11話 合流
「あ、貴女は!」
「フェネよ。フェネ・セン・バンネス。水場を探していたら、ここに辿り着いたの」
ウチのお嬢様と同い歳とは思えないスタイルの良さを誇る彼女は『フェネ・セン・バンネス』勝気なショートヘアで、赤味の強い髪色が特徴的な美人ちゃん。
そして、風の従魔にして、最高の兄貴テュペルさんだ。
来た!テュペルの兄貴来た!これで万事解決や!てか、テュペルさん生きてたんだ。凄い嬉しい。キュプロクスに挑んで生きてたなんて、なんて奇跡だ。
いや、テュペルの兄貴なら、実力という事も有り得るな。テュペルの兄貴の機動力、加速力、最高速なら、逃げ切れても不思議じゃない。
「テュペルは、私がモノリを迎えに行った時に、キュプロクスと戦ってたと思うんだけど、どうして?」
「テュペルには、適当にやって逃げろと言っておいたんだ。この子は頭も良くて強い。あんな理不尽で失うには、惜しいからね」
フェネ姐さん頭良いんだな。特攻させただけじゃ無かったのか。従魔も主人も凄いとか、チートかよ主人公か。
シン伯爵が男主人公なら、フェネ姐さんは女主人公ってところだな。
「えっと、その皆は?」
「その前に、まずは座らせてもらっていいかな」
「……貴女、そんな喋り方だったのね」
「それは、アルネアも同じでしょう?誰も見てないところまで、猫かぶっていられないわ」
「それもそうね」
そういって、辺りに座ろうとするが、座るに適した所が無かったようで、まだ立ったままだ。
泉の近くだから、土が湿ってて、地面に直接座れないもんな。
気の利く植物である俺は、倒木を引き摺って、触手で「どうぞ」とする。
「あら?私に?賢いのね貴方」
まあね。中身人だかんね!
にしても、気の利く植物って、大分カオスワードだな。
「そういえば、アルネアはモノリに座ってるのね。随分器用ね、その植物系モンスター。やっぱり特殊個体だったんだ」
「ええ。自分の意思があるみたいで、命令じゃなくても、動いてくれるわ。そうね、例えば……」
そういってキョロキョロし始めると、丁度いい焼き加減になってきた魚を二本取って、それでちょいちょいと、つついてくる。
はいはい。アルネアお嬢様。フェネ姐さんとテュペルの兄貴にも、渡して来ればいいのね。
アルネアお嬢様に突き出された魚と、適当な木の実をチョイスして、フェネ姐さん達に渡す。
「ね?」
「本当だ!驚いたよ。魔王の再臨なんて騒ぎで、一生分驚いたと思ったんだけどね」
「それで、皆は……」
「分からない。皆バラバラに逃げ出しちゃったから。でも、街に逃げた人達は、もう駄目だと思う」
「街を見たの!?」
「いいえ、直接行くには危険過ぎるから、少し時間が経ってから、テュペルに見に行かせたの」
話に聞くと、テュペルが見て来た状況を、石で説明させたらしい。
石を六個置いて、街の「安全・半壊・全壊」敵の「無・少数・多数」に分けて、置いたそうだ。
そしたら、全壊と多数を指したんだとか。
な、成程。ちゃんと頭使えば、イエス・ノーの二択以外も伝えられたのか……。フェネ姐さんとテュペルの兄貴のスペックが、俺らと違い過ぎて悲しい。弱い分、頭で補おうとか思ってたのに。
「つまり、街はボロボロな上に、敵が占領してるわ」
「だから、貴女達も、こんな森の深いところまで来たのね。そういえば、水や食料はどうしたの?」
「アハハ、1日や2日食べないぐらいで死なないよ!火がないのは、参ったけれどね。水は短剣を持ってるから、水気の多い木を削って凌いだわ」
水気の多い木を知ってる事が凄いな。うちのお嬢様、実質なんもしてないから、少しは見習った方がいいんじゃないの?途中から自力で歩いてすらないからね。
「アルネアは、水や食料なんかはどうしてたの?」
「食料・水・火に至るまで、全部モノリがやってくれたわ!」
「本当に!?もしかして、中身人間なんじゃないの!」
「そんな訳ないでしょ」
「まあ、流石にそれは荒唐無稽だよね。でも、植物系モンスターが、弱点の火を起こすなんて、想像もつかないわ」
やだ、この娘めっちゃ鋭いじゃん!怖っ。
「よく森の方に来ようと思ったわね」
「えっアルネアは違うの?私は、逃げてる途中で、キュプロクスの進行方向が、街だと気付いたのよ。それで、街のルートから逸れたの」
「私は、モノリに勝手に連れてこられたわ」
「それはまた凄いね」
「服も洗ってくれたし」
「言われてみれば、全身緑ね。最早、従魔というより、召使いね」
「そうかもしれないわ。着替えも手伝ってくれるし」
話していると、フェネ姐さんの服に汚れが目立ったので、葉を皿にして水を溜め、センリの葉を程よい長さに千切って渡す。
肩をちょんちょんすると、気付いてくれた。
「綺麗な水。それに、長い葉っぱ?…………あ、アルネアが今服代わりにしてる物ね」
「この子、自分の身体から、水が出せるみたいなのよ。飲んだけど美味しかったわ!」
「モノリの触手が波打ってるから、地中の水分を吸い上げて、植物の体を使って濾過してるのね!テュペルと同じぐらい賢いかも」
人間の頭脳なんですが!?
同等かよ。テュペルの兄貴にも、そこだけは負けてないと思ったのに。
「モノリ。フェネの身体拭くのと、服を洗うのも手伝ってあげなさい」
あいあい。承りましたお嬢様。
「あら?背中拭いてくれるの。便利ね。この子頂戴よ」
「駄目!私"それ"しか使役できないんだから。二体目は魔力足んないのよ」
「うそうそ!本気にしないでよ。ほら、テュペルも拗ねないで。嘴痛いから!」
"それ"はあんまりじゃありません事?お口が悪いですわよ。アルネアお嬢様には、もっと貴族としての慎みをね?こう……なんか……こうすると、よろしくてあそばせ!
なんか貴族ってこういう、まどろっこしい言い回し好きでしょ?全然分からなかったけど。
フェネ姐さんとテュペル兄貴の行水も済み、フェネ姐さんに包帯を服のようにぐるぐる巻き付けた。
「流石にボディラインの出る、全身緑じゃ人前には、出れないわね」
アルネアお嬢様はちんちくりんだから、そのままでも大丈夫そうだな。
轟!
という、風切り音と共に俺がよろめく。痛い。アルネアお嬢様、痛いですごめんなさい。目玉を蹴るのはおよしになって!
「それで、フェネ。街に戻れないなら、貴女はどうするつもりなの?」
「テュペルを使って、水場を見つけながら、森を脱出するつもりよ。モノリが火を起こせるみたいだし、着いてきて欲しいわね。逆に貴女は?」
「色々考えたんだけど、貴女が一緒に居てくれるなら、私はもう何日か、ここに居ようと思うわ」
「何故?」
「ここは、大型の肉食モンスターが出ない上に、比較的大きな水場だわ。私達以外が五日以内にここを見つけたり、それ以上経っても、まだ生きてる人達であれば、充分な戦力になるから」
「ふるいにかけるのね」
「こっちは自分の身で手がいっぱいだもの、自力で生き抜いてるテイマーと従魔じゃなきゃ、仲間にすらできないわ」
「もっともだな。私達は、他人に手を差し伸べられる程強くない。手を差し出せば共倒れだ。それでも、民草であれば助けるがな」
「『高貴なる者の義務』ね。私も、それぐらいは果たすわ」
それで、どっちの案にするんだろうか。俺としては、どちらも問題ないと思う。
「じゃあ、折衷案で、この泉以外の水場を見付けても、ここに3日はいる。その後は移動し続けるって事で良いかしら?緊急事態だし、私も、戦える仲間は多い方がいいわ」
「ええ。テュペルがいれば、道にも迷わないし、いいんじゃないかしら」
さて、夜も暗いが、何処で寝かすかな?アルネアお嬢様も、流石に木の洞は、もう嫌だよな。
……。
……。
……………………!
この無駄に多くて長い触手を、ハンモックっぽくして、木の間に括りつければ、簡易寝床の完成だ!
枝が多いところなら、地上のモンスターにも、上空のモンスターにも、見つかりづらいだろ!
やっぱり、俺天才じゃん!
そうと決まれば、パパっと作る。作るっていっても、感覚的には、手の平を丸めるぐらいの作業量だけどな。自分の体の一部だから凄い楽。
出来たよー。お嬢様ー。
「これに乗ればいいの?揺りかご?」
イエス!右の手の平を叩くと、すんなり乗ってくれた。
「こっちのは、私の分ということか」
フェネ姐さんの右手を叩いても仕方ないので、お嬢様の右手を叩く。
「モノリが、そうだと言ってるわ」
「そうか、おっと」
二人が乗ると上に上げる。
「成程な。木と木の間に結んで、空で休むのか。考えたなモノリ」
恐悦至極ー。
「偉いわ!これで、モンスターに怯えずに寝れるわね。一応見張りよろしくねモノリ」
「そうか、モノリは植物系モンスターだから寝なくていいのか、優秀な見張りだな」
せやろ!わて、優秀やろ!で、これ何弁?
まあ、いいや。
おやすみなさいませお嬢様方。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:モノリーフ(リーフィリア)
Lv.4/10
HP33/33
MP16/16
状態:普通
能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.5》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.2》《擬態Lv.1》《恐怖耐性Lv.2》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者
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