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5話 ウサギ屋、できあがる

やったー、かけたぞー

 四月らしい温かい風が吹いた。そっと二人の人物の髪を撫で、栗色と黒色がサワサワと揺れる。二人はお構いなく、目の前に建つ一軒の建物をじっと見ていた。


「やっと、やっと完成したな!」


「やりましたね、ミヤト!」


 黒髪の青年――赤松宮兎。一ヶ月ほど前にこの世界【ヴァルハラ】において歴史上77人目のレベル500に達した冒険者である。異世界出身ながら、上手く世界に溶け込み、【赤い影】の異名で活動している。メインジョブはアサシンでサブジョブはアルケミストだ。


 その隣で目を輝かすシスター服の少女――アスティア・リーリフェル。冒険者の街【スタイダスト】の北西に位置する小さな教会、【リーリフェル教会】の若きシスターだ。今年で16歳になる。栗色の肩まで伸びた髪と青色の瞳、小柄な体格がなんとも可愛らしい。母の跡を受け継いでシスターになったものの、冒険者になることが昔からの夢であり、ひとりでダンジョンに潜ったりするらしい。現在のレベルは昇華の儀により、82まで下がっている。


 そんな二人が見つめる建物――二階建て木造建築、赤い屋根に取り付けられた大きな看板。そこには綺麗な文字で『100ゴールドショップ ウサギ屋』と書かれている。念願のお店を建てる事ができたのだ。


「ああ、思い返せば一ヶ月前。プランを大工に持っていけば『全部取り壊さないとムリッスネー』といわれ、泣く泣く倍近くの金額を払い、仕入先の二店舗との長きに渡る値段の交渉、そしてひたすらMPポーションを飲み続けアイテムを機械のように量産させる日々…………それも、それもこの日を迎えるため!」


「ミヤト、流石に泣くのはドン引きします」


「そこは感傷に浸らせてくれよ」


 真顔で宮兎を見つめるアスティアは冷静なツッコミを入れた。言い返すも、彼女の冷たい視線は変わらない。


「ま、まあ時間がかかったことは確かだな。それに大工のおっちゃん達がパッシブスキル【建築S】の職人を集めてきてくれたのは幸いだったな」


「そうですね。普通なら半年かかる作業を一ヶ月で終わらせてくれたことはありがたいです。これで明日から開業できますね」


「おうよ! その前に中に入って色々確認しようや」


「賛成です。では、参りましょう」


 さて、これが二人にとって始めて内装を確認する瞬間である。【建築S】のスキルを持つ職人達の邪魔になることはできず、家に近寄ることさえ困難だった。初のお披露目ということで二人の心臓は互いに聞こえるのではないかと不安になるぐらい大きいな物だった。


「お、オープン!」


 ガチャリとドアを勢いよく開けて、二人の目は室内に釘付けになった。まず目の前には立派なカウンターがある。その上には【オニガシマ】で購入したレトロなレジが置かれてあった。大工に渡していたので、既に設置済だ。店の中は広々とした空間が広がっており、壁にはびっしり棚が設置されている。ひとまず考案した商品が全部置けるだけの数を要求したが、みたところそれ以上あるようだ。


「おお! なんか、本当に【お店】の雰囲気あるぞ!」


「まだ商品はならんでいませんよ? ほら、次はカウンターの裏へ行ってみましょう」


 カウンターの裏、バックルームのことだ。扉の向こうには、これまた大量の棚が設置されている。ここには表に出せない余った商品を保管する場所にする予定だ。他にも机と椅子、地下室への階段と二階への階段、裏口がある。バックルームは表より広く、半分以上のスペースがこの場所に使われているようだ。


「ここも特に問題なしと」


「地下室は見ていきますか?」


「んや。あそこは装備とか余ったドロップアイテムとかを放り込んでいる倉庫だから別にいいよ。それに誰にも開けられないように【ロック】のスキルも使ったし、大丈夫だろう」


「そうですね。なら、最後は二階ですか」


 階段を上がれば、そこは以前自分が暮らしていた風景と何も変わらない景色が広がってきた。リビング、キッチン、寝室、客室、風呂、トイレ、元々一階にあったものをすべての部屋を二階にそのまま持ってきている。宮兎はこれには感心して「流石【建築S】スキル所持者集団……恐るべし」と呟いた。


 一通り確認し、不備がないことを確認して二人は二階へと移動したリビングでお茶を飲むことにする。向き合うように座って、宮兎が淹れた温かい緑茶を【ザ・クリエイティブ―転生蘇生リザレクション―】で創った湯呑みでいただく。


「はあ、ミヤトの淹れる緑茶は本当に美味しいです。それに、このユノミがまた雰囲気が出て良いですね」


「だろ? 木製のカップで緑茶を飲むとなーんか物足りないんだよ。やっぱり緑茶は湯呑みだな」


 同時に口をつけて、ほっと温まる。【ザ・クリエイティブ―転生蘇生リザレクション―】のおかげで今まで生成できなかったアイテムを創れる事は宮兎にとってかなりプラスに働いている。今まで畳のある部屋を客室にして、別の部屋でベッドを作り(今までなぜかベッド用マットレスしか作れなかった)寝ていたが、布団の生成に成功したのでこれからは畳の部屋を寝室にしようと2週間前から計画していた。


「さてと、この後はアイテムを棚に並べる作業だな。まあ、これは俺一人でできるし、アスティアはもう大丈夫だぞ?」


「そんなこと言わないでください。一ヶ月間、二人で頑張ってきたのですから最後までやりますよ」


「……ああ、本当にありがとう」


 笑顔で返す宮兎。だが、この男。実は店が出来上がるまで【リーリフェル教会】にアスティアと二人っきりで暮らしていたのだ。一人の少女と男が一つ屋根の下で一ヶ月間過ごす。これは一大イベント――のはずだが、悲しい事に特に語るハプニングは起こらなかった。宮兎が異世界に来てしばらくの間は教会へお世話になっていた。当時17歳の宮兎にとって12歳のアスティアはちょっとした妹分だった。


 宮兎の頭の中でアスティアという少女はそのまま並行して妹でしかなく、彼女は女として意識されていない。その所為でおこるはずだったイベントを涼しい顔でスルーしていく。これにはアスティアも毎晩枕を濡らしていたらしい。彼との共同生活もこの日が最後だと思うと、最後の瞬間まで居たいと願い、言い訳はちょっとした反抗だった。


「明日からいよいよオープンですが、一人でやっていけますか?」


「大丈夫だって。向こうの世界で経験済みだし、それほどほど忙しくはならねえよ」


「どうでしょうか? スタイダストは新しい物好きが多いですからね。冒険者だけではなく一般人も物珍しいものには寄ってきます」


「それが目的だから良いことじゃねえか。冒険者と一般人向けの雑貨店。最初考えていた通りのイメージだ」


「ふふふ、上手くいくことを願ってます」


「上手くいくよ。なんだってこのお店はアスティアの考えた『ウサギ屋』なんだからさ」





 冒険者の街【スタイダスト】は決して犯罪が起きない場所ではない。常日頃から強盗や窃盗、殺人、禁止されている人身売買などなど、目には見えていない犯罪が日々どこかで起こっている。特に南の地区は冒険者の成れの果て、カラーギャング、奴隷商人などが溜まり、かなり危険な場所とされている。他の区に比べて土地の大きさはかなり小さい。


 南の地区は騎士団が防衛線をはっており、門が設置されている。怪しいと判断された人間は南区と中央区の行き来を許されない。だが、時々南の地区から騎士団の目を盗み、中央区へやってくる盗賊団がいるのだ。


 近頃また、盗賊団が中央区と北区に現われ、盗みを働いているとギルドの掲示板に貼られている。


「おいおい、【ディアボロ盗賊団】が北東区の貴族宅からおよそ50万ゴールド分の宝石を盗み出したって本当かよ?」


「噂じゃ一昨日は北区の連中がやられたらしいぞ?」


「騎士団は何をやっているんだか。クエストの発注は来ていないのか?」


「んー、まだ来ていないようだな。騎士団が貴族達におかしなことを入れ知恵したか?」


「可能性はあるな…………」


 巷で噂のディアボロ盗賊団――貴族や一般庶民関係なくゴールドや宝石、はたまた壷や食べ物まで、お金になるものは何でも盗って行く迷惑な奴らだ。犯行現場には【悪魔の翼】が描かれた紙を残していく。そこからこの名前がつけられた。


 騎士団の調べで最低でも3人以上の犯行で、現在もスタイダストのどこかに潜んでいるとの情報だ。道具屋や武器屋もすでに被害にあっていて、住民達からの非難の声は大きい。冒険者達も独自に探しているようだが、一向に手がかりはない。


「ところで、あのミヤトの奴が商売を始めるようだ」


「へえ、あのミヤトがねえ。冒険者を引退したと思ったら今度は商売人か。アイツもアイツですごいじゃないか」


「惜しい男だよな。ダンジョンで致命傷を負ったのは同情する」


 宮兎が冒険者をやめる理由として『怪我』を選んだのだが、これまた噂が勝手に一人歩きで大事となっている。本人としてはそれはそれで好都合と深くは考えていない様子。


「そんで、どんな店なんだ?」


「これだよ、これ」


「ん?」


【ディアブロ盗賊団】の指名手配所の横に小さな張り紙があることに冒険者は気がつく。そこには丁寧な文字で『全品100ゴールド! 近日中にオープン! 100ゴールドショップ ウサギ屋』と可愛い黒ウサギのイラストつきで描かれていた。


 この張り紙はアスティアが一枚一枚丁寧に書いたもので、スタイダストのいたるところに貼ってある。宮兎はそのことは知らず、娯楽に飢えているスタイダストの住人にどれほどの影響力を与えているのか、知るはずもなかった。

と言うわけで今回から新しい章ですね。


いやー、かけましたね。毎日更新できてますね、良かった良かった。

んでんで、なんと昨日は950人超えのアクセス数でした。やったね!

一日1000人アクセスまでもう少し。感謝感激ですね。


着々と伸びているのですが、評価もほしいなーって(チラッチラ

ブックマークも、感想もー(露骨


はい、ごめんなさい。欲が出るとよろしくないですね。

そんじゃ明日もがんばってかくからー!

Φ(・N・)ゝ

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