47話 雨具の転生者、シスターと歩く
あとがきに重大発表!
オニガシマを出た後、レイン・ゴーストは3体仲良く横に並んでとぼとぼと街中を進んでいた。先ほどと違い、シロはモーノの横に移動し歩幅を合わせている。台車を押すのは相変らずクロとモーノだが、こちらも文句をいう事はなく、黙って反応を示さない。
(なんだか、この体になって考えることが増えた気がするわ)
(同感。昔はそんなことは無かったのに)
(ボク達の頭が賢くなったからなのか、それとも神様がくれたものなのか……)
(神様からのお届け物なら、魔物のわたし達に優しすぎるわね)
レイン・ゴーストに生まれ変ってから――多くの変化に戸惑い、困惑していた。知識と知力が増えれば、それに伴う責任を背負うことになる。レイン・ゴーストは人の感情という責任を背負ってしまった。
(気にしても仕方ないか。配達の続きをしよう)
(そうね。暗い話じゃなくて明るい話をしましょう)
(なら、ボクが気になったこと話していい?)
クロとシロは話題を持っているわけでもなかったので、モーノの話を聞くことを了承し、頷いた。
(ツバキさんって、何でマスターのこと名前で呼ばないで【ウサギ屋】って呼ぶのかな?)
(それは、あれだよ。名前を覚えていないんだよ)
(これだから男は馬鹿なのよ。照れ隠しに決まってるでしょ? 名前を覚えていないってありえないわ)
(えー。じゃあなんでシロは照れ隠しって思うのさあ)
(うーん…………もしかして、マスターのことを……)
足が止まる。足とうか、動きが。シロの言いたいこと――ツバキが宮兎のことを『好き』だと言っているのだ。この考えはどうなのだろうかと、3体とも固まる。主人である宮兎は、現にモテている。モテモテ、一生分のモテ期を使い果たしているほど、女性に惚れ込まれやすい。
日常的に見ていれば分かることなのだ。時々お客としてやってくる、ソロ活動前の女冒険者の仲間とか――神の一族と呼ばれている見習い少女とか――銀髪エルフの恐ろしい亡霊魔術師とか――ほぼ毎日会いに来るシスターとか――それはもう見ていてウンザリするほど。
本人は気づいているのか、気づいていないのか、皆平等に接するので(亡霊魔術師は例外として)誰しもが期待している。お向かいのパン屋のおばちゃんから教えてもらった【罪な男】とは主人のことなんだと、最近気づいた。
ツバキも、その可能性は0ではないだろう。
(……マスターってほら、結局誰と結婚するのかね。わたしは色々心配だよ)
(ハーレムなんて可能性も。だってマスターなんだよ? ボク達が心配するのも変なことじゃないし。マスターの奥さんは、ある意味マスターのマスターなんだし)
(いやあ、オレは誰ともくっ付かない可能性もあると思うぞ? 近頃はやけにキキョウさんとか、海で出会ったガレウスと仲がよさそうだし……)
(ちょっとクロ! やめてよね! マスターが男色とかわたし嫌よ!)
(オレだって嫌だよ! できれば姉御とくっ付いてもらうのが妥当か――)
「あら、クロ達じゃないですか?」
(((ひうっ!)))
会話が盛り上がった所で、後ろから声をかけられた。噂をすれば何とやら。彼らが『姉御』と呼ぶ人物――トラウマを植えつけた張本人――アスティア・リーリフェルが腕に大きな紙袋を抱えて立っていた。友達に話しかけるように、自然な笑顔で彼女はレイン・ゴースト達に手を振っている。
「配達の途中ですか? ご苦労様です」
(クロが変な事言うから姉御を召喚しちゃったじゃないっ!)
(バカっ! んなこと言うなよ! 姉御に失礼だろ!)
(ふふふふふ、2人とも落ち着いて! ボク達の声は届いていないんだから、自然体で、自然体で接すれば大丈夫!)
アスティアに体を向けて、同時に背筋を張り、敬礼をする。レイン・ゴースト達にもし足が生えていたら軍靴を履かせてみたいものだ。それほど立派な敬礼は王都の騎士団に負けない見事なものである。アスティアはクスっと笑うと肩をすくめた。
「公の場ではちょっと恥ずかしいですし、会うたびに敬礼しなくても良いですよ?」
(だってオレ達、姉御に燃やされたくないし……)
(イタズラは姉御には絶対にしません! 本当です! だから許してください! なんでもします!)
(シロ本当に落ち着いて! ボク達まだ無事だから! 姉御さんまだ笑ってるから!)
レベル300超えの魔物達がここまで怯える理由はやはり出会いがきっかけだろう。なにをどうしたのかは本人達しか知らない。宮兎もお仕置きされた内容は知らないが、レイン・ゴースト達の怯え方は尋常ではない。見ていて不安になる。
「次の配達先はどこなのですか?」
(はっ! ここであります姉御!)
シロはポケットから紙を取り出して見せる。それを見たアスティアは苦笑したのだ。このような表情を何故したのか、シロの頭は混乱した。まさか緊張のあまり、間違って別の物を見せたのではないかと思ったが、間違いなく送り宛の書かれた紙である。
(おい、シロ! それはマスターの書いた異世界文字だ! 姉御は読めないんだよ!)
(ああああああ! しまったああああ! 違うんです! 態とじゃないんです! モーノ! ペン! ペンを寄こしなさい!)
(う、うん!)
モーノは体の【謎空間】からペンを取り出してシロに慌てて渡す。ちなみに、前回から描写しているモーノの【謎空間】とは、宮兎が命名したもので、モーノのみが扱える特殊なスキルだ。レインコートの内側がまるで某四次元空間ポケ……もとい謎空間が広がり、たくさんの物を収納できる優れたスキルだ。しかし、収納する物の重さを本人が受け持つことになり、大荷物などを吸い込んでしまうとモーノが動けなくなってしまう。なので、ペンやその他文房具など、仕事で使うもの意外は収納していない。
シロはサラサラと翻訳して、アスティアに見せなおす。
「ノスティノン教会へですか。セルフィの教会ですね。丁度、私も向かっているので一緒に行きませんか?」
(喜んで! オレ達は姉御の剣となり、盾となることを誓います!)
(わたし達は姉御の命令には絶対服従です! マスターの命令は二の次です!)
(姉御さんの命はボク達レイン・ゴーストが誇りに誓って守り抜いてみせます!)
「だから敬礼はいいって……。ふふ、それじゃ行きましょう」
(((イェス! マム!)))
宮兎から借りた「軍人物語」という小説に影響されまくりのレイン・ゴースト達を連れて、ノスティノン教会へと再び歩き始めた。
スタイダストでレイン・ゴースト達の知名度はかなり高い。毎日せっせと配達していれば、目撃していない人間の方が少ない。また、アスティアと並んで歩くことも不思議に思われず、彼女もウサギ屋に通っていることは周知の事実だ。
(姉御、荷物重くないですか? わたしが持ちましょうか?)
「ん? シロ? 荷物を持ってくれるのですか?」
両腕で抱える紙袋が重そうに見えたシロは、気を使った。先ほどまでクロとモーノに台車を押せと命令していたとは思えない態度の変わりようである。
「大丈夫ですよ。最近レベルも上がって、荷物も軽く感じますし。それに私の趣味なので」
(趣味? 姉御の趣味といったら裁縫だろ? それにしては大荷物だな)
クロが横からアスティアの荷物を見る。毛糸や裁縫に使う道具が入っているとしても、大きすぎる。もしかしたら宮兎へセーターでも編んであげるつもりなのだろうかと考えたが、服ですら自分で錬成する主人にそれは無いだろうと決め付けた。
別に手作りは手作りで味があり、宮兎は作ってもらえたら喜んでソレを着るだろう。ただ、クロの予想は大ハズレで、どこからハズレているか――【裁縫】という観点から間違っているのだ。
クロだけではなく、シロもモーノもアスティアの抱える紙袋の中身が気になりチラチラと見てしまう。アスティアが気づかないわけもなく、横に並ぶレイン・ゴースト達に声をかけた。
「そこまで気になりますか? うんー、ミヤトには内緒にしておきたいのですが」
(秘密……やっぱりセーターなのか?)
(マフラーじゃないかしら? マスターが赤いマフラー作ろうかなってぼやいていたし)
(手袋じゃない? ボクがマスターから借りた恋愛小説の主人公は、想い人に手袋を編んでたよ)
アスティアそっちのけで、意見を出し合う。レイン・ゴースト達の声が聞こえないアスティアは「どんな会話をしているんだろう?」と思いながらも、彼らに答えを教えてあげた。
「ふふふ、実はコレなんです」
紙袋から取り出されたもの――それは大きなスケッチブックだった。
「実はレジニーさんのブックカバー以降、絵に自信が持てたんです。あんなに喜んでもらえる絵を描けるようになったんだなって」
(……………)
(……………)
(……………あかん)
クロが思わず言ってしまった。そう――これは緊急事態である。
「描いた絵はいくつか部屋に飾ってるんですよ? 動物の絵が多いのですが、どれも上手く描けていて満足してます。朝、目が覚めて自分の絵を見ると心地良いなって。朝といえば最近レジニーさんが来なくなったんですよ。やっぱり冒険者として忙しいんですね」
(……………あの)
(……………亡霊魔術師が)
(……………来ない)
亡霊魔術師――レジニーが来なくなった理由はもちろん仕事で忙しい訳じゃない。行きたくなくなったのだ。アスティアのことが嫌いになったとか、やっぱり男が良かったとか、そんなことではない。
絵である。
アスティアの部屋に飾ってある絵が怖いのだ。
「今度皆さんをお部屋に誘ってお茶会でもしましょう。クロ達もどうでしょう?」
(いやー、オレ達配達とか店番があるんで!)
(行きたいなー! 行きたいけど仕事があるからなー! 残念だなー!)
(ボク達も姉御さんの絵は大好きですよ! なんだか転生前の故郷を思い出せそうで大好きですよ!)
「あ……お茶は飲めないのでしたね。ごめんなさい。なんだか、失礼なことを言ってしまって」
(そんなことないっすよ! お茶が飲めなくても心の中でお茶くらい飲めますから!)
(そうです! 姉御とのお茶会は無理じゃないです! やりましょう! 別の場所で!)
(ウサギ屋でしましょう! ボク達が最高のおもてなしをしますから! 姉御さんの部屋以外なら本領発揮できますので!)
落ち込むアスティアを妙に励ます雨具の転生者達は、それから10分後にノスティノン教会へと辿り着くのであった。
47話楽しんでいただけたでしょうか?
暗い話ばっかりだったからね。こういうギャグをこれから多く書いていきたいですね。
さて、重大発表ですが……
100ゴールドショップ『ウサギ屋』書籍化します!
イェーイ!
詳しい内容は来月の終わりごろまで話せませんが、書籍化決定のお知らせはOKとのことで発表させていただきました!
読者の皆様のおかげです!
本当にありがとうございます!
活動報告の方にも今から色々な思いを書きますので、お待ちください。
いやー、本当に嬉しい限りです。
これからも頑張って更新しますので、応援よろしくお願いします!