135話 ヴァントス山脈の脅威
このデカさでこの速さ……逃げられないか。逃げられないなら戦うしかないかぁ……。
というか、倒しておいた方が良い気がする。
多分コイツは、この辺じゃ最大サイズだろ。
もし、万が一こんなデカさのがうじゃうじゃ地中に居るとしたら、砂漠を渡りきるのは不可能だ。
いつもだともっと逃げ方を考えるんだが、とにかく倒しておいた方がいいと思う。
いや……違うな。デカいモンスターに縁が有るのは、俺が厄災の欠片を吸収したからか。
って事はコイツも欠片持ちの可能性は高い。無意識的に奪い合うって言ってたもんな。
天龍はこの世界でモンスター達に蠱毒に近い事をさせているから、魔王軍は厳選された化け物がうじゃうじゃ居るという事になるんだな……。
戦いたくねぇなぁ魔王軍も魔王も。
《全情報強制開示》
取り敢えず見て……。
状態:興奮・混乱・怒り
なんで!?相手が先に襲ってきたのに!
どうなって……!
HP167/2201
MP279/300
何かと戦ってきた後か!
一方的に狩れる予定だったのに、反撃を喰らってブチギレてる感じか。
知能は高くないにしても、反撃に驚いてキレるだけの知能はあるらしい。
最大HPからみて、殆ど瀕死だな。よく見ると体が少し濡れてる?
水のある方……俺らが目指す山の方から来たのか。
このミミズは頭は良くない。それでこの巨体なら、自分より体躯が小さい相手は全部餌ぐらいに思ってる事だろう。そして、軽くあしらわれたに違いない。
砂の下の方まで見ると一撃だけ大きな傷をもらっている。相手からすれば、倒す意思はなく追い払ったぐらいだろう。一撃でこの巨大サンドワームを瀕死にできるほどの力が有るのだから。
ヴァントス山脈。思った以上に危険地帯みたいだな。
スキルで厄介そうなのは。
《上位熱感知Lv.10》《地中移動速度上昇Lv.10》《地中攻撃力上昇》《地中体力回復Lv.2》《強酸》《吸血》《上位斬耐性Lv.1》《土魔法Lv.10》
これぐらいか。スキルは全部合わせてもそんなにないな。まあ、砂漠では使えるスキルも少ないか。
このステータスでこのスキル、見た目より強くない……って事は無意識的に俺の欠片に反応した可能性が高いな。
スキルに体力回復がある。それなのにあの残り体力……いくら地中の移動速度上昇がレベル上限って言っても、山脈からここまではそれなりに時間がかかったはずだ。なら、少しは回復してるはず。本当に一撃で殺されかけたんだな。
回復する時間がが必要なのに、知能が低いから欠片に反応して咄嗟に襲ってきてしまったのか。
意識的にせよ無意識的にせよ、厄災の欠片を持っている俺はこの化け物サンドワームを一撃で殺しかけるような、本物の化け物に襲われやすい訳か。行きたくねー。
期せずして、ヴァントス山脈のモンスターの強さを間接的に知れたのは良かったな。
とにかく倒すか。
アルテミスの肩を叩いて、相手が既に瀕死である事を伝える。
「皆さん!一斉に攻撃します!」
「任せなさい!」
詠唱を省略するアリアの先走った炎が、無惨にも手負いのサンドワームを焼き尽くす。
「……呆気ないわね」
「そうですね」
「流石ですわ!」
「良かったじゃない!こんな暑い中全力で何分も動けないもの。砂に足を取られるでしょうし、弱い分には構わないわ」
それはそう。
こんなクソ暑い中で五分も十分も生身の人間が戦闘を継続できるわけが無い。良かったよ弱ってて。
それから、砂漠の街を目指しながら、ズンズンと進んでいく。道中モンスターに絡まれては一撃で倒していった。
「もうすぐ街ね」
「ねぇ、アリアおかしいと思わない?」
もうすぐで街に着くと言うのに、アルネアお嬢様の表情は晴れない。
「何がよ」
「いくらヴァイスが強いと言っても、道中のモンスター全部を一撃で倒せるかしら?それに、全部同じ方向からモンスターが来てたわ」
「確かにそれはおかしいけど……取り敢えず、建物の中に入ってからにしましょう?アルテミスはヘロヘロだし、ルンフォード至っては死にかけてるわ」
「それもそうね」
「し、死んでませんわ」
俺はこの現象にもうなんとなく察しがついてる。恐らく、ヴァントス山脈で何かが起きてる。しかも、王種や龍が関わってる。多分。
あの体力で、あの体躯で、あの速度。最初のサンドワームは、この砂漠では殆ど敵無しだっただろう。そんで多分、ヴァントス山脈寄りに棲息してたんだと思う。
最初は知能が低いサンドワームが自分を過信して、山脈のモンスターにちょっかいをかけたんだと思っていたんだが……。
同じ方向からモンスターがやってくるこの現象。山からモンスター達が降りてきたのだろう。
山の動物が降りてくる理由なんて、食いもんが無いか、住処を追われたか、環境が変わったかぐらいだろう。
という事は先程のサンドワームを一撃であしらう程のモンスターが、山から追い出されたか、食料を求めに下ってきたという事になる。
食いもんが無いから降りてきたと言うならまだいい。しかし、それは無いな。
サンドワームが生きて返されてる。まあ、喰ったところで美味くは無いだろうが、食料が無くて来たなら背に腹は変えられないだろうし、あのデカさのモンスターが食う量を考えれば殺しておいた方が、後々自分も食料を確保しやすいだろう。
どの道生かしておく理由は無い。
なら、残った選択肢を考える方が現実的で建設的だろう。
あれを一撃で仕留めかけるモンスターが山を追われたとなれば、それはもうランクを超越した王種の誕生に他ならない。
魔王と渡り合うには、地龍の力を持ったアレクを起こす事は必須条件。
ハハ。王種が覚醒したと思われる山に、わざわざ登りに行くなんてのは自殺行為でしかねぇ……。
つくづくタイミングが悪いというか、仕組まれてるとしか思えない……。
待てよ?相手はこの世界の創造主のドラゴンだ。そして、天龍は俺が強くなり、王種や龍に辿り着く事を願っている。
全てが筋書き通りとは言わないが、ある程度仕組まれてる……?
蠱毒をさせつつも、お気に入りは別という訳か。
まあ、世界の創造主にそんなのズルだ!と言ったところで意味は無いな。
元々強いモンスターが居ると聞いてはいるから、皆油断してるとは思わないが、王種が目覚めた可能性は伝えておいた方がいいだろう。
「はぁ……」
街について宿を取った後、皆に一応の説明をしておく。これはアルネアお嬢様のため息だ。
「王種に縁が有るみたいね。貴方を探す羽目になったのも、森王に逢ったせいだったし」
「そういえば、あの山から逃げた後に聞いたけど、フェンリルが王種に覚醒したらしいって」
「あら、アリア。貴方も似たような理由で離れたのね」
「私はアルネアのように直接王種を見た訳では無いけどね」
「皆さんそんな事があったのですね」
「アルテミスは違うの?」
「私は気付いたらハイエルフ様に……」
「そんな事があったのね」
「ルンフォードは?」
「私は出逢った時のが驚きでしたね。ずっと斧の装飾や精霊だと思っていたので」
そういえばそんな擬態してたな。
「そう、しかし王種が目覚めたかも知れない……ねぇ」
「『ピリューネの花』の近くに居ないと良いのですが……」
あぁ、それフラグだわ。絶対いるじゃん。神に誓ってもいいね。この世界の神、魔王の手先だけど。
「まあ、ヴァイスのおかげでかなり早く麓まで着いたし、ギリギリまで調査しましょう」
「そうですね。しかし、気を付けましょう。山から砂漠に降りてきた訳ですから、食料が急に無くなって、街に大挙してくるかも知れません。森でも、強いモンスターが生まれると良くあるんです。それで滅びた人間の街もいくつもありました」
「モンスターが何を考えてるかなんて分からないし、祈るしかないわね。もしかしたら、モンスター同士喰いあってくれるかもしれないわよ?」
「統率力のある知能の高いモンスターさえ居なければ、あり得ると思いますわ!」
最高と最悪の落差があり過ぎて、ある意味絶望しか感じねぇな。
まあ、山から追い出されたモンスター達を狩ってればレベルも連携も更に上がるだろう。街という拠点もできたし、時間もある。今からは積極的に戦っていこう。
皆アレクのせいというか、崩龍のせいというかで、ヤル気だけはあるからな。格上をドンドン倒していけば、かなり強くなると思う。
ドンドン強くなるっても限度はあると思うけどな?アリアの成長スピードは狂ってるよ。
心の底からコイツが味方で良かったって思うわ。
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名前:ヴァイス 性別:不明
種族:デンスフォッグ(不明)
Lv1/10
HP1021/1021
MP1001/1001
状態:通常
常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》
任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》
獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.1》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》
魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター
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