133話 焦りと霊薬と霊峰と
困ったことになった。
話の始まりは、アリアの爺さんの屋敷について数日後、爺さんが持つありとあらゆる魔法・ポーション・その他民間療法全て終わったの時の話だ。
結論からいえば、どれもアレクを起こすには至らず、アルテミスが文献を読んでる最中に発見した霊薬に縋ることになった。
遥か北西に悠然とそびえ立つ天衝く霊峰、ヴァントス山脈に、蒼い月が出る夜にだけ咲くという『ピリューネの花』が霊薬には必要らしく、そいつを取りに行く話になった。
蒼い月が出るのはかなり先との事だが、かなり距離があるので今から行っても間に合うかどうかと言う話だった。
まあ、これは馬車を乗り継いだりして行く場合の話だ。俺は休み無く移動できるので、予定に対して大分猶予を持って到着できるはずだ。
そもそもの疑問なんだが、異世界に月がある訳なくねーか?翻訳ミスか、この星に近い衛星という意味で月と翻訳されたのかは分からないが、異世界にも月は有るらしいという事でいいや。
惑星の近くに衛星があるなんて、元の世界でも人間が観測できる範囲を超えれば幾らでも有るだろうし、別に珍しい事じゃないか……?
閑話休題。
ありがたいことに、霊薬の調合に使用される他の材料は爺さんが用意してくれるらしい。まあ、自分の孫だし、そんなところに出し惜しみはしないか。世界一の大商人だしな。
そこで困ったことになったのは、爺さんが原因ではなく、やたらと義理堅いうちのパーティメンバー達だった。数日世話になったし、爺さんになにかできないかとのことらしい。
……それはアレクが起きてからで良くないか?
借りを返さねばとやけに意気込んでるのは、もてなしが豪勢過ぎたせいだろう。
随分と豪勢に、それこそ大規模なダンスパーティーでも開催するのかと思う程豪華なもてなしをされたせいで、アルネアお嬢様とアルテミスは終始キョロキョロしていた。
ルンフォードは慣れたものだったが、人間が多い街で偏見無くもてなされたというのは、やはり分かってはいても驚いたようだ。
そんなのが数日も続いたものだから、何か返さなきゃとなるのは分かる。モンスターの俺なんかを心配したりしてくれるような奴らだ。恩を(まあ、孫の客人をもてなしてるだけなのだから恩では無いが)感じずには居られなかったのだろう。
爺さんの宣言通り、何一つ不自由無い数日を送らせてもらった。
霊薬の素材を取りに行くついでだからと言いたいのは分かるが、気付けば数日で、アリアがここに着いた日に言っていた「お爺様に余計なものを取りに行かさせられるに決まってるわ!」という言葉通りの展開だ。
流石は世界一の大商人。
皆の生真面目な部分を見抜いてわざと豪勢にしたのかもしれん。流石だ。すっかりやる気だし。自主性という言葉の魔法のなんたるやと言った感じだ。
それで爺さんに何かしたいとなった訳だ。向こうも、もちろん相手からの善意の申し出を断るような事はしない。
それに何より、龍の力とアレクの力を目の当たりにしたのが良くなかった。
全員にあれに匹敵する程、そうまでとは行かずとも、アレクをサポートできる程に強くならねばならないという強い思いが芽生えてしまったらしい。
この数日四人は、何かにずっと焦っていたように見えた。最初はアレクが心配で居てもたってもいられず、爺さんの治療がずっと気になって落ち着かないのかと思っていたが、アリアがやたらと庭に出るのを最初に違和感として感じたのだ。
アレクを心配して地下に行くなら分かるが、庭に行く意味が分からない。気分転換にしても、同じ庭にそんなに頻繁に出ることは中々しないだろう。
何をしてるのかと意識を向ければ、魔法の練習を熱心にやっていた訳だ。
天才の心に頂きが火を点けた。魔法自体はガソリンでもぶち込んだような威力だが。
それに釣られるように、強さを求めて旅をしてるルンフォードが触発され、何だかんだ付き合いのいいアルネアお嬢様がアリアを茶化しに庭へ、軍人として鍛錬を怠っては……というアルテミスが皆の居る練習に参加するのはすぐだった。
自他ともに認める天才アリアが、努力なんてしないでも私はできるもの!と言って憚ら無いタイプのアリアが率先して練習を始めたのが、残りの真面目な面々に効いたらしい。
今は外に出て、モンスターと戦いたくて仕方が無いのだろう。
だが俺は知っている。このタイプのやる気は、空回りする。ソースは俺。
何かしなきゃ!ととにかく焦って、手当り次第手を付けて全部中途半端になり、全部辞めるタイプのそれだ。
特に今回ルンフォードが酷い。
空回ってるというよりは、自暴自棄に近いような特攻。強くなりたい焦りが先行しすぎて、あれでは大怪我をするのがオチだ。
アリアとアルテミスの魔法を掻い潜る訓練をしているのだが、発動の速いアルテミスの風魔法と、多才なアリアの繰り出す馬鹿げた威力と命中精度を誇る業火の魔法は、最早避けるという概念を破壊している。
あんなものは俺でも避けられない。というか、避ける隙間が無い。
絶対にあんな訓練はやらないが、やるとすれば……。
霧で居場所を分からなくして、地上で触手で応戦しつつ、地面に潜らせた触手で不意打ちを狙っていくぐらいか?
それも、アリアが屋敷が燃えないように広域の火系統の魔法を使わない前提での話だ。
アリアが本気を出して、全て焼き尽くすつもりで攻撃してくれば、俺に許されるのは一撃必殺を込めた、たった一回の霧に紛れた速攻狙いの暗殺ぐらいだろう。
後は、モンスターのフィジカルを存分に活かして、霧ごと焼き尽くす炎に耐えながら殴るしかない。これはただの特攻だ。一歩間違えれば一方的に殺さねかねないので、これは却下だな……。
というような練習をしており、ルンフォードは瞬く間にボロボロになり、回復しては特攻する。回復を担当しているアルネアお嬢様はドン引きだ。
気付いて慌てて止めたのが良かったのか、幸い回復不能な程の怪我は無かった。
アルテミス経由で二人を軽く叱りつけると、アリア曰く「お爺様の魔法やポーションが有れば大抵の怪我は大丈夫なのに……」と、少し拗ねていた。
そういう問題なのか?
異世界の倫理観違い過ぎて怖いわ。腕無くなっても最終的に生えてくれば良いんでしょ?みたいな価値観怖いな。
モンスターが実際に現実に脅威として居る異世界では、回復手段さえあれば、それこそ死ななきゃ安いの精神なんだろうな。これが一般市民なら、腕が無くなりゃ回復方法も無いだろうから、死活問題だろうけど……。
そう考えると、一般市民すら好戦的だと思われる獣人がヤバいやつらという扱いなのは普通な気がしてきたな。
獣人の誉とは強きこと。美学とは退かぬこと。だったか?かなりヤベー奴らだな。ラ〇ウかよ……。
そんなこんなで出発当日。
爺さんにお礼がしたいと口走ったが故に、爺さんから頼まれ事をした。
「霊峰には常人が近付くことすらできない。付近のモンスターも霊峰に棲息しているモンスターも強い。なので、霊峰にある素材は全て貴重。できるだけ多くの種類を1つずつ持ち帰って欲しい」
との事だった。
実際には「そんな事は気にせずとも良いのですぞ〜うんぬんかんぬん」とか言ってた気がするが、要約するとそんな感じだ。
アリアは終始不思議そうな顔をしていた。霊峰の素材なら何でも。なんて、こんな事をこのジジイが人に頼むだと?レアな素材を取って来いと言わないだと?
というのをビシバシ感じる。言葉にしてはいないが、訝しんでるのがありあり伝わってくる。
ルンフォードとアルテミスに向けて話しかけてる気がするが、二人が気に入ったとかか?だが、アルテミスが警戒していないので、異性として気に入っている訳ではなさそうだな?
……話しかけてると言うよりは、売り込んでる?
こんな感想を抱く理由が分からん。爺さんはルンフォードとアルテミスに何かを売り付けてる訳では無いのにな。
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名前:ヴァイス 性別:不明
種族:デンスフォッグ(不明)
Lv1/10
HP1021/1021
MP1001/1001
状態:通常
常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》
任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》
獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.1》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》
魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター
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