140話 氷精の誘き寄せ方
「ここが限界ですね」
アルテミスが半ば満足した様な、諦めたような声で告げる。疲労も相まって声に力が無いのは仕方ない。
かなりの高さを登ってきたが、確かに人の足ではここが限界だろう。寒さも限界だ。
「酷い吹雪ね」
「そうですわね。これ以上は登れそうにないです。私だけならあと少しぐらいは登れると思いますが、遠慮したいですわ」
マジかよ。流石獣人だな。こんな崖みたいな傾斜登れるんだ。
登山の番組とか元の世界で見た事あるけど、正直45度の傾斜でも人間からしたら断崖絶壁に近いからなぁ……。
獣人なら30度近くなら登れるのかもしれん。アルネアお嬢様やアリアは命綱が無いと不可能だろう。
「頂上まで、まだかなりあるわよね?」
吹雪が止んだとしても無理じゃん。登れなくね?という、アリアからの遠回しな追求に、アルテミスも同意する。
「そうですね。正直これ以上は……吹雪が収まったとしても、空でも飛べなければ」
「困ったわね……」
強いモンスターが居る世界最高峰の山々。人が立ち入れない、登れないぐらいの環境なのはごく当然か。
寧ろそれが自然だな。ゲームのダンジョンじゃねぇんだ。人が頂上まで辿り着ける設計になってる訳が無い。リアル山。ガチで山なんだから。
現代の最高級登山装備でもこの標高は無理だと思うので、マジで空でも飛べないとどうにもならんぞ。しかも寒耐性を備えた上でな……無理じゃね?
それも仕方ない。伝承なんて不確かな、本当にあるとも分からないものに縋ってここまで来たのだ。
無くて当然有れば奇跡。手に入れば万々歳で、効能が伝承と同じものであれば良かったね。ぐらいの代物。
しかし俺には、というか俺だけには秘策がある。なんせ全身命綱みたいなもんだからな。というか、この為に気色悪い触手系モンスターに産まれてきたと言ってもいい。
アルテミスに語りかける。
『なんですか?』
『吹雪さえ止めば俺だけなら、ピリューネの花を採ってこれるだろう』
『どうやって……』
『俺はモンスターだからな。この頑丈なA級モンスターの触手をちぎって繋げてけば、最強の命綱になる。それに俺は少し浮いてるから、滑り落ちたりしないしな。万が一何かしらあって落ちるとしても、触手を突き刺せば問題無い。俺以上の適任はいないだろう』
流石に植物の俺でも、これ以上気温が下がると動けなくなる可能性が高い。
『私だけでも担いで行けませんか?』
行けなくは無いが、正直リスクのがデカい。
ぶっちゃけこの山登りも俺だけで来た方が良かったかもしれん。皆には砂漠の街で待っていてもらった方が、一番リスクは回避出来たと思う。
そんな事を言い出せば、アリアは烈火の如く怒るだろうし、アルネアお嬢様は意地でも着いてくるかもしれない。変に着いてこられるより、一瞬で庇える距離に居てくれた方が安心だ。
『寒さで逃げたモンスター達も戻ってくるのに時間がかかるだろうから、滑り落ちる以外の危険は無いはずだ。だから、俺だけで登れば一切危険は無い。だからこそ、吹雪が止めばって感じだな』
『ヴァイスは植物系のモンスターであまり降雪の無い地帯で暮らして居たのでしょうね』
いやいや、お前だって森から一歩も出ないレベルの生活してる種族じゃん!?!?
『何が言いたい?』
『雪の中は比較的暖かいですから、地中や雪の中からモンスターが出てくる可能性があります』
『分かったよ。なら地面の中まで感知を働かせて避けて行けばいい』
『そうですか。それならいいですけど、なら何故話を?』
着いてきてくれって言いたかったんじゃないの?って事か?
『いやいや、採集は1人で行くからアルネアお嬢様達の説得を頼みたかったんだ。そしたら思わず忠告されたんだ』
『ああ、そういう事ですか……まあ、そうですね。それが1番だと言うのなら分かりました。いいですよ。吹雪が止めば……ですけどね』
そうなんだよなぁ……。
アルテミスと話してると、アルネアお嬢様が何かを思いついたらしく、こちらに顔を近づけてくる。
「ねぇ、アルテミス。ヴァイスと話してるんでしょ?それなら飛び抜けて気温が低い所を聞いてよ。精霊はそこにいると思うの」
『だ、そうですけど』
『う〜ん……登ってきた感じと一緒だな。上に行けば行くほどって感じで、上になればなるほど寒過ぎてよく分からん。詳細に感知するのは難しい。周りに温度が無さすぎる』
という事は、どうしたらいいんだ?
これ以上登れないし、上に精霊がいる可能性が高い。
よく分からん事と、どうしようと言うのを、アルテミスに皆に伝えてもらう。
俺が怒濤のぶっちぎりの天才なら、ここで解決方法が天啓のごとく降りてくるはずなんだが、勿論頭脳は平々凡々だ。そんな事は起こらない。
しかし諦める訳にも行かないし、どうしたもんかな?
皆でああでもないこうでもないと話し合っていると、アリアが閃いた。
流石天才。勇者の片割れ。八面六臂の大活躍。灰色の脳細胞!後は……もういいや。灰色の脳細胞は名探偵なんだよなぁ。
「強力な氷の魔力を発生させればいいのよ!妖精は好奇心旺盛なのが多いんでしょ?それに知性的な纏め役が居るなら確認しに来ないはずは無いわ!強力な氷の魔力を感知したなら、自分の立場が脅かされると思うじゃない?」
つまり、早い話が脅迫か。分かりやすくて助かります。
「……精霊が自分の立場を危ぶむか分かりませんが、自分たちを害するものかそうでないかぐらいは確かめに来ると思います」
「炎の魔力だと問答無用で敵だと思われそうですし、良いと思いますわ!」
「で、誰がやるのよ?1番魔力のあるあなたは、火と風の専門でしょう?」
「いやねぇ、私は全属性使えるわよ!天才だもの。やろうと思えばできるわ!と、言っても今すぐにとはいかないわね。天才でも多少の慣らしや練習が必要なのよ」
「じゃあ、どうするのよ」
「あら、いるじゃない。氷の魔法を使う強力なモンスターが……!」
俺か!
言われるまで忘れていたが、俺は四桁を誇るMPと《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》という超強力な魔法を駆使する、最凶のモンスターだった。
そうなのだ。俺は中身が人間故にモンスターとして十全な実力を発揮できていないが、実は最上位モンスターである。
王種龍種を除けば、世界でも最強かつ最高クラスの化け物なのである!
荷物運びばっかりで忘れてたけど!忘れてたけど!
大事な事だからな。二回言った。うん。
「流石に魔力の総量は私に劣るとは思うけど、この中で私の次に強力な魔法と魔力を備えてるのはヴァイスよ」
いやいやいや、四桁のMPですら劣るとか、アリアさんやっぱバケモン過ぎんよ。俺よりこっちがモンスター。
「そうね。そういえば物理的な攻撃ばかりだから、魔法が使える事を忘れてたわ」
え〜そりゃそうだけど。俺も肉弾戦ばっかりしてるけどさぁ。
俺だって雷を起こして巨人を討伐してイェーガーしたり、結構魔法使ってるよ?
まあ、軒並み移動中も戦闘中も魔法とか使っとらんけどね。だって、元地球人だものレベルを上げて物理で殴るという名言を知らないのかよ。
と、悪ふざけは置いといて、普段魔法使わないんだよな。
手足と同じ感覚で動かせる触手がやたら強くて使い勝手がいいから、魔法よりも先に手が出る。ほぼ無意識で先に手が出ると言っていい。これだけ聞くととんでもないDV野郎だなこれ。
「さぁ、ヴァイス。私達が守ってあげるから、死ぬ気で魔力を練りなさい」
護られるのに死ぬ気とはこれ如何に……。
やるか。
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名前:ヴァイス 性別:不明
種族:デンスフォッグ(不明)
Lv1/10
HP1021/1021
MP1001/1001
状態:通常
常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》
任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》
獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.1》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》
魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター
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