10話 湖の探索
揺れる水面に揺れる思いを重ねる。流れる空気の澱みと、響き渡る風に乗った、仄かな硬質ものを撫でる水の音。
全てが重なったその瞬間に、水面に映る動く影絵を突き刺す。
そこじゃぁぁぁ!!!
深く突き刺さった触手から逃れる術は、水から上げられ、宙をのたうち回るだけの銀の身体には無い。
そこそこデカいし、美味そうだ。
そう、俺は今、湖で魚を捕っている。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:モノリーフ(リーフィリア)
Lv.4/10
HP33/33
MP16/16
状態:普通
能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.5》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.2》《擬態Lv.1》《恐怖耐性Lv.2》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者
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触手を水に入れて、魚を追い回したり、魚を捕ろうと水面を叩きまくったりしてたら、触手のレベルが上がった。水の中、超絶触手動かし難かったよ。
湖を一周ぐるっと回ってみたが、川に続いてる等は無く、湧き水が出てる部分を見つけたので、正しくは湖ではなく泉だった。
正直な所、湖でも、泉でも、池でも、沼でも構わない。違いとかよく分かんないし。
確か、どれも大した差は無かったような気がする。どっちのが深いとか、それぐらいしか変わらなかった様な記憶がある。
問題はなんで、川に繋がってないのに魚がいるかだよな。「異世界だから」といわれたら、それまでだけど、異世界では魚が陸を横断したりするんだろうか?
従魔の魚は空飛んでたし、普通にしそうだな。考えるのはよそう。前世の常識に則って考えてしまうから、前世の記憶割と邪魔だな。
そういえば、結局お嬢様、火は起こせなかったな。
さっき、触手を銛代わりに突いた魚で三匹目だし、木の実は良いけど、草と魚は火を通したいから次は火の起こし方を考えるか。
棒と板と……後何がいるんだ?枯葉?なんで枯葉必要なんだっけ。なんかこうグルグル回してるのは覚えてるんだけど……。あ!後、石積んでたな。なんで石必要なんだろ?まあ、取り敢えず積んどくか。
何となく覚えてる焚き火のイメージで、怪しい焚き火を作っていく。
想像より、大分歪な石の丸になってしまったな。石の円の中に、枯葉と木の枝を雑に積み上げる。
大分見た目はそれっぽくなったけど、板が見つからない。普通に考えて、森の中に板がある訳無いんだよなぁ……。
アルネアお嬢様を、泉近くの高い木に乗せ、倒木を探すことにした。倒木なら、燃えそうじゃない?
触手で無理矢理乗せたので、なんか抗議の声を上げていたが、努めて無視した。火が先。魚が傷んじゃう!
まあ、魚が傷んじゃうのは、計画性ゼロの俺のせいだけどね。
魚を捕ってると思ったら、急に大き目の石やら枯葉やら棒切れを集めだした俺に、お嬢様は酷く混乱していたみたいだ。
まあ、行動に一貫性が無いからな。思い付いた事を思いついた時に、あやふやな記憶を元にやってるから、お嬢様からしたら意味不明の塊だと思う。
魚捕ろうと思ったのだって、魚影が見えたからだし、深い意味は無い。大体、人間そんなに思慮深く生きてないから!人間じゃないけど!
三十分程、泉付近を捜索したが、弱いモンスターばかりで、倒木は見つからなかった。理屈は分からないが、やはり泉の近くは強いモンスターとか、肉食っぽいモンスターは居ないみたいだな。
途方に暮れつつもウロウロしていると、枯木を見つけたので、触手で叩き折ろうとしてみる。
ベチッ
硬い!
良く考えたら、何も触手で直接攻撃する必要は無いんじゃ無いのか。
地中だと、自由自在に触手を動かせる事を思い出したので、触手が耐えられるギリギリの重さの石を掘り出す。
よし。これで、木を削ろう。ぶつければ結構いけそうだ。
触手が千切れるんじゃないかってぐらい、石を持った触手を回転させる。モンスターの身体に人の知識。遠心力を喰らえ!
空を切る音が、一際大きくなったその瞬間、木の幹に全力で叩き付ける。枯木の抉れる音と、大石のぶつかり合う音が、周囲に鳴る。
どうも、遠心力をつけ過ぎたせいか、叩き付けた音がなると同時に、身体が宙に浮く。
思ったより触手頑丈!遠心力か、叩き付けた力に耐え切れなくて、千切れて吹っ飛んでくと思ったのに。
この身体で、受身の取り方が一切不明なので、最高速で空中から地面に触手を突き刺す。
五メートルは浮いたんじゃなかろうか。幾ら雑魚モンスターでも、モンスターのパワーを舐めてたな。
記憶でも、四人から五人ぐらいのパーティを組んでモンスターを倒す。それを考えれば、雑魚モンスターの一体でも、人の二、三人分の力が有るから数の優位性を保ってるのだろう。
遠心力イズ怖いので、石斧みたいなイメージで、軽やかに先程打ち付けた部分を、石で殴る。
植物系モンスター疲れないから、めちゃくちゃ無心で出来る。ゲーム画面見ながら、タイミング良くAボタン押してる感覚。
無心で、馬鹿の一つ覚えの如く振り下ろしてた石が、空を切る。およ?気付いたら木は倒れていた。辺りは真っ暗だ。何時間やってたんだろう。やっぱ時計無いと不便だわ。
枯木を強制的に倒木にして、お嬢様のいる辺りまで引き摺って帰ると、泉には啜り泣く女の、怨念の様な声が聞こえる。
まさか、レイスとかのアンデット系モンスターか?お嬢様を、木の上に避難させといて正解だったな。
兎に角お嬢様を助けないと!でも、幽霊っぽいモンスターに物理攻撃効果有るのか。魔法しか効かないとか、聖別された武器が必要なイメージだ。
なんにせよ、戦ってから考えるか。
お嬢様を上げた木の下まで来ても、啜り泣く女の声は止まない。特に襲ってくる気配も無い。距離は確実に近付いてるはずなんだが……。
神経を研ぎ澄ませ、啜り泣く声に集中してみる。
「……うぅ、うっぅ…………グスッ、グス。……リ……くら…………い」
大分近いな。直ぐ上から聞こえてくる。まさか、もう、お嬢様襲われてる?
慌てて、お嬢様に向かって、引っこ抜く様なイメージで、お嬢様を確保する。
大丈夫かお嬢様!
「グスッ……エグッ……モ〜ノ〜リ〜」
泣いて縋ってくる。余程怖かったみたいだ。こんなに震えて可哀想に。
「ふっざけんなぁぁぁ!!!いきなり高い木に、人を座らせたと思ったら、そのまま勝手にどっか行って、何時間も放置するとかこのアホォォォ!凄い怖かったんだからね!このアホ!」
目玉に右ストレートが決まる。
ぐふっ……良い右持ってんぜ……お嬢様。
震えてたのは怒りだった。いや、恐怖&怒りかな。
おもっくそ俺のせいだったわ。お嬢様はレイスだった。逆かレイスかと思ったらお嬢様だった。なんかラノベのタイトルみたいだな。「お嬢様はレイス」的なね。
痛い。うん。自業自得だけど、お嬢様烈火の如く怒ってるわ。当然だし、自明の理過ぎて、弁解の余地が無いし、弁解する口も無い。
やーべーよ。でも、何の説明も無く、何時間も降りれない高さの木の上に放置されたら、俺でも泣くしキレるな。
適当な大きさの棒と、さっき持って来た木を使って火を起こす。
ロープが無いな。棒の方に巻き付けて使ってた様な気がする。木だけに。
……。
俺の長い触手が、ロープの代替品になり、思ったより簡単に火種が出来たので、予め作っておいた焚き火(歪)に火種を落とす。
落とすと、何に引火したのか、結構な勢いで火種が炎になる。
のぉぉぉぉ!ビックリした!ビックリした!ビックリした!
熱いヤバい燃える!!!いや、熱くねぇ。触手痛覚無かったわ。
火にビックリしただけだった。
アタフタして、わちゃわちゃしてる俺に、お嬢様がしたり顔で、声をかけてくる。
「学校で借りた本の中で、茶色い木の実は、火を大きくしてたのを思い出して、貴方が木の棒と大きな枯れ木を擦り合わせていた間に拾って入れといたのよ!」
凄い「どうよ!フッフ〜ン!」顔だけど、量を加減してくれ。モノリーフのフランベとか、誰も喜ばないから。危うく俺全焼するかと思ったぞ。触手何本か先っぽ焦げてるし。
取り敢えず、火を起こしたので、魚を焼いていると、足音が聴こえてきた。
「いい匂い……それに、火?」
声が聞こえてくる。こんなに接近されるまで気付かないとか、索敵能力無いにも程が有るぞ。
シルエットは二つ。一つは人型で、もう一つは人じゃない?
「だ、誰?」
お嬢様が声をかけると、向こうに慌てたような気配が現れる。これで、盗賊なんかの線は粗無くなったな。
俺とお嬢様しかいないんだから、油断させるなんてまどろっこしい事せずに、そのまま襲えばいいんだから。声をかけてくるメリットも無いし、声をかけられて慌てるなんて、山賊だったら間抜け過ぎるし、声の主は女性のようだ。
こんな森の奥に、俺ら以外に一体誰が……。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:モノリーフ(リーフィリア)
Lv.4/10
HP33/33
MP16/16
状態:普通
能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.5》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.2》《擬態Lv.1》《恐怖耐性Lv.2》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者
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