145話 片割れ
幻想的な月への帰還を見送り、その後夜が明けるまで宴は続いた。
「綺麗だったわね」
「えぇ……綺麗だったけど、なんだか頭がボーッとするわ」
「そうですね。何だかフラフラして、気付いたら寝てましたね」
「でも、綺麗でしたし、機会があればまた来たいですわね」
そういえば俺もボーッとしてた様な、混乱してたような気がするな。俺は寝ないし、いつもの植物系モンスター特有の時間がボーッと過ぎる感覚でも無い。
ステータスっと。
《上位魔法耐性Lv.2》
あ〜おそらくだが、あの蝶の鱗粉魔法系の幻惑とかの効果があるのかもしれんな。
上位魔法耐性が1レベルとはいえ上がるってことは、相当強力か、長時間浴びてたんだろう。
言い換えれば、魔法の特徴を持った自然生成の麻薬ってところだな。
確かにアレだけ綺麗で鱗粉に麻薬の様な陶酔感・高揚感が有れば、貴族に人気なのも頷ける。
蒼い月が出るのは数年に一度だし、一晩経てば正気に戻る事も考えれば、中毒性は殆ど無いだろう。
飛び時立つ上へ上へ行く事を考えれば、天敵の鳥対策だと思うんだが……鳥って夜飛べないよな?
あ、いや、異世界だしモンスターなら飛べんのか?
そもそもモンスターの蝶の天敵ってモンスターの鳥なのか?
……まあ、何でもいいか。
帰路でも姦しい四人娘は、ずっと宝石蝶の話題を話していた。
あんだけ綺麗なら分からなくもないが、村を出てもうかなり経っている。流石にもういいんじゃなかろうか?
その後、無事に爺さんの家に辿り着くと、爺さん家の前は様々所から色々なタイプの馬車が門前、門中にひしめき合っていた。
「ちょっと何よこれ……」
流石のアリアも困惑しているらしい。
「お爺様!お爺様は何処なの!?ちょっとそこの貴方お爺様の所に案内して!急いで!」
馬車の群の中から目ざとく使用人を見つけ出し締め上げる速度は、最早シーフもかくやという速さだった。
「あ、アリアお嬢様!す、すぐにご案内させていただきます!!!」
やっぱり双子の片割れは大事なんだな。なんだかんだ言って一番心配していたのはアリアだろう。
村を出て暫くは宝石蝶の話で持ち切りだったパーティも、爺さんの屋敷が近付くほど話題はアレクだけになっていった。
ピリューネの花を手に入れる道中。皆明るく努めながらも、龍の力という得体の知れない未知の力で昏睡してしまった仲間が、心配で仕方なかったのだろう。
ピリューネの花を手に入れるのに、時期を待ち、帰り道にもかなり時間を消費したので、皆もしかしたらもう間に合わないんじゃないだろうかと、不安に襲われていたようだ。
不安ながらも蒼い月の祭りに参加したアリアの矛盾は、一見意味不明だけど、不安を紛らわす為に一瞬でも忘れられるような何かが欲しかったのかもしれない。
焦らなきゃ行けないのに、妙に落ち着いてる時ってたまに有るよな。不安が大き過ぎて混乱してたんだろう。
まあ、このパーティでアレクとアリアは異世界基準でも成人に達していない正真正銘の子どもだ。大きな不安を前に心と行動がチグハグな事をしてもなんらおかしくはない。
大人だって心の制御を完璧にできて、自制がきいたりするわけじゃないからな。
寧ろここまで泣き言を言わなかったアリアの、貴族教育の方が驚異的だろう。
「お爺様!お爺様!アリアはピリューネの花を見つけてきましたわ!」
「おぉ!アリア。よくぞ、よくぞ無事に帰った!」
無茶な事を言う割に、帰ってきた事に感動するなんて、この爺さんも結構情緒いかれてる系か?
いや、千尋の谷に突き落として這い上がってきたら大事にする系か?
ともかくあんまり好きじゃねぇんだよなこの爺さん。感情が見えない奴と思考が分からん奴は純粋に怖い。
全てが対外的なポーズのように見えて不気味なんだよな。とはいえ、海千山千の商人達のトップが、感情や思考を俺みたいな素人相手に読ませるわきゃ無いか。
「それで、アレクは?」
「何事も無い。あれから一切変化が無い。前回試してみた以外にも、色々試したり取り寄せたりしてはみたが、薬も魔法も効かん」
あぁ、だからあんなに東西南北の色んな特徴の馬車がそこらじゅうにあったのか。
「では、外の馬車はアレクさんの為に呼んだのですね」
どうしても大量の馬車がアルネアお嬢様は気になったらしい。それとも、わざわざアレクの為かどうか確認するって事は、俺みたいにこの爺さんが好きになれんのかもな。
「それもある」
それもある?
一体どういうことだ。
「ピリューネの花でアレクが目覚め次第話そう。これは皆に……いや、我が国の勇者であり、貴族であるそなた達は知っておかなければならんだろう」
「それは私もお聞きしてよろしいのでしょうか?」
「私は獣人ですが、重要そうな事ですし席を外した方がよろしいかしら?」
「うむ……エルフと獣人のお嬢さん方も聞いておいた方がよかろう。場合によっては、おふたりは帰らねばなるまいて」
「ありがとうございます」
「感謝致しますわ」
そんな大事件なのか?
「薬の調合には時間がかかる。アレクに使う時また呼ぶ。部屋で待っていなさい。ここは少し寒い」
そうか?そんなに寒くないと感知はいってるが……。
「えぇ、そうしますわ」
まあ、アリアが良しと言うなら従うか。
アレクの居る部屋から客間に着くと、アルテミスが最初に口を開いた。
「アリアのお爺様は私とルンフォードさんに気を使ってくださったんでしょう」
「どういう事?」
「薬の調合は強い刺激臭が出たりしますからね。人間より感覚の鋭い私達への配慮でしょう」
「あら、お爺様はそんな事気にしないと思ってたわ」
「っていうか、伝説の植物を調合できるってどんな設備と知識よ。本当に大丈夫なんでしょうね?」
いやいや、アリアも変なところで抜けてんな。子どもだしその辺は実践経験の問題か?
仮にも国公認の勇者パーティだぞ。アルテミスとルンフォードは他種族の使者と言っても過言じゃ無い。多少の無礼でも働かないように気を付けるのは普通だ。
それも相手が気遣いに気付くタイプとなれば尚更な。
アリアが色々学ばされてると言え、この辺のそういう政治感覚はまだアリアには難しいのかもしれん。……アレクは絶妙に機微が分かってそうで微妙にヤダな。
数刻後。
「薬ができたぞ。アリアこっちの部屋へ来なさい。ささ、皆様もどうぞこちらへ」
その言葉に、アリア以外皆顔を見つめていた。
「いえ、私達はアリアさんの後で伺いますわ」
ルンフォードがそういうと。
「そうね。心の準備ができてから会いたいわね」
「そうですね。という事で、アリアさん。先に会ってきてくれますか?」
「え、えぇ。分かったわ」
「では、アリア。こちらに来なさい」
「はい……お爺様」
アリアが部屋に入ってしばらくすると、アレクの声が聞こえ、続いて少しの嗚咽が聞こえた。
皆の少し張り詰めていた空気が弛緩したようだ。
良かった。ピリューネの花は無事に効いたみたいだな。
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名前:ヴァイス 性別:不明
種族:デンスフォッグ(不明)
Lv1/10
HP1021/1021
MP1001/1001
状態:通常
常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》
任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》
獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.2》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》
魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター 最上位精霊(氷)の付与
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