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40話 青年、海へ行く

中途半端で、短くて申し訳ないです!


 アルムント家の屋敷には、別荘へと転移するための専用クリスタルが存在する。クリスタルは簡単に設置できるものではないのだが、過去の英雄にクリスタルを自在に操る冒険者が存在した。アルムント家と深く関わりを持っていたらしく、神の一族は転移クリスタルを複数所持していた。


 その中の1つが神秘の孤島――半月島へと通じている。アルムント家のプライベートビーチを有しており、この季節になれば一族が集まって日ごろの疲れを癒すという。


 今回は三女たるティルブナ・F・アルムントによる【ご友人会】とのことで、一族は誰も来ていない。父親であるガラドンドが何度も付いていこうとしたが、ティナの冷たい一言でばっさり切り捨てられてしまった。


 屋敷の廊下で哀れな大男を見つめる宮兎は手に持っている浮き輪をひっそりと隠して、無言で頭を下げることしかできない。申し訳ない気持ちより、【父親って娘から嫌われるとああなるのか】と学ぶ所もあった。


 他のメンバーもガラドンドの背中を見つめながら、クリスタルで転移した。


 宮兎の転移する順番は最後だったのだが、後ろから「おのれ、ウサ――」と聞こえ、自分のことではないだろうと祈るばかりだった。





 半月島の砂浜で男四人は膝を抱えてぼーっと海を眺めていた。既に水着に着替え、燦々と降り注ぐ太陽の光を体全体で受け取り――かれこれ20分は待っているだろうか。海にはまだ入ってすらいない。


「……遅くねえか?」


 呟くデスカントは黒いブーメランパンツに、サングラスをかけている。サングラスで顔を隠しているが、それでもこの長い時間の間、炎天下に晒されて疲れた表情は伺える。その左となりでは、サマエトが溜息を吐いた。


「我慢です。何故、女性陣がやってこないのか分かりませんが……我慢です」


 そうなのだ。彼らがこうやって待ち続けるのは女性陣がお着替え中で、「来るまで待っててね」と言われたからだ。宮兎と――キキョウはそんなこと無視して海で泳ぎたいのだが、この2人が「お姉様からご指示は無視できませんよ!」なんて意味の分からないことを口走り、何が悲しくて20分も日向で待つ破目になったか。


 そのお姉様――セルフィの付き添いでやってきたキキョウは宮兎に作ってもらった赤い水着を着用し、今にも干乾びそうな男達を見て苦笑していた。


「ミヤ坊、妹も誘ってくれてありがとな」


「いえいえ。流石に残しておくわけにはいかないでしょう」


 答えた宮兎はオレンジ色の水着を着用し、軽く会釈をする。セルフィはティナの専属シスターだ。自然な流れで今回の海水浴について行くことになり、それまたキキョウが無理やり引っ張られ、お留守番はあんまりだろうとツバキも誘ったのだ。


「それにほら、俺だってティナに無理を言ってつれてきてますから……」


「ああ、そうだな……」


 彼らの視線の先には、こちらの気持ちも知らずに、ビーチボールでわやわやと遊ぶレイン・ゴースト達がうつっていた。海の上で楽しそうにボールを飛ばしている。


「師匠、使い魔ってあんなに感情豊かなんですね」


「えーっと、うん、そうなんだ……はい」


 他の使い魔の感性を知らないので曖昧にしか返事ができない。レイン・ゴースト達はウサギ屋で黙々と仕事を続け、今の所休んだことは一度も無い。彼らが他のユニークモンスターと違い、人間に近い感情表現をするので、今回の海水浴に連れてきたのだった。


 レイン。ゴーストの属性は【水】。海とは彼らにとって体を癒す楽園である。いくら『待て』と言っても止めることはできなかっただろう。海を見た瞬間の彼らは、まさに魔物モンスターらしい狂いっぷりで飛び込んだのだから。


「楽しそうだな、ミヤトさんの使い魔……」


「デスカント、お前が変な意地をはらなきゃ俺達は海で泳げたんだけどな……」


「だって! だってあんな素敵なお姉さんが来るなんて聞いてねえよ!」


 キキョウは言えなかった。その綺麗なお姉さんとは現在恋仲であり、彼女の発言は本当に冗談で真に受けることはセルフィの思惑通りになっていることを。


 ここでサマエトが隣の宮兎の顔を覗き込んで、「ところで知っていますか?」と話題をふる。


「この島は元々【幽霊船ゴーストシップ】と呼ばれたユニークモンスター討伐のために開拓された島ってことを」


幽霊船ゴーストシップ? キキョウさん知っていますか? 俺は初耳なんですけど」


「いや、俺も同じく。興味はあるな」


 幽霊船の話はデスカントも知っているようで、大きく頷いている。彼らの話を要約すると――幻のモンスターと呼ばれたのが幽霊船ゴーストシップの名称で呼ばれているらしい。


「幽霊船――今からおよそ100年前に突如現われたモンスターの名称です。このモンスターはステラスコープを使用しても名前、レベル、特性のステータスは一切見ることができませんでした」


「だから名称なのか」


「その通りです、師匠」


 ステラ・スコープで確認できることは【名前】、【レベル】、【特性】の三種類。幽霊船は全てが文字化けし、確認が取れなかったという。


「最初の出現場所がこのビーチだったらしいです。始めはただの海賊船か、はたまた沈没船の残骸か、姿かたちは【船】――モンスターと判断できないほど見事な造形だったそうですよ」


 サマエトの語るように幽霊船は【船】であったという。だが、異変に気づいたのはその船から【鳴き声】が轟き、大砲、アンカー、はたまた樽までもが島の人々に降り注ぎ、大量虐殺を始めた。


「当初の書物には【天から降り注ぐ鉛の雨、さかずきを交わす樽、命をつなぎとめる縄でされ、我々に襲い掛かった】と記されています」


 幽霊船へ乗り込んだ冒険者も現われた。だが、彼らが帰ってくることは二度と無かった。船の餌となり、骨組みとなり、呪われた水夫へと転換される。


「なんだか、気持ち悪いな」


「ミヤトさんの仰るとおり、歴史上もっとも残虐なモンスターと認定されてるからなあ。冒険者の肉と血を自らの素材へと変換し、余った材料で戦士を作り出す。被害もこの島だけではなくて、多くの港がやられたって話だ」


 幽霊船を討伐するため、アルムント家がこの島の拠点を作り、およそ2年に渡って討伐作戦が決行されたのだ。作戦の犠牲者は1000人を超え、ガラドンドの父も幽霊船に飲み込まれたとされている。討伐された後はエンカウントすることはなく、【幻の魔物】として語り継がれていた。


「スタイダストでも有名な話なんですよ。心配されているのはこの幽霊船がまた現われないか。もし、出現することがあれば王都が全力で討伐することになっています」


「クエストとして発注されない……ってことか」


「はい。あまりにも危険ですので。ワールドモンスター級の扱いを受けるのですが、何せヴァルハラで未だに一回しか現われなかったのですから――レベルの確認ができません。レベル500以上なのか、それ以下なのか。ユニークモンスターの枠で収めていることが僕は不思議で仕方ありません」


 宮兎は少しばかり興味が湧いていた。


「当時の冒険者はどうやって幽霊船を討伐することができたんだ?」


「それはですね――」


 サマエトが説明を始めようかと、口を開いた瞬間――後ろから宮兎に誰かが抱き着いてきた。周りの男達はギョッと表情を変え、本人は何が起きたのか理解できず息を短く吸い込んだ。


「やっほー、着替えてきたよ」


「りゃ、リャーミャちゃんか……」


 抱きついてきた人物はリャーミャだった。薄い水色の水着――上がキャミソール、下がタンクトップのようになっており、露出が少ない。歳にあった可愛らしい水玉模様はリャーミャのイメージにぴったりだった。一瞬、宮兎はここには来ていないレジニーかと疑った。


 一応、誘ってはいた。


 ただ、クエストで忙しいのどうのこうのと理由をつけられて来なかったのだ。ただ、宮兎もそうだが、ティナもアスティアも後から絶対に来ることを確信している。理由を聞かれれば、宮兎にどのような水着が好みなのか必死に質問していたからだろう。宮兎は適当に流していたが。


「あらあらお待たせ」


 セルフィの声に男性陣が振り向いて――サマエトとデスカントが両手で拳を作って「よしゃああああ」と叫んだ。キキョウと宮兎のリアクションはさほど高くは無い。


 リャーミャを背負いながら、宮兎は立ち上がる。

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