表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/69

29話 亡霊魔術師、奇襲をかける

遅くなりましたね。

さて、今回からの章……色々ひどいですが、反省してません。

【亡霊魔術師帰還編】を生暖かい目でご覧ください。

 レベル500――カンスト勢、伝説と呼ばれた冒険者は歴史上77人。現在生きている人数は【赤い影】を含めて5人いる。彼らは生き残るために力をつけ、知恵を使い、賢く生き延びた。レベルをあげるのに一番重要なことは――生きて帰ってくること。死んでしまえばそこで終わり。冒険者の多くは無謀なレベル上げを懸念しており、生涯のうちレベル400にたどり着ける人物はごく僅かである。


 ギルドはなるべく危険なクエストや、レベルに合わないダンジョンへ行かせたりはしないように気をつけている。しかしだ、一部の冒険者は強欲、貪欲、力を常に求める者達がいる。ギルドの忠告を無視して自らのレベルにそぐわない敵と戦いたがる。そのために、冒険者の平均寿命が下がり続けているのはヴァルハラ全土で問題視されている。


 彼らを助ける手段として、ベテラン冒険者とパーティーを組ませることを推奨し、現実的に無理をさせないように監視させている。スタイダストでもレベル400台の20人と300越えの150人が監視役の務めを任されているが、やはり強さを求める冒険者は――命を捨てることを惜しまない。


 ただ、規格外の実力を持った冒険者は――常に余裕を見せ付けている。


「あーあー、今回もあっけないクエストでしたね」


 少女――たった1人の少女がつまらなさそうに呟いた。彼女の目の前にはレベル300越えの冒険者が2人と200台の冒険者が1人、体を振るえさせている。瞳に映る惨劇を受け止めるだけの強さはまだ持ち合わせていなようだ。


「こ、これがレベル400の力……っ!?」


「あ、ありえないわ……」


 男と女の言葉に、レベルの一番低い少年が無言で頷いた。少女の真後ろ――まるで、池のような血溜まりが出来上がっていた。モンスター達の体の部品が広範囲に散らばっている。血に映る月の輝きが――恐怖を倍増させた。モンスターの死骸の数は――断定できない。しかし、彼らの記憶によれば500……いや、それ以上居たのかもしれない。


 クエスト内容は集落を作り上げ、大量発生したオークの討伐だった。予定より、かなりの軍勢が襲いかかり、少女以外の冒険者は一旦逃げることを提案したのだった。だが――状況は一変する。少女が一言、たった一言スキルの名前を呟いただけで――軍勢の体はバラバラとなり、血の池を作り上げた。


「つまらないわね。雑魚が1000匹こようとも、経験値の足しにもならないわ」


 少女は目を瞑り、首を横に振る。パーティーである冒険者達の横を通り過ぎて、無言で帰り始めた。取り残された3人は振り返り、月の光に照らされた少女の姿を今一度確認する。


 黒と赤を基調にしたゴスロリチックな服装、頭の上には小さな王冠のついたカチューシャをはめ、キラキラと輝く銀髪。大きな赤色の瞳に、透き通るような白い肌。右手には大判サイズの分厚い魔導書、左手には服装に似合った黒い日傘。150cmほどの幼い小さな体に、少々とんががった耳。ぷっくりとした小さな唇。


 彼女の美しさ、可憐さ、優雅さ、その全てを称して――人々は異名で名前を呼ぶ。


「これが……【精華のレジニー】っ!」


 名前を呼ばれても、少女は足を止めることはせず、ひたすら夜の森を歩き続ける。


「やはり、王都での依頼はどれもつまらないわ。一度スタイダストに戻って別のクエストを受けなおすべきね」


 少女――レジニーはスタイダストから王都への派遣依頼を受けていた。王都の人手不足解消のため、各地から優秀な冒険者を集めてクエストを消費する類のものだ。クエスト1つで複数のクエストを受け持つ特殊なもので、選ばれた冒険者のみに許される行為である。


 スタイダストからはレジニーのほかにアルムント家の長男、長女が派遣されている。だが、どれもこれも彼女にとっては退屈なものばかりで、先日連絡があった【ブラック・オーガ】――【デーモンズ・オーガ】のような桁外れな難易度のクエストは回ってこない。話を聞けば、連絡が届く直前に討伐されたらしいが。


「ふむ、そろそろ彼にも会いたいし。決まればすぐに出発しよう。ニシシシシ」


 犬歯を見せて笑う彼女は――愛おしそうに1人の冒険者の名前を呟いた。


「ああ、今すぐ会いたいわ。ミ、ヤ、ト………いいや、【赤い影】さん。うふふふふ」


 少女の笑い声は、後ろから慌てて駆け寄ってくる3人の足音で掻き消されてしまった。





 宮兎は珍しく、暇を持て余していた。何時もなら開店と同時に数人のお客さんが来店するのだが、かれこれ30分は誰もやってこない。レイン・ゴースト達も品出しをしているが、あと10分もすれば仕事がなくなるだろう。レジ机に肘を突いて、ぼーっとドアを見つめる。


「暇だ……。てか、何故お客さんがこない? まさかとうとう飽きられたか?」


 彼が一番恐れていることだ。色々と商品にも工夫を施し、常に新商品を開発してきた。これも全てお客さんに逃げられないためだ。宮兎としては、ウサギ屋を閉店させるようなことになってしまえば、今後異世界で何を目的に生きていいのか分からなくなる。冒険者として生活することに問題はない――だが、刺激があまりにも足りない。


 ワールドモンスター討伐クエストなんて、10年に一度発注依頼がくれば良い方だ。【デーモンズ・オーガ】のようなイレギュラーが必ずある訳ではない。


「んー、それにしてもやけに外が騒がしい気が……。お祭りとかあったかな?」


 朝から外がなにやら騒がしい事には気がついていた。スタイダスト全体――ではなく、ギルドのある方角に人が集まっているようだ。様子でも見に行こうかと悩んでいると――店の扉がカランカランとベルを鳴らして開いた。


「いらっしゃ――って、アスティアとティナか」


「おはようございます、ミヤト」


「ごきげんよう。ここはいつも通りで安心したわ」


「いつも通り?」


 やってきたのはアスティアとティナだった。何時もと変わりない二人を見て、少しだけ胸を撫で下ろす。あの、銭湯での【覗き見事件】からどうにも2人に顔を合わせ辛かった宮兎は無意識に避けてしまっていたが、向こうから会いに来てくれたのは嬉しい誤算だ。


 それより、「いつも通り」と言うティナの言葉がひっかかった。


「今日はやけに外が騒がしいな。なんか祭りでもやってるのか?」


「違いますわ。まあ、お祭りのようなものでしょうが……。どこのお店も閉まっていて不便ですの」


「実は【精華のレジニー】がスタイダストに戻ってきたのですよ」


「え? れ、レジニーが?」


 宮兎の眉がピクリと動いた。2人は特に気にすることなく、会話を続ける。


「王都への派遣クエストの途中でしたが、どうやら一度戻って道具の補充に来たらしいですわ。彼女を一目見ようとスタイダスト中の人々がギルドへ押し寄せているとか」


「私も冒険者を目指すシスターとして、一目見てみたいです。だからこうやってティナさんと一緒にミヤトを誘いに来たのですよ?」


 【精華のレジニー】はスタイダストに所属する【もっともレベル500に近い冒険者】だ。現在のレベルは482。あと数年のうちにカンストするだろうと噂されている。彼女の異名は、その容姿が大きく関係しているだろう。美の血族とも名高いエルフ族の少女で、圧倒的力を持っている。【赤い影】より先に冒険者デビューを果たしているが、彼女も18歳という若い年齢で驚異的スピードでレベルアップをしているらしい。


 宮兎――赤い影と違うところは正真正銘、彼女は実力のみでレベルを上げてきた。彼女の類稀なる亡霊魔術は、一度の攻撃で1つの軍隊を壊滅させることもできる強力なスキルを所持している。一度の戦闘で10体のモンスターを相手にすることがやっとの宮兎と違い、彼女は一度に何百、何千のモンスターを狩ることができた。


「どこもお店は閉まっていますから、わたくし達も見に行きましょう。やはり、レベル400の冒険者は一度見ておきたいです」


「ほら、ミヤト。ぼーっとしてないで準備を――」


「あ…………わ、悪い! なんだか今日は調子が良くないみたいで……」


「本当ですわ。顔色がよろしくないですわ」


「真っ青ですよ? 大丈夫ですか、ミヤト……?」


「ああ、なんとか……。ちょっと2階に行って冷たい飲み物でも飲んでくる。行くなら先に行ってくれ……」


「は、はい。分かりました」


 一応アスティアは返事を返したものの、ふらふらとバックルームへ消えていく宮兎の後姿を見て心配になった。あれほど体調を崩した彼を見たのは何年ぶりだろう。【ザ・クリエイティブ―転生蘇生リザレクション―】で無理をした時以上に、きつそうに見えた。


「ミヤト……本当に、大丈夫でしょうか?」


「気になりますわね。貴方達、朝からミヤトはあのような感じでしたの?」


 いつの間にかレイン・ゴースト達も横一列に並び、主人の見えなくなった背中を心配そうにしていた。ティナの質問には一番近かったモーノが横にフードを振り、突然のことだったと分かった。


「しばらく待ってみましょう。まだレジニーさんがギルドに来ていないことを願って」


「そうですわね。様子をみましょう」


 店番もかねて2人は宮兎が降りてくるのを待つことにした。お客さんがやってくることもなく、宮兎が2階から降りてくる気配もない。本格的に体調を崩したのかもしれない。10分ほど待ったが、特に変化はなかった。


「一度2階へいきませんか? 流石に心配です」


「勝手に良いのでしょうか?」


「店はレイン・ゴースト達が見てくれますし、倒れていたりしたら彼のためにも――」


 それは突然だった。


 2階から何かが暴れたような、激しい音が1階へ鳴り響く。2人の少女は一瞬だけ顔を見合わせて、急いでバックルームへ向かい、2階への階段を駆け上った。





 時間は遡り、約10分前。宮兎は頭を押さえながら自室へと戻っていた。冷たいお茶を一杯飲んだが、気分は一向に晴れない。血の気が引いて、頭痛まで起こる。


「くっそ……【デーモンズ・オーガ】の時は仕方なく名前を出したけど、いざ帰ってきたとなると……。一度、横になって気分を変えなきゃ」


 敷きっ放しの布団へそのままの格好で潜り込む。上向きに寝て、部屋の電気を消す元気も湧かない。鼻から畳の香りがする空気を肺にたくさん吸い込ませて、心と体を落ち着かせようと深呼吸を始める。四回繰り返して、ようやく冷や汗がひいてきた。


「はあ……できればそのまま王都へ帰ってくれないかな。流石にもう、相手にはできない」


「それはどういう意味かしら?」


「いや、だってさ。あんなハチャメチャなことを毎回言われてちゃ俺の体がもたな――え゛?」


 ガバっと右横を振り向くと何故か布団の中にエルフの少女――レジニーが寝ていた。


「はあーい。ミヤト、お久しぶりね」


「っひぃぃ!?」


「あー、逃げないでよぉ」


 立ち上がって逃げようとすると、レジニーはミヤトに抱きつき動きを封じ込める。そのまま上向きに転がり、レジニーは宮兎にまたがって舌なめずりをする。同時に、部屋の電気が消えた。


「お、おまおま、おま、おま――」


「あらあら、久しぶりの再開なのにもうちょっと感動の言葉はないの?」


 暗闇の中でも分かる。宮兎は頭の中で色々と叫びたい言葉が溢れ、何から言えばいいのか混乱していた。どこから入ってきた? いつからここにいた? ギルドに居るのではないのか? スタイダストに何で返ってきた? それよりも――


(なんでコイツ裸なんだよっ……!?)


 電気が消えても分かる――レジニーの眩しいほど白い肌がどこも隠れていない。アスティアと同等の幼い体、身長も150cmと小さく18歳には見えない。かろうじて胸を隠している銀髪と紅色の瞳に目を奪われそうになる。


 布団の上で仰向けで寝ている青年に跨る未熟な裸の少女――絵的にはかなりアウトだ。


「っ! アスティ――」


「【ギガ・ショック】」


「はひんっ!?」


 助けを求めようとした時だった、レジニーは宮兎の首に優しく右手で触れて【ギガ・ショック】と唱える。【ショック系統】の最高位スキルで状態異常【マヒ】を高確率で与えることができる。ただ、彼女の持っている【魔女の刻印SS】というパッシブスキルで確立は100%になっているのだが。


「下の2人に助けを求めてもダーメ。ほらほら、諦めて私と気持ちいことしよう、ね」


(あああああぁぁぁ!? ヤバイ、非常にヤバイっ!?)


 舌が痺れてまともな会話はできそうにもない。体もしびれ、満足に抵抗もできないようだ。


「ふふふふ、可愛いわね。ミ、ヤ、ト」


 カッターシャツのボタンを全て外され、シャツがめくられる。露になった肌を見て、レジニーはうっとりと彼の胸元に顔をうずめた。


「ああん、ミヤトの匂い。生き返るわ。…………ペロリ」


「んぐぐぐうう!」


「こんなに汗をかいて、しょっぱい」


(こんの変態がっ!)


 それからも四つん這いになって宮兎の体をなめまくるレジニー、肌はべちょべちょになりテカテカと光沢しはじめる。夢中になっている今こそ、どうにか逃げ出さなくてはならない。


 痺れる体を無理やり動かそうとすると、右足の膝が曲がる。


「ひゃっ!」


(ガッデムっ!?)


 膝がレジニーのどこかにあたったらしく、レジニーは宮兎に抱きつくような形になった。もちろん裸の彼女と、半裸の青年――肌と肌がじかに触れあい、宮兎の意識がそこへ集中する。


「うふふふ、意外と積極的なのね」


(くそうっ! 更に悪化しちまったっ!)


 レジニーは宮兎の顔を覗き込んで、自分の右手の人差し指を彼の口へ突っ込む。


「ミヤト、早く貴方の種子がほしいわ。そしたらきちんと殺して私の亡霊人形ゴーストドールにしてあげるわね。私が死ぬまで、ずうっとずうっと一緒よ? ほら、もっと喜んで?」


(ひいいいぃぃぃぃ! 殺されるっ!)


 【精華のレジニー】――本名はレジニー・メルゲナリー。メインジョブを上位職の【亡霊魔術師ネクロマンサー】、サブジョブを職業職の【図書館司書ライブラリアン】に設定している。彼女の使う呪術系スキルは【魔導書】を扱い、【図書館司書ライブラリアン】のスキルと相性が良いのだ。


 そして何故――宮兎の命を狙うのか。理由としては純粋彼がほしいだけ・・・・・である。詳しい理由はまた後で語ろう。


「さーって、それじゃあ、本番始めましょう」


「や、やめっ! ヤメっ!」


「上手くしゃべれないでしょうけど、喘ぎ声はきちんと聞いてあげるかな?」


(そういう事じゃねえよっ!)


 必死の抵抗むなしく、レジニーの左手がスラックスのチャックに触れて、ゆっくりと下ろされ――


「ミヤトっ! 大丈夫で――」


「なんだかすごい音がしましたわよ? 平気で――」


 ガチャリと扉が開いて、明かりがついた。2人の少女が目にしたのは、半裸で涙を流す青年とそれに跨る全裸の少女。静かな沈黙が流れ――


「キャアアアアアアアアアアっ!」


 アスティアの悲鳴がウサギ屋に轟くのであった。

新ヒロインのレジニーさんの登場です。

名前はプロローグの2から出ていましたが、ようやくご登場です。


この章はレジニーがおいしいところ全部もっていきますので、ほとんどこんな感じです。本当に申し訳ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ