぐらい叩き続けただろうか。凶悪鹿は、ぐったりして、殆ど動かなくなった。
叩いてトドメをさすのは困難なので、触手でぐるぐる巻きにして、空高く放り投げる。
後は地面が、血を啜るのを待つだけだ。
酷い赤が、茶色のキャンバスを彩るのを見届けた俺は、身体を癒す為に、また木へと登った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:モノリ 性別:不明
種族:モノリーフ(リーフィリア)
Lv8/10
HP30/65
MP34/34
状態:普通
能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.9》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.3》《擬態Lv.1》《恐怖耐性Lv.2》《斬撃耐性Lv.1》《打撃耐性Lv.1》《刺突耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー