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34話 青年、小さな歯車が壊れる

この編は一話がかなり短めになりますね

 夏――スタイダストに暑い季節がやってきた。空からこちらを見つめる太陽は人を馬鹿にしたように長い時間、地上を暖める。この時期になると冒険者も火山地帯や砂漠地帯へのクエストへは行かなくなってしまう。そのため報酬が倍近く跳ね上がることも。


 ウサギ屋でも夏を感じさせる小さな変化があった。まずは宮兎の服装だろうか。長袖のカッターシャツが半袖になった。店の品々も【サマーキャンペーン】と題して、浮き輪やゴーグル、うちわ、汗拭きタオル、麦藁帽子などなど新商品を展開していた。


 スタイダストも、ウサギ屋も変わり――日常も何かが変わり始めていた。


 そう――最初は小さな変化から。


「あれ? おーい、誰か俺の靴下知らない?」


 タンスからくるぶしまでの長さ――スニーカー用ソックスを探しているのだが、見つからない。青、黒、白と三足作って置いたのだが、どうやら穿こうとしていた白がないらしい。黒は昨日穿いて、青はベランダで乾燥中だ。よってタンスの中には白色が余っているはずなのだが。


 廊下からレイン・ゴースト達が順番に首を振って「知らない」と伝える。宮兎ももう一度タンスの中を確認するが――見つかりそうもなかった。諦めて別の物を履いたが、納得できなかった。


 これが最初の歯車だった。


 更に次の日――。


「おっかしいな……。パンツが足りない」


 お風呂へ入ろう――いつものように下着を取り出そうとタンスを開ける。不自然に空いた穴があった。下着と下着の間に謎の空間がある。もう一枚収まりそうな綺麗な空間。流石にこれには宮兎も異変に気がついた。靴下が1セットないのは気にならなかったが、下着は違和感がある。


 突如、頭の中で【危険予知A】のパッシブスキルが発動した。体がザワリ――寒気を感じる。アサシン特有のすばやい動きで窓まで近づいて、カーテンを開ける。


「誰だっ!」


 誰も――いない。【危険予知A】はモンスター、または他の対象から【視線】を感じた時に発動する。このスキルが発動した――つまり、誰かが宮兎を見ていたのだ。アサシン職では相手を【察知】できても完璧な場所まで【特定】はできない。


「…………」


 無言でカーテンを閉めて――何か対策を考えよう――彼は静かにことの重大さを感じ始めていた。





「アスティア、もしかしたら俺は誰かにストーカーされているかもしれない」


「……え? 犯人はレジニーさんではなくて?」


「いや……それはそうなんだけどさ」


 休日を使って今回の事件――『ミヤトのストーカー被害』を解決するために、アスティアが呼ばれた。宮兎の考えでは、いくらレベルが200を超えようとも、シスター職のアスティアが隠密行動が取れるわけがない。最初から犯人枠から彼女を外し、助手として呼び寄せた。


 だが、助手は呆れているのか――犯人であろう人物の名前を言う。


「レジニーさん以外ありえないと思うのですけど」


「勝手に決め付けるのは流石に失礼だと思って言わなかったのに…!」


「近頃は週1ペースでベッドに潜り込まれる私の気持ちにもなってください。犯人はミヤトの目を盗んで靴下や……し、下着まで盗み出したのでしょう? このリビングを通り、廊下を通って寝室まで行く。これがどれだけ困難なことか分かっていますか?」


「お、おう」


 アスティアの主張はもっともなものだ。夜になれば1階に用はないので全員が2階へ揃う。クロ、シロ、モーノは基本的にリビングや廊下、はたまた宮兎の寝室で自由気ままに睡眠をとっている。実際は【睡眠】ではなく【休憩】なのだが、彼らにとってソファ、廊下、寝室のハンガーラックでぼーっとすることはたいして変わりはない。そこを通ることは決して不可能に近い。3体の誰かが絶対に気がつく。


 いい例があるではないか。【ディアブロ盗賊団】はリビングに足を踏み入れてしまった所為で、空中につるされ、おもちゃの拳銃を頭に突きつけられ、身包みも剥がされて追い出された3人組が。睡眠を必要としない絶対の警備――これを掻い潜るには並大抵のスキルでは不可能だ。


「壁のすり抜け、亡霊を扱えること、ミヤトへの異常な執着心。誰に聞いても犯人は彼女です」


「最近は俺じゃなくてアスティアにお熱だけど……」


「……言わない約束でお願いします」


 アスティアもレジニーの被害にはたいそう困っていた。勝手に裸で寝ている、気がつけば後ろにいる、セルフィとなにやら意気投合したのか2人の行動が怪しい、それこそストーカーの被害のあっているのはアスティアの方だった。


 だからといってレジニーの愛がミヤトへ向かなくなったわけではない。何度も裸で言い寄られ、その度にナイフで服をボロボロにされる。


 2人は思い出して溜息を吐いた。


「ま、まあ。やっぱり一度話は聞こう。証拠があるわけでもないし。一応、他にも犯人の目星はありそうだし」


「ミヤトがそう言うなら……」


 宮兎はアイテム覧から手帳とペンを取り出して、スラスラと日本語で文字を書き始める。アスティアは宮兎から貰った伊達めがねをつけて日本語を読む。知っている名前がずらりと並んで、これだけの人数に話を聞くらしい。熱心なことだとアスティアは思う。


 本人は一度でも【探偵】をやってみたかったのだ。犯人が誰であれ、物を返してくれるならそれでいい。とはいえ犯人はほぼ2人の中では決まっているようなものだ。


「ティナさん、キキョウさん、ツバキさん、ナノさん、サマエトさん、デスカントさん、セルフィにリャーミャちゃんまで? レジニーさんが最後……」


「この中に犯人が居ない場合もあるからな。……居ない場合もある、はず」


「最後に不安が残りますね」


 アスティアとしてはレジニーを覗いて全員白だ。ただ、サマエトの錬金術は未知の転移系アイテムを作り出したのかもしれない。はたまたセルフィがレジニーと手を組んで悪戯をしているのか。しかし真っ黒はレジニーのみだ。


「ところで他に何か被害はなかったのですか?」


「んー、気づいたのは靴下とパンツだけかな。まあ、まだ被害が小さくて良かったと――」


 アスティアを見ていた宮兎の動きがとまる。顔色が徐々に悪くなり、勢いよく立ち上がる。ずかずかと立ち上がってソファーに近づいた。


「ないっ! 俺のTシャツとズボンが無い!」


「え?」


 アスティアは振り向いて確認する。宮兎によると洗濯物を畳んでソファーの上に置いていたらしい。ズボンが2枚とTシャツが3枚。確かにここにあった――宮兎はそう証言した。


「アスティアが来る前まではあった……。話している途中も確かに……」


「見間違いではないのですか? 勘違いかもしれませんし」


「それは絶対に――ない」


 宮兎は青い顔のままアスティアを見つめる。視線の意図――アスティアは宮兎が何を伝えたいのか、少なからず感じ取れた。


「わ、私ですか!? 違います! ミヤトの物を盗ったりしませんよ!」


「い、いや……でも……」


「絶対に違います! アイテム覧を見せてもいいです! 絶対に私じゃありません!」


 アスティアの焦り方は――正直、嘘や真実と見分けることはできない。この場では「わ、わかったよ」と答えたが、内心では疑っている。まさかアスティアが俺の物を……? だが、アイテム覧までを見せて良いといった。よっぽど自信がある。他人に自分の持ち物を見せるのはなかなかに勇気がいる。


「とにかく、レジニーさんに話を聞いて事件を早急に!」


「レジニーは最後だ。じゃないとおも――」


「あら、呼びましたか?」


 ぎょっと2人の表情が変わる。声のする方向へ顔を向ければ――椅子に座って優雅にコーヒーを飲む第一候補レジニーがコーヒーを飲んで、満面の笑みを見せていた。

おっと、犯人最有力候補が突然あらわれた!

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