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100ゴールドショップ『ウサギ屋』  作者: 中庭 豊
続・新商品開発部編
57/69

54話 続・商品開発部、男だらけの円卓会議

この章も終わりですね。

 ウサギ屋は本日定休日――宮兎は新商品開発のため複数の人間をリビングに招きいれていた。机をぐるりと囲む五人の人物はそれぞれ互いの顔を見ることも無く、机の中央に集められた大量の材料を目にして固まっていた。


「では――」


 第一声を放ったのは、ここの家主でもある宮兎だ。


「コレより、ドキドキ新商品開発会議をはじめ――」

「ちょっと待ってください!」

「……………なんだよ、サマエト」


 机を両手で叩いて、宮兎の正面に座っていたサマエトが立ち上がった。今日も重そうなローブを身にまとい、優男の雰囲気を醸し出している。彼の表情は何時にも無く真剣で、ふざけている様子は無い。


「師匠! 質問があります!」

「師匠じゃねえよ。それに質問だと?」

「はい。どうして――どうして、ここには男しかいないんですか!?」


 サマエトの悲痛な叫びに頷くのは、彼の隣に座るデスカントだけだ。彼もまた、ホーリーナイト特有のゴツイ鎧を装備している。それよりも――そんなことよりも、サマエトの訴えだ。


「ティルブナ嬢は!? アスティアさんは? ナノちゃんは!? セルフィさんは!? 精華のレジニー様は!? ツバキちゃんも!? リャーミャちゃんも!?」

「ちょっと、落ち着けサマエト…………」


 宮兎が溜息混じりに落ち着かせようとする。サマエトの主張どおり、この場には男しか存在していない。宮兎から時計回りに、キキョウ、ジェルズ、サマエト、デスカント――男だらけの商品開発会議となっていた。


「セルフィなら、アスティアちゃんと一緒に王都へ行っている。帰ってくる予定は今日の夜だがな」


 キキョウが興味無さそうに答える。サマエトは心底悔しそうに顔を下に向けた。


「ナノちゃんとレジニーは修行中だろ……。今日はどっかのダンジョンに行くって言ってたし。リャーミャちゃんは店の手伝いだろ? ティナは『外せない用事がある』とかないとか」

「ちなみにツバキは店番だ」


 淡々と答える宮兎とキキョウに、サマエトはとうとう力なく座り込む。うつ伏せになって、泣いているのか泣いていないのか――兎にも角にも、残念そうなのは間違いない。


「ガハハハ! 落ち込むことはないぞ、若造! 男同士の会話というのも楽しい物だ!」


 ジェルズが豪快に笑って、サマエトの背中を叩く。別にそう言うことではなくて、ただサマエトはむさくるしい空間よりも、花で満たされた綺麗な場所にいたいだけでもある――ただの女好きだ。


「しかし、ミヤトさん。何で俺達を?」


 デスカントの質問は、集められたメンバー全員が思うところがある。彼の発明してきた(実際は、現代の商品を復元しているだけなのだが)商品に勝る物を思いつく自信がないのだ。それでも尚、彼が自分達を呼んだ理由――ソレを知りたい。


「ぶっちゃけると、ネタがきれた」

「ネタ――つまり、師匠のアイディアが尽きたと言う事ですね?」

「師匠言うな…………。んまあ、そう言うことだ。本当ならアスティアに絵を描いてもらって、新しいキーホルダーを作ろうとしたんだが、生憎王都へ出かけてるし、このメンバーさと何かしらおもし――画期的な商品が生まれると俺は考えた!」

「ミヤ坊、絶対面白いって言ったぞ」


 それはさておき――あらかじめ用意しておいたスケッチブックとペンをそれぞれに配り終えると、宮兎はホワイトボードに必要事項を書いていく。


「まず、条件は食べ物じゃないということ。ウサギ屋では食品は扱わないから気をつけてくれ。二つ目はイラストも描いてくれると有難い。錬成する時にイメージが沸きやすくて、成功する確率が高い。最後は生活用品ということ。冒険者向きじゃなくて、一般人向けの商品が好ましい。これらをふまえて今から30分で考えてくれ」


 こうして、会議が始める。





 30分は長いようで短い時間だろう。長いと思うのか、短いと思うのか人それぞれの考え方があると思うが、今回のように何かお題があって、『考える』場合は短く感じる場合が多いだろう。宮兎もぼーっとしている30分と、集中している30分の体感時間は大きく変わっていた。


「よっしゃ、30分経過」

「ええぇ。師匠、早すぎますよ」

「師匠じゃない。てか、皆集中して誰もしゃべらないからびっくりしてたよ」


 もっとワイワイしながら考えるかと思っていたが、誰も言葉を話さず黙々と作業に勤しんでいた。


「それじゃあ、順番に発表してもらおうかな」

「年長として、ワシがトップバッターになろう」

「お、ジェルズさん。自信ありますね」

「もちろん。ワシの考えた新商品はコレじゃ!」


 スケッチブックを裏返して見せた。そこには、瓶とクスリのようなものが描かれている。


「サプリメント亜鉛―改―!」

「アウトおおおォォォ!!」


 どうやら先日のサプリメントを未だに強請っているようだ。


「おっさん忘れるの早すぎ! 口に入れるものはダメって最初に言っただろ!?」

「前に作った実績があるじゃないか。ワシは問題ないと思う」

「ただ自分が欲しいだけだろ!」

「アレを飲むと現役時代を思い出してのう」

「五十代熟年夫婦の夜の営みを自慢げに二時間聞かされた俺の身にもなれよ!」

「師匠! それはどういうことですか!?」

「ミヤトさん、そのへん詳しく教えてください!」

「てめえ等は引っ込んでろ!!」


 身を乗り出してまで食いつきの良いサマエトとデスカントを無理やり座らせて、宮兎はジェルズの案に「ボツ」と大きな赤い字で書いた。ジェルズは「亜鉛がダメなら……」となにやらブツブツ呟いて、次の案を考え始めた。考えているのは絶対にサプリメントだ――宮兎は冷ややかな目でジェルズを見て、溜息を吐く。


「サプリメントの皮を被った媚薬なんぞ、二度と作るか……次、次の案だ!」

「っふ、なら俺が行きましょう」


 今度はデスカントが手を上げた。自信はたっぷりあるようだ。スケッチブックを全員に見えるように見せて、説明を開始する。描かれているのは、どうやら双眼鏡のようだ。


「俺は折りたたみ式双眼鏡を発案する」

「おお、まともな意見だ」


 宮兎が前の世界でバイトをしていた100円ショップでも、双眼鏡は売っていた。手の平サイズで、レンズ以外は厚紙で作られている。折りたたみが可能となっており、持ち運びにも便利で、スポーツ観戦やバードウォッチング、演劇、その他諸々使う場面はある。この世界でも闘技場の観戦や、モンスターの生態調査に使われることが多い。


「しかもコレはただの双眼鏡じゃないですぜ」

「他にも機能がついているのか?」

「もちろん! この双眼鏡、ボタンを押せば障害物を透視できる――」

「チェェェストオオオオォォォ!」


 宮兎はデスカントに目潰しをした。


「目がアアアあああぁぁぁ!?」

「デスカント! お前あの悲劇を忘れたのか!?」


 悲劇――透視――レンズ――メガネ――風呂――女湯――裸――忘れもしないあの大事件だ。


「お前らの罪を全部被って、裸を見てしまった女の子の家に態々菓子折り持って土下座しに周った俺へ冒涜か!? ええ!?」

「ち、違うんですミヤトさん! 男は何時だって神秘に触れたい気持ちは持っているはず! その探究心を抑えることが、男としての生き方で間違っているのではないのでしょうか!?」

「間違いだアホォォォ!」


 もう一度目潰しをした。


 両手で目を押さえ、床を転げまわるデスカントを完全に無視をして椅子に座る。

 宮兎の表情からは疲れが伺える。さっきから叫んだり立ち会ったり、目潰ししたり、何かと忙しい。


「はあはあ……まともなヤツはいないのか……」

「では、次に僕が」


 今度はサマエトのようだ。多分、このメンツの中で一番のむっつりスケベ野郎で間違いない。覗きの件もそうだったが、海での女性陣の水着を見る目は本当に血走っていた。イケメンなので尚更見苦しい。


「………………」

「師匠、目が怖いです」

「師匠って言うなって。それよりも本当に大丈夫か? お前が正直一番危険度が高いと思うんだが……」

「心配は無用です。これは、日用品であり、変わった機能もついていません」

「本当だな? 信頼して大丈夫なんだな?」

「任せてください。僕が師匠の期待を裏切るようなことはしません」


 ここまで言わせておいて、宮兎は信頼していない。しかし、態々考えてくれた物でもある。無視するのは可哀想だと、「見せてくれ」と宮兎が言った。


「はい。僕が考えたのは『女性用下着』です」

「サマエト、有罪。よって死刑」

「何故ですか!?」


 スケッチブックには、様々な色やデザインの女性用下着が描かれている。むしろここまでデザインできたことに感心してしまう。


「待ってください師匠! 僕の言葉を聞いてください!」

「いいや聞かない。絶対に聞かない」

「現実から目を逸らさないでください! 僕の言っていることは正しいんです! これは『ウサギ屋』に前々から疑問に感じていたことなんです!」


 あまりにも必死すぎて、うろたえる。

 黙った宮兎を見て、サマエトは静かに口を開く。


「僕は前々から何故ウサギ屋には男性用下着が置いてあって、女性用下着が無いのかふま――疑問でした」

「…………………」


 絶対に『不満』と言いかけて、疑問と言い直した。


「不公平ではありませんか? 冒険者には女性も数多くいるのですよ? 冒険の途中で着替えは必要です。僕も海に潜ったり、泥だらけになることはよくあることです。何時もウサギ屋の男性用下着にはお世話になっています。もちろん僕に限った話ではなく、多くの男性冒険者がここの下着を買っている事でしょう」


 そうなのだ。ウサギ屋で良く売れるものベスト10に『男性用下着』がランクインしている。それはやはり、冒険をする中でどうしても着替えたい瞬間がでてくる。水に濡れたり、泥だらけになったり、モンスターの血で服を汚したり、汗をかいて気持ち悪くなったり。その時に必要となってくる着替え。


 ウサギ屋で販売している男性用下着は二枚セットで上下共に100ゴールドのお買い得品。肌触りなどは経費削減のためさほど良くないが、気にすることでもない。


「ですが、女性の冒険者はどうでしょう? 彼女たちも性別は違えど苦労は同じ冒険者! 下着を着替えたい気持ちも同じのはず! 僕がデザインした下着を着てもらうことによって、彼女達が日ごろ冒険で感じていたストレスが軽減されると思えば、これはマイナスな話題ではなくプラスの話題! 決して下心などではありません!」

「分かった。とりあえず鼻血は拭こうな?」

「おっと、失礼しました」


 熱い演説の途中から、鼻血がポタポタと流れていたサマエト。言葉では下心など無いと言い切ったが、内心はどうなのかと疑う。


「………女性用下着に関しては、追々考えておく」

「本当ですか! その時はデザインに僕を呼んでください!」

「絶対によばねえ」

「サマエトだけずるいですよ! ミヤトさん、『透けて見える双眼鏡』も開発しましょう!」

「もう一回目潰しされたいかデスカント!?」

「坊主、ワシにも試作品のサプリメントを作ってくれぬか? 今度は別の作用をもたらす――」

「あーあー! 聞こえない! 何も聞こえない!」


 ガヤガヤと五月蝿くなり始めた。こっちも作ってくれ、アレも、これも、絶対に嫌だ、五月蝿い、使い道が違うだろ、自分でやれ、勘弁しろ、などなど様々な言葉が行き交った。


 唯一、じっと黙って座っていたキキョウが立ち上がり、言い争っている彼らを置いてウサギ屋を出てしまった。出口から出てきたキキョウが空を一瞬だけ見上げると、静かに息を吐く。


「風車は……今度自分で作ろう」


 持って来たスケッチブックに描かれた風車――故郷のおもちゃを帰って妹と一緒に作ることを決心した。

みなさん、実はひっそりと活動報告に宮兎とアスティアのキャラデザ公開してます。


気になる方はご確認を!


次回の投稿と同時に新たにキャラデザも公開する予定です!

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