122話 水棲巨人の倒し方
どうすっかなー。
一つ疑問なんだが《水陸両用》《水上能力上昇》《陸上能力低下》っておかしくないか?水陸両用なのになんで陸で能力下がるんだ?
あ、いや、おかしくはねぇな。
人間だって泳げるけど水中で陸と同じように動けたりしないもんな。
精神的に疲れてきて、余計な事ばっかり思い浮かぶ。
HP2884/5880
あーもう!時間毎に与えるダメージ量が減ってきた。
奴が薙ぎ払う度に凄い数の触手が吹き飛んでくから仕方ないんだけど……並列処理してくれる意識みたいなのが有ればなぁ。って、いつも同じ言ってる気がする。
ふははははは!
だが、まだまだだな。触手はいくらでもある!
《植物成長速度Lv.10》で、ちぎれた触手も中々のスピードで生えてくる!
疲れてきてテンションがおかしな事になってるが、それは仕方ないだろう。人間(いや、植物だけど)危険地帯でずっと同じ作業してればこうなるって。
「少し休めましたわ!行きます!」
「お願いね。ヴァイスは……まだ全然大丈夫そうだけど、どうなのかしら?植物系モンスターって、疲れたとか怪我したとか分り辛いわねぇ」
まあ、傍目に見て植物の疲労度とか分からんわな。なんなら俺もよく分からないし。
ルンフォードが再度参戦する。
やはり休めたと言っても、ギリギリ斧が振れてるぐらいの回復量だな。正直なところ、無理してるとしか言いようがない状態だ。
早く決めないと、マジで全滅するな。かと言って距離を取って魔法を使わせるのもヤバいな。というか、魔法での削りあいになったら、村が死滅しそうだ。
《水魔法Lv.8》《土魔法Lv.6》持ってるのどう考えてもおかしいだろ。
あ、いや、これあれか?《水上能力上昇》が入った数値か?ますます、陸に引き摺り出す理由が増えたな。
魚、水、何かしら攻略できるはずだ。もう少しで何か浮かびそうなんだが……。
戦いが長引き過ぎたせいか、空が曇りはじめてきた。ひと雨来そう。
いや。
「降ってきたわね」
「これは大雨になりそうね」
アリアとアルネアお嬢様は、まーた気楽なこと言ってんな。
「はぁ!せい!雨は武器が滑るのでやめて欲しいですわ」
「困ったな。服が水を吸って動きが鈍くなる」
「矢を撃ちきった後で良かったです。雨では上手く狙えませんから」
その時、龍の咆哮のような轟音と共に光が空に罅を入れる。
「きゃ!」
「うわぁ!」
アレクとアリアが、思わず身をかがめた。
アリアの悲鳴が予想外に可愛かったな。アリアのことだから「ふっざけんな!ビビらせやがって!ぶっ殺すぞ!」とか、空に喧嘩売るかと思ってた。流石にそれは盛ったな。
「……凄い音。ビックリしたわ」
アルネアお嬢様は平常運転だな。「雷?だから何?」とでも言わんばかりだ。本当にビックリしてる?
「こうなったら、手早く倒してしまいたいですね」
アルテミスも平常運転か。
あれ、ルンフォードは?
「う、うぅぅぅ」
魚巨人からかなり遠い距離まで、尋常ならざるスピードで後退したルンフォードは、獣人の耳を両手てペタンと押えながら、随分可愛らしく座り込んでいる。
流石パーティ内一の御令嬢。いや、他二人も令嬢のはずなんだけど……なんでもない。
獣人で五感が優れてるから、大きい音は辛いのかもしれん。
にしても、すげぇ音だったな。雷やべぇずっと鳴ってるじゃん。この雷じゃ、ルンフォードを戦力として数えるのは酷だな。
……雷?
水辺のモンスターに雷落としたら、滅茶苦茶効くんじゃないだろうか。
いや、でもどうやって。《雷魔法》とか、有れば良かったんだが。
……そういえば昔、従兄弟が夏休みの自由研究で雷について調べてたな。え〜確か、上昇気流と氷の衝突で発生するんだったか。この際細かい雷の仕組みはいい。発生すればそれでいい。
氷魔法は有る。上昇気流は風魔法か。
水魔法の上位である氷魔法と風魔法を同時に行使しないと雷にできないって考えると、雷魔法が有るとしたら、最上級魔法になるのかな?
まあ、魔法なんてぶっ飛んだものの理屈を考えても仕方ない。アニメとかでよく見る《光魔法》と《闇魔法》なんて、冷静に考えたら意味分からんもんな。《氷魔法》も水魔法の上位と言うよりは火魔法の上位だと思うし、温度を操る的な意味で。冷静に考えてはいかん。
取り敢えずアルテミス。
『なんですか?少しは魔力も回復しましたが、あまり長い間は無理ですよ』
『分かった。俺が氷魔法を空に撃つから、それをアリア・アレク・アルテミスの風魔法で空に打ち上げてくれ』
『それにどんな意味が……』
『まだ成功するか分からん。しかし、成功すれば凄いことになるはずだ』
『はぁ、分かりました』
ちょっと不服そうではあるが了承してくれて助かった。
「ヴァイスが空に氷魔法を撃つそうです。それを風魔法で空に打ち上げてください」
「何よそれ!」
「よく分からないけど、何か策があるならそれに掛けよう。このままじゃジリ貧だし、ヴァイスを信じようよ」
「仕方ないわね。分かったわ。私の魔力を無駄使いしたら承知しないんだから!」
『ダイヤモンドダスト!』
細かい氷晶が発生し、空を覆い尽くす。
かなり広範囲だな。レベル8は伊達じゃない。
「風精の激昂!吹き荒れろ!テンペスト!」
「風精の激昂!吹き荒れろ!テンペスト!」
「魔法のお手並み拝見ね。テンペスト!」
テンペスト。
その名に相応しい風の暴虐が、三度空に打ち上がる。
風の轟音の壁の中の細氷がぶつかり合い、頭上に擬似的な積乱雲を発生させた。
「嘘……雲が」
後は待つだけだ。
雷は周囲で一番高いところに落ちやすい。技術があまり発展してない世界で雷が落ちやすい高いものといえば木だろうが、今は違う。
馬鹿でかい巨人が雷雲の下に突っ立ってるんだ。何処に落ちるかなんて言うまでもない。
金属に雷が落ちやすいってのも聞いた事あるな。この際別に事実じゃなくてもいい。
アレクの剣を奪い、巨人の頭に全力で突き立てる。
さぁ、完成だ。
魔法の力で人工的に生み出されたそれは、すぐに堪えきれなくなり泣き(鳴き)出した。
昔の誰かは言った。雷鳴は神の怒りに触れたのだと。
罪なき村人を脅かす湖の巨人よ、神の裁きを受けよ。
それは本当に龍の咆哮だったのか、魚巨人の断末魔だったのか。はたまた、神の怒りだったのか。
いっそう激しさを増した雨の中、数度の落雷に巨人は湖に沈んでいった。
下が湖で、巨人自身が濡れていた事もあり、落雷によるダメージは凄まじいものだった。
「これは……」
「なんて恐ろしい魔法なのかしら」
「ヴァイス。貴方一体何者なの?本当にただの特殊個体のモンスターなの?何処でそんな知識を」
「モンスターがこれ程の力を操るとは……」
巨人は倒したが、皆の不信を募らせる結果になってしまったようだ。
「大丈夫よ。貴方がなんであれ、私の従魔である事に変わりは無いわ」
「そうねアルネア。魔力尽きるまで戦っても、私達じゃ倒せたとは思えないし」
「ははっ、仲間で良かったよ。うん。本当に」
「こう言ってはなんですが、アルネアさんにヴァイスを服従させるだけの魔力が有るとは思えないのですが」
「えぇ、無いわアルテミスさん。ヴァイスの力ならいつでも私の支配から抜け出せる。ヴァイスの意思で私の従魔でいるというのが正しいかしら?」
「それは……危険なのでは?」
「大丈夫でしょ。ヴァイスがモンスターの本能に抗えず私達を殺そうとしてたのなら、殺すのが遅過ぎるわ。私達はヴァイスの横で寝たりしてる訳だしね。いくら私が最強でも、寝てる時にこの強さのモンスターに襲われたら勝てないでしょうね」
「アリアさんの言う通りですね。要らぬ心配でした」
場は収まったようだ。
アルテミスの心配は最もだな。というか、アルテミスの意見が一番正しい。
アルネアお嬢様の従魔としての繋がりが切れた瞬間に、モンスターの荒れ狂う本能に負ける。恐らく数瞬も抗えないだろう。
「うぅ、皆さんお話は家の中でしませんか?か、雷がひゃぁ!」
「そうね。これ以上雨に濡れる趣味も無いし」
「これ以上濡れたら体調を崩しそうだ」
「異論ありません」
「さあ、帰りましょうヴァイス」
……改めてアルネアお嬢様から信頼されてるんだと思うとこそばゆいな。
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名前:ヴァイス 性別:不明
種族:デンスフォッグ(不明)
Lv1/10
HP1021/1021
MP1001/1001
状態:通常
常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》
任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》
獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.1》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》
魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター
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