第二話:槐門 悠斗と言う男 中
槐門 悠斗は二周目ではない。
「何故! 何で! どうして僕を殺そうとするの!!」
放たれる無数の魔力弾。一撃一撃が必殺の威力を秘める。
「面倒臭い……幼児退行が過ぎるんじゃないか?」
それを一切気にすること無く、悠斗はメイサとの距離を詰める。
二周目どころか異能の一つも持ち合わせていない、無能力者と呼ばれる存在だ。
――だが、今こうして二周目と同等以上に戦っている。
それもひとえに彼の持つ刀――蛍丸の異能である。
魔力弾が悠斗の皮膚に触れる。一瞬で肉まで裂く。骨に力が触れる。バラバラに砕く。それでも足りずに、その裏の肉を引き裂く。
これが雨霰と降り注ぐ。しかし、悠斗は止まらない。
また新たな魔力弾が。触れる。燃える。裂く。蠢く。触れる。覆い隠す。引き裂く。全てが癒えた。
『刃刃クるのぉ! 楽しくなって来たのぉ!』
蛍丸の異能は単純明快、『再生』。傷が付けば治す。ただそれだけ。無論、化け物じみた再生力を持つわけではない。鍛え上げた肉体を全盛期に戻そうと働きかければ、どれだけの時間がかかるか。
「面倒臭い、さっさと終わらねぇかな」
悠斗は異能者ではない。二周目でもなければ、体力が有るわけでも無い。そう、大した事のない身体。
「なんで死なないんだよ!!」
嗚咽の混じった、鼻声の叫び。メイサの瞳は恐怖を写していた。
対して、悠斗の瞳は死んでいた。先程からの攻撃で、既に何度命を失ったかもわからない。蛍丸は、対象が死んでいるとしても再生を行う。その回復が十分であるのならば、死すらも捻じ曲げる。
『どうじゃ、主様。痛いだろう、苦しいだろう。その苦痛を与えているのは、我である事を忘れるでないぞ?』
その代わり、ただ死ぬよりも数倍痛い。攻撃を受け、傷が出来れば、身体の内より緑色の炎が上がり、燃やして埋める。肉が足りなければ、失った身体の代わりを毒蟲を埋め込み代用する。その後、偽りで覆い隠し、全ては癒えた事とする。
『さぁ、味合わせてくれ。主様の『痛み』と『永遠』を、あの女の『絶望』と『終わり』を』
まともな能力ではない。であればこそ、それを与える剣もまたまともな訳がない。
蛍丸は、朽ちた己の刃を無数の蛍により埋めたと言う逸話を持つ。それが『再生』の『原典』。しかし、それを持ち主に与えることは出来なかった。それを可能にしたのは悠斗の発想だった。
「嫌ぁ……来ないでぇ……」
いつの間にか、メイサはしゃがみ込んでいた。魔力の奔流は止めどなく続く。しかし、その激流の中を朽ちながら進むのが悠斗だ。
「逃げるのが下手だな。面倒臭くないのは、好きだ」
まともでない剣と、まともでない所有者。
蛍丸は別な逸話では、逃げる主人を殺させる為に自ら光を放ったと言う。先の逸話と合わせて考えた時、悠斗は蛍丸の性根を理解した――コイツは、人を殺したくて堪らないのだと。それも、最悪の形で殺す事、それが何よりの喜びなのだと、理解してしまった。
だから罵った。ほたるの本性を、ほたるの喜びを呪ってやった。ほたるはそれを聞き、喜んで悠斗の力となった。それが最も愛すべき彼に、最大の痛みを与える方法だと思ったから。
「何で、僕を殺そうとするの!!」
「別に殺す気は無い」
メイサの姿は、大人びた女性と言うよりは、幼く泣きじゃくる少女の様に見えた。それはイメージの話ではなく、実際に、物理的に幼い姿に変わっていた。単に魅了の魔術の一種だったのだろう。
その姿は、亜麻色長髪、紅眼、レザー服に魔女帽子と、基本は変わっていない。人形のように可愛らしい顔立ちも同じだ。そう、それはメイサとも、資料にある鎌瀬 賢太ともよく似ている。
『男の娘とか言うんだったかのぉ?』
資料を片手にほたるが茶々を入れる。
「男のくせに女々しい、ってバカにされて死んだんだったか」
「だって、アレは、僕を、僕を……だから逃げるために……」
違ったか、もっと面倒な話のようだ。悠斗はそれだけ思うと、溜息を一つ。
「もう一度言うけどな、別に殺す気はねぇぞ」
「嘘だ! そう言って、僕を騙すつもりだ!!」
キッと、鋭い視線を向けるメイサ。しかし、それは随分と可愛らしい印象を与える。
「騙さねぇよ、面倒臭い」
本心からの言葉だ。悠斗は好き好んで面倒はしない。
「でも、でも……」
「じゃあ、俺がお前を殺して何の意味がある」
「それは……それはっ!」
ぶつぶつと、涙目で考え込むメイサ。そんな彼女を見て、悠斗は面倒臭くなってきた。
「……メイサ、俺に付いて来い」
悠斗は面倒臭がりだ。だから自然と言葉はシンプルになる。泣きじゃくるメイサ。しゃがみ込むことで、悠斗はその眼をしっかりと見据える。
「今まで、辛いことが沢山あったんだろう。でもなぁ、もう忘れちまえよ」
「忘れることなんて……」
「出来るさ、もっと今が楽しければいい。そうすれば昔の辛いことなんて、無意味だ」
「楽しく……」
少しだけ、眼の色が変わった。悠斗はそれを見逃さない。
「恋をするんだって良い。気の合う仲間と馬鹿をする、それだって良い。方法はいくらでもある」
「恋……」
オウム返しばかり、楽そうで良いなぁ等と考えるのが槐門 悠斗と言う男だ。
「俺はお前のことが好きだぜ?」
「なっ!?」『なっ!?』
好きというのも、今のメイサは弱そうで、ナヨナヨしていて、でも相手取るのに面倒臭く無いからと言うだけだ。一緒にいて楽そうだからが基準になっている。それにLikeだ。別に今話すことではないが、なんとなく思ったから、そのまま言った。
「だから、一緒に生きていこう。今までの嫌なこと全部忘れて、な」
笑う悠斗。彼の笑顔も悪いものではない。彼の悪い所は、いつもの目付きと、頭と運だ。
「は、はい……」
メイサの手を取り、立たせる悠斗。彼は、何でこんな話になったんだっけかと、思い出そうとして、面倒臭くなって辞めた。