25話 商品開発部、鍵を守りし使者を考える
今回短くてすみません。
あー、今回もアスティアが可哀想だ…
水曜日はウサギ屋を含めて多くの店が休日をとる。学校や教会もこの曜日は何があろうと休みになるのだ。古くから伝わる【ヴァルハラ伝説の七大英霊神】の水の神が定めたとされ、誰しも生まれる前からの決まり事のように水曜日を謳歌する。
宮兎は基本的に水曜日は寝てるか、【赤い影】として日帰りでダンジョンに潜るか、あるいは仕入れをするか――なのだが、今日ばかりは事情が違ったらしい。
「リャーミャちゃんの話は分かった。ここはお兄さんとお姉さんに任せなさい!」
「うん!」
「本当に、大丈夫なのでしょうか…………」
本日は道具屋【クエスト・ファミリー】の一人娘、リャーミャがウサギ屋に遊びに来ていた。なにしろ、宮兎にお願いがあるらしい。お願い――リャーミャは先日、家の鍵をうっかり無くしてしまい、両親に怒られてしまったそうだ。幸い、騎士団が拾ってくれたらしく、特に被害はなかった。ただ、鍵を無くさないように気をつけようとしても、うっかりの場合がある。そこで、生産系スキルを極めたウサギ屋の店主になにか作ってもらおうとのことらしい。
また何かしら作ることになったため、急遽アスティアを呼び出して現在に至る。別にアスティアは必要ないのでは? と思う方も多いだろう。失敗すれば怒られる。それはもう鬼のように。だが、宮兎本人は全く気にしていない。むしろ感謝しているほどだ。自分の能力が『取り返しのつかない』ことを引き起こす可能性は十分にある。人の言うことを聞かない高レベルなモンスターを錬成した場合――それを事前に防ぐ意味でも、アスティアは抑止力になってくれている。調子に乗る前に、怒ってくれた方が後々助かるのだ。
「鍵を落とさないようにするアイテムね」
「うん、リャーは鍵よく落としちゃうの。いつもは友達が拾ってくれたり、気づいてくれるけど、昨日は違ったの」
「分かります。私も昔はよくお母さんに怒られたものです」
誰しも経験したことはあるだろう。家の鍵、ロッカーの鍵、自転車の鍵――無数の種類が存在する『鍵』は安全面と危険性が紙一重の品物だ。きちんと管理できなければ、意味はない。
「ですが、流石にそれは難しいのではないのでしょうか?」
「実はそうでもないんだなー」
すると、既に何か案があるのか宮兎が例のホワイトボードに黒の字で文字を書いていく。書かれた文字はもちろん日本語で2人は読むことはできない。そこで、【語学力SS】のエンチャントがかけられた伊達メガネをアスティアに渡して、態々読むように指示する。
「えーっと……『きーほるだー』? ってなんですか?」
「文字通り鍵を携帯するための道具だ」
【キーホルダー】――1つ、または複数の鍵を紛失させないための道具である。誰でも知っているアレだ。日常的に持ち歩くことを前提とし、様々な形の物が現代では主流となっている。また、種類の豊富さから『誰の持ち物』であるかも判別できる利点がある。
デザインも先ほど述べたように多種あり、シンボル、ロゴ、キャラクター、様々だ。地域限定商品など、その価格の安さからお土産や記念品としても多く扱われる。そこから発展し、アクセサリーとしての地位も確立しているだろう。
ここまでの説明を長々と書いていき、アスティアが朗読していった。
「つまり、どゆことー?」
リャーミャは首をかしげて、問題主に質問をした。
「キーホルダー、すなわち新商品の可能性! 値段! ヴァルハラにはない! その他諸々! ウサギ屋が独占して販売できる革命的な商品!」
「……すぐに真似されて独占は無理と思いますけど」
何を隠そう、宮兎が開発した『成功』した新商品達はことごとく商人達に真似できるものは真似されて売られている。ただ、値段は120から100ゴールドとさほど変わらない。ただ、1つの商品を真似するのに最低でも1ヵ月はかかっているようだ。アルケミストを雇って研究させている、なんて噂もある。
「違うんだなー、アスティア。キーホルダーの利点は【オリジナルキャラクター】を商品化できるところにもウマミがある」
アイテム覧からスケッチブックと鉛筆を取り出して、サラサラと絵を描いていく。2人の少女に完成品を見せて、絶賛の声が上がる。描かれているのは足を広げて座っている可愛らしいデフォルメ黒ウサギの絵だった。頭には何故か王冠が乗っており、そこからチェーンとキーリングがついている。
「ミヤお兄ちゃん絵上手!」
「本当に上手です……。まさか画家としての才能もあったなんて」
「画家はいいすぎだよ。ま、美術は彫刻以外は得意だったし」
他にも同じような白いウサギと白黒のウサギも描く。生きているような躍動感に2人は夢中になった。
「俺ばっかりじゃキャラクターに偏りが出るから、2人も好きに描いていいよ」
「わーい!」
2人分のスケッチブックと鉛筆も用意して渡す。リャーミャは夢中で描き始め、アスティアは動きが止まってしまった。
「どうした?」
「い、いえ……大丈夫、です」
難しい顔をしながら、スケッチブックに鉛筆をはしらせる。親の敵を見るような目で睨みつけ、話しかけないでとオーラを発している。リャーミャは気にするどころか気がついていない。自分の世界に入ってしまった。宮兎は少し心配しながらも、自分も頭に描かれるキャラクター達を描いていく。
【レイン・ゴースト】達をデフォルメにすると可愛い。宮兎はできあがった3体のモンスター達の絵に口元がニヤケる。ちらっとリャーミャのスケッチブックを見てみると子供ながら可愛い動物の絵が書かれていた。犬、猫、熊、兎、鳥、他にも様々だ。
「アスティアはできたか?」
「一応……これです」
スケッチブックを裏返して、宮兎へ見せる。一瞬だけ彼の時間が止まった。頭の中で描かれているモノを一生懸命検索したが、まったくヒットしない。遠くから見れば四足の動物にも見えなくはないが……頭らしきものは真四角で、体と思われるところは三角、足と推測される四つの細長い棒に、耳の様な、角のような、得体の知れないものがくっついて、顔には点が三つ描かれている。
「あー………あれか、【アンデッド・キメラ】をデフォルメしたのか! うん! 似てるよ!」
「ウサギです」
「………【ラビット・デスクロー】の方だったか! いやー、失敬失敬!」
「普通の………ウサギです」
「……………その、な? 誰にでも得意、不得意があってだな」
真顔のアスティアがプルプルと震えだして、目に涙がたまり始める。マズイ! と思ったときにはスケッチブックを投げ出し、机に顔を伏せて豪快に泣き出した。
「うわーぁぁぁん! だってぇ! 絵は昔から下手だって知っていたのにぃ! 良い所見せたかったのにぃ!」
「ミヤお兄ちゃん、アスティアお姉ちゃん泣かせちゃった」
「あああああ! ごめん! そんなつもりじゃなかったんだ! ちょーっとキメラっぽいイラストだったからそれかなーって………ね?」
「……………」
「アスティアがすげえ顔になってる! 真顔のその表情はやばいってアスティア!」
それから三分後、ようやく落ち着きを取り戻したアスティアに今度また一緒に出かけることを約束し、実際にキーホルダーを作ってみることになった。
結論から言えば、大成功になった。頭の中で形を想像して【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】を使い、デフォルトキャラクター達の小さな人形が出来上がった。試作品としてチェーンの長さの調整などを手作業で行い、合計20個のキーホルダーが出来上がった。
リャーミャには、最初に宮兎が描いた黒、白、白黒のウサギ3セットを渡し、うきうきでお家へ帰っていった。それからアスティアと夕方まで話し合って【レイン・ゴースト】のデフォルメキーホルダーと三色のウサギキーホルダー……アスティアが描いたキメラキーホルダーを実験的に販売することになった。
それから三日後――。
「アスティア、これは俺も予想できねえわ」
「…………あまり、嬉しくないです」
子供たちにはデフォルメキャラクターキーホルダーが人気だが、冒険者達にはアスティア作のキメラキーホルダーがすぐさま売り切れになった。大人とは、怪獣やモンスターのフィギアが欲しくなる場合があり、スタイダストの男達が「なんだこのモンスターの人形! かっけえ!」と評判になり、追加注文が殺到した。
こうしてウサギ屋に【モンスターキーホルダー】がヒット商品として生まれたのだ。
次回はついにキキョウさんの妹が登場しますね。
何を開発して欲しいのか……。
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