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128話 崩壊の足音

 世界を揺るがす咆哮が響き渡る。


 それも二度。


 龍が、龍の意志を持つ者が対峙する。アレクはもはや、アレクであっってアレクでなくなっていた。


 俺の状態はといえば触手が暴れているが、俺自身はその場から動いて無い。というような暴走してるのかしてないのか分からない状態だ。


 なんとか皆には当たっていないが、触手が当たらずとも俺が吹き飛ばしたガレキが直撃するかもしれない。何とか抑えないと……!


 いや、離脱する。


 この場を離脱するのが最も安全だ。


 龍の出現によりここら一帯には生物の反応が殆ど無い。


 本能の赴くままに、一目散に龍とは反対方向に逃げ出していることだろう。そして恐らく、恐怖を感じれるだけの知能がありながらも、弱過ぎるモンスター達は既に息絶えているだろう。


 崩龍はアレクに宿る地龍が抑えている。ブレスが効かないということは、他の攻撃も通らないだろう。


 ならば、この場で一番パーティの脅威になる生物は、暴走しかけている俺だ。


 一瞬全ての触手が止まった俺を、アルネアお嬢様が訝しむ。


「大丈夫なの!?一体どうしたのよ!」


 今は一刻を争う。説明してる時間は無い。


 俺を倒してからにしてもらおうなんてカッコつけといて、俺が一番アルネアお嬢様達にとって危険だなんて笑い種だな。


 今ここで、皆を置いて駆け出すのは、手酷い裏切りに見えるだろう。

 戻って来たら散々罵倒されよう。裏切り者のレッテルを受けてでもここは退くべきだ。護るべきものを、護るはずのものが傷付けるより余っ程良い。


 どんな謗りも甘んじて受けよう。


 なるべく人の石像が無い方向に全力で駆け出す。


「ヴァイス、どうしたの!何処行くのよ!待ちなさい!待ちなさいったら!!!」


 後で説明する!


 今は離れる方が先だ。


 景色を置き去りにしたAランクモンスターの全速力は、数秒で街の端までたどり着く程の速さだった。


 アルネアお嬢様の声が届かなくなり、俺の理性を保っているのは、主従の魔力の繋がりだけ。


 最早理性は殆ど残っておらず、触手の制御は不可能。


 壁が崩れ、屋根が落ち、人々を曳き潰す。


 直接街を攻撃している訳では無い龍よりも悪辣に見えるその化物は、紛うことなき俺自身だった。


 もし、ここの人々が生きていたなら「悪魔の植物が街を襲った」と口々に喧伝し、伝説にして厄災のバケモノとして名を連ねていた事だろう。




 思う存分街を人々だったものを破壊して回り、悪逆の限りを尽くした俺は、どうやら街の外壁を破壊して、外に出ていたらしい。


 天龍から大分離れて落ち着いたようだ。


 落ち着いてもう一度街の方に意識をやると、街の遥か高い外壁の外側からでも見える龍の威容がハッキリと見えた。


 どんだけデカいんだ彼奴ら……。


 暴れている最中幾度となく、後ろから力と力のぶつかり合い弾ける音が聞こえていた。


 そしてその音はまだ止んでいない。


 空が明滅したと思えば、その後に地鳴りのような衝撃音が聞こえる。


 天龍の力でアルネアお嬢様達パーティメンバーにその余波は届いていないだろうが、世界最悪の震源地に赴けるようなものは、誰一人としていないだろう。


 俺には遠くで間抜け面をしながら天を仰ぐことしかできない。


 爆ぜる。爆ぜる。爆ぜる。


 空が三度(みたび)弾け、一際輝く光の柱が立ち昇った後、世界は再びの静寂を迎えた。


 世界の終わりの風景はきっとこんなふうに違いない。錆色めいた空と、立ち上る煙。ボロボロに崩れ去った巨大な都は、一種の美しさを感じる。


 場違いだ。


 そんな感想と感嘆符。


 崩壊の瞬間はこんなに美しいのか……。


 北の空に一つの強大な存在が飛び去っていくのが見える。


 その色は崩龍と名乗る龍と同じ色をしていた……。



 ……。


 ……助かった……のか?


 余り実感が湧かない。


 ……。


 ……ッハア!……!


 いかん。ボーっとしてしまった。


 安堵やら何やら、訳の分からない感情が複雑に混じりあった結果、空白を産んでしまった。


 速く、走らなければ。


 物を破壊しないであろう最高速度で、都の中心部へと走る。


 そこは全てが砂へと還り、建物も人だった石像も、龍の気配さえも全てが消えていた。


 全てが無に帰した世界に、五つだけ色がある。


 皆は無事だったようだ。まだ少し距離が有るが声が聞こえる。


「アレク!アレク大丈夫なの!」

「アレクさん!起きてください!」

「天龍の力の反動かしら……?」

「もしかして、崩龍の攻撃がアレクに影響していたとかでしょうか?」


 皆はアレクが龍が飛び去り、天龍の気配も消えた後、目を覚まさずに、右往左往していたようだ。


 俺がここまで戻って来るのに、体感で十分は掛かっていない(障害物も殆ど無かったし)ので、ついさっきの出来事のはずだ。


「あ、ヴァイス!どこに行ってたのよ!大丈夫だった?龍の影響はやっぱりモンスターには大き過ぎるのかしら……?大丈夫?なんともない?」


 真っ先に俺に気付いたアルネアお嬢様が心配してくれる。


 どうやら、暴走しかけていると思っていたのは俺だけで、アルネアお嬢様達は俺が既に暴走していたという認識のようだった。


 皆口々に心配してくれる。


 どうやら一番仲間意識が薄かったのは俺のようだ。


 俺は、どこかあくまで俺は従魔であり、パーティメンバーの一員ではないと思っていたのだが、皆は俺の事を一人のメンバーとして認めてくれていたらしい。


 どうせ魔物だからと、心の何処かで思っていた。


 俺がきっと感情を豊かに表現出来る生き物なら、震えていたことだろう。


 ……今はそんな場合じゃないな。


 今はアレクだ。どうして起きない?


『いいところに来ました!無事だったようで何よりです!モンスターの貴方に訊くのもおかしな話ですが、何か心当たりは無いでしょうか!アレクさんが起きないのです!気付け薬は既に使いましたが……』


 凄い早口だな。


『落ち着け落ち着け!心当たりは無いが、俺の感知なら何か分かるかもしれん』


 アレクだけに集中して様子を見る。


 体内の魔力の流れが脳に集中している……?


 分からん。俺がはこの世界の生き物でないので、症状に心当たりが一切無い。聞いてみるしか無いな。


『頭に魔力が集中してる……魔力による昏睡かもしれん』

『なるほど。症状が分かっただけでも、いい方でしょう』


 皆さん!とアルテミスが皆に全てを伝えてくれる。


「……おじい様のところに行きましょう。おじい様のところなら、古今東西のおかしな薬が有るわ!異常な程の蒐集家だもの。普通の医者にかかるよりマシだと思うわ。龍の攻撃なんて、前例が殆どないもの」

「そうですね。もしくは、ハイエルフ様に聞いてみるのもいいかも知れません。しかし、ここからは大分遠いので、距離によりますかね……?」

「申し訳ないけど、私にツテはないわ。盗賊ギルドのあの人に情報を仕入れてもらうってのはどうかしら?」

「獣人でも、その様な話は聞いた事ありません。お父様なら何か知ってるかも知れませんが……お会いになってくださるでしょうか……私はまだ力を得る旅の途中ですから、帰っても取り合ってくれないかも知れません……」


 ここはかなり北だから、距離的には……爺さん家(アリアが遠いと言わなかったので)、エルフの里、ルンフォードの実家。


 みたいな距離順だろうか?


 相変わらずこの世界の地理が分からん。


 龍が去った今、目下最大の目的はアレクの意識を取り戻す事と相成った。

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 名前:ヴァイス 性別:不明


 種族:デンスフォッグ(不明)


 Lv1/10


 HP1021/1021

 MP1001/1001


 状態:通常


 常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》


 任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》


 獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.1》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》


 魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》


 称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター

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[一言] アレクに宿ったのは地龍では?
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