プロローグ3 青年、衝撃が走る
急いで一話書いてます!
目標は一時間後。
………むりかなー
アスティアはスキル名を見て首をさらにかしげた。
「名前からして、生産系スキルですね。しかも【ザ・クリエイティブ】の上位互換。これなら別に失敗を恐れず、アイテムを量産すれば大丈夫と思いますけど」
「前回の失敗がちょっとトラウマで……。きちんとお前に確認してもらって、できたアイテムは安全か、この世界のバランスを崩すようなものじゃないかきちんと判断してほしいんだ。うっかりまた【子羊への救済】系アイテムなんぞ大量に作ったらそれこそ俺は立ち直れない」
宮兎の言葉にアスティアは正直、呆れていた。とは言え【ザ・クリエイティブ】は指示された素材さえ集めれば有る程度のものは作ることができる。服やオブジェなど、現実的に製作で必要とされるだけの材料さえ集めれば簡単に作ることができるのだ。ただ、難点といえば前回と同様に最初は『何が作られるかわからない』のだ。一度作ってしまえばリストが更新され、次回から態々スキル覧を開いてレシピを選択せずとも頭の中にA+B=Ⅹの方程式が思い浮かび、即座に生産することが可能となる。そのはじめの一回でどのアイテムが生まれてくるのか予測することが大切だ。うっかり世界バランスを崩すようなものを量産されては困るのだ。
「ミヤトさんの言いたいことはわかりました。私がきちんと見届けましょう」
「助かるよ。流石三年の付き合いだ。頼りにしてる、アスティア」
「大船に乗った気持ちで任せてください」
アスティアは自分の控えめな胸に右手をポンポンと二回叩く。どこか誇らしく、何故か嬉しそうだ。
それもそのはず。天下の【赤い影】が自分を頼ってくれる。こんなに嬉しいことはない。それに彼と初めて出会ったのは12歳のころ。まだ恋を体験していなかったあの頃。
彼女は父親に肩を貸され、どこか虚ろな表情の宮兎を見て、初めは嫌な気持ちになった。嘘のような異世界の話や、自分より年上の人間がパニックになる姿を見て宮兎に苦手意識を作っていたのが原因でもある。だが、日に日に彼は落ち着きを取り戻し、まるで本当の兄のようにアスティアと接して、彼女の中で何かが芽生えてしまったのだ。
宮兎にとって自分は妹なのだろう。アスティア本人も口では彼を兄のように慕う。だが本音は違うのだ。一生を共に過ごし、いつかは宮兎と――なんて考えていたり。
恋する少女、想い人からの褒め言葉はどんな褒美よりも甘美なものなのだ。
「まずはこれをぽちっと」
宮兎はスキル【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】を少々震える指先でタップする。するとどうだろうか。二人が予測していた生産系スキルに必ず表示される【レシピ覧】は現われず、変わりに見たこともない画面が浮かび上がってきた。
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【検索システム 空欄にアイテム名を入力】
【 】
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「検索システム…………?」
「…………つまり、アイテムをここで検索して素材を指定されるということでは? 【ザ・クリエイティブ】の逆引きが可能になったと」
「うんー、確かにそれは便利だがレベル500で獲得できるスキルにしてはちょっと弱いような……」
確かにこれはちょっとばかり割に合っていない。逆引きができることは確かに便利だが、素材が集まらない限り目的の品は作れない。【子羊への救済DX】のように千年に2個しか取れないアイテムを要求されたところでどうしようもないのだ。
「物は試しだ。アスティア、何か欲しいものとかあるか?」
「そうですね。実はこの間レベルがやっと200まで上がりました。それに見合った武器が欲しい……かなーって」
「まーた自分で昇華の儀を行ったのか? ジンさんとリーザさんに怒られるぞ?」
「いいのです。お父さんもお母さんも私が冒険者のように戦うことは心配していますが、ギルドで正式に冒険者になったわけではないので文句は言いません。私はシスターであり、冒険者を目指していた純粋な少女なのです」
「いや、何も言い訳になってないから。その辺の新人より頼りになっちゃうから」
アスティアの思わぬ発言に頬をポリポリとかく宮兎。だが、レベル200はめでたい。何かしら見合った武器を与えようと、自分の記憶から聖職者専用武器を思い出す。
「【マリンズ・ロッド】とかはどうだ? 属性は水。専用スキルは【聖なるの泉】。回復と同時に最大MPが一時的に30%UP、水属性攻撃50%UP。確か素材は余った【水竜の鱗】と【世界樹の枝】、【サファイア】で作れるはずだけど」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ちょっとしたレアアイテムの名前を聞いてアスティアの目が輝く。これぐらいの武器ならフリーマーケットで時々出回る品だ。お祝い物としては十分だろう。
「それじゃあ早速、【マリンズ・ロット】……っと」
検索覧に言葉を意思で入力すると、今度は別の検索覧が現われた。しかもその数はおよそ5。よく見れば検索覧をいくつか追加することも可能らしい。これには二人も首がねじ切れる――とまでは行かないが少しオーバーに捻った。
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【検索】【 】
【検索】【 】
【検索】【 】
【検索】【 】
【検索】【 】
【検索】【 】
:
【検索覧を追加する】
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「なんじゃこりゃ。検索したのにまた検索って」
「……………ここには何がはいるのでしょうか?」
「………………素材か? いや、まさかだけど」
表情が――宮兎の表情が大きく変わる。それは不安や期待、なによりこのスキルの正体を解明するべきなのかという疑問、いくつもの感情が彼を襲った。だが、止まるわけにはいかない。サブジョブとはいえ、アルケミストでレベル500まで到達したのだ。生産者職として真実が知りたい。
彼の指が動く。
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【検索】【 石ころ 】
【検索】【 】
【検索】【 】
【検索】【 】
【検索】【 】
【検索】【 】
:
【検索覧を追加する】
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「何をしているのですか!?」
「いや、俺の予測が正しければこれが答えになるはずなんだ」
宮兎は「検索」と静かに呟き、ローディングする画面をじっと見つめた。アスティアも何故か不安げに彼の顔を見上げた。その時間がどれほどのものだったのか。二人にとってはじっくり五分ほどに感じただろうが、実際は30秒も経たずに検索は終了した。
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【検索終了】
【素材】 【石ころ×10000】
【完成品】 【マリンズ・ロッド】
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「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
静寂――沈黙――そして――。
「嘘だろオイ! 石ころ1万で【マリンズ・ロッド】を生産? ぶっこわれスキルじゃねえかよ!!」
「ちょっと待ってください! 待ってください! 石ころなんて砂利道を吸引系の魔法で10分歩けば簡単に集まりますよ! ええ!? ちょっと待って!」
「待て待て! ま、まずは本当にできるかどうかだ……」
「ですが、吸引系スキルは私もミヤトも持ってはいませんよ」
「こうなったら石ころは諦めて手持ちの素材で作れないか試行錯誤するか」
頭を抱えながらも宮兎は前の表示に戻り、石ころの覧を【オーガの皮】、【ゴブリンの人差し指】、最後に【ミノタウロスの角】を記入する。今だに戸惑いはあるものの、しっかりと検索を始める。
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【検索終了】
【素材】 【オーガの皮×36】
【素材】 【ゴブリンの人差し指×60】
【素材】 【ミノタウロスの角×5】
【完成品】 【マリンズ・ロッド】
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「オーガの皮は3ダース、ゴブリンの人差し指は5ダース。ミノタウロスの角は5本。この材料なら今揃っているし……やってみるか」
「そう、ですね……」
心の中で決定の意思を示すと、宮兎を中心に半径5メートルほどの魔方陣が床に展開された。【ザ・クリエイティブ】に比べて大掛かりな魔法のようだ。アイコンタクトでアスティアに離れるよう指示をする。無言で頷いて、魔方陣の外へ彼女は出た。確認を終え、アイテムストレージから素材を取り出す。
「うおっ!」
素材が外へ出てくると同時に、光の球体へ変わり魔方陣へ吸い込まれていく。魔方陣の輝きが増し、膨大な魔力があふれ出した。宮兎は一瞬だけ、動きを止めて考えた。このスキルは今まで見てきたどのスキルよりも性質が悪い。彼の頭の中へ必要な情報を無情にも流し込んでくるのだ。それはこのスキルの使い方――このスキルの性質――そして本質。
一度目を瞑り、何かを決意したように力強く右手を魔方陣へ叩き付けた。
「知性の賢人達よ! 我の手に栄光と奇跡を与えよ! 【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】!」
刹那――魔方陣はこれまでにない発光を見せてアスティアは思わず腕で顔を隠した。光は宮兎を包み込み、教会の中で小さな爆発が起こった錯覚を思わせるほど強い衝撃が彼を襲う。言葉で表せば力が抜けていくような――何かが吸い込まれていくような――急な疲労感に襲われた。
光も落ち着いて、アスティアがゆっくりと腕をどかす。視線の先に【マリンズ・ロッド】を左手に持ち、膝を突きながら汗を大量に流す宮兎の姿だった。
「ミヤト!」
「あ、ああ。大丈夫、大丈夫だから…………」
駆け寄ってきたアスティアを右手で制して、【マリンズ・ロッド】を投げ渡す。受取ったアスティアはその重さにふらふらとよろけるが、何とかふんばった。ずっしりと手に伝わる重み。杖本体は木製で、先端には巨大な青色に輝く宝石。その中で青い竜が水の中のように泳いでいる。これが【マリンズ・ロッド】。ランクCCの中級者向けの武器。
「ふう。成功だな」
「本当に大丈夫なのですか? 汗もすごいですし、その……魔力が」
「ああ。シスターは魔力を感じられるんだったな。よっと」
ステータス画面を開き、現在の状況を確認する。
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【ステータス】
Lv.500/500(MAX)
MP358/1403
STR 957
VIT 865
DEX 1521
AGI 1644
INT 1095
メインジョブ 【アサシン】
サブジョブ 【アルケミスト】
アクティブスキル数 40
パッシブスキル数 74
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「MPを1000以上も消費してるから当然か」
「1000!? 聞いたこともありませんよ、そんなスキルっ」
スキルや魔法の消費MPの平均値は25。最大でも150だ。それを軽く超えるこの【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】は異常な存在だ。アスティアは顔を青くして手に持っている【マリンズ・ロッド】を見た。
「お前の所為じゃないさ。ただ、このスキルを使って、わざわざ情報を流し込んできたよ」
「情報? このスキルについてですか?」
「ああ、大体の要領は分かった」
息を整えて、胡座でミヤトは座ると隣にアスティアを呼ぶ。肩があたるかあたらないかとかなり接近した距離にわざと彼女は座る。
「このスキルはほかのスキルと違って消費MPが決まっていない。作られる【完成品】によって決まるんだよ。レア度が高いほど消費MPが高くなる。だから――」
今度は慣れた手つきで空欄をうめて、右手の平に小さな魔方陣を展開させる。先ほどの規模とは大違いだ。そこへ余ったオーガの皮を10枚ほど吸収させる。
「これで、ほいっと」
左手と右手を合わせると、間で小さな光が生まれる。ゆっくりと開き、彼の手のひらで一本の【ククリナイフ】が作られた。
「ランクDぐらいまでのちょっとした武器なら消費魔力50までに押さえきれる」
「そ、それでも燃費があまりにも悪いのでは?」
「俺の本職がアルケミストじゃないのも関係しているのかも。あと使う素材。素材は何でも良いみたいだけど、ある程度品質の良い物じゃないとMPを押さえられない。まあランクGの超初心者用武器ならランクD素材の【オーガの皮】1枚でショートダガー10本ぐらいは作れちゃったりするかな」
「MPの消費は?」
「まあランクGじゃあ5ぐらいなんじゃないかな。まあ5ゴールドのオーガの皮1枚で50ゴールドのショートダガーが10本も作れるんだか――」
その時、彼に衝撃が走った。
今、頭の中で突然もとの世界の記憶が呼び戻され、彼はあっちの世界で自分がやっていた【アルバイト】について思い出していた。
「……ミヤト?」
「アスティア、俺はとんでもないことを思いついてしまったのかもしれない」
「ミ、ミヤト?」
にっこりと笑う彼の顔を見て、アスティアは「あ、悪い顔だ」と正直に思った。
てことでプロローグはここまでです。
はたしてミヤトくんはどんな商売を始めるのでしょうか!?(白目
あと、ブックマークしてくださった方々ありがとうございます。
本当に嬉しいです。
次回から本編に入りますがプロローグより一話一話が短くなる予定です。
大体3000文字ちょっとすぎるぐらいかな?
とはいえ、このプロローグも短い予定だったのに。うごごご。
まあ、長くなることが多いと思いますので。今後ともよろしくです。
感想や評価、アドバイスなどあれば気軽にどうぞー>(・N・)
※追記 【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】を魔法と書いている場面が多々ありますが全て「スキル」に変更しています。
また、オーガの皮10枚でつくったダガーを【ククリナイフ】に変更しています。