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44話 青年、悪役だった

わーお。一万文字超えですよ。

てことで遅くなりました。今回でこの章は終了です!

ダラダラやって本当にごめんなさい!

 半月島の中央には森林が密集している。海岸から少し歩けば山の中と錯覚してしまうほど草木が生い茂っている。野生動物は鳥がほとんどで、あとは昆虫が多数生息している。モンスターは出現しないのは当たり前で、アルムント家自慢の別荘地であることは誰もが知っている場所だ。


 そんな場所に、決闘を申し込まれた宮兎はいつもの仕事服(スラックス、カッターシャツ、スニーカー)に着替え、指定の場所にたどり着いた。時刻は昼を過ぎ、15:00ほどになった。


 先ほど話していた砂浜である。


「来たね、ミヤト・アカマツ」

「随分と余裕ね」


 双頭の流星――ガレウスとリレンズはアーマーを脱ぎ捨て、軍服に着替えていた。背中には相変らず巨大な剣と盾を背負っていた。双子の言葉に宮兎はそっくりそのまま言い返したい。防具を身につけず、軍服で戦おうとしているのだ。余裕を見せ付けているのは明らかにアチラ側だ。


「こっちのセリフだ。防具もつけずに、怪我しても文句は言うなよ」

「それこそ僕達のセリフじゃないのか?」

「アルケミスト、アサシンはごっつい装備は似合わないから良いんだよ」


 冗談を交えつつ、アイテム覧からポーチを取り出して腰に巻いた。いつでも戦闘ができることを示す。双子は小さく微笑んで、ガレウスは大剣を――リレンズは大盾を構える。違和感を感じたのはこの瞬間からだった。ガレウスは宮兎から見て右に立って、左手のみで剣を握り締めている。となるとリレンズが左側に立って、右手のみで大盾を支えているのだ。


 何かある。


 そう考えるのが妥当だった。あれほど巨大な武器を片手で構えることは不自然だ。何より、2人が鏡のように対照的に立っていること。なにかを暗示させるような光景に、宮兎も笑うことしかできない。


 ポーチから鉄鉱石と、モンスターの素材――【ダーク・ウルフの黒牙】を取り出した。双子も宮兎の動きを見て不信に感じる。なんといっても双子がアルケミストと対人戦をするのは初めてなのである。どのように戦い、どのような戦術を駆使して追い詰めてくれるのか――歓喜に満ち溢れていた。


「ザ・クリエイティブ――【漆黒の短剣ブラック・ピン】!」


 両手の魔法陣に素材を吸い込ませ、短剣を創り上げた。刀身が黒く、短剣と呼ぶより、大きな針のようだ。太陽の光を反射して、キラキラと輝く。双子は出来上がった品を見て、興奮しているようだ。


「面白い……面白いよミヤト・アカマツっ! 僕達が今まで戦ったことのない、新しい戦い方だ!」

「アルケミストでも貴方は変わり者ね。武器を錬成して、戦うなんて……!」


 宮兎が変わり者なのは誰もが知っている。そもそもアルケミストは錬成を得意とする(むしろそれしかできないような職業)なのだが、サマエトのように属性に特化した錬成をする者が多い。態々武器を作り、それを自ら使って戦うことなんて普通ではできない。人には向き不向きがあり、武器の扱いも同じである。アルケミストだから全ての武器を上手く使うことができる――なんて夢のような話だ。


 そんな夢物語を平然とやってのけれるからこそ――宮兎はレベル500まで上り詰めることができたのかもしれない。


 右手に漆黒の短剣を構え、相手の出方を伺う。双子は構える――ただ、武器も持っているだけにも見える。戦おうとする意思がさほど感じられない。宮兎は相手の動きを読もうとするが、全く予想ができない。


「いきなり襲われても、言い訳するなよ」

「ふむ、そうだね。では、君から攻撃してもいいよ」

「ハンデ――私達からのプレゼントね」


 双子の発言は、完璧なまでに宮兎を馬鹿にしている。レベル290と思われているからなのか、それともアルケミストだからなのか、またまた自分達によっぽどの自信があるのか。相手が攻撃しても良いと言ったのだ。不意打ちでもなんでもしてやろう――彼の心に火が付いた。


 結局はただの挑発なのだ。しかし、宮兎は対人戦の経験が浅すぎて耐性がほとんどない。今までモンスターとだけ3年間戦ってきたのだ。戦う時の人間の心理というものを理解で来ていない。作戦にどっぷりはまってしまっていた。


「ならお望みどおり――【シャドウ・ステップ】っ!」


 宮兎の体が霧になり――消える。お馴染みのアサシンスキル【シャドウ・ステップ】だ。双子は動じることなく、宮兎が消え、砂浜に残った足跡だけを見ていた。アサシンのスキルは隠密系スキルだ。姿を消したり、すばやく移動したりする。双子が注目したのは、砂浜に足跡が残るかどうかだ。結果として、移動する時の痕跡は残っていない。


 霧に体を変える【シャドウ・ステップ】は足跡を残さない。むしろ残せないのだ。視界を奪ったり、体を透明化させているわけではないからだ。体の形――霧へと変えることによって「足」がなくなる。よって、他の隠密系スキルと違い、どこからでも不意打ちが可能となる。


 霧は双子の頭上で静かに形を現し――宮兎はガレウスの首元を狙った。刃ではなく、柄の部分だ。模擬戦のため、極力傷つけたくはない。息を殺して、ガレウスに襲い掛かった。


 しかし――攻撃はあっさりとリレンズ・・・・の大盾によって防がれてしまう。


「なにっ!?」


 宮兎が驚いたのは、リレンズが驚異的な速さでガレウスの頭上に移動してきたことだ。大盾を構え、漆黒の短剣を受け止める。金属音が響き、宮兎は反動を利用して2人から距離をとる。


 着地をしようとしたが、今度はガレウスがこちらに飛び掛ってきていた。その速さは異常である。いくら宮兎の攻撃をリレンズが防ぎ、姿を確認できたとしてもガレウスは宮兎を視界に入れるまで少々時間が空くはずだ。すぐに反応できるのは宮兎の攻撃を防いだリレンズのみ。


 考える余裕もなく、ガレウスは左腕だけで大剣を宮兎へ叩きつける。


「うぐっ!」


 短剣で防ぐも大剣の重さに顔をしかめた。レベル500とはいえ、STRは他のステータスに比べて低い方である。もしかしたらレベル380超えの双子のほうが上なのかもしれない。


 受け流そうと右手に力を込めるが、右側から大盾が迫ってくる。気がついたときには、体が宙へふっとんでいた。


 派手に砂浜へダイブして、宮兎は頭をふって何が起こったのか理解できないでいた。


(速い……速すぎる。リレンズはの大盾でガレウスは俺を見ることはできなかったはず。もし、見ていたとしても着地と同時に攻撃ができるわけ……)


 立ち上がった宮兎は双子を見て――驚いた。それ以外のリアクションがとれなかった、と言わせて貰おう。


「どうだい? 僕と――」

「――私の【ダブル・キャスト】の力は?」


 手を繋いでいる――ガレウスとリレンズはお互い空いた手をぎゅっと繋ぎ合わせていた。まるで恋人のように――長年連れ添った夫婦のように――指と指と絡め、双子の右手を左手は1つになっていた。唖然とする宮兎は目を丸くした。


「……どうりでガレウスの攻撃が速かったわけだ。俺を見ていたリレンズがガレウスの手を引いて俺のほうへ強引に投げつける。いや――手を繋いだままだから投げつけるじゃなくて引っ張ったのか。勢いがついたガレウスは俺の着地に間に合った……と」

「正解だよ、ミヤト・アカマツ。僕達双子は【ダブル・キャスト】の職業についている。お互いが近ければ近いほど効果は発揮され、その最終形態がこの戦闘スタイルになったのさ」

「盾の私と剣のガレウス。攻撃と守備、両方を兼ね備えた一心同体。君に【双頭の流星】を崩せるかな?」

「くっそ。漫画みたいなことしやがって」


 ガレウスの攻撃の後に、大盾が迫ってきたのもガレウスと手を繋いでいたリレンズが横に居たからだ。互いを引っ張り、互いを盾と剣として扱う――2人で1人――【ダブル・キャスト】。


 大剣の攻撃が強かったのも、ダブル・キャストによる影響なのかもしれない。レベル差があってこそ受け止められた可能性だってある。


「なら――これはどうかなっ!」


 先ほど立ち上がるときに砂を左手に掴んでいた。双子の顔に投げつけるように砂を振りまく。流石に予想ができなかったのか、自らの武器で顔を守ろうとする。


 本来なら、繋いだ手を放して顔を隠すと思っていたが、やはり鉄壁。武器で砂を防いだのは誤算だった。だからといって作戦をやめるわけにはいかない。一瞬でもスキが生まれたのだ。


 ポーチから新たな素材――【マグマ・アントの顎】を取り出して【漆黒の短剣】と共に右手の魔法陣へ放り込む。マグマ・アントは火山地帯に生息する巨大な赤い蟻である。その強靭な顎は武器を強化する素材として多用される。


「ザ・クリエイティブっ!」


 駆け出した宮兎は迷わずリレンズを狙った。右手から生成される【赤色の長剣】。力強く握り締めて、立ちはだかる大盾と大剣の隙間から彼女を狙った。


「【赤き剣――グリード】っ!」


 グリードと呼ばれた剣からは炎が噴出す。火傷程度ならポーションで回復できる。少しジュッと焼いて降参させよう――未だに甘い考えで攻撃をしたが、再び宮兎は呆気にとられることになった。


 あれほどまで力強く握り締められていた2人の手が――離れた。ガレウスがリレンズを突き飛ばし、宮兎の攻撃を避けさせた。砂浜にドサっと倒れるリレンズと、その様子を見ながら2人の間を通過する宮兎。ガレウスは大剣を両手で握り締めて、横から振るい上げる。


 グリードで剣を流した。リレンズと手を繋いでいた時と違い、パワーを感じない。アサシン職の宮兎と同等の力だ。剣を流し、反撃に移ろうとしたが――ガレウスが横へ左手を伸ばした。片手を離した事で、押し返れそうになるが、気がついたときには、後ろに倒れたリレンズは居らず、レウスに向かって飛び掛るようにして右手を差し出していた。


 2人の手が繋がった瞬間、宮兎は剣がずっしりと重くなり、支えることでいっぱいいっぱいになった。ダブル・キャストの能力上昇が想像以上の効果をもたらしている。


「ぐうう……お、重い……」

「目潰しとはやってくれるじゃないか、ミヤト・アカマツ」

「でも、私を狙ったことは褒めてあげるわ。気づいての通り、私達は手を離せばダブル・キャストの効果が消えるの。特に右利きの私達にとって――右を守る私が崩れれば攻撃しやすくなるでしょね。ガレウスが左腕で剣が振るえるのもダブル・キャストの恩恵よ」


 リレンズの言いたいことは、2人とも右利きで、盾を右手に持っているリレンズと違い、左手で剣を持つガレウスの動きが若干ながら無駄を感じられたからだ。大袈裟なほど剣を振り回し、コンパクトに納まりきれていない。一方のリレンズは盾を思い通り――細かく動かせている。それは最初の攻撃――宮兎の頭上からの攻撃を受け止めた時、盾の真ん中で受け止めた正確さによって判断できたことだ。


「いぎぎぎっ……仕方ねえっ」


 腕の力を態と抜いて、同時に体を横にずらす。ガレウスの太刀筋を紙一重で避けるとポーチから丸い物体――煙幕を取り出して地面に叩きつける。


 双子の視界が覆われる。


「――逃げるというのか!」

「ガレウス、もう居ないみたいよ」


 リレンズの言うとおり、煙幕はすぐさま潮風に吹かれなくなってしまうが、宮兎の姿もどこにもない。ガレウスは舌打ちをして剣を背中の鞘へ戻す。


「どうやらただの雑貨屋ではないみたいだな」

「そのようね。元冒険者――レベル290ほどと聞いていたけど、嘘のようね」

「……本当に面白いよ、ミヤト・アカマツ」


 双子は再び手を繋いで、砂浜に残る宮兎の足跡を辿る事にした。





「まいったな……」


 島の中央――森の中で胡座をかいて宮兎は唸る。どうにも、ダブルキャストの力は分が悪い。単なる2体1であるならば、それぞれを倒せば済む話であるが、ああも常に一緒に居ては奇襲は難しい。リレンズのメインジョブ――【ディフェンダー】とガレウスのメインジョブ――【ウォーリアー】のコンビは2人に限ったことではない。よく見るパーティーの例でもある。


 察知系スキルと驚異的な防御力を誇るディフェンダー、STRに極振りしたような馬鹿力を発揮するウォーリアー、2つの上位職は単純に役割が分かりやすく、パーティーとしても動きやすい。今回それが、2人は手を繋ぎ――まるで上位職のホーリーナイトをさらにクラスアップさせたような人間と戦っている気分だった。


 右手に大盾を、左手に大剣を。


 問題なのはその2人が手を離す、繋ぐが自由自在にできること。先ほどのように攻撃すれば、あっけなく手を離され、2人に分かれられる。片方を攻撃すれば、もう片方から追撃、もしくは手を再び繋いでパワーアップを狙ってくる。


(となると離れ離れ――腕を切り落とすか、島の両極端に移動させる……か)


 この2つの案には難題がある。


「腕はなあ……欠片が偽物だったら大惨事だし。幻覚系スキルも、面倒な罠系スキルもアサシンとアルケミストは覚えられないからな……」


 戦争の引き金になりかねない欠片だが、偽物だった場合は洒落にはならない。幻覚系スキルや罠系スキルも宮兎は習得していない。


「……なら、手持ちの素材を使って――何か逆転できる物を作るしかない」


 目の前にはずらりと並んだモンスター素材と、手持ちのアイテム。キキョウから譲り受けた品々はどれもこれも立派なものばかり。漆黒の短剣や赤い剣――グリードを手早く錬成できたのは素材の品質が良かったからだ。


「なんかこう……難しく考えなくていいんだよ。小学生とかが考える【夢のような】能力を持った――」


 彼が居る世界――そう、ファンタジー溢れる異世界だ。この世界で不可能なことは何もない。その証拠にいままで彼は驚きの商品を開発してきた。どれもこれもくだらない、願いが叶うような品々を――この状況を一変できる何かを――思いつかなくてはならない。


「……例えばだ。あの2人が手を繋げなければ良いってことなんだろ? じゃあそれはどうすればいい? 相手のことが嫌いになる? いやいや、人間の心を操作するブツは手持ちじゃ作れない。なら視界でも奪うか? いやでも、お互いの掛け声で居場所ぐらい分かるか。なら、五感全部を封じ込めたり……なんてできるわけないだろ!」


 手持ちにあるモンスター素材は【マグネット・ゴーレムの核】、【ダーク・ウルフの爪】、【マジック・ゴブリンの指】、【ヘヴンズゴーストのベール】、【ビーストジャークの目玉】の5種類。後は【水鉄砲】と【うきわ】、【ゴーグル】、【水着】、【ビーチボール】である。


「今日は遊ぶだけのつもりだったからまともな装備持ってきてねえよ! うきわとかゴーグルとか何に使えばいいんだよ!?」


 ジタバタと子供のようにその場で転がる。体に土や葉がついてもお構い無しだ。それほど宮兎は苦戦していた。特に余っているモンスター素材はそれぞれ【特性】を付属させるものばかり。ビーストシャークの目玉は【水属性攻撃力アップ】、ヘヴンズゴーストのベールは【光属性付加】、マジック・ゴブリンの指は【魔力攻撃力アップ】、ダーク・ウルフの爪は【武器の耐久度アップ】、最後にマグネット・ゴーレムの核は【異常状態―磁石―付加】である。


「…………待てよ?」


 モンスターの素材を見て、それから水遊びの道具を交互に見つめる。水鉄砲を手に持って、タンクに水が入っていることを確認した。


「上手くいくか、神様にお祈りするってのも悪くないな」


 両手に魔法陣を描き、高々と叫んだ。


「ザ・クリエイティブ―転生蘇生リザレクション―!」





 足跡を辿るガレウスとリレンズは森の中央まで来ていた。夏の日差しを遮る木々を大盾と大剣で乱暴になぎ払い、切り倒し、宮兎の行方を捜していた。途中から足跡が消えているのはアサシンスキル【シャドウ・ダンス】で移動したからであろう。


「ガレウス、彼の実力をどのように判断しましたか?」

「どうって、僕の考えは分かるんじゃないかな。リレンズ、態々口に出していう事でもないと思う」

「ええ、そうでしょう。その通りでしょう。ですが、分からないことが私にもあります」

「それはなにかな?」

「何故、笑っているのですか?」

「僕が?」


 ガレウスとリレンズは足を止め、互いの顔を見つめた。いつ見ても同じ顔で、いつも同じ表情をしているはずだった。だが、兄は不気味に笑い、妹は困惑したように首をかしげている。双子は互いの表情が「違う」ことにクスリと笑った。


「ふふ、そうだね。僕が笑っているのは、彼の底知れぬ【恐怖】かな」

「恐怖ですか……。珍しいわね。ガレウス、貴方はお兄様とお姉様と決闘した時だって『怖い』とは言わなかったじゃない」

「だって、お兄様とお姉様は『そういう』人間じゃないか。彼は違うよ。彼は――ミヤト・アカマツは僕達を見て、感じて、『勝つ』気持ちを前面に押し出してくれる。お遊びじゃなくて真剣に戦ってくれているんだ」

「まあ。でも、私へ攻撃した時は炎のつるぎで火傷で済ませようとしましたよ? 初撃だって、刃ではなく柄。手を抜かれている――遊びと思われているのでは?」

「違う――リレンズ。彼もまた、僕達が怖いのさ」

「アルムント家の人間だからかしら?」

「もちろんそれも理由のひとつだろうね。でも、一番大きいのは――人と戦った経験がまるでない。人に対してどの程度の力で攻撃すればいいのか分からないんだ。傷つけるのが――怖いんだと思う」

「臆病者じゃない」

「僕はそうは思わないさ」


 ここまで意見が一致しないも珍しいものだった。それが2人にとって、またおかしく、奇妙な感じだった。顔を見れば相手の全てがわかり、手を繋げばそれ以上の力を発揮できる。なのに――今は違う。


「珍しいわね。ここまで意見が合わないのも」

「新鮮じゃないか。それに、リレンズは過小評価しすぎじゃない? 彼は素晴らしい人間だよ」

「あら、将来私の婿になるかもしれない殿方なのよ? 今のうちに色々言っておきたいじゃない」

「ティルブナが許すとは思わないけど」

「あら、そこは一致するのね」


 ふらふらと歩き出して、クスクス笑っていると、リレンズが気配を感じ取る。2人とも警戒の姿勢をとった。キョロキョロと右、左、上、さらには後ろを確認して――宮兎の位置をわりだそうとする。


「はああああっ!」


 下――2人の影からヌルリと現われ、グリードを2人に向けて突き刺す。【シャドウ・ムーブ】と呼ばれるスキルである。シャドウ系スキルではあるが、アサシンが習得できないスキルである。レジニーが移動で多用しているスキルといえば、記憶にあるだろう。前回のストーカー騒動の時、ちゃっかり教えてもらっていた。ただ、亡霊魔術師ネクロマンサーとリスク条件が異なり、扱うことによって全スキルが30分使用不可能となる。


 不意打ちとしては完璧だろう。普通の冒険者では反応はできないはずだ。


 普通であれば――ダブル・キャストの能力アップによってディフェンダーの察知スキルが上昇し、宮兎が顔を出す前に2人は動いていた。リレンズは宮兎の攻撃を防ぐと、ガレウスを片手で持ち上げる。リレンズも反動で一緒に飛び上がった。頭上を舞う剣士は宮兎の背後にすばやく着地して、剣を横に振るう。


 左腕の袖から新たな剣――鉱石を多めに使い、ヘヴンズゴーストとダーク・ウルフの素材を使って作られた刀身が真ん中で白と黒に分かれた――【裁きの断罪剣】で攻撃を受け止める。刀身が定規のように長方形で、突きには向いておらず、斬る為だけの剣だ。


 リレンズもすかさず大盾を突き出して宮兎の喉を狙うが、やはりグリードによって防がれた。


「影からの不意打ちとは、やってくれるね!」

「新しい武器を仕込む所、嫌いじゃないわ」

「こちとらアサシンとアルケミストなんでね。隠密と錬成しないと何するんだって話なんだよ!」


 2人の攻撃を跳ね返し、距離をとった。先ほどと違い、宮兎の力が上がっている。


「なにかポーションを飲んだね?」

「正解。【パワー・ポーションL】を飲ませてもらった」

「なるほど、良い素材を持っていたようですね」


 現実は【ザ・クリエイティブ―転生蘇生リザレクション―】によって余ったビーストシャークとマジック・ゴブリンの素材を使って錬成していた。本来は幾つかの薬草や、他のポーションが必要となるが、そんなものはない。少々MPの消費が激しく、足元がふらついているが贅沢は言えない状況だ。


「もう終わりですか? 見たところ、ふらふらですよ?」

「僕達にまだ、一回も攻撃を当てれてないけど、あの自信はどこへ行ったのかな?」

「こっちにはまだ――最終兵器があるんでねっ!」


 宮兎は躊躇なく、グリードと裁きの断罪剣を二人に向かって投げつけた。双子は直感で先ほどと同じように――砂で目潰しを狙ったように隙を突いて攻撃すると考えた。しかし、同じようには来ないはずだ。後ろ、もしくは頭上に移動する。大剣と大盾で視界が一瞬覆いかぶさる。その瞬間――彼は動き出すはずだと予測した。


(この剣を僕達が防げば)

(ミヤト・アカマツはすぐに移動する。私の察知スキルで居場所を特定して――2人で叩き潰す)


 ガキンっと双子はそれぞれの剣を跳ね返した。一瞬だけ武器が視界を遮り、再び正面を確認すると――宮兎は立っていた。動かず、その場で、ものすごく悪い顔をして――水鉄砲を構えて。


「こいつは避けられねえよなあっ!」


 考えてもいなかったもう1つの選択肢――まさか遠距離武器を持っていたなんて。しかも――水鉄砲。発射された水から逃れようと振り上げた腕を元に戻そうとするが、間に合わず、頭から被ってしまった。だが、特に変化はなく――ただの水としか思えない。


 ずぶぬれになりながらも、双子は固まった。


「え? 何?」

「これは……ただの水じゃ――」


 刹那――2人の体が意図せず、吹っ飛ぶ。


 まるで互いが互いを押し退けたように、体が真横へ飛んだ。ガレウスは木にぶつかり、リレンズは地面を転がる。引っ張られるような、突き放されたような、言葉にできない謎に2人は空いた右手と左手をグーパーグーパーさせて、言葉が詰まる。


「成功だな。これぞ新商品――【水鉄砲・オメガ】だっ!」


 両手で抱えている水鉄砲を自慢するように前へ突き出す。双子はそんなことより、自分とその半身に起こった現象に戸惑っている。


「……いったい僕達に何の細工をしたっ」

「細工ぅ? 自分で考えてくださいー」


 今、宮兎の顔を見れば誰が悪者で、誰がピンチの正義のヒーローか満場一致の意見が得られる。下手糞な口笛を吹きながら宮兎は種明かしをしない。ガレウスは舌打ちをして、リレンズに手を伸ばす。


「リレンズっ!」

「分かってるわ!」


 2人はできるだけ足に力を込めて、駆け出す。手を伸ばし、再びダブル・キャストの恩恵を手に入れようとした。


 しかし――


「きゃっ!」

「うっ!」


 およそ、1mほど近づいた所で、再び拒絶するように体が後ろへ引っ張られた。茂みに放り込まれたリレンズとガレウスを見て、宮兎は主人公とは思えないほど大きな声で、悪役のように笑った。


「アハハハハハ! 思い知ったか! これぞ水鉄砲・オメガの力よ!」

「くうっ……これは変な状態異常を付加させられたに違いない」

「ガレウス、正解! こちらの商品、付属のタンクにはそれぞれ状態異常効果を付加するスキルをエンチャントしています。いま、双頭の流星が浴びた水には【磁石】の状態異常を付加する力があるのです」

「磁石……っ」

「なんですって!」


 つまりは――そういうことなのだ。


「お前達の体は右半身か左半身、どちらかがS極とN極になっている。運だったが、上手いことガレウスの右半身とリレンズの左半身が同じ極になってくれたらしい。つまり、お前達はこの状態異常があるかぎり、手を繋ぐことは不可能! 磁石の特性は同じ極同士は反発しあう! 手を繋ごうとしても、そうやって吹っ飛ぶわけよ、ザマみろ!」


 ――本当に主人公とは思えないセリフだったが、子供が考えそうな発想で逆転できたのだ。少し酔いしれていても温かい目で見て欲しい。


 ガレウスはそれならばと、立ち上がる。


「体の半分がだめなら、逆の手――左手同士で繋げばいいだけ! 僕達はどんな体制でも手さえ繋げば――あれ?」


 立ち上がり、大剣を持ち替えようとしたが、手から離れない。


「アホ。剣も盾も金属。体が磁石なんだから、そう簡単に外せるわけがないだろ」


 残念なことに、全身磁石になってしまった双子は武器が手にくっ付いてしまい、取ることは不可能。無理やり外そうと空いている手で、武器を握っている手首を掴めば――さらにくっついて身動きが取れなくなる。


「体が、くっ付いて……!」

「ぐうっ! こんな子供騙しで僕達がっ……!」


 ジタバタと暴れれば暴れるほど、体がおかしな姿勢になり、立つ事もできなくなる。間抜けな体勢――ガレウスは両腕がくっ付き、大剣が左頬にべったりと付着していた。体は縮まり、これでは大きな芋虫である。リレンズは大盾に貼り付けされるようになってしまい、逆さまになった亀のように、地面をクルクル回っている。流星の双子が哀れなものだ。


「さあって……それじゃあじっくり体の隅から隅まで調べさせてもらおうか?」

「な……なにをするつもりだっ」

「なにって……欠片をいただくんだよ。あんなもの、さっさと壊さないとな」

「なら待て! 僕じゃない! 僕じゃなくてリレンズが持っているっ!」

「嘘かもしれないからね。身包みを全部引っぺがして調べるぞ」

「やめろ! こんな場所で裸になんか――う、うわああああ!」


 こうして――双頭の流星から欠片を奪い取り、事は平和的に解決した。





「なんで、俺が顔を蹴られないかんのだ」

「貴方が変なところを触ったからでしょう? まったく……」


 欠片は結局、リレンズが持っていたようで、丸裸にされたガレウスは泣きながら服を着ていた。リレンズから欠片を奪おうとした時、うっかり胸やらお尻やらに手が当たり、磁石効果がなくなった瞬間に顔を蹴り飛ばされた。今では2人とも服を着て、先ほどと同じ場所――森の中で倒れた樹木に腰掛けて横一列に並んでいた。


「それで、この欠片は本物なのか?」

「さあね。僕達も偶然見つけたものだし、まだ鑑定もしていないから不明さ」

「戦争の引き金になるんだぞ? さっさと壊せよ」

「試したわ――私とガレウス、ダブル・キャストの力を使って」

「…………なるほど」


 宮兎は無言で欠片を地面に置いて、足元に寝かせていた裁きの断罪剣を右手に取る。そのまま勢い良く振りかざし――欠片とぶつかった瞬間、ぽっきり剣が折れてしまった。


「こりゃ、困ったな。偽者だとしても【硬化SSS】がエンチャントされてる」

「その通り。僕もリレンズも壊そうとした――でもできなかった。だからお父様に相談するためこの島に立ち寄ったんだけど――」

「面倒な物を擦り付ける相手が居た……ってか?」

「そうそう」

「……態と負けるつもりだったのか?」

「まさか。僕らが勝っても無理やり渡すつもりだったよ。それに、君はこれがほしそうだったしね」

「壊れるならな。こんな疫病神、俺もどうすればいいかわかんねえよ」


 黄金の欠片はちょっとやそっとじゃ壊れない【硬化SSS】がエンチャントされているらしい。壊せるものも壊せないのなら、予定が狂う。


「……俺が預かっておく。頑丈な金庫があるから、そこに隠せば大丈夫だろう」

「うん、任せとくよ。にしてもミヤト・アカマツ、本当にレベル290かい? 僕達と同等――それ以上の力を見せて、言い訳はできないよね?」

「ああっと――ドーピングデス……」

「本当かしら? 未来の婿候補が薬漬けなんて嫌よ」

「誰が婿候補だっ!」


 互いに打ち解けあったのか、それから双子と宮兎は残されていたメンバーと合流して、残りの時間を有意義に使った。新商品――水鉄砲・オメガも完成し、色々なエンチャント効果をもつタンクを発明すれば金儲けができる! と考えていたものの――


 ――危険ですので、私が預かります。


 と、アスティアに没収されたのはちょっとした蛇足でしかない。

さて、次回からですが【アナザーストーリー】と題して【雨具の転生者編】です!

つまり、レイン・ゴースト達が主役ですよ! ほのぼのしますよ! ボケますよ!


今後ともよろしくお願いします!

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