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13話 見習い

 やった!やったぜ、テュペルの兄貴。信じてましたぜ兄貴!


 でも、ヒヤヒヤさせてくれるな。本当に、後コンマ何秒か遅かったら、倒されてたよ。


 それよりも、返り血で真っ赤の兄貴、滅茶苦茶怖いんだけど。抗争中のヤクザなの?ってぐらい鋭い眼光してる。これが仲間だってんだから、心強い限りだ。


 そういえば、怖くて思わず目を瞑ったような気がするんだけど、改めてやろうとすると、やり方が分からない。どうやったんだろうか。本当に目を瞑ったのか、それとも混乱してて、目を瞑ったような気がしてただけなのか。


 まあ、この体目がスゲー乾くとか無いし、どっちでもいいっちゃ、どっちでもいいんだけど。


「ねえ、モノリ。これ、持っていけるかい?」


 フェネ姐さんが、グリンボアを指さす。


 う〜ん。どうだろう?取り敢えずやるか。案ずるよりっていうしな。


 せーの!フンっ!!!


 駄目だ!

 ギリギリ持ち上がるけど、ただでさえ、そんなに速くない植物系モンスターが、ナメクジ並の移動スピードになってしまう。これは的。完全に的。


 それに、重過ぎて上手く上げれないから、血抜きが出来ない。そんな肉を、お嬢様方が食えるとも思わないし、勿体ないが捨てかな。


「そう。駄目みたいね」

「グリンボアの毛皮は、防寒具として優秀なんだけどな、残念だ」


 やっぱり、知識はあっても、金持ちのお嬢様なんだな。そんなの獣臭くて、(なめ)さなきゃ着れないよ。

 火はうろ覚えの知識でも、力任せで起こせたけど、流石に皮の鞣し方は、力任せで何とかならないだろうし諦めてくれ。

 それに、兄貴の風でズタボロの皮は、殆ど価値無いだろうし。やっぱり、素材としてなら、俺の絞め殺すのが、一番良いかも。そんな余裕、全然無かったけど。


「適当な大きさに切り分けて、お肉だけでも、持って行きましょうよ」

「そうね。テュペル、お願い」


 アルネアお嬢様の方が、先に肉を提案するなんて、うちのお嬢様、肉食いたかったんだな。森に入ってから、木の実と魚と食える草ばっかりだったから、仕方ないね。動物性タンパク質が欲しかったのかも。ん?魚は動物性か?……どうでもいいか。


 適当な大きさに切り分けた肉を、俺が触手にぶっ刺していく。

 テュペルの兄貴モンスターなのに、解体の知識とか、あんのかな?ちょっと不安だし、内臓傷付けてそうな部分は、持ってくの止めとこう。俺とか兄貴は、モンスターだから喰っても死なないと思うけど、お嬢様方は人間だからね。病気とか怖いし。あ、俺は喰えないや。


「テュペル。血の匂いに、モンスターが釣られてないか、見て来てくれる?」

「なんだか、モノリは、モンスターっていうより、物を運ぶ人みたいね」


 そりゃあ、包帯っぽい草に、果実、肉、草を持ってりゃ、そう見えるだろうさ。


「うん。テュペルも鳴いてないし、行きましょう」

「そうね」


 フェネ姐さんは、グリンボアとの戦闘で大分お疲れだったらしく、川を目指すスピードを、かなり落とした。


 そういえば、兄貴返り血塗れだったけど、兄貴に釣られて、モンスター出てきたりしないよな?


 グリンボア戦から数時間、兄貴の丁寧な偵察とゆっくりとした進行スピードのおかげで、モンスターと戦闘に入ること無く、川まで近付く事ができた。


 何時間も、モンスターに襲われないように、ピリピリしながら歩いてると、疲れるな。アルネアお嬢様は、少し青い顔をしてるし、休憩した方がいいかも知れないな。


 取り敢えず、立ち止まって、椅子擬きを作って、差し出してみる。


「あら、ありがとう。気が利くのね。でも、まだ大丈夫よ。先を急ぎましょう」

「そうね。川には、早めに辿り着いておきたいし」


 そんな事を話していると、テュペルの兄貴が戻って来て、頭上で鳴かずに旋回している。そんな合図は、決めていなかったはずだ。


 俺がちょいちょいと、触手で上空を指すと、二人とも気付いたらしい。


「どうしたのかしら?」

「取り敢えず、呼び戻したら?」

「そうね」


 姐さんが、口笛を吹くと、スーッと戻ってくる。


 姐さんが、石を幾つか並べて聞いた結果『小さい』『人型』『複数』という、事のようだ。


「小さい人型が複数で、思い浮かぶのは、ゴブリンだけど、モンスターじゃないのよね」

「ええ。テュペルが、鳴かず戻って来たと言う事は、テュペルでは、モンスターかどうか分からなかったと言う事ね」

「私達のお仲間?」

「それなら、モンスターを連れてないと、おかしいでしょ」

「言われてみればそうね」

「接触してみる?」

「危険じゃないかしら」

「森の中自体、安全とは言えないわ」

「それもそうね。一応警戒して行きましょうか」

「分かったわ」


 先程よりも更に慎重に、焦れったいぐらいの速度で、ゆっくり、ゆっくり進んで行く。


 茂みが少し晴れ、視界が開けると、三人の男達が居た。


 俺は単眼モンスターで、視力がそこそこ良いので、直線で開けた場所では、俺の索敵が一番早い。

 なので、向こうの男達には、まだ気付かれていない。


 触手で二人に制止を促す。


「相手が見えたのね」


 アルネアお嬢様が、小声でそう問いかけて来るので、右手を叩きイエスと答える。


「テュペルに確認してきてもらう?」

「そうね。行きなさい」


 あっ、待て!


 テュペルの兄貴が、飛び立った瞬間。


「誰だ!」


 大きくは無いが、刺すような声で、男が声をあげる。

 と、同時に抜剣した。


 これは、大人しく出て行った方が良いだろうな。


 兄貴デカいんだから、飛び立った時の羽ばたき音も勿論デカい。次からは気を付けようね。この人達が良い人で、次があればの話だけどさ。


「バレたわね。どうする?」

「どうするって、この距離じゃ逃げられないと思うわ」


 一人が声をあげると同時に、残り二人も抜剣したところをみるに、確実に何らかの訓練を受けている。じゃないと不可能だ。

 普通の人間が、隣の奴が急に声をあげたら、多少なり動揺するし、その分反応も遅れていいはず。戦い慣れてると言っていいだろう。


「鳥のモンスターか!」


 テュペルの兄貴が、完全に視認される。


「待って!」


 慌てて、フェネ姐さんが声をあげてしまう。


「人だと!?武器を置いて、ゆっくり茂みから出て来い。武器を持ったままだったり、急に素早く動けば、敵とみなして切る」

「分かったわ」


 多分、出ていかなくても切られるので、大人しく出て行く。


「出てきたわよ。剣を下ろしてくださるかしら?」

「そうですわね。紳士が淑女に、(きっさき)を向けるものでは有りませんわ」


 強気だなお嬢様方。無礼者!って、切られたりしない?大丈夫?


「その服、汚れてはいるが、良い生地だな」

「言葉遣いも、平民とは思えないっすね」

「歳は俺らと同じぐらいか……?」


 アルネアお嬢様と、フェネ姐さんが並んでて、よく同い歳だと分かったな。あんたスゲーよ。誰だか知らんけど。


「よし。剣を下ろせ」

「「了解」」


 リーダーっぽい男がそういうと直ぐに剣を下ろした。


 随分と、あっさり下ろしたな。何でだ?明らかに怪しいだろ。

 あ、分かったぞ!フェネ姐さんとアルネアお嬢様が美人だから、油断したな。


「お名前をお聞かせ願えるかな?レディ達」

「ふふっ、戦士様達のお名前から、伺いたく存じますわ」

「これは、とんだ失礼を。我が名はグランセルド・ウィン・クロイセン。クロイセン侯爵家の嫡男にして、騎士を志す者」


 リーダーっぽい男は侯爵様だそうだ。確か、かなり偉いはず。リーダーなのも納得だ。っていうか、侯爵家の嫡男が騎士を目指してるって、どういう事だ?

 ……あ〜そういえば、こっちの貴族は戦えてなんぼだったな。だから、騎士は貴族でも、名誉ある職業なんだろう。


『貴族の嫡男たるもの、爵位を継ぐまでは、騎士として精進すべし!民草を護れてこその貴族なのだ!』


 みたいな、感じなのかもな。モンスターが、うじゃうじゃ居るのを考えれば、当然ちゃ当然か。


「テネセ・ブドル・ファラデア。ファラデア子爵家の嫡男で、騎士見習いっす。よろしくっす」

「ガルア・ディム・スローロル。スローロル子爵家の嫡男で、同じく騎士見習いだ」

「おい、テネセ。その軽薄な喋り方は止せと、言っているだろ」

「グランセルドさんは、固すぎですよ。社交界でもなけりゃ、俺ら以外誰もいないんですから〜」

「そういう事では無い。騎士たるもの、誰も見ていないからこそ、自らを律する必要があるのだ」


 真面目なのは良いけど、肩凝りそうな生き方してんな。俺はそっちの、軽薄そうなあんちゃんに一票かな。


「よろしいかしら?」

「お恥ずかしいところをお見せしました」

「では、失礼して。私は、フェネ・セン・バンネス。バンネス辺境伯家の次女にございます。モンスターテイマーをしておりますの。従魔のテュペルが、先程は失礼をしてしまったようでして、許していただけるかしら」


 その声を理解したのだろう。翼を休めながら、テュペルの兄貴が軽く鳴いた。


「私は、アルネア・アッシュ・アーベンス。アーベンス男爵家の嫡女にございます。私も、バンネス様と同じく、モンスターテイマーをしておりますわ。従魔をこちらに呼んでも?」

「是非に。姿を見ておかねば、間違って切りかねないのでね」


 驚かせないように、なるべくゆっくり出ていく。


「こちらが、植物系モンスターで、私の従魔のモノリですわ。間違っても切ったりしないでくださいね?」


 相変わらずアルネアお嬢様は、武器の使い方を分かってらっしゃる。小柄で美人なお嬢様の、悪戯っぽい笑顔は、それは男達の庇護欲をそそる。


 流石アルネアお嬢様。勝気なフェネ姐さんには難しい、やり口だな。フェネ姐さんはフェネ姐さんで、大人の色気がアルネアお嬢様よりはあるので、今回は引き分けかな。


 お嬢様には、この調子でドンドン男共を隷属させて欲しいな。いや、隷属はさせて無いか。


 アルネアお嬢様には「うふふ〜男どもは私の手足よ〜」ぐらいまで頑張って欲しいと思いました。まる。

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 名前:モノリ 性別:不明

 種族:モノリーフ(リーフィリア)


 Lv.4/10

 HP10/33

 MP16/16


 状態:普通

 能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.7》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.3》《擬態Lv.1》《恐怖耐性Lv.2》

 魔法:《土魔法Lv.0》

 称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者

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