50話 続・商品開発部、ハイブリッド商品を考える
続・商品開発部編スタートです!
「ハイブリッド商品を作りたい」
「は?」
本日もウサギ屋は開店している。いつも通りの100ゴールドのお手ごろ商品を棚に並べて、せっせと働くレイン・ゴースト達をレジからぼーっと見ていた宮兎が突然こんなことを言い出したのだ。
返事をしたのはアスティア……ではなく、暇なので雑談にやってきたキキョウだった。ギルドに一度足を運んだものの、手ごろなクエストも見つからず、家に帰ればツバキから色々言われることは想像できた。
では、恋人のセルフィに会いに行けばいいじゃないか、と思う人もいるだろう。それができないからここにいるのだ。アスティアが珍しく居ないのも関係している。
実はアスティアの両親から手紙が送られてきたのだ。夫婦仲良く王都へ旅行中の2人だが、居心地が良いのかなかなか帰ってこない。心配などしていなかったアスティアだったが、送られてきた手紙に真実が語られていた。
『親愛なる娘 アスティアへ
元気にしていますか? お母さんはとても元気です。
王都の暮らしが良すぎて、別荘を買ってしまいました。てへ。
現在、お父さんと大工さん達で建てている途中なのでもうしばらく帰ってこられません。
本題はここからです。一度、顔を見せに王都へいらっしゃい。
もちろん一人じゃ危ないからミヤトくんでも、セルフィちゃんでも良いから二人以上で来ること。
建設途中の別荘も見ていきなさい。お父さんとお母さんの愛の結晶です。うふ。
最後だけどミヤトくんと何か進て――』
最後まで手紙を読み終えず、バラバラに引き裂き魔力ライター(ウサギ屋製)で灰にして、アスティアはセルフィを連れ王都へ行ってしまったのだ。その場に宮兎も居たのだが、顔を真っ赤にして怒りをこれでもかと手紙にぶつけていた様子を見て、話しかけることはできなかったという。
そんなこんなでシスター組が旅立って二日。取り残された宮兎とキキョウは他愛もない会話を楽しんでいたのだが。
「突然どうしたんだよ。これが噂のミヤ坊の独り言か?」
「噂ってなんですか?」
「アスティアちゃんから聞いたぞ? 突然閃いたら訳の分からない事を言い出すって」
「失礼な。言葉通りハイブリット商品を作ろうとたった今決意しただけです」
「…………その、はいぶりっとが分からない」
皆さんも日常生活でよく耳にするのでは? ハイブリット――つまりは異なる物を混ぜ合わせた物を表す言葉だ。
「ハイブリット……まったく別の商品を混ぜて新しい物を作り出す……。俺のスキルに相応しい言葉じゃないですか!」
「いやまあ…………それはそうなんだけどさ」
日常会話の途中で「ハイブリット商品を作りたい」と言い出せば眉間に皺を寄せ、難しい顔をされても仕方がない。
そもそもキキョウに【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】の秘密はバレている。正直に話した――のほうが正しい。デーモンズ・オーガの一件以降、キキョウには【赤い影】としての自分を晒している。
「そもそも何を作るつもりなんだ?」
「良くぞ聞いてくれました! たった今考えたのはコイツですよ!」
レジの下から取り出したのは【魚のうろこ取り】である。ウサギ屋で売っているうろこ取りは、皆さんが想像している物とは少し違い、木製で作られた柄に円形の平べったい金属がくっ付いており、片面には大根おろしのようなザラザラとした突起物が均等に並んでいる。
「コイツに一工夫をしたいと思う」
「工夫ねえ……」
「ちょうど今から休憩時間だし、付き合ってくださいよ」
「別に構わないが……」
キキョウは嫌な予感が脳内に過ぎる。セルフィとアスティアがオニガシマへ遊びに来た時、宮兎の発明について聞き流す程度で耳には入っていた。時々聞こえてくる「失敗」や「暴走」、「魔物」という単語が気になっていた。
レイン・ゴーストが魔物だということも既に聞かされている。それがあのスキルによってだということも。つまり、この商品開発が失敗や暴走を起こせば――とんでもない魔物が生まれる可能性がある。
「…………大丈夫なんだろうな?」
「え? 別に時間は大丈夫ですけど」
「そうじゃなくて――」
「まあまあ、二階へいきましょう。材料持ってきますから、先に待ってて下さい。テーブルの上においてある菓子は勝手に食べてもいいですから」
「お、おいっ」
呼び止める暇もなく宮兎はバックルームへ消えてしまった。残されたキキョウは、レジへとやってきたクロを見て溜息をついた。
「お前達も苦労してるんだな」
クロは理解できていないようで首をかしげる。主人もマイペースなら使い魔も同じか――心の中でもう一度大きな溜息を吐き出してバックルームへと通じる扉を開けた。
二階のリビングでしばらくキキョウはボリボリとクッキーを頬張り、今頃セルフィは王都でなにをしているんだろうと心配していた。窓際に立って、クッキーを片手にスタイダストの町並みを見渡す。
王都へは一度も足を運んだことは無い。キキョウだけではなく、宮兎も同じだ。冒険者の街がスタイダストなら、貴族と商人の街が王都だろう。巨大な王城と、街を囲む壁。スタイダストとは比べ物にならないほど厳重な警備で守られた砦だ。
冒険者の質もスタイダストのような血の気の多いものは少ないだろう。どちらかといえば気品溢れる騎士道を貫く優雅な立ち振る舞い。冒険者貴族のアルムント家がイメージしやすい。ティナをはじめ、双子も猛者を求めると同時にそれなりの立ち振る舞いができる。長男と長女も素晴らしい人格者だとキキョウは聞いている。
「安全な街だから心配するだけ損か」
クッキーを口の中へ放り込んで椅子に座ろうとすると、ドタドタと階段を駆け上がる音が響き、やがて大袈裟にドアが開かれた。
「キキョウさん! 俺はとんでもないことを思いついてしまったかもしれません!」
「お、おう」
入ってきたのはもちろん宮兎だ。彼の右手には先ほどのうろこ取りが握られ、それ以外のものは何も持っていないように見えた。材料を持ってくると言っていたが、目当ての物が無かったのだろうかとキキョウが思った。
「アイテムボックスを漁っていたらコレを見て思いつきました!」
ポケットから取り出した小さな玉。パチンコ玉のように銀色で、大きさも同じぐらい。キキョウはパチンコ玉を見て珍しがる訳でもなく、見慣れた様子で返事をした。
「『メタル・ウェポンの核』じゃないか。さほど珍しい素材じゃないし、ウチにも在庫は腐るほど余っているぞ?」
メタル・ウェポン――文字通り武器の形をした金属型モンスターである。彼らの特徴は武器を扱うモンスターが生息する場所には必ずというほど姿を現す。自分自身を武器として、モンスター達に扱わせるのだ。また、宿主に合わせて武器の形状を変化させることもでき、別名【変化金属】と呼ばれている。
「そう! このメタル・ウェポンの核とうろこ取りを融合させて、変幻自在に形が変わる道具を作るんですよ!」
「…………」
「とんでもないこと言い出した、みたいな顔で睨むのやめてください」
宮兎の提案する新商品とは――本来はうろこ取りとして扱うが、一々道具を仕舞ったりするのは面倒くさい。そこで金属部分を包丁や他の道具に変形させる便利グッズを作ろうとしているのだ。
ここまでの説明をいつものホワイトボードにスラスラと絵で説明して、キキョウを納得させる。……納得させることができたかどうかは置いといて、今回の趣旨は伝えることはできている。
「本当に可能なのか? うろこ取りが包丁に変化するって」
「誰しもMPは持っていますからね。魔力に反応させて形を変えれば良いんですよ」
「簡単に言うけどな…………」
「やれば分かるってことですよ」
早速うろこ取りとメタル・ウェポンの核を床に置いて、錬成を開始する。巨大な魔法陣が展開され、うろこ取りと核が吸い込まれていった。初めて見る大掛かりな錬成スキルにキキョウは少しだけウキウキしていた。
「キキョウさん、口元がにやけてますよ?」
「ち、違うぞミヤ坊! ちょっとかっこいいとか、ワクワクするとか、いっさい思っていないからな!」
「……分かりました。えーっと、知性の賢人達よ、我の手に栄光と奇跡を与えよ【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】」
慣れたもので、叫ばなくても錬成ができるようにはなった。前まではMPの調整や、頭の中にある情報を上手く伝えるように気合を入れていたが、最近はスムーズにできている。
光に包まれ――出来上がった品を宮兎とキキョウは座り込んで見つめた。
「完成……したのか?」
「そのはずですけど……」
宮兎が手に持ってみる。見た目に変わりはない。宮兎の想像では、もっと見た目に変化があると思っていた。全体的にメタルになっていたり、重さが変わっていたり、そもそも形が変わっていたり、期待はしていたが予想とは違ったようだ。
「キキョウさん、試しに使ってくださいよ」
「俺っ! 実験台は自分でやれよ!」
「お客様視点からじゃないと分からないこともあるんで」
「上手く言い逃れしようとしているが、全然説得力ないからなっ!」
言いつつもしぶしぶ【魚のうろこ取り・改】を受け取り、穴が開きそうなほど道具を睨みつけた。
「それじゃあ魔力を流してください。スキルを使う感覚で右手に集めてもらえれば大丈夫なはずです」
「はずねえ……」
言われたとおり魔力を集中させる。鬼の一族は魔力操作のスキルを得意とし、感覚でやれ、と大雑把な指示でも問題はほとんど無い。あるとすればこの商品に隠されている未知の部分であろう。キキョウが恐れず、上手く調節できれば成功するはずだ。
すると、ぐにゃぐにゃと金属部分が変化をみせる。宮兎は興奮気味に「おお!」と歓喜を述べた。
「そのままイメージした形を道具の伝えてください!」
「また無茶振りを」
「感覚で、勢いでどうにかなるはずなんです!」
根性論にキキョウは納得していないようだが、素直に頭の中で包丁の映像を作り出した。
道具はすぐ反応を見せ、金属部分が刃物に変わる。
「成功ですよ! 珍しく一回で成功ですよ!」
「珍しくって……上手くにって良かったじゃないか」
宮兎もキキョウも満足だった。ここから改良や、デザインに差をつけて売り物にしていく。
「それじゃあキキョウさん、次はデザインなど考えるので」
「おう、返すぞ」
と――柄から手を離そうとした瞬間、包丁は液状に変わりキキョウの手に絡み付いてきた。
「うおっ!」
「キキョウさん!?」
スライムのように姿を変え、液状の金属はキキョウと柄を固定して放そうとしない。宮兎も目を白黒させてキキョウの右手から金属を引き離そうとする。だが、既に液状から固形に戻りキキョウの右手と包丁が一体化していた。
「何だコレ気持ち悪いっ!」
「暢気に感想を述べる前に、キキョウさんの魔力を食ってるんですよ!」
「言われれば力が抜けていくような……」
「寝ちゃダメ! 寝ちゃダメだから! ああクソ! 【シャドウ・ショック】っ!」
指先から小さな衝撃波を出して、金属を切り裂く。【シャドウ・ショック】は盗賊専用スキルの初歩中の初歩スキルだ。威力は小さいものの、連続で繰り出せるので雑魚相手に使われる。金属ぐらいの強度なら切り裂くことも可能だ。
柄と金属部分が切断され、床に落ちた。キキョウは右手を振りながら意識を保つ。
「危なかった……。大丈夫ですかキキョウさん?」
「なんとか。しかし……コイツは洗脳アイテムになってるぞ? 頭がぼーっとしてなにも考えられなくなってた」
「また失敗作か……」
「いいや。俺の予想だと俺が使ったからダメだったと思う」
「へ?」
「ミヤ坊、お前が使ってみろよ」
キキョウは柄と金属部分を無理やり捻り合わせて結合させる。若干、宮兎はビビリながらもうろこ取りを掴み、包丁をイメージする。
「……なんとも、ない?」
「な? 言っただろ」
しばらく待ってみたが、今度は暴走する気配も無い。包丁の形になり、うろこ取りをイメージすればその形になる。
「俺が下手糞だったんだよ。魔力を扱いなれているから、道具に遠慮なく流しすぎたんだ」
「魔力を道具が溜め込みすぎたってことですか?」
「ああ。あとはイメージが悪かった。情報も多すぎてパンクしていたに違いない。イメージじゃなくて魔力をスイッチとしよう。うろこ取りと包丁の二つのパターンに絞込み単純化させるんだ」
「それなら少量の魔力で誰でも使えるってことですね」
「おうよ。どうだ? 今日中に作るか?」
「当たり前じゃないですか! 成功の兆しがこんなに早く見えたのは初めてですよ!」
「ここまで手伝ったんだ。俺も最後まで付き合うぜ」
「ありがとうございます!」
かくして、【変幻自在☆うろこ取り包丁】は完成したが休憩時間だったとうことも忘れていたので、あとでレイン・ゴースト達に土下座したのは言うまでもない。




