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30話 亡霊魔術師、名乗る

ブックマーク8000人突破記念と昨日誕生日で言うの忘れてたぜってことで今日はもう一話投稿!

レジニーさん、そりゃヤバイよ。

 リビングの机に向かい合う四人の男女。たった1人の男――宮兎の隣にはいつもならアスティアが座っている。今日は変わりにエルフの銀髪少女――レジニーが当然のような顔で鎮座していた。アスティアは宮兎の目の前に腰を下ろし、ティナはレジニーの正面の席に座った。


「えっと……こちらが、噂の【精華のレジニー】こと、レジニー・メルゲナリーさん……です」


 顔面蒼白の宮兎が震える手でレジニーを紹介する。アスティアとティナはどのようなリアクションをとることが正解なのか分かっていない。なんとも微妙な表情で宮兎とレジニーを交互に見比べる。


「はじめまして。私がレジニー・メルゲナリー。見ての通り、エルフ族で亡霊魔術師(ネクロマンサー)をやっているわ。よろしくね、アルムント家の三女さんに、リーリフェル教会のシスターさん?」


 名前ではないが、自らの所属している場所を言われぎょっとする2人。レジニーは気にすることなく、ゴスロリチックな服装にあったオシャレなマグカップでコーヒーを一口飲んだ。黒バラの模様つきのマグカップはレジニーの私物である。おいしそうに飲み終えると、頭の上に乗っかる小さな王冠を手にとって、マグカップが吸い込まれてしまった。呆然と3人はレジニーの小さな王冠へ視線を送るが、本人は気づいていないようだ。


「どうして私が貴女方の素性を知っているか、疑問のようですね」


 レジニーはにっこりと笑い、ティナを見つめる。


「貴女のお兄様とお姉様のご活躍は私も知っています。同じパーティーを組んだことはありませんが、王都では名高い冒険者です。目元とその金髪、御兄弟皆そっくりですね」


「あ、ありがとうございます」


 勢いに定評のあるティナがやけに大人しいのは、相手がレベル400の冒険者――だからではない。先ほど、宮兎が半裸にされていた惨状を目の当たりにして未だに動揺しているからだった。ティナの頭の中では、可憐で、優雅で、お淑やかなイメージが崩れ去っていく。


「そしてリーリフェル教会のシスターさん、名前はアスティアだったかしら?」


「は、はい! その通りです……。よく、ご存知ですね」


「ミヤトからお話は聞いていましたから。優秀なシスターだとお伺いしています。ふふふ、そしてなんとも可愛らしい」


 ゾクゾクゾクっとアスティアの背筋に何かが走る。直感で分かった。この人は深く関わってはいけない人なのではないかと。だが、アスティアの中でレジニーの言葉が気になたった。


「ミヤトと親しいようですが……。2人の関係は……?」


「そうね。関係……難しい質問ね。私と彼が出合ったのはまだお互いがレベル200の頃かしら? パーティーを組んで、ダンジョンの攻略に勤しんでいたわ」


「そうだったのですか」


 なんともまともな答えが返ってきたので、アスティアとティナの顔色が少しだけ元に戻った。これで元恋人なんて言われた日にはどうなっていたのだろうか。


「ま、今は――」


 レジニーの右手がゆっくりと伸び、袖からナイフが飛び出す。刃はミヤトの首元に当てられ、本人は反射的に両手を大きく上げた。2人の少女も突然のことで反応が遅れ、ぼけっと見ているだけだった。顔から滝のように汗があふれ出る宮兎と、頬をそめてうっとりと顔を近づけるレジニー。


「今すぐにでも心臓をえぐりとって、私のお人形さんにしたいほど愛していますわ」


「レレレレレレレレレ、レジニーさんやっ……! 落ち着こうっ! 一旦落ち着こう!」


「ふふふふ、冗談ですわ。まだ貴方の子供を授かっていませんからね」


 レジニーが袖にナイフを収納すると、宮兎はバタリと机の上に体を派手に倒した。アスティアとティナはにっこり微笑むレジニーに憧れから恐怖に変わる感情を植えつけられてしまった。


(な、なんなんだこの人は……っ!?)


 アスティアはくねくねと気を失いかけている宮兎に抱きつくレジニーを見て、率直な感想を心の中で述べた。するとティナがゆっくりと立ち上がって、宮兎と同様に真っ青な顔で小さく頭を下げた。


「わ、わたくしはこれからクエストがありますので……。今日はこの辺で……」


「あら、残念です。もう少しお話したかったのに」


「い、いえ……。わたくしも早く貴女のように強くなろうと思いましたので……」


「そうですか。なら、お気をつけて」


「ありがとうございます……」


(ティナさん上手く逃げたな……)


 ゆっくりと去るティナの後姿を見てアスティアは自分もどのようにしてこの空間から宮兎と一緒に脱出しようかと考えていた。レジニーと2人っきりにさせるのはかなりマズイと判断できる。明日の朝会いに来て亡霊人形ゴーストドールなぞになっていたら責任感で死んでしまいそうになるだろう。


 と、レジニーがアスティアをじっと見つめて再び笑った。何を言われるのか全く予想できない彼女は思わず身構える。


「そんなに硬くならなくてもよろしいですよ。やっと、3人になれましたね。アスティア・リーリフェルさん」


「……どういう意味ですか?」


「決まっているじゃないですか。この3人――共通していることは【赤い影】の正体を知っていること」


「っ!」


 アスティアの顔が今まで以上に険しくなる。逆にレジニーは何がおかしいのか「うふふふ」と上品に笑って、うつ伏せの宮兎に問いかけた。


「ミヤト、貴方のお話どおりとても可愛らしいシスターさんですね。こういう娘は大好物です」


「おい、アスティアに変なことするんじゃねえぞ?」


 宮兎が先ほどと比べ物にならないほど真剣な声でレジニーに話しかける。だが、まだきついのか体は横になったままだ。首だけがレジニーの方向へ向いている。


「何もしませんよ。ただ、【赤い影】の専属シスターがどんな娘なのか興味があっただけ。貴女も私のお人形さんにしてあげたいけど、人数制限があるの。ごめんなさいね」


「……………レジニーさんは、どうしてミヤトの命を狙うのですか?」


「難しいことじゃないわ。私は彼を心から愛している。私が死ぬまで、傍に置いておきたい。そのためには【亡霊人形作成術ゴースト・ドール・メイカー】のスキルを使って、彼をゾンビにしたいの」


「絶対に嫌だぞ! 俺はあんなウーウー唸るだけの怪物なんかにならねえからなっ!」


 スキルの名前を聞いた瞬間、無意識に【シャドウ・ステップ】を使いアスティアの後ろに隠れる。彼なりに真剣だが、レジニーへ反論はこれが精一杯である。


「アスティアさんには話していませんでしたが――まあ、ミヤトと私だけしか知らないことですが、彼が【赤い影】となるその直前まで2人だけのパーティーを組んでいました。私は昔から才能があり、自分のレベルに見合った仲間を見つけることができなかったのです」


 レジニーも所謂、天才である。幼い頃から数多くの【スキル指南書】を読み、冒険者デビューをする前には既に30を超えるスキルを身につけていた。流石にソロで活動する実力はなかったが、どのクエストも彼女にとってはお遊び程度だった。


「ですが、ミヤトと出会い――世界が変わりました。彼は、どんなにつまらないクエストでも、どんなに手ごたえの無いモンスターでも、楽しく、嬉しそうに、世界を愛して冒険をしていました」


「それは……私にも、分かります」


 宮兎にとってここは――異世界。全てが新しい発見で、全てが彼の知恵となり生きていく目標となった。冒険者としての生き方を、ヴァルハラの住人以上に【満足】していた。それが彼がソロでも生き延びることができた大きな要因である。


 決して手を抜かない――決して初心を忘れない――決して諦めない――そして、世界を楽しむ。


「アスティアさんとは良い関係になれそうです。ええ、それはミヤトには及びませんが。彼が私に与えてくれた冒険者として【生きる意味】――私が王都へ派遣されることになってパーティーは解散。1年ほど前にスタイダストに戻って、彼が【赤い影】と呼ばれるほどの実力を身につけたとしり――私は歓喜と感謝、嫉妬と愛に溺れました」


 レジニーの顔が――変わる。


「先ほどの質問、もうすこし詳しく言えば――私はミヤトの愛が欲しい。彼が与えてくれた蜜はこの世界のどこにもない。なら、また彼から貰うしかない。彼の子供と、そして死ぬまでずっと一緒に亡霊として傍にいてくれる――ああ、なんて素晴らしいっ!」


「……ミヤト、レジニーさんって昔からあのような雰囲気なのですか?」


「昔はもっと真面目な子供だったんだけどな……。【赤い影】を名乗り始めて、偶然再会してさ……。一回クエストに行ったら、その日の野宿で襲われてからずっとあの調子。何度貞操と命の危険を感じたことか……」


 宮兎の声は若干震えている。アスティアは弱弱しい宮兎の姿を見て、同情することしかできない。溜息を吐いた瞬間、レジニーがおもむろに立ち上がって――服を脱ぎだした。


「ぶふっ!?」


「れ、レジニーさんっ!? 何故服を脱ぎ始めるのですかっ!?」


 噴出す宮兎と顔を真っ赤にそめるアスティア。レジニーは聞こえないのか、いや確実に聞こえているが無視して服を脱ぎ捨て、頭の王冠もテーブルの上に載せた。かなり際どい黒の下着に、黒いハイニーソックス、靴は脱いで腕を大きく広げた。


 レジニーの瞳がトロンっとしている。


「私ね、可愛い女の子も平気なの。大丈夫よ、私が2人とも愛してあげる。だって【赤い影】を作り出したのはアスティアさん――いいえ、アスティアちゃん。貴女と言っても間違いではありません。そんな素晴らしい女の子を愛せないなんて――ああ、なんて罪深いのかしらっ!」


「……ミヤト、逃げましょう」


「賛成だ……っ!」


 椅子を蹴っ飛ばして一目散に部屋を出る。後ろからは「あー、待ってくださーい」と艶かしい声でレジニーが呼んでいる。もちろん、2人は足を止めるはずはない。


 階段を降りて、バックルームからお店の方へ出る。数人のお客さんが買い物をしており、レイン・ゴースト達がせっせと働いていた。


「あれ、ミヤ坊。見ないと思ったら2階にいたのか」


「アスティアー、やっほー」


 キキョウとセルフィがレジ横に設置された【モンスターキーホルダー】を見ていたが、2人が出てきたことに気がついて声をかけた。何時もなら挨拶をして、雑談でもするのだがそんな場合ではない。


「すまん、キキョウさん! また後で!」


「セルフィも後ではなしましょうっ!」


「お、おいっ!」


「アスティア? どうしたんだろう、2人と――」


「お待ちになってーっ! 2人ともー!」


 ウサギ屋を出て行った2人と入れ替わりで、バックルームから下着姿のレジニーが出てくる。キキョウもセルフィも、レイン・ゴースト達も、他の客達も目を丸くしてレジニーを見つめた。お構い無しに、彼女もウサギ屋を出て行く。


「お、おい……セルフィ見たか?」


「今のは……【精華のレジニー】っ!?」


 ウサギ屋がざわつき始めると同時に、スタイダスト全体が今度は騒がしくなった。それもそうだろう、あのレベル400の少女がハイニーソックスと下着だけの姿で雑貨屋の店主とシスターを追い掛け回しているのだから。


 こうして、この日【精華のレジニー】はスタイダストへ帰還し、明日の朝刊の一面となった。むろん見出しは【精華の少女――愛に迷う】と書かれた。


 この後の2人はどうなったか。この状況を打破するためにギルドへ向かい、受付嬢に助けを求めた。ギルドはレジニーがやってこないと分かり、人はいつも通りの人数に減っていた。ギルドへやってきたレジニーはその場で騎士団と数人の冒険者に取り押さえられ、強制的にギルド寮へ連行された。


 匿ってもらった宮兎とアスティア――レジニーが連れ去られる瞬間に――


「明日も顔を出しますねぇー!」


 ――と、大声で言われて、更に顔を青くしたのは2人以外誰も知ることは今後なかった。

てことでブクマ8000人ありがとうございます!

感想もたくさん貰い、感謝感激であります!


もうちょっとしたらキャラクター紹介なんて書こうかと。どのタイミングか悩んでいますね。まあ、そのうち。


今後とも頑張りますので、感想、評価、その他諸々の意見お待ちしております!

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