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55話 女子会、集まる

お待たせです。

女子会編は3000文字ほどで、五部か六部編成で短めです。

 アスティアとセルフィが王都から何事も無かったかのように帰ってきたから3日後――事件が起こった。


「私、好きな人ができちゃったかもしれません……」


 ことの発端はナノがさらっと発言したことだ。ナノが『昇華の儀』をリーリフィル教会で行った時だった。その場にいたのはアスティアとティナ、そしてセルフィ。そもそも何故、この教会でナノの儀式を行うことになったのか――まずはそこから語ろう。


 ナノが普段利用している教会はスタイダストの真西にある『レイヴォルト教会』だ。そのレイヴォルト教会が数日前から老朽化による改装工事を始めたのだ。しばらくの間、他の教会で『昇華の儀』を行うようにと言われていたらしい。


 人見知りのナノが見ず知らずの教会へ行くことは不可能に近い。せっかくレジニーとの修行でレベル180まで達成し、昇華の儀を行うことができるようになった。儀式を行わなければレベルは上がらない。無駄な時間を過ごしたくないため、態々ティナに相談した所、アスティアのリーリフィル教会を紹介したのだった。ティナはそのまま付き添い、セルフィは今日とてアスティアのお手伝いだったのだ。


 無事に儀式を終え、再びレベル1となったナノが教会のど真ん中で『あんな』発言を突然したのだから、3人は驚いてすぐには言葉が出てこなかった。


「と、突然どうしたのですかナノ?」


 ティナがよそよそしく話しかける。普段のナノがこのような発言をするとは思えない。


「先輩……私、レジニー先生の指導でレベルも180になり、次はとうとう200を目指せるようになりました。ですが、やはり私の実力だと半年以上かかると思います。でも、強くなっていることは確かなんです」

「わたくしも精華のレジニーに弟子入りしたと聞いたとき驚きましたわ。ナノが強くなっていることは百も承知です」

「ありがとうございます。その……ですから……強くなった私を……好きな人に認めてもらいたくて……」


 声が段々と小さくなるナノに対して、3人は顔を見合わせてパチクリと瞬きをする。


「ナノさん、お相手が誰か分からないと私達も協力できません。一体、誰なのですか?」

「そ、それは…………」

「まあまあ、アスティア。焦ること無いんじゃない? 恋バナはゆっくりと静かな場所で話したい物よ。ね? ナノちゃん?」


 セルフィは笑いながらナノの肩を抱き、引き寄せる。豊満な胸にナノの顔が半分埋まると、彼女は恥ずかしそうに頷く。今度はアスティアとセルフィが顔を見合わせた。


 確かに――恋バナというものはやったことが無い。そもそもやる相手が今までいなかったとも言える。ここ数ヶ月でお互いの信頼度も上がり、気兼ねなく話せるまでの仲にまでなった。お互いの好きな人について話す――二人は同じ人物を想像して、口元がニヤケた。


「わ、悪くないわね。それならわたくしのお屋敷はどうかしら? ゆっくりとした客室なら、お話も進むでしょう?」

「お、ティナ分かってる! そうね……お泊り会もしたいわね。女子数人で朝まで恋バナ……。ああ、なんて素敵な響き!」


 セルフィが目をキラキラさせ、まるで神に祈るように両手を絡ませる。一方のティナは家には招待したものの、お泊り会となれば話が変わってくる。家にはメイドと父――ガラドンドしかいない。別に問題が起こらなければ友人を泊めても大丈夫だろう……と、結論をここですぐに出した。


「分かりましたわ。お父様にはわたくしから伝えておきます。今晩、我が家で夜を一緒に過ごしましょう」

「よろしいのですか? 突然お泊りなんて」


 アスティアは宮兎の家以外で、お泊りをするのは初めてだ。口では遠慮している物の、心の中ではものすごくはしゃいでいる。ワクワクして、ドキドキが止まらないようだ。ナノも勝手に話は進んでいく中で、友達とお泊りは初めてだ。自然と笑顔が出てくる。


「問題ありませんわ。ナノも大丈夫かしら? 一応、家にはわたくし達の他にメイドと執事、お父様もいらっしゃるけど」

「だ、大丈夫です! 先輩のお家に泊めていただけるだけでも光栄です!」


 よくよく考えれば、スタイダストで一、二を争うほどの豪邸がアルムント家の屋敷である。ちなみに競っている屋敷というのはスタイダストの領主邸なのが恐ろしい所。


「他に誰か呼びますか? わたくし、少しウキウキしておりますの」

「あら珍しいじゃない。ティナって赤い影と――うん、それ以外のことは何も楽しめないと思ってた」

「失礼ですわね。わたくし、これでも趣味は多い方でしてよ」


 ティナの多趣味とは――乗馬から始まり、音楽、釣り、剣術、芸術、読書、はたまたファッションなどなど、彼女は常日頃から人生を謳歌している。スパイスに赤い影を加えてしまえば、もっと楽しめるらしいのだが。


「ツバキさんを呼びましょう。セルフィから声をかけてくれませんか?」


 アスティアの提案にセルフィは頷く。将来義妹になるツバキ――彼女の恋愛事情も把握しておきたいと、セルフィが断る理由は見当たらない。


「そもそも、この女子会は恋バナが主体だからね? 皆ちゃんと話さなきゃダメよ?」


 と、セルフィが念を押す。

 すると、どうだろうか。アスティアとティナの表情がみるみる変わってゆく。考えてもみれば、自分の想い人を告げなければならないのだ。アスティアはティナが宮兎に好意を寄せていることは気づいているが、それははっきりとしたことではない。また、ティナは今まで誰にも言わず隠し通してきた秘密を暴露しなければならない。


 アスティアはティナの気持ちを知っておきながら語るべきなのか、ティナは秘密をばらすべきなのか――頭を抱え込んで悩み始める。


「ふ、二人とも大丈夫ですか?」

「気にしない気にしない。ちょっと人生の分かれ道に悩んでいるだけよ」

「……それってとても大事なことだと私は思うのですが」


 心配するナノと、笑いながら流すセルフィ。実際、ナノも話が進んでいるが、どのように想い人のことを相談するのか、この瞬間から考え始めていた。一番余裕があるのは、周囲が認めるお似合いカップルのセルフィだけだろう。


 もっとも、セルフィもキキョウのことで話したいことが少しばかりあった。自分がシスターであるゆえに、彼との時間を大切にできていないこと。セルフィはセルフィなりに思うところがあるのだ。


 そして――自分の過去を伝えるべきなのか。


「セルフィさん?」

「……あ、ごめんごめん。ちょっとぼーっとしていただけ」


 この時四人は考えていなかっただろう。

 教会の窓から覗き込む一つの影――怪しい人物は口元を不気味に歪め、声を殺して笑った。


「女子会……ね。ふふふ、面白そうね」


 魔女は――笑う。


 こうして――女「死」会が始まる……のだった。

あ、ひっそりキャラデザ第二弾を活動報告に載せています。

今回はティナと赤い影です!


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