1話 プロローグ
色々滞ってるのに、また新しいのを始めてしまった。反省の色が見えない。
キーンコーンカーンコーン
「はい!今日の授業はここまでです!明日は進級試験ですので、テイムされていないモンスターを、各々買っておいてくださいね!運搬はこちらでしますので、買った場合は連絡して下さい」
先生の呑気で朗らかで、少し間延びするような声とは対象的に、私の心は底なし沼に浸かったかのように、ズブズブと沈んでいく。
あー誰か引き揚げてくれないかな〜。いるわけないんだよなぁ……。
私、アルネア・アッシュ・アーベンスは、頭を抱えて悩んでいた。先生の言う通り、明日は進級試験だからだ。
成績が悪い落ちこぼれだとか、従魔術が実は使えないだとかそんな事は無い。
成績は中の上。友達もいなければ、家にも頼れない、何処にでも居る貧乏貴族だ。そう、貧乏貴族なのだ。長女といえど、ギリギリ学校にやれるかどうかの瀬戸際の。
うちは貴族とはいえ、名ばかりの貴族だ。学校で良い人(子爵以上なら変態でもいい)を見つけ、卒業と同時に嫁げ。というお言葉を、父上と母上からいただいている。
それが大事な一人娘にかける言葉かよ父上。本物の貴族様なら、爵位さえ高ければ、相手の男の顔も性格も最低でいいから、嫁いでこいって言われるのは仕方ないよ?それが、貴族に産まれた女性の運命だし。粗貴族。ギリ貴族の私には気が重い。
学校に入れてくれたのは感謝しているが、落ち着いて考えてみて欲しい。粗平民と結婚したい貴族なんて居なくね?という事に。
確かに、私は可愛い。美少女だと言っても過言じゃない。でも、とんでもビックリ美人なのかと、問われれば全然そんな事は無い。
次期国王様と次期公爵様が、決闘をもって私を取り合うような美女では、残念ながら無いのである。私は美少女だが、流石に身分差をひっくり返せる程じゃない。良くて妾ぐらいだろう。
だけど、あろうことか父上は、嫁になって来いという。不可能です父上。諦めて絶世の美女でも産んでください母上。
因みに、従魔術の学校なのは、入学時に一番お金がかからないから。
騎士の養成学校なら、剣だの盾だの鎧だのと、兎に角金がかかる。家にそんな金は無い。
人気の攻撃魔術は、呪文書からローブ、杖と金がかかる。勿論、家にそんな金は無い。
その点、従魔術は術者が戦わないので、入学時に高い防具も強力な武器も要らないのだ。わーとっても安上がり!やったね!ちくしょう!
目下の問題は、兎にも角にも、お金が無いことである。明日の試験用の従魔を買うお金が無い。
従魔が買えない。そうすると、進級できない。進級できないイコール卒業できない。プラス留年するような金は無い!完璧な方程式過ぎて、涙もでない。
貴族なのになんで金が無いんだろう……。不思議だ。実に不思議だ。
いつも私を下に見てくるバカ貴族共は、あんなに良い服を着て、下っ腹に脂肪を蓄えてるというのに、私なんて腹どころか胸にすら脂肪が無いとか理不尽過ぎるでしょ。神様は、私の前に出てきたら、一発ぐらい殴られてくれてもいいと思うの。寧ろ殴らせろ。
子爵様のところのクソ坊ちゃんは、私のことを「アアアア」と呼ぶ。『ア』ルネ『ア』・『ア』ッシュ・『ア』ーベンスだかららしい。
実はコイツちょっとセンスあるんじゃないかしら?とか、思ったのは内緒だ。
にしても「アアアア」は酷いな。うん。改めて考えると酷い。一応私だって乙女だよ?「アアアア」ってなんだよ。「アアアア」が許されるのは、物語の主人公だけなんだよバカヤロー。花も恥じらい、恋に恋するお年頃の乙女に対する仕打ちか!?「アアアア」はあんまりだろ!
ダメだ。お金が無いせいで、要らんことまで思い出して、更に心がブルーだ。ああ、空はこんなに蒼いのに、私の心は大雨と暴風が荒れ狂ってるなんて、なんてこった。
寮の部屋で頭を抱えてのたうち回っていても、状況は好転しないので、外に出る支度を整えながら、私に出来ることを整理することにした。
まず一つ目。従魔を売ってるところで買ってくる。テイムはされていないが、檻に入ってるので安全。種類も選べて、確実に従魔にできるモンスターの種類を決められる。いい事づくめ。ただし、金が無い。
二つ目。モンスターを街の外から連れ帰ってくる。危険だが、種類はある程度選べるし、傭兵を雇えば、街の近くのモンスターぐらい大した脅威じゃない。ただし、傭兵を雇う金が無い。檻のお金と、運搬の費用もいる。一番現実的じゃ無い。
三つ目。モンスター卵を買う。選べない。完全ランダム。最弱モンスターを引き当てれば目も当てられない。人が取ってきた卵を適当に積んであるだけなので、そもそも強力なドラゴンなんかは期待出来ない。ただし、安い。他の二つに比べて圧倒的に安い。この選択肢の中で最も現実的である。
なら、モンスター卵を買えば良くね?と、思うかもしれないが、安いのにも関わらず私が躊躇する理由がある。
安くて弱い上に完全ランダム。
そう、モンスター卵はテイマー初心者用。とてもじゃないが、進級試験に持ち出すような代物では無い。
しかも、それだけじゃない。私が人気者なら、笑い話にもなるだろう。現実は厳しい。ボッチで辛うじて貴族の私が衆人監視の中、一人だけ初心者用の卵で進級試験を受け、挙句弱い事が確定している。
ただでさえ突っかかってくるバカ貴族共が、こんな美味しいネタを見逃すだろうか。否、断じて、否。
進級試験にモンスターの指定は無いので、卵でも問題は無い。あくまでルール上だけだが。
試験には五割ぐらい……嘘。見栄張った。三割ぐらいで通るだろう。先生達は開いた口が塞がらない羽目になるだろう。進級試験で卵なんて、前代未聞だもんなぁ……。
私は留年できない上に金が無いので、人生の大博打を三割にかけるしかない。もし、愛玩用のペット系モンスターや、移動に適した運搬系モンスター、戦えない程の最弱モンスターを引き当てれば、即人生終了。
家に戻されてすぐ、高い爵位の豚貴族や変態貴族に、牛よろしくドナドナされるだろう。
それだけは嫌だ。容姿は平凡でいい。寧ろ容姿は残念でもいい。せめて優しい人がいい。
父上より歳上の変態貴族に嫁ぐなんてごめんだ。
私の伴侶は自分で決めたい。ワガママをいえる立場じゃないけど、どうせならそこそこ良いモンスターを従魔にして、イケメンに嫁ぎたい。……優しいイケメンに嫁ぎたい。…………優しくてお金持ちで高い爵位持ちのイケメンに嫁ぎたい!
さて、着替えも終わったし、現実逃避も終えて、卵を買いにいかないとね。……はぁ。
『モンスター転生始めました!』って、既存の作品放って、何を書いてるんだろうか……。