悪役のいない乙女ゲームのライバルキャラに転生しましたが何故か断罪されています
こんにちは、私はジュリアナ・キリングストーン。
悪役のいない乙女ゲームのライバルキャラに転生した元・日本人の聖女見習いです。
現在、まったく身に覚えのないことで聖女の指導係の方々から断罪されている真っ最中。それもその筈。今、神官長様だけでなく、大神官様まで列席した聖女決定の場なんです。
この国には貴族の子女と聖女の素質があると選ばれた平民の娘が神殿で修業して女神官(貴族女性が結婚するまでの腰掛け身分)になる制度があります。女神官の中から聖女見習いに選ばれた二人が二年間修業し、聖女(任期二年)になるのです。
ところが、聖女見習いの一人は仕事をこなし、もう一人はサボりまくった聖女失格の聖女見習い。
折角、聖女がラファエラ(乙女ゲームのヒロインちゃん)に決まっても、その事実は消えません。
だからこうして色々と口を塞ぐ必要があったんです。
え?
私は真面目に仕事しましたよ?
サボりまくった聖女失格の誰かさんが聖女に決まってしまったから、さあ、大変。で、私が断罪されることになりました。
解せぬ。
「聖女見習いでありながら祝祭日に祈りの間に行かず、ラファエラに対して暴言を吐いて怯えさせた罪で――」
祝祭日と言うのは聖女と聖女見習いが祈りの間で祈りを捧げる日です。
聖女様は聖女見習いと祈りを捧げる時間が違うので、残念ながら私の証人にはなれません。
「お待ちになって、アウグスト様。ジュリアナ様は私の為を思って、言ってくださっただけです。きつい口調だったのが怖かっただけです」
うるうるのお目目を上目遣いにして庇ってくれるヒロインちゃん。
庇ってくれるのは良いけど、それで庇っているつもりかしら?
火に油を注いでいる確信犯的じゃないの?
「自分をイジメた相手にすら庇うとは、流石、聖女に選ばれるだけはある」
「もう、ラファエラをイジメさせないからな」
「怖い思いなんてもうしなくてすむから安心して」
イジメてないって。
ヒロインちゃんと話したのなんか、神官長様の前と祈りの間に一緒に行こうと声をかけた数回しかないのに、どうして暴言を吐いたと思われているのか、それすらわかりません。
元々、ゲームでジュリアナがヒロインちゃんの世話を焼いて、祝祭日に祈りの間に一緒に行こうと声をかけていたからそれをしただけだし。だって、そうしないと、ゲームと変わってしまうから。
ジュリアナはライバルだけどお節介焼きなツンデレで、友情エンドもいくつか用意されているくらいだったから、私も祝祭日に祈りの間に一緒に行こうと声をかけました。
ところが、ヒロインちゃんが指導係の方々とのお部屋デートで、私と祈りの間に行くのを断ったのが続いて、流石に私もヒロインちゃんと友情を育めないと思ったんだけど・・・。
そのヒロインちゃんが聖女に選ばれたのって、指導係の方々の依怙贔屓ですよね?
そうとしか思えません。
だって、ヒロインちゃんの部屋に指導係の方々がいるのを見かけるようになってから、私、指導係の方々に指導を断られるようになりましたから。これって、立派な職務放棄じゃないですか?
仕方がないから、指導係の方々の補佐の人や前任の指導係や元聖女(高位貴族並みの礼儀作法は高位貴族出身だから身に付いていたし、王族並みの知識もどうにかなったけど、聖職者としての部分はわからないから)の人に教えを乞うて何とかやってきた末にこの断罪騒ぎ。
「私が聖女にふさわしくないのは、祈りの間に行かなかったからですよね?」
「あとはラファエラに対するイジメだ」
ありがとうございます、アウグスト様。
さあ、反撃開始です。
「祈りの間に一人は行っていたのは確かです。それは皆様もご存じの筈」
「何が言いたいのかね、ジュリアナ・キリングストーン? あなたが聖女にふさわしくないと言うのは指導係からの報告だけでなく、神殿の記録でも明らかではないか」
改竄と虚偽に塗れた報告を受けた可哀想な神官長様(如何にも草食系なおじいさん)は私を宥めるように言う。大神官様は王族がなるのが決まっていますから、神官長様はその代行ができる秘書のような扱いなので、草食系のおじいさんが選ばれたようです。
「残念ながら、祝祭日に祈りの間に行こうとラファエラさんの部屋を訪ねましたところ、断られた私は一人で祈りの間に行くしかなく、何度もそういったことが続きましたので、私はラファエラさんを誘うことをやめましたの。その時、ラファエラさんの部屋でいつもアウグスト様たちをお見掛けいたしましたわ」
「にわかには信じがたい話だが、アウグスト殿、ブルータス、ネロ。ジュリアナ・キリングストーンが申しておることは真か? よりにもよって、祝祭日に聖女見習いの部屋にいるとは嘆かわしい」
「神官長様。ジュリアナ・キリングストーンの言に騙されないでください。この者は自分が怠けた言い訳に我々の名前を出しているに過ぎない」
「自分が祈りの間に行ったように見せかけているだけじゃないか」
「中立の立場であるアウグスト様たちがラファエラさんの部屋にいらっしゃったのよ? ショックで祈りの間に行くことができなくてもおかしくないことではなくて?」
敢えて、祈りの間に行かなかったと認めてあげましょう。
「成程。そなたはラファエラの部屋を訪ね、断られたショックで祈りの間に行かなくなったと言うのだな」
「はい。指導係の方々がラファエラさんの部屋にいらっしゃったので」
大切なことなので二度言いました。
祝祭日は祈りの間に行く前は異性と会ってはいけない規則です。それを守れるように、我々聖女見習いの寝起きする私室から祈りの間までは男子禁制のエリアとなっています。
これは原作も同様で、恋愛エンドを迎えるような状態ではないと私室でデートは起きません。恋愛エンドは聖女を諦めて指導係の方々とくっつくエンドと秘めた関係で聖女を終えた後にくっつくエンドが用意されていました。
この様子ではヒロインちゃんは逆ハー聖女ルートを選んだようです。
「ラファエラ・メイクピース。そなたは指導係たちを部屋に招き入れていたのは確かか?」
「はい。ラファエラ・メイクピースは熱意に溢れ、指導の復習を申し出ていましたので」
ヒロインちゃんの代わりに答えたのは神学を担当していたネロ様でした。真面目なネロ様は祭祀を担当していたブルータス様のように聖女見習いの取り決めなどには疎いらしく、ヒロインちゃんのへの想いが昂ってご禁制エリアに入ってしまったようです。祭祀に関して無知な聖女見習いに教えるほど熟知されておられるブルータス様と違って、純粋です。そして高位貴族に馬鹿にされない礼儀作法や社交を担当されていたアウグスト様も当然、男子禁制のエリアだとご承知なので不用意な発言は控えております。
哀れなワンコ学者神官は自ら墓穴を掘っていることがわかっていない様子です。
良かったですね、ヒロインちゃん。聖女になるルートは塞がりましたが、聖女を諦めたネロ様との恋愛エンドは残っています。
「お前には聞いておらん、ネロ。ラファエラ・メイクピース。ジュリアナ・キリングストーンの申したように、祝祭日にそなたの私室に指導係たちがいたのか?」
「いいえ。指導係の方々はおられませんでした。全部ジュリアナ様の嘘です。私は朝から一人で聖女様の祈りの時間が終わるのをお待ちしておりました。指導係の方々とご一緒するなど、濡れ衣もいいところです」
可哀想にネロ様は切り捨てられて、嘘吐きの烙印が押されました。愕然とした表情です。
私に聖女失格の濡れ衣を着せた罰をヒロインちゃんが支払わせるなんて、何と言う皮肉。今から私の冤罪を証明してくれるなら、助けてあげても構いませんが・・・ネロ様はしないでしょうね。
ワンコ学者神官ですから。
「では、ラファエラ・メイクピースは祈りの間に行くまで一人で過ごしていたと申すのだな」
「はい、神官長様」
ヒロインちゃんはネロ様を切り捨てても、恋も栄誉も独り占めルートを驀進する気は変えないようです。
私はそれでも良いんですけどね。
何故なら、私は本当に結婚までの腰かけと言うか、教養を修めた証として女神官になっただけのごく普通の貴族令嬢なんですよ。高位貴族出身だから婚約者もいて、聖女見習いになっていなかったら結婚していた筈なんです。
聖女見習いなんかに選ばれてしまったおかげで、婚約者が不満だらけで顔をあわせるたびに「聖女見習いを辞退してさっさと結婚しよう」と仰られます。
困ったものです。
デートばかりしていたヒロインちゃんに聖女は務められませんし、私は私で聖女になってあと2年も結婚を延ばしたくないと婚約者が仰っていますし、このままでは聖女不在の事態になってしまいます。
これは前代未聞の事態です。現在の聖女様にもう一期務めてもらうか、ヒロインちゃんでどうにかするか、既婚夫人になった私がなんとかするか。ここに私が結婚しないという選択肢はありません。
そのようなことを婚約者が許してくれる筈ありませんから。
「では、私が見たのは職場放棄なされた指導係の方々の姿だと言うわけですわね」
「・・・」
ご賢明なアウグスト様は黙ったままです。高位貴族であるアウグスト様は不用意な言葉が身を亡ぼすことをよくわかってらっしゃる。
「我々が職場放棄しているとはどういうことですか?」
「あら、ごめんなさい。職場放棄どころか、指導放棄もされておりましたわね。私、貴方々に指導して頂けたのは最初の1カ月ほどで、それ以降は理由を付けて指導して頂けなくなりましたもの。いつ参りましても補佐の方から仕事が立て込んでいるからと後回しにされ、その後、ラファエラさんの部屋から出てくるのをお見かけ致しましたわ。あら? 指導も職場も放棄なさっていましたわね」
祝祭日以外は指導係の方々はそれぞれに宛がわれた執務室で聖女見習いの指導か本来の仕事をしています。
貴族との交渉術を教えるアウグスト様は神殿と国の橋渡しを。祭祀などの手順を教えるブルータス様は祭祀を司っている責任者。神学を教授するネロ様は神や聖女に関することを纏める仕事をしています。
男子禁制の場で目撃されたとしても、祝祭日ならヒロインちゃんが嘘を吐いていたことで信用を無くし、指導係の方々は私的なことで暴走しただけになります。しかし、それ以外の日は指導係の方々が職場放棄した、と言うことになります。
それは私がヒロインちゃんの私室で指導係の方々を見たと言う発言は素直なネロ様の「指導の復習」発言で裏打ちされているからです。
それがなくても、裏付けも取らないほどお粗末な真似を神殿はしません。私を嵌める為の証拠はでっち上げたようですが、ご自分たちの所業を揉み消す猶予を神殿も与える気もないでしょうし。
それに私が嵌められたことを婚約者が見逃す筈がありません。
「ジュリアナ・キリングストーンの指導を拒否したと言うのは真実でしょうか、アウグスト殿?」
「指導係を仰せつかりながら、忙しさのあまり聖女見習いに時間を割けなかったのなら、心苦しいばかりです」
アウグスト様はしれっと煙に巻きやがりました。これでは指導したかしていないのかわかりません。
権謀術数の中で生活するアウグスト様らしい見事なまでの逃げ方です。
指導していなかったとしても、忙しさを理由にした過失であって、故意にしてはいないと言い逃れる言い方です。
「ブルータス?」
「生憎、スケジュールが合わなかったようです」
ブルータス様は指導が無理だったとお答えになりました。
ええ。ええ。神官らしく、嘘も吐いていない言い方です。
嘘発見器を使おうが、嘘を見破る魔法を使おうが、嘘だとは判定されないでしょう。
ヒロインちゃんとのデートやら、居留守で私とスケジュールが合わなかっただけなんでしょうから。
「ネロ?」
「ラファエラの指導をしておりました、神官長様」
ワンコ学者がヒロインちゃんに見捨てられるのも仕方がありません。
「我々から指導を受けていないと言うなら、どうして務めを果たせたのか教えて頂けないでしょうか、ジュリアナ・キリングストーン?」
ブルータス様がワンコを庇うついでに私に反撃を仕掛けてきました。
「お忘れですか? 聖女は王族や高位貴族との婚姻することが多いことを。高位貴族の大半が血縁や姻戚で繋がっている現在、元聖女に教えを乞うことなど容易なこと。元聖女からの証言を貴方々は虚言だと言えませんわよね?」
元聖女は私の親戚を探しただけでも3人は見つかりました。婚約者のお母様もそうですしね。
そんな王族や高位貴族の妻となっている元聖女からの証言を採用しなければ、神殿の正当性や聖女制度自体を否定することになりますから、これ以上、この話題は追及できません。
「そなたらは揃いも揃って、ジュリアナ・キリングストーンの指導を怠っていたと言うことか? 中立である指導係たちが特定の人物に肩入れしていることは嘆かわしい限りだ」
「大神官様。神官長様。ご覧の通りです。指導係たちは色恋に狂ってまともな判断ができない状態です。これでもラファエラを聖女にするのでしょうか?」
聖女が指導係を篭絡したビッチしかできないなら、喜んで聖女の座を譲るわよ。
言外にそう匂わせます。
神官長様は渋い顔をされました。それまで神官長様に任せて状況を見守っていた大神官様は――大きな溜め息を一つ吐きました。
「今期の聖女は選出されず、空位とする」
「「「「そんな!!」」」」
あ、面倒臭がった。
神官長様は私と同じことを思ったようです。そんな表情をしていました。
「聖女がいないなんて、そんな前例は――」
アウグスト様の言葉は大神官様が遮られました。
「聖女のいない時期も過去にはあった。私の貴重な時間を費やしてやったのだから、口答えは控えよ。――さあ、ジュリアナ。聖女見習いの期間は終わった。一日でも早く結婚できるように支度をしよう」
ここは悪役のいない乙女ゲームの世界。醜い略奪愛なんか存在する筈もない世界。
ライバルキャラには乙女ゲームでは描かれていなかった婚約者がいても、おかしくないでしょう?
でも、本当に聖女のいなかった時もありましたっけ?
ジュリアナ・・・乙女ゲームのライバルキャラ。高位貴族の令嬢で聖女見習いに選出されてしまう。ヒロインちゃんが攻略対象とお部屋デートしたり、仕事をサボりまくった挙句、自分の罪を押し付けて来られて腹が立っている転生者。
ラファエラ・・・乙女ゲームのヒロインで転生者? 逆ハー聖女エンドを目指して、罪を擦り付ける。
アウグスト、ブルータス、ネロ・・・乙女ゲームの攻略対象。聖女の指導係であり、ヒロインちゃんの下僕。
神官長・・・大神官の秘書兼実務責任者である中間管理職。
大神官・・・王族。婚約者が聖女見習いに選出されてしまって、結婚にストップをかけられてイライラしている。
<書いていてわからなくなったので、整理用メモ>
祝祭日・・・聖女と聖女見習いがお勤めをする日。ゲームでもサボれる。サボってデートもできる。
聖女見習いの私室・・・そのあたりは男子禁制。
お部屋デート・・・熱愛状態の時にだけできる特別なデート。
指導係のお仕事・・・デートの為にサボることもある。ヒロインの下僕(熱愛状態)になるとライバルキャラへの嫌がらせで指導しなくなる。




