52話 続・商品開発部、双子の片割れ
大変長らくお待たせしました!
あとがきに書籍化についての続報です!
宮兎は「店の扉をくぐった人は皆お客様」という言葉をレイン・ゴースト達に教えている。知り合いや友人だろうが、ウサギ屋に買い物目的で尋ねてくるなら、きちんと「お客様」として対応しなさい――という意味でもあるのだ。
強盗だろうと例外ではない。
先日、店に強盗が営業中にやってきた。無知は罪なり――言葉通り、宮兎が手を出す前にレイン・ゴースト達が捕まえてくれたのだが、問題はそこからだった。
なにを考えたのか、はたまた思ったのか、シロが強盗に商品を無理やり売りつけていた。普通のお客様――としては流石に認識されなかったが、ウサギ屋の扉をくぐったからには何か買っていけ……と、強く要求していた。
お金を持っていないから強盗したはずなのに、むしろ商品を買わされることをもちろん嫌がったのは言うまでもない。クロとモーノが止めなければ、強盗は口の中に包丁でも突っ込まれて、100ゴールドをサイフから奪われていただろう。
シロは強盗にかなりお怒りだったのだが、宮兎は理由を知らない。
その話も追々するとして――宮兎本人も(流石に強盗は許さないが)知り合いだろうと客は客として扱う心がけをしている。一部、扉を潜らず壁や地面を通り抜けてくる人物は例外としているが……。
今までの話でなにを伝えたいのか――それは、宮兎の言葉で分かるだろう。
「帰れ」
「顔を合わせて第一声がソレってひどくないか?」
お客様に帰れの一言――客として扱っていない。気難しい顔をしている宮兎とは違い、言われた本人はなんとも思っていないのか、笑顔を崩さない。
その人――ガレウス・F・アルムント。
双子の妹――リレンズ・F・アルムントの片割れだ。今日彼は、半月島で決闘した時に着ていた軍服ではなく、私服なのか、薄い青色のコートを羽織っている。下はベージュのズボンに革靴と、かなりオシャレをしていた。顔を隠すためなのか、頭には少し大きめのハウチング帽子を被っている。宮兎も顔を見せてもらうまでは気づかなかった。
「何の用だ? まさか、また決闘でも吹っかけに来たのか?」
「違う違う。誤解しないでくれミヤト・アカマツ。今日はきちんとお客さんとして訪ねてきたんだ」
「………お前の顔を見て分かった。嘘をついている」
「はは、疑われてるらしいな」
「どうせ『黄金の欠片』の話でもするために来たんじゃないか?」
「半分正解かな」
自分の口から言っておいて、店の地下に『呪いの品物』があることを思い出し、ため息が出る。ガレウスは左肘をレジカウンターに乗せ、宮兎に背を向け店内を見渡す。客の数を見ているのだろう。悲しい事に、今現在は誰もいない。
「人は居ないようだし、安心して話せるね」
「まだ営業時間中だアホ。難しい話は後にしてくれないか?」
「残念ながら俺達にも時間がないんだ。昨日、至急王都へ来るようにお兄様から手紙が届いた。今日の夕方にはスタイダストを出る」
双子はここ数日間、スタイダストで過ごしていた。セルフィと同じく、ギルドの籍はスタイダスト支部に置いているため特に不思議なことではない。いつも長期の遠征に出ているので、スタイダストで過ごす時間が短いため、ちょっとばかし違和感を感じるだけだ。
ガレウスの言葉に宮兎は興味無さそうだが、アレを押し付けられた張本人だ。説明もないまま王都へ向かうのは心苦しかろうと考えた。もう一度溜息を吐いて、店内に誰もいないことを再確認する。レイン・ゴースト達も配達に向かわせている。本当に二人だけの空間だ。
「現状報告と言っても、特に進展はない。知り合いの鑑定士に見せたとこ、結局は分からないと言われた」
「その人物は信用していいのか?」
「お前も知ってる人間――てか、見たことある人間ってのが正しいか。あの日、鬼の兄妹が居ただろ? その妹の方が鑑定士なんだ。腕は俺が保障する。そいつが鑑定して――分からないと答えた」
島から帰宅し、すぐツバキに鑑定させた。分かったことはこれはモンスター素材であること。だが、どのモンスターで、どこの部位なのかまでは分からず、また『黄金の欠片』としての証拠もなかった。証拠も何も――実物を見たことがないので本物か偽物なのか、区別がつかない。
「俺の方でも色々やったさ。でも――本当に何もできなかったし、起こらなかった」
試したことは、もちろん『黄金の欠片』を素材として錬成することだ。普通のザ・クリエイティブではレシピが存在しないので不可能。必然的に転生蘇生で何度も実験したのが――結果はむなしくも【エラー】である。
失敗の理由は――魔力不足。
MPの成長率が一番良い【超位魔術師】ですら、その数値は3000を超えることはない。だが、『黄金の欠片』を素材として錬成する場合、一番少ない数値で10万の魔力を要求された。桁が違いすぎる。
「俺は少なくとも本物だと思う。あんな気味が悪いアイテム、初めてだ」
「同感だね。……ところでそのブツは?」
「金庫の中だよ。ああ、普通のじゃないからな? 丸々一部屋をレイン・ゴースト達に結界を張らせている。その部屋の中心に俺お手製の魔力遮断壁を採用した金庫だ。お値段はざっと100から200かな」
「意外と安上がりなんだな」
「んなわけねえだろ。100億ゴールドってことだよ」
「…………………」
そんな物をどうやって――とガレウスは聞きたかった。もちろんだが転生蘇生で、廃棄物を使い錬成した。魔力が足りないハプニングにぶちあたったが、魔力増強ポーション(効果は一瓶で5パーセント上昇。お値段は5万ゴールド)を50本飲んでようやく錬成できた。金銭的にも、宮兎の胃袋的にもかなり限界だったが、無事に成功させた。
「深くは聞かないでおこう……」
「それがいい。知らないことが幸せってこともあるもんだよ」
肘をついて笑う宮兎に、ガレウスは困ったような顔をする。何と言うか、かなり戸惑っている――そんな顔だった。宮兎はガレウスの表情を察することはできず、「さてと」――と、話を変えた。
「半分話したぞ。もう半分――本題はなんだ?」
「本題……ね。知ってると思うけど、もうすぐ『成人の儀』が行われるだろ?」
「もうそんな時期になったのか。てことはティナか?」
「ああ、そうだ」
成人の儀はこの年に18を迎える子供達が大人としての一歩を踏み出すための儀式である。日本の成人式を連想してもらえれば大丈夫だ。もうすぐ誕生日を迎えるティナも18歳だ。成人の儀を終え、大人としてアルムント家としての仕事も増える。
「今回も成人の儀を中央広場で行うことになった。そこでミヤト・アカマツにはいくつか作ってもらいたいものがある」
「俺は便利屋じゃないんだ。ここは100ゴールドショップ。100ゴールド以上の物は売らないよ」
ここにアスティアがいるのなら「今まで100ゴールドより価値のあるものを量産してうんぬんかんうん」と言われるに違いない。透けるメガネや、セルフィの誕生日プレゼントもよい例だろう。
「困ったな……。一応、これがイメージなんだけど」
「うん?」
渡された紙には絵が描かれている。それはどこからどう見ても三角コーンだった。色は付いていないが、あの特徴的な三角形のオブジェクト。宮兎はコレを見て少しだけ驚いた。
「昨日、僕が考えた物だ。コレに棒か何かを引っ掛けてバリケードを作りたい。一般人向けだ。そこまで頑丈じゃなくても大丈夫だろう。成人の儀も祭りだ。スタイダストは祭り好き――怪我人が残念ながら出ているのは事実。そのためにも必要な物なんだ」
「………これ、お前が考えたの?」
「一晩徹夜で考えた。この形が安定しており、何より目立つだろう?」
「………………おう」
感心や驚きよりも、恐怖を感じた。宮兎は三角コーンの存在を知っている。知っているからこそ、常識で、ありきたりで、見慣れている物になっている。だが、ガレウスは何も知らない。知らないから考え、この形を想像した。地球にある三角コーンと――全く同じ形――その用途も、性質も。
「材料は軽い物がいいよな」
「分かってるじゃないか。持ち運びに便利な方がいい。かなりの数を使うから」
「…………この仕事請けるよ」
「おお、そうか! 感謝する。代金はアルムント家宛てに請求してくれ。後日、使いの者を寄こすよ」
「はいはい」
数を確認し、請求額を計算する。紙に書かれた数字を見てガレウスは嬉しそうだ。
「100ゴールドとなると、やっぱり安いな」
「それが売りなんでね。ほら、話は全部終わっただろ。帰った帰った」
「本当に君は冷たいな」
実力主義者であることは変わりないガレウス。宮兎が毛嫌いするのも当然だ。考え方が根本的に違う。
「まあまあ、決闘した仲じゃないか。もっと僕と――僕達と親交を深めようじゃないか」
「絶対に嫌だね。お前と、その片割れは今でも警戒してるんだからな? 全く……ガラドンドの教育はティナもそうだけど我侭に育てすぎだ」
「お父様は『戦うこと』でしか生きられない人間だから。むしろ、僕達を育てることが出来たことを褒めてほしいね。…………ま、お母様が生きていたら違ったのかもしれないけど」
「………………」
スタイダストでガラドンドのことを一番知っている人物はジェルズ・ハウリングその人だ。若いころ、二人はタッグを組んで活動をしていた。それぞれが歳をとり、怪我や家庭を持つようになり二人は冒険者を引退した。ガラドンドは引退しても尚、鍛え抜かれた牙を隠すことが出来ずに多くの冒険者や貴族から恐れられていた。それが一人の女性の死によって――抜かれてしまったのだ。
「ミヤト・アカマツ。君は本当にアルムント家に婿養子として来てくれないのか? ティルブナも、リレンズもお姉様も悪い女性ではないはずだ」
「…………前々から聞こうと思ってたんだけど、俺はガラドンドに嫌われていたはずなんだけど? その……お前は知らないかもしれないが、ティナを泣かせて……」
「その話はお父様から聞いた。多分、ミヤト・アカマツのことは今でも嫌いだろうね」
「変な話じゃないか? 態々嫌いな人間を婿養子に……親馬鹿なガラドンドがさぁ……」
「君は自分の立場が本当に分かっていないようだね。決定打はやっぱりあのオーガ事件さ。ティルブナのパーティーを助けただけではなく、討伐まで手を貸した――厳密には何もやっていないと発言したらしいけど、救助隊は君たち三人を見てかなりの疲労していたと報告していたよ。何もしていない――嘘だよね?」
「…………さあな」
ガレウスの反応も適当で、軽く「ふーん」と言うだけだった。ごまかせたのかごまかせていないのかは別として、ガラドンドが底まで評価してくれていることに驚いた。では何故自分なのか不思議だった。あの場には宮兎の他にもキキョウとジェルズがいた。
「うん? まだ何か疑問があるのか?」
「…………ティナを助けたのは俺だけじゃないんだぞ? ジェルズさんだって、キキョウさんも」
「ジェルズ・ハウリングはお父様と同い歳だぞ? 流石に自重する。キキョウ・クチンシには既に恋人がいるらしいじゃないか。ティルブナの専属シスターの」
「あれ? 知ってたの?」
「ティルブナがお父様に話したらしいぞ。専属シスターの任期を減らしてやれないかって。シスターであり続ける限り、結婚は許されないからな。気を使っているのだろう」
シスターとはつくづく面倒な職業だなと、宮兎は思う。神の力を扱う人間として条件は多い。それをクリアしてこそ、昇華の儀を行うことが出来る。その条件と言うのも宮兎は深くは知らない。純潔の体を持つとか、結婚していない女性とか、男は別にいいとか、神に対しての信仰心があるとか、色々ある。
「とにかく、あの場で花婿候補はミヤト・アカマツ――君一人だったってことだ」
「…………その、別に結婚とか焦らなくても」
「ティルブナとリレンズはまだしも、お姉様はそろそろ結婚しないとまずいからね。行き遅れと言われてしまう」
「うんー……王都には腐るほど良い男がいるはずなんだけど……」
適当なことを言っている。宮兎は王都へ一度も足を踏み入れたことはない。ただ、噂は聞いているのだ。騎士団長が優秀でイケメン、ギルドの冒険者達も気品溢れる振る舞いをする……なんて。
「騎士道精神も嫌いじゃないが、お姉様は勇敢な男性がタイプだからな。どちらかと言うとスタイダスト寄りの冒険者が好ましい」
「はいはい………俺には関係ないってことで」
「本当に君は冷たいな」
本日二度目かのセリフを言って、ガレウスは微笑む。
すると、何かを思い出したのか両手をポンっと叩いた。
「もう一つお願いがあったんだ」
「今度はなんだ? お願いにも限度ってものがあってだな――」
「なーに、商品を一つ増やして欲しいのさ」
「商品?」
思わぬところから新商品のアイディアが舞い込んできた。このお店にない商品をガレウスは望んでいる。宮兎にとって――ウサギ屋にとっても悪い話ではない。
「実は簡単なアクセサリーをリレンズが欲しがっているんだ」
「装備屋に行けば置いてあるだろう?」
「エンチャントスキルは必要ないのさ。それこそオシャレ用だよ。リレンズもあれで女の子だからね。スタイダストにアクセサリーショップがあれば、女の子達は喜ぶはずだ。冒険者でも女の子は女の子」
「た、確かに………」
難しいことでもない。キーホルーダーと同じ要領で作っていけば良いだけの話だ。アクセサリーの大まかな種類はネックレス、ブレスレット、チョーカー、指輪ぐらいしか今の宮兎は考えられない。あまりそのようなオシャレをしないので、それは今後アスティアや他の女性陣の意見を取り入れて徐々に増やすことにした。この間、わずか二秒である。
「決めた。いいぞ。アクセサリーぐらい販売してやる」
「本当かい? ありがとう! これでリレンズも喜んでもらえるはずだ」
「ただな――」
「ただ?」
「サイズが分からないから、ちょっと協力しろ」
「へ?」
ガレウスが始めて気の抜けた返事を返したのであった。
「リレンズと双子なんだろ? 見た目ほとんど一緒だし、お前のサイズを参考にさせてくれ」
「い、今? 僕、ちょっとこの後用事が――」
「ぐだぐだしゃべってたのは、どこのどいつだよ。ほら、すぐ終わるからじっとしとけ」
アイテム覧から【簡易メジャー】を取り出す。ホーム用品で使われるようなメジャーではなく、裁縫セットに入っている布で作られたメジャーだ。巻き取り式で、こちらも現在ウサギ屋で販売中の商品。
レジカウンターから宮兎は出てくると、スルスルとメジャーを伸ばす。何故だかガレウスは緊張しているのか、一歩、二歩と後ろに下がった。
「ま、待ってくれミヤト・アカマツ………。サイズって、いったいどこの?」
「あー首周りと、手首? あとはネックレスの長さの調整もしたいな」
「そんなに!?」
「困ることじゃないだろ。ほら、手を貸せ」
ガレウスの右手を強引に握って引き寄せた。案外、あっさり諦めたのかガレウスの動きは止まってしまう。宮兎は首を小さく横に曲げて、疑問の意思を表すが、ガレウス本人が下を向いて反応を示さない。暴れだすのではないかと警戒したが、そんなことも無さそうなので計測を開始する。
「にしても本当にお前らそっくりだよな」
「……双子だからね」
「髪の毛が長かったらお前も女に見えるんじゃないか? 肌も白いし、手首もほっそいなぁ。よくもまぁ、あの大剣を振り回せる」
「ダブル・キャストの影響も大きいけど、ウォーリアーは職業の中で一番力がある職業だ。レベルが350を超えたあたりから、パワー系以外の職業は簡単にねじ伏せれるよ」
「俺が一番実感してる」
「君はレベル290だろ?」
「ああ、ほら。俺はあの時パワー・ポーションを飲んでたからな。あのポーションで力を増強してるのに、攻撃を防ぐことができなかった。職業の差もあるかもしれないけど、本当にすごいよ」
「……………リレンズはどうだった?」
「リレンズ? そうだな……そもそも俺がディフェンダーのことをよく理解していないから。でも、二人のコンビネーションの軸はリレンズが作っていることは分かった」
「そっか……そっか」
「?」
嬉しそうなガレウスを見ながら手首の測定が終わった。
「んじゃ、次は首な」
「く、首か……」
「ほら、上向け、上を」
両手で頭をつかまれ、上を向かされる。ハウチング帽が落ちそうになるのを片手で押さえて、天井を見上げるガレウスは何か言いたそうだが、宮兎はお構い無しに測定を再開する。
「……ミヤト・アカマツ。顔、近くない?」
「仕方ないだろ? メモリを見るためには近づかないと。えーっと」
「い、息が当たって……くすぐったい……っ」
「気持ち悪いこと言うんじゃねえよ。ほら、じっとして」
ガレウスの首筋に宮兎の吐息が吹きかかる。その度にピクピクと動いて上手く測定できない。段々と顔も赤くなってきた。若干涙目のガレウスは上を向きながらそろそろ限界を迎えていた。
「も、もう……わ、わ、わ――」
「あー、ガレウス。じっとしてく――」
「もう、無理いいいイイイぃぃぃィィィ!」
「うわっ!? ちょ――」
ガレウスはウサギ屋をダッシュで出て行く。宮兎を押しのけ、嵐のように帰って行った。取り残された宮兎はメジャーを片手に、何故逃げ出したのか思考が追いつかず、ポカーンっと口をあけて、何度も勢いでギコギコ音を鳴らして揺れるドアを見つめていた。
「な、なんだったんだアイツ?」
その答えを宮兎は一生知ることはない。
◇
ガレウスは自室の扉を乱暴に開けて、そのままベッドへダイブした。ハウチング帽を被ったまま、枕に顔を埋めてゴロゴロとベッドの上で暴れだす。
「ああ、もう!」
大きめのハウチング帽を脱ぎ去ると――下からはお団子にされた長い金髪が現われた。声も青年から少女へ変わる。
先ほどまでウサギ屋で宮兎と話していた人物は――ガレウスの変装をしたリレンズであった。
「あーあーああああーあああああああー! どうしてあんなことをするのかしらぁ!」
リレンズの作戦――目的は最後のお願い――アクセサリーを店頭に並べてもらうことだった。冒険者でもあり、一人の女性として身だしなみは気をつけたい。王都へ行けば仕事ばかりで、他の村や町へ出かけても似たようなことになる。安息の地、スタイダストにはそのような手軽なお店はない。ならば、作ればいい――と、宮兎へお願いする作戦だった。
変装した理由は、ガラドンドに箱入り娘と育てられ、家族以外の男性と話した経験も少ない彼女。ガレウスを連れてきても、無駄な話だと邪魔され、ティナは学校でいない。思いついたのが【ダブル・キャスト】のスキルを使い、パートナーになりきることだった。仮面の意味も含め、自分を隠すには丁度良いと思ったのだ。そうすることで男性と話ができる……と。
ガレウスと手を繋いでおけば怖い物知らずだが、一人になると極端に怖がりなリレンズ。馬鹿にされるのも嫌なので対策は練っていたはずなのだが――。
「なんで顔を近づけるの! 何で吐息が吹きかかるの! ああもう! 緊張で死ぬかと思ったじゃない!」
宮兎の予想外な行動にリレンズの我慢が解けた。あのままでは集中力が切れてダブル・キャストのスキル効果がなくなり正体がばれてしまう。最後も一人称を『私』と言いかけて、危なかった模様。逃げ出さなければ恥をさらすところだった。
「はぁ……はぁ……」
興奮が収まってきたのか、呼吸を整える。ガレウスの服も拝借して(勝手に)の作戦だったが、大成功とはいえないだろう。宮兎にガレウスに対して不信感を抱かせてしまったのかもしれない。
(……でも目的は達成ね。ガレウス以外の異性と手を繋ぐのはこれが最初で最後――)
むくりと立ち上がって服を脱ぎ始める。これもバレないように洗濯しなければならず、リレンズのミッションはまだまだ続く。
(それにしても、男同士であれだけ近づくのは自然なことなのかしら?)
ふと疑問に思った――男同士での話し。ぽっと顔を赤く染め、リレンズは首を横に振った。
(な、なにを考えて……別にガレウスになりきれば今後似たような展開に遭遇できるとは――っは!)
リレンズは脱ぎかけの状態で再びベッドへうずくまり、今度は枕へ頭を何度も叩きつける。
「そう言うことじゃないでしょう、私ぃぃぃっ!」
リレンズの悩みはもう一つ増えたようだ。
というわけで書籍化の続報です!
この度、角川エンターブレイン ファミ通文庫様から書籍化させていただくことになりました!
イラストは村上ゆいちさんです!
書籍化に伴ってダイジェスト化の予定はございません。
発売日は一応、一月三十日です!
今後はキャラデザなど決まり次第、活動報告の方でお知らせしようかと思います。
URLを貼っておきますので、そちらからも確認できます。
ファミ通文庫 FB Online
http://www.enterbrain.co.jp/fb/pc/01menu/01menu.html
トップページから左側にある「刊行予定」をクリックしていただき、一月予定の部分に名前があります!
ありますよ!
きちんとあります!
本日の情報は以上です!
キャラデザが待ち遠しいと思いますが(作者もソワソワしてます)しばしお待ちよ!
では! また次回で!