1話 青年、計画を練る
がんばったー!でも明日から俺、テスト期間なんだぜ?
皆さんは100円ショップはご存知だろうか? 近頃は雑貨だけではなく、食品なども取り扱い品揃えのよさも魅力的だが、なんと言っても均一100円(税抜き)で商品が売られていることが最大の要、つまり武器といえるだろう。
日本で初の100円ショップ――に近い商売が始まったのが1926年(大正15年)だといわれている。「十銭ストア」といわゆる営業形態で大阪に設置したことを皮切りに大阪、京都、名古屋、東京周辺へ展開していったという。
それが現在では多くの企業が参加し、一大事業となった。
もちろん100円ショプは日本だけではない。アメリカやデンマークにも存在し、世界中の人々に愛されるお店でもあるのだ。外国人観光客達も日本のコンビニや100円ショップは大好きだと語ってくれる(個人調べ)。
日本人も外国の方々も大好きな100円ショップ。それはつまり、時空を超えて――異世界の方々にも愛される存在……のはずなのだ。
「というわけで、アスティア。100ゴールドショップをはじめようかと思う」
「…………さっきのスキルを使って気でも狂いましたか?」
「ひどい言われようだ」
あれから一時間ほど、【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】について語り合い実験を続けた。知識が流れ込んでこようとも、やはり実践を積まなければ不安が残る。気になることは全部やった。そして結論が出たのだ。
【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】――この魔法の特徴は【完成品】のことを知っていればどんな【素材】であろうと作り上げることが可能なのである。その時使われるMPは【完成品】のランクや【素材】の品質に大きく関わってくる。
試してみたところ、この世に存在するのかどうかも怪しいとされる御伽噺の産物、【聖神剣――イクス・ジャベリン】で検索してみたところヒット。【石ころ】計算で1000000個を要求された。ただし、このとき消費されるMPは計り知れない。宮兎が思うに【MP】だけではなく、生命力、気力などといった命に関わるものも一緒に吸い尽くされているのではないかと語る。
【マリンズ・ロッド】を創造したときに感じた脱力感の正体はそれだと予測する。MPを消費してもあのような疲れは表れない。ステータスに表示されていない【HP】が同時になくなっているのである。
もしかすると【聖神剣――イクス・ジャベリン】を創造し、その瞬間命を落とす危険性もある。諸刃の剣とはこのことかもしれない。
よって宮兎が、【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】で作れるのはランクの低いアイテムばかりだ。だが、別に悪いことだけではない。宮兎はあることに気づく。
「つまりだ。この魔法はランクの高い素材1個で錬成するとランクの低い完成品が数個できるメリットがある」
「それを利用して安い原価で大量のアイテムを売ろうと?」
「レアアイテムを売るわけじゃないさ。雑貨屋さんだよ。ほら生活用品とか売っているお店があれば便利だろ?」
「確かにそうです……ね」
アスティアは口へ運ぼうとしていたスープを一旦皿へもどした。
二人は今、昼食を取っている。スキルの実験で遅めの朝食となったが、教会の奥にある客室で向かい合う形で食べていた。スープとパンだが、アスティアは食欲がないのかなかなか進まない。
理由はやはりあのスキルによって宮兎の状態が悪くなったことだろう。今は元気そうだが、【マリンズ・ロッド】を創った時の顔は蒼白だった。白い肌が一層白く見えたのだ。
理由はもう一つある。
「ミヤト、もう冒険者はやめてしまうのですか?」
「うん? あー、だってレベルもカンストしたし、最難関のダンジョンもクリア。人間同士の格闘技には興味がないし、とりあえずは商売でもして今後を考えようって」
これだ。アスティアは宮兎に冒険者を辞めてほしくないのだ。彼女にとって冒険者は夢であり憧れ。宮兎がダンジョンやクエストから帰ってきて話してくれる土産話を聞いている時がなによりも幸福だった。宮兎自身が活躍する話はどれも彼女の心を高ぶらせて、想いを強くする。それがなくなる――胸にぽっかり穴が空いたようだった。
「…………冗談、冒険者はやめない。だけど毎日は行かないからな? 週1ペースで適当にクエストでもダンジョンでもユニークモンスター討伐でも行くよ」
「本当? 本当に本当ですか?」
「だから! そんな顔するなって。いつか俺と一緒にダンジョン攻略を目指すんだろ? お前の夢はいつかか必ず叶えてやるから」
「…………はい!」
宮兎は笑顔で返事を返すアスティアを見てヤレヤレと微笑む。アスティアがいつの日か宮兎に語った夢。それを現実にさせるには冒険者はしばらくは辞められない。肩をすくめて、宮兎はパンをかじった。
「でも商売はするからな。期待しとけよ? 来月の寄付金は2倍以上になってるはずだ」
「心配しなくてもいいのに。ミヤトのおかげでスタイダストの教会もかなり助かってるんだから」
「遠慮するなよ」
教会といえど現状を維持するにはお金が必要である。預けられる子供達や、ホームレスへの援助、孤児の教育などなど教会も仕事は盛りだくさんだ。そこで宮兎はダンジョン攻略やモンスタードロップで手に入るあまった素材などを現金に変えて教会へ寄付している。別に宮兎だけが行っているわけじゃない。余裕のある冒険者達は日ごろの感謝をこめて教会へ寄付をするのだ。
「ところでどんな物を売るの?」
「……問題はそこなんだよな」
「ええ………」
呆れているアスティアに宮兎は申し訳なさそうに笑う。
そもそも何故100円ショップなのかと言うと彼が日本でアルバイトをしていた時、働いていたのが100円ショップだったからだ。一年近く働き、ある程度のことは把握している。知らない仕事を始めるより、知っている仕事を始めたほうが効率が良いと思ったからだった。
他にもこの異世界【ヴァルハラ】では100円ショップという存在を宮兎は見たことがなかった。いや、雑貨屋が極端に少ないのだ。武器屋や防具屋は言わずも分かるが、道具屋に日用品はほとんど置いておらず、冒険者達向けのアイテムばかりだ。
食器は基本的に120から80ゴールドが平均的な値段だ。ただし模様や造形が珍しいものは高級品とされてあまり出回らない。また、宮兎のようなアルケミストのジョブにつくものは素材を集め、日用品を作るがその素材があまりにも多すぎるために、こちらも市場に出回ることはほとんどない。宮兎が着ている服でさえ、素材を集めるのに二ヶ月以上はかかった。
「悩んでいるのなら人に聞くのが一番です。食事をしたら私と一緒に街へ出かけませんか?」
「お、助かるよ。でも教会を空けて良いのか? もし客人とか来たら困るだろ?」
「今日は【赤い影】を称える祭りの日ですよ。誰もダンジョンや冒険には行きません。昇華の儀を行うことはないでしょう」
「あー、そういえばそうだったな……」
やけに外が騒がしいと思えば原因は自分だった。
「初めは鍛冶職人のジェルズさんの所へ行きましょう」
「おっちゃんならいいアドバイスをくれそうだしな。噂じゃこの街一番の古株らしいぞ」
二人はワイワイ談笑しながら、ゆっくりと今後の計画を練り上げるのだった。
てことで一話終了です。今日の投稿も終わりです。
感想、評価気軽にまってますー。
※追記
食器の相場に関して変更しています。