136話 砂漠の街にて
砂漠の街。
ここはバランシア王国とは別の国だ。
アリア曰く、バランシア王国の領土という事にはなっているが、殆どの人間がモンスターと気候の影響でまともに行き来できない為、王国が勝手に領土と主張しているだけらしい。
実態は『蠍と蛇の女王ビラハ・トルダーニ・ハティマ』が治める砂漠の王国らしい。
街の名前はラノヴド・ハティマ。砂漠の国の言葉で『偉大なるハティマ』という意味の名前だと、爺さんから聞いたそうだ。
街並みは複雑で、裏路地などは迷路のようになっており、石とレンガの建築様式は、古代のエジプトを思い起こさせる。砂漠には建材に使えるような木が育たないのは、異世界も同じらしい。
複雑な裏路地はモロッコの「フェズ・エル・バリ」のようだ。寧ろこの街自体を、ダンジョンだと呼んでも差し支えないほどの複雑さが俯瞰視点で見て取れる。
人間には魔法で雨を振らせるとかできないんだなぁ……。
分厚い土壁でできた室内は比較的涼しいらしく、宿泊者にはミント系のお茶が出されるらしい。ミントは体を冷やしてくれるんだと、アルテミスが言っていた。
異世界にミントが有るとは思わんが、似たような成分の薬草なんだろうな。
広大な砂漠だから、国境線に兵士が配置されていたりするような事は無い。
この広大な砂漠全体に国境検問所を敷くとなれば、元の世界の技術力を持ってしても難しいだろうしな。
何より、砂と強靭なモンスターしかないこの地に、他の国が攻め込むメリットが無い(深く掘れば石油でも見つかるかもしれんが)。
砂漠の気候とモンスターが侵入者のほぼ全てを砂塵に還してくれる。他国からの防衛など必要無いのだ。
「それにしても暑いわね。早くヴァントス山脈に向かいましょう」
「山の方へ向かえば、もう街はないと思いますが……」
「こんな砂漠に街が有るんだから、山の中にも有るかも知れないわよ?」
「そうかもしれませんが、もう少しここで装備を整えて行きませんか?」
「そうね。アルテミスの言う通り、ヴァイスのおかげで大分早く着いたし、今から山へ向かうのは早すぎるわ」
「本当に暑いですから、アリアさんの気持ちも分かりますわ。私もあまり長居したくない気候だと思いますもの」
「じゃあ、装備を見に取り敢えず街に出ましょうよ」
「そうですね」
話が纏まり、外に出ようとする途中、宿屋の店主に引き止められた。
「アナタ達!こんな真昼間に何処に行こうっていうのね!?」
「お買い物ですわ?」
ルンフォードが不思議そうに答えると、周囲の酒を呑んでる皆から笑い声が上がる。
「昼間だから何なのよ?」
笑われたのが不服なのか、アリアは不機嫌そうだ。
「お嬢さん方ね。悪いことは言わないね。日が傾いてからにしなさいね」
「ちょっと、ちゃんと説明してくださるかしら?」
「あぁ、済まないね。普段は宿にお客さんなんて来ないからね。説明って言っても、昼間はお店開いてないね」
「えっ、そうなの?」
「そうなのね」
「何故ですか?」
「暑いからね。皆昼間は動かないね。早朝と夕方だけね。夜は寒過ぎるね」
なるほど。
昼間の気温が高過ぎる地域では、そちらの方が理にかなってるのか。言われてみれば、昼間は外で人間がろくに活動できないのは、俺らが証明してたな。皆暑さで自力で移動してもないのにへばってたし。
「言われてみればそうね。このクソ暑い中何件もお店を見て回るなんて、正気の沙汰じゃないわ」
「勉強になりましたね。エルフは昼間ぐらいしか活動できないので」
「そうなの?森の中なら自由自在みたいなイメージだけど」
「エルフの森は背の高い植物が多いですから、日中でも薄暗いです。少しでも日が傾くと、闇が深くなりまともに動けません。それに森の闇の中は、彼等の世界ですから。いくらエルフと言えど、用もなく出歩いたりしませんよ」
『彼等の』の時に俺の方を指したのは、気のせいでは無かったようだ。
黒鬼蜘蛛なんかの夜行性のモンスターがウヨウヨしている世界で、用も無く動き回るアホはおらんわな。
「へ〜そうなのね」
「私は助かりましたわ。また直ぐに、暑さで動けなくなってしまいますもの」
「貴方ただでさえ暑そうだものね……」
「そういう事ね。買い物したいなら日が落ち始めてから行くといいね」
「早朝はどうなの?」
「早朝は皆水路の掃除とかしてて忙しいね」
「砂漠地帯で水路が詰まったりしたら死活問題ですものね」
文字通りに死に直結するもんな。恐ろしい地域だよ。でも、改めて人間ってすげぇ。割と何処でも生きていけるんだな。この適応力の高さと繁殖力。他の生き物が危険視するの分かるわ。たくましいなぁ……。
「じゃあ、部屋で買うものの案でも出しましょうか」
「取り敢えず、耐熱装備は必須ね。戦闘じゃなくて日差しで命を奪われかねないわ」
「水も出来れば欲しいですが、砂漠の街で水を多く買わせてくださいと頼むのは、無理かもしれませんね。何より気が引けます」
「夜の寒さも厳しいですし、雪山に向かうのですから、耐寒装備もいるでしょうね」
話が纏まった数時間後。
俺達はまた宿屋の出入口で店主と話していた。
「これぐらい日が沈めばいいかしら?」
「そうね。いいと思うよ?ところでお客さん。どうして砂漠へ来たね?」
「ヴァントス山脈へ行くのよ。その途中ね」
「なんでそんなところに行くね?砂漠よりもモンスターしかいないね。やめといた方がいいね」
「どうしても行かなきゃ行けないのよ」
「うーん。なら、街では武器買ってくといいね。砂漠の敵甲羅硬いね。雪山の敵毛が丈夫で強いね」
「そう。ありがとう」
全員打撃武器でも購入した方がいいかもな。剣だと普通に徹らなさそう。長い毛は絡まりそうだしな。達人とかなら剣でも行けるかもしれんが、うちのパーティ偏ってるからなぁ。
アレク、アリア、アルテミスは魔法だし。
お嬢様は回復専門。
俺は武器を使わん。
まともな武器使いと言えば、斧を使ってるルンフォードだけ。
まあ、お嬢様に至っては、本来回復どころか俺を使役するのがメインなんだけどな。本当に僅かだけでも回復できる魔法覚えたの凄いわ。
「そうだ。武器を勧めるなら、何かオススメの武器はあるかしら?」
「使い易いのが一番いいと思うけどね。叩くのと刺すの両方あった方がいいね。刺すやつは長い方がいいと思うよ。短いのに比べて高いけどね」
斬・打・刺突の三つを上手に使分けできたら強いんだろう。グララウス傭兵団なら、色んなモンスターに効く武器を使えるように訓練してそうだな。素人には使い分けは難しいだろうけど。
うちは武器は素人同然のが多いから、下手に使わせない方がいいかもな。
店主から色々聞いた後、買い物をしている最中に、アルネアお嬢様が同じ事を言い始めた。主従って似るんだなぁ……。
「武器って、ルンフォードのだけで良いわよね?」
「なんでよ?」
「私が長い武器なんて振れると思うの?」
「思いませんが、一応持っておいた方がいいのでは?」
「軽い短剣だけでいいわよ。打撃武器も刺突武器も要らないわ」
「そうね。すっぽ抜けてあらぬ方向に行くのが目に見えるわ」
「アリアだって似たようなものでしょう?」
そうだよな。素人が武器を持った時の相場なんてのは決まってて、相手に奪われて逆に危険まである。
だから現代の護身術でも、素人は武器を持つ事を勧めて無い。催涙スプレーとかのが、下手な武器より全然マシ。
「結構いい斧ですから、それに見合う武器となると迷いますね」
「武器はルンフォードが1番見る目が有るでしょうし、口を出すのはよしましょう?」
「あら、売り物を見る目は私が1番よ?」
相変わらず、アリアは張り合わないと死んじゃう呪いにかかってるようだ。
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名前:ヴァイス 性別:不明
種族:デンスフォッグ(不明)
Lv1/10
HP1021/1021
MP1001/1001
状態:通常
常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》
任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》
獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.1》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》
魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター
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