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146話 世界を垣間見た少年

※注意

アレク視点。

「……ク!アレ……!!!アレク!」


 ぼんやりとした意識の中に、聞き慣れた馴染み深い声が空気を透して染み込んでくる。


 ゆっくりと目を開けると、寝起きとは思えない程鮮明に、自分と同じ顔が視界に飛び込んでくる。


 いや、涙で歪んでグシャグシャで今はそんなに似てないかな?


「イテテ……おはようアリア」

「おはようじゃないわよ!!!バカッ!!!」


 ちょっと頭がズキズキ……全身が痛むけど、心地よい痛みだった。


「アリア……そんなに強くしたら痛いよ」

「うるさい……大人しくこうされてなさい」

「……うん」


 アリアを慰めながら、見ていた夢のようなものを思い返す。


 悍ましいなど陳腐に感じられる程、この星に生きる僕達には信じ難い話を。


 夢と言うにはあまりに鮮明で残酷だったけれど。それでも思い返さずにはいられなかった。




 最初は何が起きてるのか分からなかった。


 薄暗い空間全体に(もや)が発生している様な不思議な空間。


 僕はそこで横たわっていた。


 全身の感覚は有るのに浮いているような、しかし不快感は無く揺りかごのような空間だった。


 体感的に数刻の間その空間をさ迷っていると、光の玉のようなものが突然現れ、僕に話しかけてきた。


 するとどうだろう。世界の靄が晴れ、そこは空の上だった。


 最初は警戒していたけれど、その声は海なる母のような、偉大なる父のような深い声が混乱し興奮する僕を落ち着かせる。


 何となく直感でしかない。でも、これだけが真実にして絶対だと思った。


 この光の玉は龍だ。


 世界の根源たる龍が、僕を勇者にした龍が語りかけてくる。


 恐怖、畏怖、高揚感、全能感、優越感。


 ない混ぜになった言語化しづらい感情が大きなうねりを伴って、自分の中に入ってくる。


「勇者よ……我が呼び掛けによくぞ応えた」

「これは……」


 色々聞きたいことはあるが、思うように言葉が出てこない。


 龍の話を聞くに、僕と皆を崩龍から護ったのは、創世の二龍が一体、地龍であるらしい。


「ここからは話すよりも、体感した方が良いだろう。進めあの道を」


 地龍がそう言い終わると、光の柱が空に続いていき、光の階段が現れた。


 地龍の迫力に完全に呑まれた僕は、手と足がまるで別の意志を持ったように動き出すのを、止めることができなかった。


 そこからは進む度に恐ろしい追体験をする事になった。


 星が産まれ、争い、傷付き、幾度となく殺し合う二対の龍。


 周囲の星々を巻き込み消滅させ、その威力で星がまた産まれる。


 これが創世の……この星を創ったと御伽噺で言われる二龍の戦い。


 二龍の戦いは長期化し、次第に代理戦争が盛り上がり、天龍はモンスターを、地龍は人々を生み出した。


 そして人を産んだ地龍は人を愛してなどいなかった。弱者の中からごく稀に生まれる強者に惹かれたのだった。


 モンスターは強いが、個体差はあれど、殆どが同じようなもので、変異種でも想定の範囲内を超えなかった。しかし、人間種からは時折その時代時代に英雄と呼ばれる勇者と言わしめる圧倒的強者が生まれた。


 一撃でモンスターを屠る戦士。

 大群を消滅させる魔道士。

 戦場を一人で支配する軍師。

 消えた四肢を蘇らせる祈祷師。


 地龍はそれを愛した。


 幾度となく滅び産み出された世界は、強いモンスターと強い人間を生み出す為の実験施設だったのだ。


 力を失いかけた二龍が、互いの喉元の届く為の刃を生むための実験施設。


 恐ろしい事実だ。


 もし宗教家にこんな事実を言えば、異端者として殺されてしまうだろう。


 ひとつは、この星は二龍が産み神々に守護された祝福された星。

 ひとつは、神々が龍の争いを鎮め、二龍が守護龍になった星。

 ひとつは、地龍は慈愛の心で我々人間種を産んだ。

 ひとつは、魔王は不倶戴天の敵であり、天龍と地龍は力を合わせて魔王滅ぼした。


 色々な説を唱えていた、宗教家達。神々の祝福云々を全てひっくり返し、ぶん投げたような、邪悪な真実。


 我々人間種が、モンスター達に怯えながらも必死に生きていた星は、破壊と創造を繰り返した二龍が休むためだけに造られた休息地でしかない。


 再び二龍が全盛期の力を取り戻せば、爪の一振で、羽ばたきひとつで、咆哮だけで、今立っている大地が滅びるなど、誰が受け入れられるだろうか。


 モンスターに怯え、神や龍に縋る民草に「あなたが信仰する神は、龍が創り出した上位存在で一種の装置でしかありませんよ」「あなたが縋ってる世界を創った龍は、力を取り戻せばなんの感慨も無く一撃でこの星を滅ぼしますよ」などと、誰が言えるだろうか。


 そんな事を言ったところでどうにもならないし、悪戯に人心を乱すのは国家に反逆する罪だ。例えそれが世界の真実だとしても……。


 幾度となく滅ばされる星々を見て、今僕が生きるこの星の未来も確定しているのだと知ってしまった。


「こんな……こんなものを」


 そう呟いた場面は、二千年の栄華を誇った大帝国が星と共に滅びゆく場面の追体験だった。


 こんなものを僕に見せてどうしようと言うのだろう?


「悲しいな……これが世界の末路だ。変えたくはないか?結末を」

「変えられるの?」


 自然と口をつく。


「私の加護をもって、天龍を打ち倒せばいい。そうすれば、世界は私の加護によって救われる」


 言い換えれば、今までの勇者達は地龍の変わりに天龍をうち倒せなかった代償に、星ごと、大陸ごと、国ごと滅ぼされたと言うのか……。


 規模の差はあれど、悉く滅んでいく英雄達。


 生きたまま食われた伝説の戦士。四肢をもがれて星の終わりまで生き続けさせられた古の魔道士。死霊になって苦悶し続ける天才軍師。自傷し癒し続ける慈愛の祈祷師。


 僕もあれのひとつになる。


 誰が言わずとも分かる。


 人智を超越した龍の力を行使した代償。


 一人で抱えるには大き過ぎる真実。誰かにぶちまけて、シーツを被って世界の終わりまで震えていたい。


 でも、僕はこんな事は誰にも話せない。乗っている船が転覆寸前だと伝えていい事があるだろうか。

 乗組員が全員混乱してる転覆寸前の船はどうなるだろうか。


 きっといい方向に賽の目は転がらないだろう。


 僕は目を覚ました。アリアは安心している。今この寝室は平和だ。それでいい。


 しかし、平穏を乱すのは龍の意志だけではない。


 扉を激しく叩く音は、容易に世界の混乱を告げた。


「た、大変です!!!」

「こんな時に、それも寝室まで何事か!」


 お爺様が大きな声で、厳しく非礼を叱りつける。


「申し訳ございません!しかし大事ゆえ失礼致します!西の蛮族が、我が国に宣戦布告を宣言しました!」

「なんだと!?」


 西の小国、蛮族の国と呼ばれる人族の王。


 世界最大の我が国、獣人の大小様々な国に挟まれながらも、独立を貫いた屈強な民族と王が治める国。


 モンスターの跋扈を許したとはいえ、小国の蠢動を抑えられなかったのは、僕達貴族の失態だ。


 すぐに貴族達は王都に招集されるだろう。


 勇者の名を国王から授かった僕が出ない訳にはいかないだろう。


 夢(?)の後、眠る龍の力が覚醒したのを感じる。


 これは……人に使ってはいけないだろう。しかし、この戦争を瞬く間に終息させるためには必要かもしれない。


 正義や善よりも、民を護るのが貴族の役目。そう教わってきた。


 貴族の義務を果たさなければならない。例え相手の国が滅びようとも、自領の民が一番大事だと。それが貴族だと、僕はその役目を果たさなければならない。


 貴族として、勇者として。

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