129話 勇者とは
龍との邂逅から数日。
地龍の力を行使した。又は、地龍に一時的に乗っ取られたと思われるアレクが目を覚ます様子は無い。
意識も無く代謝も無いので、アレクだけ時間の狭間で眠っているかのようだった。
地龍の力の影響なのかは分からないが、瞳孔を確認した際には、アレクの瞳の色が色とりどりの宝石をごちゃ混ぜにしたような色をしていた。
もしこれが人の眼球でなく、普通の宝石であったなら数多の権力者が欲しがった事だろう。事実俺も吸い込まれそうになった。
金のようなアメジストのような……ラピスラズリかと思えばガーネットやトルマリンをサファイアに閉じ込めた様な色をしていた。
見るものを魅了するその瞳は、持たざるものに激しい嫉妬と憧憬を抱かせるだろう。
まあ、あれだな。宝石って文字通り石だし、地龍だから宝石から力を引き出してるとか、あるかもしれん。
ドラゴンが金銀財宝を好き好んで集めるのは、元の世界でもよく知られているが……俺はもしかしたら、異世界に来て龍が財宝を集める理由を知ってしまったかもしれない。
もう無いとは思うが、もう一度死んで記憶を持ったまま地球に転生できた時は、龍の生態を記した本を自費で出版してもいいかもしれないな!
「何をしているのですか?」
「アレクの症状をなるべく細かく、書き出しておこうと思ったのよ。ヴァイスが私達をまとめて運んでくれるから、移動中私達は暇だしね」
「なるほど。確かに細かく書いておけば、薬も探しやすいかもしれません。……」
「何よじっと見て?」
「いえ、良質な紙だなと思いまして」
「高位貴族であり、世界一の大商人であるおじい様の孫で勇者のパーティなのよ?これぐらい当然だわ。というか、これはあれね魔法を記しておくようの紙だから上質なのよ。いくら私だって普段使いはしないわよ?」
「してそう」
同意。
アリアとアルテミスの会話に、アルネアお嬢様がちゃちゃを入れる。
「してそうって!まあ、私ってそういう印象なのかしら?」
ぶつぶつ言うアリアをよそに、ルンフォードとアルネアお嬢様はアレクの看病をしているが、暇なのか雑談に花が咲いているようだ。
「それにしてもアレクさん起きませんわね?」
「まあ、荒唐無稽で夢の出来事のようだったけど、相手が最強の生物じゃね」
「原因は、やはり時の龍である『崩龍』ですわよね?」
「時を操ると言うと語弊がありそうだけど、戻せる訳では無いだろうしね」
「時を速める龍ですか……でも、それなら確かにアレクさんの時が止まっているように見えるのは納得がいきますね」
「そうね。アレクの時を止めて進ませないようにすれば『崩龍』の攻撃は防げるんじゃないかしら?」
「時を進めたり、止めたり……龍の魔法は凄いですね」
「確かに魔法の可能性は高いわね。どうしても人間ベースで考えちゃうから、龍が吐くブレスは実は圧縮された高密度の魔法攻撃って事も有るんじゃないかしら?」
アレクの時間が止まってるから体内の魔力が脳に集中してるのか……?
というか、それだと魔力は脳で生成されてるのか?
まあ、人間って脳の九割は使ってないと言うし、脳の動作量が二割を超えた人類が、魔法を習得したって可能性も無くはない。
基本的に地球の人間と酷似している異世界人は、脳の形も酷似している可能性が高いだろう。
この場合地球の人間でも、その異世界人に見られる脳の動作域を何とかして動かせれば、魔法を使えるようになるのかもしれない。
実に夢のある話だな。
「龍については分からない事だらけですわね……」
「仕方ないわ。龍と逢って生きてた人間のが少ないでしょうし、有るのは眉唾な神話だか寓話だか分からないものばかりだもの」
アリアの方から溜め息が聞こえた。
「はぁ。こんな時アレクが起きてれば、龍を調べる意外の案をくれたかもしれないのに……なんで寝てんのよ」
「我々は大分知識に偏りが有りますから、纏めて折衷案をくれるアレクさんが如何に重要だったか解りますね」
確かにな。
アレク以外は個性というか、我が強過ぎる。こんな面倒なパーティの中心は、アレクの中和剤のような性格の人間でないと務まらないかもしれん。
リーダーは飛び抜けた能力がある人間より、尖った個性同士を上手く回してくのが、リーダーの資質の一つかもしれない。
何より、アレクの場合はそういえばそうだな。みたいな事をパッと言ってくれることが多いので、気付きがデカい気がする。
「う〜ん。アレクさんならなんて言うでしょうか?ヴァイスは何か浮かびませんか?」
言い終わると同時に、アルテミスから意思疎通用の魔法が飛んでくる。
龍の情報がどん詰まりしてる時にアレクが言いそうな事か……。
ん〜アレクならきっと機転を利かせて……。
『そうだな。アレクがなんて言うかは分からないけど、龍以外の方面から龍について調べたらどうかと、言うんじゃないか?』
『ん?難しい事言いますね?』
『まあ、アレクならアリアの気を逆撫でないように、もっと気の利いた言い回しをするんだろうが、俺には無理だった』
『……そうですね。ちょっとその様な雰囲気で皆さんにヴァイスの言った事を伝えてみますね!』
えっ、こんなまとまってない事全員に共有されるの?ちょっと恥ずかしいんだが?
「やるじゃないヴァイス!勇者アレクからヴァイスに変えとく?」
「そう?アリア。私はヴァイスは勇者には向いてないと思うけど……」
「でも、カッコイイですよ?」
「勇者という称号がカッコイイだけじゃない」
「それは、そうなんですが……」
「そうですね。私もヴァイスは勇者よりは、サポート役に向いているような気がします」
サポート役兼タンク役だな。まあ、タンク役と言うには、指示が飛ばせない事を鑑みると、三流と言わざるを得ないが。
「まあ、ヴァイスが勇者に向いてるかは置いといて、別の方向からね?」
「龍に関連が有りそうな所をあげていきましょうか」
なるほど。龍から始まるマジカルバナナか。龍と言ったらブレス!みたいなね。
そっからあんまり変な方向に広げると、全然関係無いところに着地するまであるがな。
「龍といえば……ですか」
「取り敢えず出してみましょうか!私は『強い』ですかね」
「『火を吐く』そんな印象しかないわね」
「龍といえば『古い』ですかね?古文書とかに出てきそうですわ」
「古文書と余り変わらないのですが『童話』でしょうか?」
「童話ねぇ、それズルくない?」
「そうですか……では『英雄』なんてどうですか?『勇者』と迷いましたが」
「……!それだわ。アルテミス流石ね!英雄譚には、龍が多く出てくるわ」
「魔王が居るのですから、英雄譚には事実も多く書かれているでしょうし、多少誇張はあると思いますが……」
魔王が居る世界の英雄譚は、事実に近い……か。
それは、なんと言ったらいいか、あんまりにも異世界だな。
地球だったら一瞬で却下するような話だ。
「そうかしら?龍を直接見た身としては、物語に出てくるような表現じゃ龍の恐怖を描写しきれてないと思うけど」
「あの恐ろしさを感じたら、英雄譚のドラゴンは過小評価されてると言っても過言では無いですね」
「人間に近い種族が、どれだけ研鑽を積んだところで、勝敗の領域まで持ち込める気がしませんものね」
「唯一対抗できるとすれば、似たような力を持つモンスターだけじゃないかしら?」
俺の方を皆が向く。
「ヴァイスはもう進化しないんじゃないかしら?」
「テイム数の少ない植物系モンスターでありながら特殊個体でもある。前例が無さ過ぎて予想できる範囲なのか分かりません。しかし、かなり高位のモンスターとも互角に戦っていますし、現状が最終段階ということは充分有り得ます。逆も然りですがね」
恐らくまだ進化すると思うよ。王種と龍種が有るからね。まあ、進化条件を満たしてないんだけど。
「ゴブリンやスライムの様な、進化の系統が大量にあるモンスターの可能性もありますものね!」
それは無い。残念ながら。
「でも、ヴァイスがこれ以上強くなると、完全に私の制御下からは、離れると思うわ。今でもヴァイスから破ろうとしないから繋がってるだけだもの。完全に力量不足ね」
「これ以上強くですか……ヴァイスも先程の龍や王級のモンスターになる日が来るのでしょうか?」
「そうなったら、ヴァイスの討伐隊が組まれるでしょうね」
「そんなの嫌ですわ!」
話し逸れるなぁ……最初なんの話ししてたっけ?
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名前:ヴァイス 性別:不明
種族:デンスフォッグ(不明)
Lv1/10
HP1021/1021
MP1001/1001
状態:通常
常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》
任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》
獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.1》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》
魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター
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