132話 世界一の大商人
「さて、いきなり本題に入らせてもらって悪いんだがね、アレクを見てきたよ。今起こすために様々な魔法やポーションを試しているところだ。起きればすぐに誰か走ってくるだろう。その間に何があったのか聞かせて欲しい」
「はい、お爺様。アレクはドラゴンの魔法を受けましたわ」
柔和な顔のお爺さんが、カッと目を見開く姿は中々に恐ろしい。いや、もう恐ろしいイメージが先行しすぎて、多分咳払いをしても手を叩いても怖い。
「ほう……ドラゴンとな?私も若い頃に一度遠くに飛んでいるのを見かけたことがある程度であまり詳しくは無いのだが、本当にドラゴンだったのか?だとすれば、アレクはなぜ生きておる?」
「ご存知の通り、アレクは選ばれた勇者です。勇者の力がアレクと私達をドラゴンの猛攻から護ってくれました」
「すると、ドラゴンの攻撃を防ぐ程の力を使った代償に、アレクは倒れたと?」
「そうだと思いますわ」
「ふ〜む。にわかには信じ難いが……」
目の前で見てる俺らでも驚いてたからな。目の前で見て無ければそれこそ眉唾ものだろう。
「アリア。私が様々な魔法を研究させているのは知っているね?」
「はい、存じておりますわ。それを頼りにさせていただくために来ました」
「魔法……と言うと違うな?力と言おうか。力を相殺するには、同じだけの力をぶつける必要がある。つまりだ、アレクは人の身でありながら、ドラゴンと同等の力を生み出したということになる」
なるほど。
ドラゴンの攻撃を喰らえば普通は死ぬし、人間の肉体がドラゴンの攻撃を相殺できるほどの力を出したとしたなら、肉体が持たずに死ぬ。そう言いたい訳だ。
当然といえば当然だな。飛行機に宇宙に行くためのロケットエンジンを着ければぶっ壊れる。人間の体内に突然超新星爆発級のエネルギーが精製されたとして、肉体は耐えられるかといえばそんな事は無いだろう。
「相性もあると聞きますわ」
「もちろん普通の魔法なら水と炎など相性も有るだろうが、ドラゴンの魔法というと、相性だけでどうにかなるものでは無いだろう。海に松明を投げ込んだところで、海は無くならない」
「そうですわね。ですが、それが可能だからこそアレクは勇者なのではありませんか?」
「……勇者とはそれ程のものなのか」
世界を滅ぼす力を持った魔王を倒しうる勇者は世界を滅ぼせる。それが同等の力を持たないものにとって、どれ程の恐怖か。
「なるほどのぉ。魔王はドラゴンに匹敵するか……いや、ドラゴンだという事か?それならば、モンスターを指揮し軍を編成しているのもどうりだ。ドラゴンと同等の力があるならば、モンスターだけでなく様々なものが従わざるを得ないだろう」
「お爺様。私はアレクが内包する力と、ドラゴンの戦いを目の前で見ましたわ。そして、その力と敵対するドラゴンが話していましたの、そして知りました。勇者の力もまた、ドラゴンの力なのだと」
「それは一体どういう……」
俺はハイエルフから聞いていたが、アリア達は崩龍との戦いで知ったのか。全ては『星産みの二龍の物語』だと。
アリアは断片的な会話からの推測を滔々と話す。それは俺が知っている正解に近いものだった。
天龍と地龍による、人間とモンスターの代理戦争。
これがこの世界の正体だ。
「創世から続く神を超越した戦いが未だに続いていると、そう言うのか?アリアよ」
「アレクの力と対峙したドラゴンの話を信じるなら、ですが」
「……なんという事だ。この事は伏せる。他の皆様もこの話はここだけにしていただきたい。信じる者は殆ど居らぬだろうが、居たとしても無用な混乱を招くだけだ」
人心を無闇に惑わすことなかれ。これが大衆を治める鉄則だからな。
勇者と魔王が同質の存在だと、世に知れて良いことは無いだろう。
それにこの創世から続く戦いを、絶対に終わらせてはならない。星を産むほどの力を持った二龍の、どちらが勝利しても世界が滅びる。
アリアの爺さんがさっき言ってたように、力を相殺するには、同等の力を持った存在で無ければならない。なら、世界を産むほどの力を持った龍がどちらかが勝利するまで争いあったなら、世界がタダで済むはずがない。
だが、俺が地龍に抱いた憎悪は本物だ。天龍の枝葉末節であろう俺が感じた制御出来ないほどの激しい憎悪。本物の天龍が地龍に抱く憎悪はどれ程だろうか?
人間の俺の理性が耐えられないだけであって、ドラゴン程の高位存在なら、理性で世界を崩壊させずに力をセーブして争えるのだろうか?
元の世界の神話の神々ですら怒りに身を任せたというのに、あの二龍はそれを理性で制御できるという。本当に神を超越した存在なんだな。
「この屋敷にある魔法やポーションの殆どを試すのは時間がかかる。ドラゴンの力の代償に何が効くかなど、アリアの数倍も生きておるがとんと見当がつかん」
それは俺らも同じだ。
神話の存在の力に当たりをつけるなんて、年齢の積み重ねで何とかなるというものでもない。殆どの人間が、一生の内にドラゴンを見るかどうかすら分からないのだから。
「アリア、そして皆様も、全て終わるまでこちらに滞在してはどうだろうか?もちろん、アリアとアレクの仲間達に不便はかけないと、この私の名を持って約束しよう」
「お爺様是非にお願いしますわ!特殊な素材等が有れば、私達で取ってきます。ドラゴンに関する文献も読ませてくださらないでしょうか、アレクの為に何かしたいのです!」
「分かった。では、そうするとしよう。皆様、我が孫の為に尽力してくださること感謝する。私はアレクの様子を見てくるとしよう。部屋は急ぎ使用人達に用意させるので、後はアリアに聞いてくだされ」
そう言って、アリアの爺さんが席を外す。
「ふぅ、なんだか思ってたより話が通じるし、怖い感じでも無かったじゃない!アリアがあんまり脅かすものだから、緊張したわ!」
「そうですわね!とても素敵なお爺様でしたね!」
「えぇ、孫の為とはいえ、あそこまで丁寧にしてくださるとは……私やルンフォードさんにも忌避の目を向ける訳でも無く、普通にお話していましたし」
そうだよ。あんまり人を無闇に脅かすもんじゃない。いい爺さんじゃないか!話は分かるし、モンスターの俺に驚くでもないし。
そんな俺らに、アリアから食い気味に否定が入る。
「違う!違うわ!世界一の商人が、腹の中を少しでも見せると思ってるの?!?お爺様に比べれば、一流の詐欺師の方がよっぽど素直にものを言うわ!」
「そんな風には見えなかったけど……」
「孫を心配する優しいお爺様に見えましたわね」
「えぇ、優しい人間だと思います。何をそんなに怯えているのですか?」
「違うのよ……そりゃアレクを治すために、色々してくれてるのはそうよ?でも、私達がアレクを治すために手伝いたいと言った時の目は、希少素材を言えば集めに行ってくれる集団ぐらいの認識だった」
「それは流石に偏見では……?」
「どうせ口で言っても分かってもらえないでしょうし、もういいわ。アレクを治すための素材集めに、希少なものが必要なのは間違えないと思うの。ドラゴンの力が相手なんだもの。それでもついでに、絶対余計なものを取りに行かさせられるに決まってるわ!」
う〜ん。そんな事しそうな人には見えなかったけどなぁ。
この時の俺は忘れていた。
アリアの爺さんが、蒼晶草を採るために、護衛付きとはいえ実の孫をフェンリルの居る山に送り出す様な、そんな恐ろしい爺さんだという事を。
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名前:ヴァイス 性別:不明
種族:デンスフォッグ(不明)
Lv1/10
HP1021/1021
MP1001/1001
状態:通常
常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》
任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》
獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.1》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》
魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター
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