第四話:二周目同士の小競り合い 前
二周目同士の眼が合えば、お互いにわかるという――相手を討たねばならないと。同族嫌悪が理由だと、セルウィー・アエテルナエは言った。
「折角帰って来たって言うのに、戦わなくちゃいけないなんて……不幸だわなぁ」
「別に俺は、戦わなくても良いんだが?」
二人の男が居た。繁華街の外れ、人気も少ない。奇妙な画だった、そのどちらも一般的な学生にしか見えない。だというのに、二人の間に流れる空気は、達人同士の放つソレに酷似していた。
「お前を放って置いたら、面倒な事になりそうなんでなぁ……スキル!」
そう叫んだ彼の手には、いつの間にか武器が握られていた。冷気を纏うそれは、レイピアと呼ばれる剣だ。これが彼の得てきた力、異能の行使、スキルだ。
「三十秒だけ相手してやる……ソレ以上は勘弁してくれよ」
男の眼前に、半透明の窓枠が現れる。
《Skill》┬ 《Passive》
.├ 《Auto》
.└→《Active》→【流水の構え】Recast time:50s
効果時間:30s
武術の構えを取り、呼吸を整える。彼の眼前に小さく新たな枠が現れ、そこには三十秒のカウントが始まっていた。これがこの男の戦闘力の根源。VRMMOのシステムを、そのままに現実に戻って来てしまったのが彼だ。
『我は、あちらの「れいぴあ」が勝つと思う』
「俺はあの構えた奴だな」
「あら、悠斗さん何故そう思いますか?」
そんな男二人の闘いを、ビルの上から観戦して居るのがセルウィー達だった。悠斗に至っては、コンビニで買ってきたホットスナックを片手に持ち、ジュースを飲んでいる。
「勘」
それだけ言うと、ホットスナックを一口齧った。
(三十秒だけ? どういうつもりだぁ?)
レイピアを持ち、構える男――天条 蒼汰は訝しむ。なにせ、二周目という人種は、既に一つの問題を解決している。ゲームで言えば二周目状態。だからこそ、そう呼ばれる。つまりは、殺傷力という一点に置いては誰もが一級品を持ち合わせているはずだ。
(それを、三十秒だけ相手をする?)
――つまりは、格下として見られている。そう思った瞬間、天条 蒼汰には我慢がならなかった。
「――馬鹿にするなァ!」
踏み込む。
意識と無意識の間、それの刹那を読み、蒼汰はレイピアを振るう。
《Skill》→ 《Auto》→【斬り払い】Recast time:15s
だが、ゲームシステムは絶対だ。回避不能と思われた一撃に反応を返す。
《Skill》→ 《Passive》→【ガンホルダー】
いつの間にか、腰に現れていた、二つのホルスターから、抜刀する。
それは、ホルスターには決して入らないような、巨大なガンブレイドだった。刃渡りだけで2mを越す大剣。その根本には、人の頭を込めれそうな程巨大なリボルバーが。
――そう、ゲームシステムは絶対だ。
彼、西馬 大は【マンチキン】と呼ばれる人種だった。和マンチなどと呼ばれる類いだ。
彼の遊んでいたVRMMOはそれなりの出来であった。だが、世界初のVRMMOだったのが問題だった。プレイヤーの多くが、バグ探しに明け暮れていたのだ。前例のないゲームシステム、デスゲームに変わった世界で、生き残るためにもバグが探し続けられた。
そんな世界において、ただ強く、強く有るために自らを組み上げてきた西馬 大の挙動はバグの塊とも言える。
(二周目共に合わせて戦いたいが、俺の戦闘能力は、この【流水の構え】の間、30秒しか持たない……)
――だからこそ、「三十秒だけ相手をしてやる」だ。
視界の端、既に二十秒を切った残り時間。先の斬り払いで、蒼汰のレイピアは粉々に砕けている。
「もう辞めないか?」
大の発言、どちらかと言えば、懇願に近い。これ以上続ければ、死ぬからだ。
「ぁー、あー、俺の方こそ、馬鹿にして居た。申し訳ない……」
蒼汰は小さくスキルと呟く。その両手に握られる二振りのレイピア。彼も、二刀流こそが本領。
「――本気で相手をさせて貰う!」
「そうかよッ!!」
第二ラウンドが始まろうとしていた。
「ほらな、レイピアより、あっちのが強そうだ」
悠斗はヘラヘラと笑った。セルウィーは、そろそろ彼を戦場に送り込もうかと考え始めていた。