143話 宝石蝶
やっとの思いでアレクを覚醒させるための前段階、氷霊根を手に入れた。これが時が来ればピリューネの花になるらしい。
アリアの爺さんのところに着く前には、咲いていることだろう。
砂漠から爺さん家を目指してる途中、爺さんの元に近付けば近付くほど街道が混んでくる。
もしかしたら気のせいかもしれない。まだ距離がかなり有るし。
「なんだか慌ただしい感じがあるわね?」
アリアが行き来する馬車(爺さんの方へ向かうものが多い気がする)を見ながら呟いた。
「食料が多いようですね」
それにアルテミスが答え、ルンフォードも口を挟んだ。
「鉄の匂いもしますわ。武器も運んでると思いますわ」
爺さんが大量の武器と食料を買い付けてるって事か?なんのために?
魔王やモンスターの脅威は今に始まったことじゃない。急にそんなに必要だとは思えないけどな。
「大量の武器に食料ね。傭兵団でも動いてるんじゃない?」
「そうね〜アルネア。私もそう思うわ」
アリアはアルネアお嬢様の結論に同意のようだ。
「魔王が復活してからは、モンスターの生息域もあてになりませんし、遠くで強力なモンスターが出たかもしれませんね」
アルテミスの言う事は散々体感してきたからな。なんも言えんわ。
俺は大量の武器と食料より、俺に力を寄越した氷の精霊のが気がかりだ。
全世界を凍らせるなんてのはおそらく嘘だろう。精霊は気まぐれだというし、もしかしたらその時だけは本気だったのかも知れんが。
問題はそれが本気なのかただのハッタリなのか。俺が思い付く理由は。
1.危機感を煽り早急に下山させる為のもの。
2.精霊の気まぐれによりその時は本気だった。
3.山頂に有る何かから目を逸らさせる為。
まあ俺としては……。
4.よく分からない複雑なことは全部ぶん投げても、なんやかんやで全て上手くいく。にオールインしたいところではある。
いざゆかんアルカディア。
アルカディア(桃源郷)に行ったところで、植物モンスターのボディじゃなんも嬉しくねーわ。いや、水は上手いかもしれんな……。
氷の精霊が地龍の仕込みだった場合は、一番目か三番目の可能性が高いだろう。
三番目だとヤダな。もっかい行かんといけんかもしれん。いくら疲れ知らずの植物系モンスターでも、それは面倒だ。
この星の創造物がどちらかの勢力である限り、二番目だけはそうそう有り得ないとは思うが……どうなんだろうな?
精霊に対しての詳しい情報を、俺は何も持ち合わせてないからなぁ〜
憶測が憶測を呼ぶ。まさにスーパーウルトラ陰謀論状態だ。
今だったら、元の世界の地球滅亡論者よりも早く滅亡まで辿り着ける自信が有るまである。
それは何に使えるの?
何にも使えないけど?
みたいな、どうでもいい事が頭の中をぐるぐるしている。これ以上は思考してもドツボにハマるだけな気がするから止めておこう。あれ?るつぼだっけ?どっちでもいいか。
考える事や気掛かりな事が多過ぎる。次になんか起こるまで、何も考えずにくだらないことを喋りながら歩ければいいんだけど、気軽に雑談できないからな〜俺。
やっぱ一人だと思考にリソース割いちゃうよね。
くだらないことを考えつつも、歩く事に神経を注いでいると、アリアの大きく興奮した声が全てを邪魔する。
「ヴァイス!あっちに向かいなさい!一旦別の街道に入るのよ!」
おっと、何だと?もう街道に入ってたのか。
「こちらの街道だとアリアさんのお爺様の所から少し逸れませんか?」
「無事に氷霊根も手に入ったんだし、ちょっとぐらい寄り道しても大丈夫よ!」
「この先にはどんな町が有るの?」
「う〜ん。町と言うよりは村って感じかしら?そんなに大きなところでは無いけれど、景色が良くて貴族が休養でたまに来るのよ。お爺様とよくベルベットを売りに行ってたわ」
「ベルベットですか!私手触りが好きでよくお父様に買ってもらいましたの!」
「ベルベット……あーベルベットね。知ってるわ」
パーティ内の経済格差がエグい。
とは言っても俺もアルネアお嬢様ぐらいの認識でしか無い。ベルベットってのはよく知らんが確か綺麗な布だったな〜ぐらいだ。
「ベルベットというのは貴重なものなんですか?」
よく言ったアルテミス。おせーてアリアちゃん。
「ベルベットってのは、まあ一言で言うと布ね。高いものは私でも驚くぐらい高いわよ」
布なのは知ってる。後そんなに高いなら、アルネアお嬢様が身近じゃないのも納得。
「独特の光沢があってとっても綺麗ですのよ!」
そういうのが聞きたかったんだよ。ルンフォードはあの甘やかし親父が親だけあって、高級品には詳しんのかもしれん。
「ベルベットって何でできてるの?」
「あー、ベルベットって素材の名前じゃなくて織り方の名前って言ったらいいのかしら?」
それにしても、地球人が開発した織り方の布が異世界にもあるんだなぁ……。
ってんなわけないから、そういう翻訳なんだろうけど、人間が考える事だし異世界も元の世界も大きく変わったりはしないか。
「それで、そのベルベットの材料でも生産しているの?」
「違う違う。ベルベットは休養してる貴族向けで、別に村自体がベルベットに関係ある訳じゃないの」
「なら、どうしてわざわざ道を逸れてまで行くのよ。帰る途中に素材でも仕入れてくのかと思ったわ。何も無いなら寄るだけ面倒じゃない?」
「アルネアって本当に貴族っぽくないわね。一応貴族の休養地なのよ?興味が無いのね」
「貴族でも無い所には無いものよ」
「そんなもんかしらね」
「そんなもんよ」
無事に氷霊根が手に入ったから、寄り道でも全然関係ない話でも終始和やかな雰囲気で助かる。
地球の歴史じゃ、確か中世の中流階級は世話する人が居たはずだから、最小限の従者しか居ないアルネアお嬢様の家は、貴族とは言っても名ばかりなのがよく分かる。
中流階級に近いような貴族が、元々上流階級であるはずの貴族の嗜みをろくに知らないのは致し方の無い事だな。
なんというか……なんだろうな?虚しい。早く強くなって、魔王軍に大奮闘して、褒賞を沢山貰えるように頑張ろう。従魔の働きは全て主のものになるから、アルネアお嬢様大活躍間違えなし!
って、今はそんな事はどうでもいいんだよ。なんで用も無いのに行くんだよ。
「私達氷霊根手に入れたでしょ?それをお祝いしようと思ったのよ」
「それこそアレクのところに帰れば、貴方のお爺様が盛大にやってくれるんじゃないかしら?」
「まあ、人の話は最後まで聞きなさいな。あの村には蒼い月を祝うお祭りが有るのよ」
「蒼い月って、何年周期かは知らないけど、必ず来るんでしょ?祝うような事なのかしら?」
「宝石蝶って知ってるでしょ?それが飛び立つ時期と同じで、とても幻想的なのよ!」
ファンタジーの世界でまさか幻想的って言葉をファンタジーの住民から聞くとは思わなかったな。
「宝石蝶……ですか?あ、もしかして集光蝶ですか?」
「地域というか種族というか色々呼び方が有るのね。ルンフォードの方ではなんて呼んでるの?」
「獣人で蝶や綺麗な景色に興味のある者は、殆ど居ませんから」
「確かに獣人の男は、殴りあってさえいれば満足みたいなイメージはあるわね」
「確か、月に向かう蝶だったと思いますわ。赤色のものが有名ですね」
「獣人の女性は人間に近い感性なのかしらね?」
「いえ、鮮血の色に似ているから縁起が言いそうです」
「種族間でなんで分かり合うのが難しいか、少しだけ分かった気がするわ」
鮮血っぽくて綺麗だから縁起がいいって、バンパイアでもんな事言わなさそう。獣人おっかな過ぎない?恐怖百倍なんだけど。アンコでも詰まってんのかな〜
「この村から飛び立つ蝶は、全ての色の宝石蝶が一斉に蒼い月に向かって飛ぶのよ!氷霊根を手に入れたお祝いにピッタリじゃない?」
「そうですね!想像するだけでもとても綺麗です」
「私も是非見てみたいですわ!」
「全ての色の宝石蝶って何種類ぐらいいるのかしら?」
な〜んかアルネアお嬢様だけ、気にするところがズレてんだよなぁ。
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名前:ヴァイス 性別:不明
種族:デンスフォッグ(不明)
Lv1/10
HP1021/1021
MP1001/1001
状態:通常
常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》
任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》
獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.1》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》
魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター 最上位精霊(氷)の付与
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