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62話 王都、旅路にて

二週間以上お待たせしてごめんなさ…。

色々と忙しくなってしまい……。

 二日ほどの着替えと、必要になるかもしれない道具をリュックへ詰め込み、宮兎はレイン・ゴーストと共にウサギ屋を出た。

 鍵を閉めて扉に「しばらくお休みします」と貼り紙をする。

 流石に日本語ではなく、クロに書かせたのでヴァルハラ文字だ。

 宮兎は読めないが、クロが大丈夫だというのなら大丈夫だろうと任せているらし。


「さて、そんじゃ町の外へ行きますか」


 レイン・ゴースト達は嬉しそうに頷く。

 スタイダストを出るのは海に行った時と合わせて二回目。

 どのような景色が外の世界に広がっているのか楽しみなのだろう。

 遠足当日の小学生のようにやけに今日はレイン・ゴースト達の落ち着きがない。


「楽しみなのもわかるが一応危険なこともあるかもしれない。絶対に俺の言うことには従ってくれよ?」


 横に並んでゴースト達は敬礼をする。

 満足そうに宮兎が「よし」と言うと、背後――教会側の道から声が聞こえる。

 聞きなれた少女の声――アスティアだ。


「おはようございます、宮兎。予定より少し早いですね」


 振り向くといつものシスター服に、これまた巨大なリュックを背負っていた。


「ああ、おはようアスティア。それにしても大きいリュック……」

「えへへへ、この間は何も考えずに飛び出してしまいましたが、今回は長期のお泊りになると思ったのできちんと用意してきました」

「長期って二日ほどだろ? 俺はあんまり着替えとか持ってきてないけど」

「二日間で例の人を捕まえることができるんですか?」

「あーいやーうんー……」

「相手は同じレベル500。それでも向こうは戦闘のプロ。ミヤトはアシスト職の錬金術師と暗殺者。時間がかかるのは理由を知らない誰が見ても明白です」


 痛いところを突かれたと思った。

 宮兎の強さの秘密は『探求心』である。人間とは不思議なもので夢中になったら時間を忘れて一つの物事に集中できる。彼がチートアイテムの力を一時期借りていたとはいえ、継続的にレベルアップできたのは戦うこと――冒険への集中力がほとんどを占めている。

 だがそれは人と戦うことではなくあくまでモンスターであり、ゲーム感覚で行っていた。

 今回の相手は人間だ――宮兎本人もその部分が少しひっかかている様にも見える。


「俺一人でやるわけじゃないだろ? 他のレベルカンウト者も手伝ってくれる……はず」

「手紙の情報が少なすぎてなんとも言えませんね。まあ、行ってみれば分かることですし」

「戦う……ってことは想定して赤い砂糖(レッドシュガー)シリーズは持ってきているけどさ、できれば戦闘方面は他のやつらに任せたい。正体がバレたら流石に逃げきる自信がない……」

「私とレジニーさんも、それにレイン・ゴースト達もついて行くのですから心配はありません。フォローは大船に乗ったつもりで安心してください」


 アスティアがやけに機嫌が良いというか、調子が良いというか、嬉しそうというか、宮兎とレイン・ゴーストは彼女がいつもより浮かれていることはすぐに理解できた。

 理由は単純明快で、宮兎との旅行を楽しもうとしているのだ。宮兎と一緒にスタイダストを離れての旅行は海以来だろう。

 昨日まではそこまで深く考えていなかったが、よくよく考えればこれは彼女にとってチャンスではなかろうかと結論に至った。

 レジニーの存在が少々ネックではあるが、そこは目を瞑らなければならないだろう。

 これもまた先日、レジニーの思惑を耳にしている。宮兎との時間を邪魔するようなことはしないだろうが、何かしらのアクションはしてくるだろう。

 それをなんとか阻止しなければならない。


「ミヤトとの時間を邪魔されないためにも、お母さんの協力は不可欠……」

「おーい、何ぶつぶつ言ってるんだ? 置いていくぞー」

「っは! いつの間に!」


 作戦を立てている間に宮兎は歩き出していた。

 何度も声をかけていたがそれでも反応を見せなかったのでちょっと離れて様子を見ていた宮兎。

 案の定、少し大きな声で叫びやっと気づいてもらった。

 大きなリュックを上下させながら近づいてくるアスティアに宮兎は不安を感じる。


「なんだか危なっかしいな……大丈夫か?」

「問題ないです!」

「本当かあ?」

「本当です!」

「そこまで言うなら。んじゃほら、出発するぞ」


 疑いながらも、二人は歩み始める。

 目的地はスタイダスト北門だ。そこにある転移クリスタルで王都まで飛ぶことが可能だ。

 すでにレジニーは昨夜に出発しているようでアスティアが伝言を受け取っていた。


 スタイダストは普段とは比べ物にならないほど静である。

 それもそのはずで、現在の時刻は朝の五時。いくつかの商店などは準備を始めているが騒音の元になっている冒険者たちはまだ熟睡中だろう。

 彼らが起きるのは早くても九時をまわったころだ。

 遅い者だと昼を過ぎてから行動を開始する。冒険者らしいといえば自由でらしいのだが、だらしないと言われても仕方がない。


 そんな静寂の町を歩く二人と三匹の魔物。

 いつもと同じはずの町がどこか別の場所のように感じる――のはレイン・ゴーストとアスティアだけで、宮兎は何か気になることがあるのか難しい表情をしている。


「ミヤト、やっぱり王都へ行くのは不安ですか?」

「ん? ああいいや、そうじゃなくてほかのレベルカンスト者が気になって」

「他の?」


 アスティアは現在のレベルカンスト者の名前は知っているものの、その詳細は知らなかった。有名な噂話や武勇伝などはよく耳にするが具体的な人物像まではほとんど想像の範囲でしかない。


「俺も実際にあったことがあるのは誰一人としていない。だけど、俺と違ってあいつらは戦闘の前衛を堂々とできる職業ばかり。たった一人に手こずる要素がどこにも見当たらないんだ」

「言われると、みんなで囲ってしまえば捕まえれそうな気もしますが」

「多分――根本的に見つけられないってのが有力だな。アウトローの職業はアサシンと同じで隠密に長けてるし」


 アウトローの職業は通常では習得できない職業だ。

 冒険者マニアとまではいかないが、憧れているアスティアにとってこういう珍しい話は大好物である。

 目を輝かせて――アスティアは質問を投げた。


「ミヤト、良ければ私にレベルカンスト者のことを教えてくれませんか?」

「教えるっても、そんに大した情報は持っていないけど」

「私は何もないですから、0と1では大違いですよ。なんでもいいので! さあ!」

「昔から本当に好きだな……」


 やれやれといった感じで宮兎は記憶を掘り起こす。

 どれもこれもギルドや町の人々から聞いた話だ。

 確実と言えるだけの情報に絞り込み、自然と口が開いて説明を宮兎はアスティアへ伝える。


「まずは問題となってるグリムって男だな」

「私も名前だけは前々から知っていましたが、昨日職業を聞いてびっくりしました」

「グリム・レイジヴァントはレベルがカンストしてからすぐに王宮の監獄へ送られた。殺人鬼と無法者の職業は異様で異常で――特殊な環境で生まれた人間のみが獲得できるジョブだ。噂じゃ『悪人』や『強い奴』だけを狙って行動していたらしい」

「無差別ではなかったと?」

「ああ、確か捕まった時も王都で行われていた武道大会に乱入していたとか。その時、レベルカンスト者の『イーリア・グランジェ』が取り押さえたって噂だ」


 もう一人の名前を聞いてアスティアはさらに目を輝かせた。

 なぜならイーリアの名前は冒険者に憧れる少女たちの希望であり、目標でもあるからだ。


「イーリアさんは知ってます! 職業『勇者(ヒーロー)』の現最強と言われる冒険者ですよね!」

「まあ……間違いではないな。そもそもグリムもイーリア・グランジェと試合ができると思い乱入した――と本人は言ったらしいぞ?」

「流石イーリアさんです! ああ、勇者かあ…………憧れるなあ」


 勇者の職業は『血』でしか受け継がれない。

 アルムント家とは違い、グラッシュ家は『勇者』家系としてヴァルハラで名を轟かせている。

 数百年前に魔王を撃ち滅ぼした人物――勇者。勇者伝説を知らないものは――三年前までは赤子と異世界からの住人だけだった。

 今では宮兎も勇者伝説を知り、その武勇伝に身を震わせた。

遅くなり申し訳ございません。

さて、ちょっと中途半端ですが、次回は残りの二人とイーリアについて補足吸うところから始まります。


余談ですが、息抜きにコメディ短編投稿しました。

こちらもぜひお読みください。


『右手にあんぱん、左手にメロンパン、ついでに鼻から牛乳を出す勇者』

http://ncode.syosetu.com/n8512dd/

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