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49話 雨具の転生者、例のアイツとお茶をする

遅くなって本当にごめんなさい!

今回で雨具の転生者編終了です!

 セルフィの陰謀から逃れたレイン・ゴースト達はその後も配達を続け、ようやく全て完了させた。陽は沈み始め、スタイダストを夕焼けが包み込みだした。レイン・ゴースト達はウサギ屋からさほど遠くないテラスカフェで一休みをしていた。


 配達よりも今日は子供の世話が何より大変だった。無邪気とは時に罪なもので、彼らの疲労はいつもの何十倍にも感じただろう。


 テラスカフェに来たからといって何かを注文するわけではない。そもそもここで休む予定でもなかった。偶然前を通りかかった所、ウェイトレスのお姉さんから休んでいきなさい、と声をかけられたのだ。このカフェにもコーヒーフィルターや、食器などを何度も配達している。


日ごろのお礼も兼ねて……ということなのだろうか。レイン・ゴースト達は深く考えず、パラソルの下で椅子にちょこんっと座って体を休ませていた。


 この光景もまた面白いもので、レイン・ゴーストが椅子に座るとまるで透明人間が椅子に座ったように――レインコートが中に浮いているだけに見える。つまりは彼らは座っているのではなく、椅子の上に浮いている――みたいなことになっているのだ。


 もちろん彼らからすればきちんと座っている。なら、彼らの本体は透明人間のようなもので、レインコートは飾りかと問われれば、それも違うといえる。なんせ実体があるのはレインコートのみで、中身は空洞なのだ。物を持ったり、握手をしたりする時だけ、レインコートの中身が目には見えないが実体として現われる。


 考えれば考えるほどなんとも不思議なモンスターだ。


(づかれた……。なにがって、子供達の若さに疲れた……)

(おいおい、シロ。俺たちだって生まれてまだ一年にも満たないんだぞ? 年寄りみたいに言うのはやめてくれ)

(前世も合わせたらそれなりの数字になるでしょ! おのれセルフィ! 自分は途中から酒場に逃げやがって……ぐぬぬぬぬっ)

(でも子供達は可愛いし、ボクはいい経験だと思うけど)

(それはそれ! これはこれ! 今は何よりセルフィが憎いわ!)

((…………一番仲良いじゃん))


 クロとモーノのツッコミ通り、シロとセルフィはとても仲良しだ。街の中を2人でフラフラ歩いている所なんて目撃多数だ。レイン・ゴースト達の中でセルフィを呼び捨てにできるのもシロだけだろう。


(ま、マスターの依頼は完了したし充実した1日だったんじゃない?)


 モーノの問に、シロは小さく頷いた。


(兄妹について考えたり、姉御の趣味に驚いたり、子供達のお世話したり、久々に忙しかったわね)

(何より姉御の趣味にびっくりしたぞ。マスターにいち早く知らせないと悲惨なことになる)

「本当ね。どうにか回避したいわ」

(でもどうすればいいんだろう? 姉御を傷つけずに、お茶会を断る方法)

(いっそのこと姉御には催眠スキルで夢でも見てもらう?)

(んなことできるかよ! 姉御を攻撃するなんて……後々バレたら恐ろしいぞっ)

「私もそれには反対よ。傷つける真似はしたくないわ」

(あれ? シロがスキルを使うって言わなかった? 何で反対なの?)

(寝ぼけてるのモーノ? 私は反対とはいってないわよ)

(オレも聞こえたぞ? 女の声はお前しか出せないだろ)

(あんた達も人格変われば声ぐらい変わるでしょ? って、そんなことよりわたしじゃないわ)

(じゃあ誰なんだよ)

「私よ」


 レイン・ゴースト達の血の気が引いていく。もちろんこれは比喩表現で、彼らに血は通っていない。だが、3体で顔を見合わせ、恐怖によって体が動かないことは理解できた。ギリギリと錆びたオブジェのようにゆっくりと、声の聞こえたもう1つの椅子へ視線を向ける。


「はあーい。ミヤトの使い魔ちゃん」


 神出鬼没の亡霊魔術師――レジニー・メルゲナリーは当然のようにいつものカップでコーヒーを優雅に飲んでいた。


(((で、で、出たああああああああぁぁぁ!)))

「あら、失礼しちゃうわ。まるで幽霊を見たようなリアクションね。幽霊は貴方達の方じゃない」


 コーヒーを一口飲んで、テーブルの下に隠れた3体に対してジョークまじりの返答を返す。彼女こそが現在スタイダストでレイン・ゴースト達の声を聞ける唯一の人間なのだ。亡霊魔術師のレベル450で獲得できるスキル【嘆きの声】により、ゴースト系モンスター及び使い魔との会話が可能となる。ゴースト系の使い魔はどうしても首がなかったり、骸骨だったり、人間の言葉が話せなかったり何かと不便なのだ。そこでこのスキル効果により、使い魔との連携がとりやすくなる。


 レイン・ゴースト達が運が無かっただけで、会話は全てレジニーの前では筒抜けである。


(くう! 何で亡霊魔術師がここにいるんだ!)

(わたしが知りたいわよ! モーノ! すぐに対策を考えなさい!)

(無理だよ! ボク達の会話は彼女には聞こえている。それにマスターが恐れるほどのストーカー気質なんだよ? 逃げれる訳ないよ!)

「……………ひとまず怒らないから、顔を出しなさいよ」


 怯えながらもゆっくりテーブルの下から顔を出し、レジニーの顔色を伺いつつ椅子に座りなおした。柔らかいビニール質の体がガッチガチに固まっていることは亡霊魔術師の彼女でも分かった。


「緊張しなくても大丈夫よ。アスティアちゃんには黙っておくから」

(は、ハイ……。トコロデ、ホンジツノモクテキハ?)

「だからなんで片言になるのよ。まったく……ミヤトの使い魔に怖がられる覚えは無いわ」

(…………)

(…………)

(…………)


 これも冗談なのか、本気なのか、初めて彼女と顔を合わせて、会話をした日を思い出した。あれほどマスターを心の底から守ろうと決意し、彼女には関わらないでおこうと誓った厄日を忘れるはずはない。記憶の片隅に必ず残っている。


「たまたま空中散歩をしていたらアスティアちゃんの名前が聞こえたからついでによっただけよ」

(姉御としか呼んでいないのですが……アスティアさんとは一言も)

「名称でも私は分かるのよ」


 これではもはやエスパーの領域である。もとより魔術師でもあるのだが。


「ま、ミヤトの使い魔――魔物の貴方達なら別に心配はいらないでしょう」

(さらーっとわたし達のこと魔物って呼んだわよ。空耳かしら?)

(オレも聞こえた)

(ボクも)

「私の目を欺こうなんて百年早いわ」


 頭に乗せている小さな王冠から【ステラスコープ】を取り出して、レイン・ゴースト達を覗き見る。レジニーの瞳にはレインゴースト達の名前と【使い魔】の文字。他のステータスは隠れている。


「【ジャミング】でミヤトは誤魔化せているみたいね。これには感心するわ。効果範囲はこのスタイダスト全域。どうやらウサギ屋は効果範囲外ね。ま、手元にいるから安心できるのでしょう。魔力消費を抑える手段としては賢明ね」

(あ、あの……なんのことでしょうか?)


 モーノが控えめに質問すると、レジニーは【ステラスコープ】を王冠へ戻し、コーヒーに口をつける。


「嫉妬してるの。貴方達がミヤトに愛されているから」

(愛されている?)

「気づいていないとは言わせないわ。コレだけ過保護なマスターは珍しいわよ。それだけ貴方達が大切なのね、ミヤトは」

(…………本当ですか?)

「なにが?」

(本当にボク達は愛されているのでしょうか?)


 この時レジニーはものすごい表情をしていた。怒ったような、悲しいような、複雑な顔だった。レジニー本人からすれば彼らがこれほどまで愛されていることは嫉妬であり、尊敬でもあり、喜びでもあった。だが、本人達の口から出た言葉があまりにも「無責任」だったために、言葉が続かない。


 文句を言いたくもなった。


 だが、彼らがまだ人を完全に理解できていないことを彼女は分かっている。赤ん坊のように、人からの愛に戸惑っている。


 一度は開きかけた口を閉じ、レジニーは数秒考えて――言葉を選んだ。


「そうね。貴方達は魔物――愛とは無縁の存在なのね。でも、少なからずミヤトには感謝しているのでしょう?」

(もちろんよ! マスターのおかげでわたし達は――)

「ならいいじゃない。ミヤトは貴方達と一緒に居ることを望んでいるわ。悩んでいるのが馬鹿馬鹿しいと思えるほど、素晴らしい毎日を送ればいいじゃない。それが愛しあうってことよ」

(オレ達にはまだちょっと分からないです)

「分からなくてもいいのよ。人の気持ちがわかる魔物は貴方達ぐらいなんだから、ゆっくりその心を育みなさい。大事に、大切に」


 レジニーはコーヒーを飲み干すと、立ち上がって王冠の中へカップをしまう。


「さて、散歩の続きね。いい暇つぶしになったわ」

(意外とあっさり帰るのね)

「海で言ったじゃない。私は忙しい女なの。時間は有効に使わなきゃね」


 海――半月島でのバカンスのことだろう。実はミヤトが双子との決闘を終えた後、水着姿でレジニーは登場したのだ。態々ミヤトんみ水着姿を見せに来て、ついでにミヤトの身包みも剥がそうと襲ったり、なにかと大変だった。


 その時言った言葉が「私は忙しい女なの。だからミヤトと触れ合う時間は大切に」だった。何かと意味が変わってくるのだが、レインゴースト達は去ろうとする彼女の背中に頭を下げた。


(亡霊魔術師……その、なんだかありがとう)

「お礼はまた今度受け取りに来るわ。モーノちゃんのコーヒーでも良いし、シロちゃんの焼いてくれたクッキーでも、クロくんはミヤトの下着を盗んでくること」

(オレだけ難易度高くないですかねぇ!)

「冗談よ。靴下で我慢するわ」


 

 最後の最後までぶれないところが彼女の良い所でもあり、悪い所でもある。レイン・ゴースト達もじゃっかん引きながらも、感服していた。


「それじゃ、また今度。ゆっくりアスティアちゃんのお茶会対策を一緒に考えましょ」


 それだけを言い残すと、地面の中へすーっと消えてしまった。幽霊より幽霊な亡霊魔術師にレイン・ゴーストは呆れつつもウサギ屋へと戻った。


 その日の夜――。


「おいおい、突然甘えてきてどうしたんだよ?」


 宮兎の布団の中へレイン・ゴースト達は仲良く潜り込んで寝ようとした。宮兎もびっくりしたが、こんなに甘えられることは今までに無かったので、内心喜んでいる。


「ほらほら、仲良く並んで。布団もう1つ隣に敷くから。流石に四人じゃ狭いだろ? 合わせれば何とか寝れるから」


 布団2つに1人と3体は並んでその日は眠ることにした。


「こんなに甘えてくるなんて珍しいな。配達中に何かあったのか?」


 宮兎の右横にクロ、左横にはシロとモーノが寝ている。彼らは同時に首を振り、何故か嬉しそうに宮兎の体に抱きつこうとする。


「わーかった。分かったから寝よう。明日も仕事だからな。ゆっくり休んでがんばろう」


 レイン・ゴースト達は大きく頷いて――それから久しぶりに眠ることにしたのだった。

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