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35話 青年、亡霊魔術師の話を聞く

あとがきに重要な更新に関するお知らせ

 突如現われたレジニーに宮兎とアスティアはちょっとだけ驚いた。もし、彼女が犯人だとしてこんなに早く姿を見せてくるなんて意外だったのだ。


「れ、レジニーいつからここに?」


「今さっきよ。今日は朝から雑魚の相手をしてきたの。それに2人とも顔色が悪いわ? どうかしたかしら?」


 わざとらしく首をかしげるレジニー。宮兎はアスティアを見つめ、この後レジニーにどのように接してあげればよいのか分からなくなった。助けを求めると、アスティアは小さく頷いてレジニーを見た。


「レジニーさん、お話をお聞きしたいのですが」


「お話? 別にいいけど、内容にもよりますね」


「実は……ミヤトの私物がいくつか行方不明で」


「ミヤトの? ふむ、話してみて」


 レジニーは真剣な表情に変わり、アスティアの話に耳を傾ける。どの程度まで話せばよいか分からず、ひとまずは靴下と下着、たった今Tシャツとズボンを盗まれたことを告白する。夜中に視線を感じたことは伏せておいた。無駄に話せば、何か重要なことを聞き漏らしてしまいそうな気がして。


「なるほど。話はわかりました。最初に私が疑われても仕方がない案件ですね」


「で、ではやっぱりレジニーさんが?」


「おや? アスティアはまだまだ私のことが分かっていないようですね」


 レジニーはコーヒーをひとくち飲んで、袖からシャキっとナイフをとりだす。2人はギラリとひかるナイフを見て背筋がゾクゾクと寒気が走った。愛おしそうにナイフを見つめた後、ゆっくりと立ち上がって宮兎に近づく。


「私だったら、靴下や下着などではなく――すぐさま心臓をいただきますね。だって、全部が欲しいのよ? ちまちまと物を盗むようなことは私の美学に反しますからね」


「た、確かにそうだけど……」


 答えた宮兎にぐっと近づいてナイフを優しく胸元へ押し当てる。プルプルと振るえ、涙を若干瞳にためこんで、小さく両手を挙げた。レジニーのナイフは宮兎を優しくなぞり、傷つけることはないが十分な恐怖心を煽ることはできている。レベル500の冒険者が涙目だ。


「アスティアちゃんにも分かってもらえたかしら? 私が犯行に及ぶとしたら――ミヤトの人生すべてを奪ってみせるわ。でもね、それじゃあ皆は幸せになれないでしょう? たくさんの種子を貰ってからね、ちゃんと頂くから」


「あ……はい……」


「納得してもらえたようで」


 レジニーはクルクルとナイフをまわして、華麗に袖に収めた。宮兎は弱弱しく座り込んで、口から魂が飛んでいきそうになった。


 アスティアも何度見ても慣れないものだ。


「それにしても犯人――私も見過ごすことはできませんね。勝手に犯人の最有力候補にされた挙句、愛している2人から疑いの眼差しを向けられたのでは……。ふふふ、興味が湧きました。私もこれから一緒に同行させてもらいますね」


「え゛? れ、レジニーは忙しいだろ? ほ、ほらクエストとか予約で一杯って聞いたぞ?」


「明日全て終わらせてきます。そわそわしなくても大丈夫ですよ? 殺しはしませんから」


 笑えない――宮兎とアスティアは実に笑えない状況に陥ってしまった。仮にレジニーが本当に犯人ではないとしよう。だが、汚名を着せられ、犯人が別に居るとしたら――間違いなく死人が出る。レジニーのことだ、口ではああは言うが笑って心臓を抉り取って潰し、死体は使い魔の素材にしてしまうに違いない。


 ウサギ屋の関係者が殺人を犯すのは非常にマズイのだ。ただでさえ、レジニーは毎日ウサギ屋に通って、多くの客が彼女をウサギ屋の関係者だと思っている。


 閉店に追い込まれる可能性も0ではない。


「ほ、本当に殺したりしちゃダメだからな?」


「ええ。ゾンビになれば死んでいても生きていることと同等の意味を成しますので、問題ないわ」


「大有りだよ! 頼むから本当にやめてくれ! ウサギ屋の未来がかかってるんだ!」


「ミヤトがそこまで言うなら、仕方ありませんね」


 残念と呟いて、レジニーはそれでも嬉しそうだ。こうしうて2人目の助手を手に入れたミヤト。ようやく本格的に捜査を開始することになった。





 3人は今回の事件――どのように犯行が行われたのか考えることにした。思いつく方法として、隠密系スキル、隠密系アイテム、はたまた転移系スキルと転移系アイテム。このどれかを使って行われたものと推測する。


「ミヤト、何か犯人に思い当たることはありませんか? こう、何かの力を持っているとか」


 アスティアからの質問には宮兎は思いつく限りの名前を述べる。レジニーがホワイトボードにその名前と理由を書き写していく。


「隠密系スキルだったら【アーチャー】をサブジョブにするツバキと、転移系スキルなら【上位魔術師(ハイ・マジシャン)】のティナ、アイテムで攻めるなら質屋のキキョウさん、錬金術師のサマエト、道具屋のリャーミャちゃんが有力かな?」


「セルフィもキキョウさんつながりでアイテムを手に入れることも可能です」


「それならデスカントとナノちゃんもサマエト経由でアイテムを貰えるな……。って結局全員容疑者かよ」


 呆れたものだ。こうして考えれば全員が犯人候補である。するとレジニーがアスティアの名前を出した。


「アスティアちゃんは始めから犯人からはずすの?」


「んー、アスティアが流石にするとは思えないし……。そもそもスキルもアイテムも手に入れようがないと思うけど」


「キキョウ、セルフィ、アスティアちゃんの経由でもらえない?」


「あー…………」


「そこは否定してくださいよ! 私はき、興味なんてありませんよ!」


「ふーん」


 アスティアに意地悪な顔でレジニーは微笑む。彼女は知っている――アスティアが犯人ではないかもしれないが、宮兎への気持ちと、興味はないという言葉は嘘だということは。レジニーがアスティアの寝室にお邪魔した時、昔宮兎が使っていたハンカチが置いてあった。


 本人に聞けば昔――とある事件の時にもらったものだと。


 嘘か本当か――まあ、彼を思って顔を押し付けるぐらいはしているだろうと勝手に妄想を膨らませるレジニーにとって、アスティアも犯人候補の1人だ。


「とにかく! 私ではありません! 私なら……その、別にいつでも会えますし……紛らわしいことはしません……」


「紛らわしい? んー、どういうこと?」


「ち、違うんです! 深い意味はないのです! れ、レジニーさんもそんな顔で笑わないでください!」


「あら、ごめんなさい。あまりにも可愛いので、服を脱がして愛してあげたくなりました」


「……レジニー、本当にお前は無差別だな」


「失礼ね。私の中で愛し合えるのはミヤトとアスティアちゃんだけ。ティナちゃんも一応候補だけど、まだまだ怖がられているかもうちょっと様子見ね」


(俺も毎回、心臓狙われて気が狂いそうなんだが……)


(毎朝裸でベッドにもぐりこまれるの、心臓に悪くて怖いのですが……)


 彼女の言葉に驚きと不安と冷静な批判ができるあたり、2人の精神力は成長している。いや、レジニーからの恐怖に慣れることは成長より麻痺に近いのかもしれない。


 レジニーは構わず、ホワイトボードに書かれた人物をいくつかのグループに分けた。


「私が思うに、複数人の可能性も捨てきれないわね。例えばセルフィとキキョウ、ついでにツバキの枠。デスカント、サマエト、ナノの枠。これはいっぺんに話を聞いたほうがボロが出るかもしれないわ」


「なら、まずはティナから話を聞くか。複数犯じゃない可能性――1人だとリャーミャちゃんかティナだからな。今度の休み――日曜の午後に2人に話を聞こう」


「分かりました。ですが、その間にまた犯行が行われる可能性もあるのでは?」


「それならいい案が私にあるわ」


 レジニーは自信満々に宮兎を指差した。


「しばらく、私とアスティアちゃんでここに泊まるの。そうすれば犯人は警戒して立ち寄らないわ」


「え? で、でもそれだけで効果がありますか?」


「もちろん。人の目が増えれば、犯人が動きづらい。また、犯行が行われれば隠密系スキルではなく、転移系の可能性が高い。これだけの人数を掻い潜るのはそれこそレベル400超えのスキル所持者じゃないと無理よ」


 レジニーの言葉に、宮兎は頷くも少しだけ不安もあった。


「お、襲わないよな?」


「安心しなさい。ミヤトの寝室には私とアスティアちゃんが寝るから」


「え? ちょ、ちょっとレジニーさん! 流石にそれは――」


「よし、人柱になってくれ!」


「み、ミヤト……それはないですよ……!」


 こうしてしばらく、ウサギ屋に2人の少女が寝泊りすることになったのだが――犯行は再び行われるのだろうか? 宮兎は考えつつ、布団があったか確認するために寝室へ向かった。

お知らせです。

一昨日で連載1ヵ月が経ちました。

そろそろ毎日更新をやめて週に2回に切り替えようかと思います。

毎日書いて、なかなか案がまとまらない時もありましたので、ちょっと休憩しながら書きます。

楽しみにしてくださる読者の皆さんには申し訳ありません。


これからも頑張って完結まで持っていくので、応援よろしくお願いします。

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