66話 王都、考察する
お久しぶりです。
リビングへと通されたミヤト達。アスティアとハーミィは食事の用意をするとのことでキッチンへ姿を消した。レイン・ゴースト達も他の家事を手伝うらしく、この場にはミヤトとヴァランの二人だけだ。
向き合うようにして椅子に座り、初めにヴァランが口を開く。
「さてと――何から話せばいいかな。俺が知っていることは、『赤い影』を見つけ出し、グリムを討伐させること」
「で、その赤い影をまず見つけるために俺を呼び出した……」
「まさか本人だとは王宮の人間も思わないだろうさ。ま、厄介なことに変わりはない」
ヴァランが言うには、ミヤトを王都へ呼び出した大きな理由はやはり『赤い影』を見つけ出すこと。
現在、ヴァルハラで最強と言われているレベルカンスト者を全て集め、脱獄したグリムを暗殺することが最終的な目的である。
「ヴァランさん、グリムという男はそれほどまでに危険なんですか?」
「ああ、そりゃもちろん。彼はなんたって人殺しでレベルを上げた大馬鹿野郎だからな」
「確かにそうですが……そもそも殺人鬼の職業なんてものがあっていいのですか?」
「よくはないが、神が与えた恵だ。我々人間がどうのこうの言える立場ではない」
「ロスト・ジョブ……これにすら認定されていないとなると、神ってのはよっぽど気まぐれ者なんですかね」
ミヤトの言葉はまさに神への冒涜である。
もし神様が本当にいるとして、ミヤトが異世界へ落ちたのも気まぐれだったとしたら――考えるだけで彼は呆れた。
「そういうな。神の恵みがあってこそ、冒険者は魔物と戦える術を身につけた。ミヤトくん、君も例外ではない。むしろ、他人よりも多く恵んでもらった身だ」
「…………はい」
ヴァランは少々納得のいかないような顔をするミヤトを見て少し微笑むと、「ところで」と話を変える。
「お店の方はどうなんだい? 噂はこっちにまで届いているよ」
「怖いくらい順調だったんですけど……まあ色々あってちょっと壁にぶち当たってます。でもまあ、楽しくやってますよ」
「ならよかった。君に商人の才能があるなんて思わなかったから、最初アスティアの手紙を読んだときびっくりしたよ」
「すみません。勝手にあの建物改築しちゃって」
「大丈夫さ。あの土地はミヤトくんにあげたんだ。君がどう使おうと俺が文句を言う資格はないからね」
ヴァランは歯を見せて笑うと、ミヤトも表情が柔らかくなり、自然と頬が緩んだ。
「話を戻そうか。グリムのことだが――まだこの王都のどこかにいるのは間違いない」
「どうしてですか?」
「彼の目的は『猛者の殺人』だからさ。今、君を含めレベルカンスト者がすべて王都に揃った。姫やヴァビロン氏はとにかく、勇者イーリアまでもが態々招集されているからな。もし、赤い影までもを集めていると彼の耳に入れば――」
「王都を出る理由はどこにもないってことですね」
「その通り。実はね、俺も少し昔にグリムに襲われたことがあった。あの時はまだレベルは低く、差はそれなりにあったが――彼は怯まず、臆せず、恐れず、俺を殺すことだけを考えていた」
ヴァランは思い出す――数年前、王都に仕事で寄った時、偶然にもグリムに襲われた時のことを。
彼の目は、まっすぐ『死』を見ていた。手に持ったナイフで首元を斬ることだけを考え、行動していた。
追い返すことが出来たものの、もし今襲われるようなことがあればどうなるか分からない。
「……それってヴァランさんが今でも襲われる危険性があるんじゃ」
「心配ないさ。俺はもう、グリムより強くない。彼は常に自分と同等か、それ以上の人間しか殺さない。証拠にカンストしてから、一度も殺人を起こしてないからさ」
「なるほど……。だから余計に俺達にこだわる」
「気をつけた方がいいのは君だ、ミヤトくん。もしグリムに君の正体がバレれば、地の果てまでも追ってくるだろう。だから何としてもグリムをどうにかしなくちゃいけない」
だが、ミヤトには迷いがあった。
グリムをどうやって探すかだが――それは後で考えるとして、引っかかるのは『脱獄』したときにいるはずの『協力者』だ。
今のところ、態々王都まで来たのでグリムの件に手を貸すことは確定してる。
だが、他のレベルカンスト者、あるいは王宮の人間を信じてよいか迷っている。
というのも、ここ数年間沈黙してたグリムが急に脱獄したことが不自然としか思えないからだ。
協力者が必ずいるとミヤトは睨んでいる。もしそれがレベルカンスト者の誰か――だったとした場合、とても面倒なことになるからだ。
「ヴァランさん、そもそも他のカンスト者達が三人でグリム捕まえられないはずはない。囲んでしめば、流石の奴もどうしもないはずなんです」
「俺もそれは考えた。とすると――裏切者がいることになる」
「はい。誰かがグリムを逃がした後、嘘の情報を流し込んでグリム捜索を邪魔をしているとしか考えられない。姫騎士、大魔法使い、そして勇者が王都からたった一人の人間を見つけだすのに苦労するはずがない」
彼らには特徴的な探索スキルが備わっている。
それもこれも人探しにはうってつけのスキルなのだが、それを使ってグリムを見つけ出せないとすると――少々厄介なことになるのだ。
「もし本当に裏切者がいたとして、グリムに手を貸す奴なんていますかね?」
「正直、三人がグリムに手を貸すとは考えにくい。姫様は言わずもこの国を将来守る存在となる。彼女がグリムを逃がすとは思えない。そして大魔法使いヴァビロン氏は人には興味がない。スキルや魔法なら分かるが、グリムを逃がしたところでなんの得にもならない。勇者イーリアはそもそもグリムを捉えた張本人。逃がす理由が本当にない」
「…………だからこそ面倒なんですよ」
グリムを逃がす芸ができるのは正直なところレベルカンスト者以外はあり得ないとされている。
「なんといっても、他の三人は何かしら面識がある。だが――赤い影にはない。グリムとの一番縁がないのも赤い影だが――だからこそ疑われやすい」
「確かに、グリムと赤い影の関係性は証明できないが、できないからこそ怪しまれる……」
「はい。だから――赤い影を見つけ出すという目的は、もしかするとグリム脱獄の共犯として疑われているんじゃ……」
「決めつけるのは早い。早いが、なくはない話だ。犯人が分からなければ――作り上げることもできる。そのちょうどいい存在として『赤い影』か……」
ミヤトが考えたシナリオは最悪なものである。
もし、裏切者が分からなかったとして真っ先に疑われるのは謎多き『赤い影』。
身を潔白するんはグリムの討伐、もしくは捕獲に協力しなければならない。
だが、だからといって裏切者として疑われないはずもない。何故なら信頼されていなからだ。
「困ったことになりましたね」
ミヤトは疲れ切った顔で机に伏せる。
こんなことなら大人しくスタイダストに残って無視しておけばよかったと少しだけ後悔した。
グリムを捕まえても、疑われる。
捕まえなければもっと疑われる。
「裏切者がいるかどうか――王がそれを分かっているかが問題だな」
「そりゃ分かっていると思いますよ。レベルカンスト者じゃなきゃグリムの脱走は手伝えない。アイツが指示に従うってのはそれだけの力を持った大馬鹿野郎ってことなんですよ」
「――もう一つ最悪のパターンがある」
「もう一つ?」
ミヤトは首を傾げ、これ以上最悪なことがあってたまるかとも思ったが、瞬時に思いつかない。
ヴァランは真剣な眼差しでミヤトを見つめ――言葉を発する。
「グリムが――さらなるレベルアップに成功した場合だ」
「さらなる、レベルアップ?」
「これも『もしも』の場合なんだが、レベル500で脱獄できないなら――それを超えればいい話だとは思わないか?」
「んな無茶な。昇華の儀もせずに上限を超えるなんて。そもそもレベルは500でカンストですよ? 501レベルなんて聞いたこと――」
聞いたこと――あるのだ。
むしろレベル520という化物と戦ったことは記憶に新しい。
「魔物――人が人でなくなった場合、上限は無くなり――レベルの枠を超える」
「いやそんな馬鹿な! 人間が魔物になる話なんて!」
「ない訳じゃないんだ。もとより魔物の元は『人間』だという話は古文書にも載っている。何かしらの突然変異で人が魔物になりうる――特にグリムはあの閉鎖空間にいた。よどんだ魔力に包まれた場所に長時間人がいて生きていたケースはない。だが、彼は生きてる」
「確かに――最悪なパターンですね」
突然変異――デーモンズ・オーガ、もしくは『黄金の欠片』関係。
グリムが人ならざる者になったと――裏切者もそれなら必要ない。
「やめましょう。この話、ご飯食べたら王宮へ行くんですから答えはすぐに分かりますよ」
「だな。さーって久々に娘の手料理だ。いい匂いがしてきたぞ」
「本当ですね。いい匂いだ」
ミヤトはざわめく心をなんとか落ち着かせようと、今はアスティアとハーミィの料理のことだけを考えることにした――。
久しぶりです。
四か月ぶりですね。
色々書いたりしていました。僕は元気です。
さて、実は二年ぶりぐらいに『ネット小説大賞』(旧なろうコン)に参加させてただこうかと考えております。
いくつかの作品をカクヨムへ移動したりしていましたので、また新しいの書きました。ごめんなさい。
こちらの作品で応募してます。
五万文字程度で完結予定ですので、半分しあがっています。
ぜひ読んでいただきたいなと思いました。ダークファンタジー系です。結構真面目に書いてます。
『クロサビの旅人』
http://ncode.syosetu.com/n1347dp/
短編恋愛(?)小説も書きました。
連載予定でしたがよくわからなかったので短編にしました。
こちらもどうぞ。
『悪魔と呼ばれた男に恋した少女』
http://ncode.syosetu.com/n6544dp/
ではでは。
あ、ようやう次回グリムくん出ます。
早めに投稿したいと思ってます。頑張ります。