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113話 北へ

 あー……肉が食いてぇ。


 いや、植物系モンスターだから、食欲も無ければ口も無いんだけどさ。


 目の前で人が食ってると食べたくなるじゃん?


 ハイエルフの魔法で飛ばされた街から北に向かう道すがら、空飛ぶ豚みたいなモンスターを倒したので、俺が血抜きや解体なんかをして食えるようにしたんだけどさ、聴覚が存在するせいで肉の焼ける音がヤベェ。とにかくヤベェ。語彙力が消失するぐらいには肉食いてぇ……。


 正確には、肉を破壊したいという衝動が、人間の頃の肉の記憶と混在して食欲と勘違いしてるだけだと思う。

 食べるって行為は噛み砕きすり潰す行為だからな。食べるという行為は、人間の持つ破壊衝動の解消に多少なり役立ってると思う。だから苛立った時とかに、暴飲暴食したくなるんじゃねーかなと。


 進化する度にモンスターの衝動に驚いてたけど、Aランクになってからは、正直従魔術の縛りが無ければ理性が殆ど吹っ飛んでたと思う。

 従魔術に掛けられてなお、この破壊衝動。Bランクモンスターの比ではない。


 お嬢様に従魔術を解除してもらって、新しいモンスターを仲間にしてもらおうと思ってたが、今解放されたら何するかわからん。

 モンスターの凶暴性に、人間が元持つ残忍さが相まって最悪に見える。


 フライング・トンを食い散らかした俺達は(俺は喰ってねぇ)すぐに移動しだす。急いでるからな。まあ、ソフィアのおかげで大分短縮できたけど。


 アレクから聞いた行動指針は『ドワーフの情報を集めつつ辺境伯領へ向かう』だった。


「ねぇ、ドワーフなんて本当に居るのかしら?」

「ハイエルフ様が言うんだから居るとは思うのだけど」

「ハイエルフ様の仰る事に間違えなどありません」

「いやまあ、エルフが……アルテミスさんがそう言う気持ちは分かるけど、私達はドワーフなんてお伽噺でしか聞いた事がないのよ?」

「アリアの言う通りね。私もお伽噺の存在が居ると急に言われても信じれないわ」


 道中、アルネアお嬢様とアリアを中心に女性陣が話している。


 ルンフォードは習性なのか周囲を警戒し、アレクは女性達の会話に混ざれないのか、そもそも混ざる気が無いのか、空を見上げながら風魔法を練っている。


 俺の感知にも何も引っかからない。


 平和な旅路だ。


 アレクにならって、俺も流れる雲を見上げる。いや、見上げるって感じではねーな。感知能力が上がり過ぎて、空から雲を覗き込むみたいな感覚だ。

 ゲームのフリーカメラモードで、自由に視点の向きや高さを変えられる感じ。360度見えるから、ゲームのフリーカメラモードよりも、視点の自由度は高いけどね。


「アレク。移動ばかりで飽きたわ。楽しませなさい」

「僕にそんなスキルは無いよ」


 無茶振りが過ぎる。あまりにも外道。


「あ、そうだ歌いなさいよ!こんなに天気もいいんだし」

「天気がいいのと僕が歌うのに、なんの関係があるって言うのさ……」

「えっ、何?」

「……」


 アレクのボソボソした抗議の声は、たった一言で圧殺された。哀れすぎるんだが勇者様。


「アレクさんも困ってるようですし、私が歌いましょう」

「いいわね!エルフの歌なんて滅多な事じゃ聴けないわ!」


 この世界の歌は初めて聞くな。……初めてだよな?


 エルフのアルテミスの歌は、歌と言うよりは、元々あったであろう詩に、簡単で単調なメロディをつけたようなものだった。


 童謡とか、そんな感じ。


 自然を讃える部分が多いのは、エルフならではと言ったところだろうか。


 どうでもいいけど、エルフって切り株に座って動物に囲まれてハープ弾いてるイメージあるよね。……俺だけ?


「新鮮ね」

「僕達貴族は讃美歌・劇中歌・聖歌ぐらいしか聞く機会が無いからね」

「え〜民謡?って言うのかしらね?」

「どうなんだろうね?僕は芸術系は疎くて」


 俺も民謡と童謡って何が違うの?って聞かれたら動揺するな。童謡だけに。


 ……。


「獣人が歌うのは出陣の前や突撃の前だけなので、それ以外で聴くのは不思議な気分ですわ」


 戦闘民族かよ……戦闘民族だったわ。


「私は馴染み深いわね。曲調は全く違うけれど、乳母がよく歌ってくれたのを思い出すわ」


 アルネアお嬢様のところに仕えてる乳母は、貴族じゃないだろうからね。


「いい歌ね。アルテミスさん。それはなんて歌なの?」

「ん〜正式な名称は無いですね。一番多いのは『大地の祈り』ですね。後はただ『寝歌』と呼ばれています」


 寝歌……?あぁ、子守唄か。なんか翻訳がおかしい気がする。翻訳さんいつになったら進化するん?


「ねぇ、レル……じゃなかった。ヴァイスは何か歌えないの?」

「そんな無茶な……」

「もしこの子が歌えても、聴けるのは私だけですけどね」

「ずるいわ!やっぱり私もアルテミスさんの魔法覚える!教えて!」

「ごめんなさい。私も特別訓練した訳ではなく、ただ適性がたまたまあっただけなので、何も教える事ができません」

「そうなのね。私もどうしてそんなに天才なのかと聞かれても、天才だからとしか答えられないのと同じね!」


 それと一緒なの!?や〜まあ、一緒……か?よく分からん。


「辺境伯の情報も調べないといけないけど、どうしたら良いのかしらね?」

「さぁ?アレクに任せましょう。少なくともドワーフを探すよりは簡単よ」

「それはそうだけど、僕に丸投げなの?」

「私がお手伝いしましょう」

「私もお手伝いさせていただきますわ!」


 アルテミスとルンフォードは良い子だなぁ。それに比べ、アリアとアルネアお嬢様ときたら……。


 いや待てよ?


 アルテミスにいつものを頼む。


『どうしました?』

『アレクに伝えて欲しいんだけどいい?』

『どうぞ』

『俺が情報収集するから、皆は宿屋とかで待ってて欲しいって伝えて』

『分かりました』


 《影無し》《音無し》《隠匿》の三つがどれ程の効果なのか試してみたいしな。

 それにしても、隠匿は翻訳ミスだよな。多分人目に触れないって意味で隠匿って翻訳になったんだろうけど、もうちょい良い翻訳は無かったのかな。


「アレクさん。ヴァイスが一人で情報収集をしてみたいそうです」

「確かにヴァイスは、アルテミスさんを通せば意思の疎通が簡単にできるけど、ヴァイスがギルドや酒場に一体で入ったら大騒ぎになると思うんだけど……」

「そうですね。聞いてみましょうか」


『そのへんどうなんですか?』

『俺は感知と隠密に優れた個体なので、建物に入らずとも聞こえるし、仮に建物に入らなきゃならなくてもAランクモンスターの隠密に一般人が気付けると思えない』

『なるほど』


「……という事らしいです」

「ん〜ちょっと心配だけど、例え見つかっても微動だにしなければ見た目はただの花だし、大丈夫かもね。でも、心配だからどこかの建物に入らなきゃならないって時は場所を教えてよ。騒ぎになったら、テイムしたモンスターを連れ去られて探してたって事にするからさ」


 確かに、俺の正体を見てもAランクモンスターだと分かる人が見なければ、ただの白い花だからな。しかも、進化前と違って綺麗な花だし。


 アレクもよく頭が回るもんだ。流石勇者!頼りにしてるぜ!


「今のヴァイスは、花屋や薬草屋で売ってても違和感ないですから、案外誰かがただの花だと思って摘んでったと弁明しても、不審がられないかと思うわ」

「アルネアの言う事も最もね。モンスターだと知ってる人に合わなければ幾らでも誤魔化しが聞くわ」

「いっそ花束に隠して持ち歩いては?」

 「それは名案ですわね!」


 花束に隠して持ち歩くのはありかもしれないな。最初の数日は、怪しまれないだろう。流石に何日も花束を誰にも渡すこと無く持ち歩いてたら、凄い不審だしな。

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 名前:ヴァイス 性別:不明


 種族:デンスフォッグ(不明)


 Lv1/10


 HP1021/1021

 MP1001/1001


 状態:通常


 常時発動:《共通言語理解》《影無し》《音無し》《隠匿》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.8》《魔王の導き》


 任意発動:《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《水汲みLv.10》《吸血・吸精》《猛毒Lv.8》《噴霧Lv.10》《全情報強制開示》《感知乱反射LV.3》《濃霧拡大Lv.4》《痺れの香Lv.2》《眠りの香Lv.2》《毒霧Lv.2》


 獲得耐性:《上位斬・打・刺突耐性Lv.1》《上位魔法耐性Lv.1》《邪法耐性Lv.10》《心耐性Lv.1》《ソフィアの加護》


 魔法:《土魔法Lv.10》《水魔法Lv.10》《氷魔法Lv.8》《魔導Lv.1》


 称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 読書家 急成長 奪われしもの 魔王の誓約 エルフの盟友 斧の精霊(?) 罠師 魔導師 鑑定師 魔性植物 光を集めしもの 最上位モンスター

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