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24話 商品開発部、七色のアイテムを求める

アスティアさんがえらいこっちゃ!

 ようやく痛みから解放された宮兎はちょっと涙目で2階へ戻ってきた。地下室で痛み止めポーションを飲んで、数十分痛みと戦いやっと解放されたようだ。アスティアは心配よりもこれから開発される【試作品】達が心配になった。


「お待たせ、アレはアレで刺激がある。改良して商品として出そう」


「レベル500の冒険者が悶える痛みなんて体験したくありません。ボツと言ったでしょう」


「改良して衝撃を抑えれば問題ない!」


「……【プチプチ危機一髪くん】の実験はこれから一人でしてくださいね」


「失敗した時に介護してくれる人が居ないと、イヤ」


「……………」


 まるで失敗して当たり前みたいな言い方だが、彼の頭の中では『実験』とは『失敗』の繰り返しで、1回の『成功』のために1000回は『失敗』しないと気がすまない――らしい。そして1001回目の失敗で諦めると。口ではいくらでも言える。現実は10回の失敗とアスティアの罵声で心が折れる。


 失敗を恐れずに、今日の本題に入る。


「アスティア、今日の本題だが、何か欲しい商品とかないのか? 今なら何でも――は無理だけど、ある程度のモノなら」


 先ほど「馬鹿に効く薬」を要求されたことを思い出してすぐに訂正した。アスティアは気がついていないらしく、腕を組んで悩み始める。


「欲しいもの――個人的な趣味で裁縫をするので、糸がほしいですね」


「へ? 糸ならアイテムでドロップできるし、質屋で70とか50ゴールドで買えるじゃん」


 糸――主にクモ型昆虫モンスターから高確率でドロップされるアイテムだ。買い取り平均価格は30ゴールド。販売となれば宮兎の言うとおり50から70ゴールドで手に入る。色も着色するためのアイテムと調合、錬金、人間の手で直接行うこともでき、種類も様々だ。それを100ゴールドで売る――宮兎はちょっとだけ疑問を抱いた。


「私が欲しいのは、たくさんの種類が入った糸です。ヴァルハラでは基本は1色ずつだけでしか販売されませんからね。ちょっとだけ欲しい糸を多めに買う必要はありません」


「おお、ナイスアイデア」


 アスティアが求めた商品は【種類豊富で長さはそれほどまでない糸】だった。質屋などで取引されるアイテムはドロップアイテムや合成したアイテムをそのまま販売する。態々手間をかけて分けたりなどはしない。これを錬金術でやってしまおうとの考えだ。


「さっそくやってみるか! 色は何がいい?」


「白と黒は必須ですね。あとは赤、青、黄色、緑、茶色の七色あれば十分なのではないでしょうか」


「なら、それに近しい色のアイテムを一緒に錬金するか」


 糸を多めに取り、床に置く。着色するためのアイテムを2人は机の上に散らばるアイテムを睨みながら選び始める。


「個人的に、赤は【グレンの実】を使って炎のような明るい赤を作って欲しいですね」


「グレンの実は……ああ、これか」


 【グレンの実】は森でよく取れる真っ赤な実だ。ポーションの素材にも使われ味は柑橘系のすっぱさに似ている。絞った汁は料理の隠し味にもなり、実も凍らしてデザートとして食べる習慣がヴァルハラ全土にある。誰もが食べる世界に浸透した【果物】だ。


「茶色は【ドロドロダンゴ】、緑は【クビナガ草】でいいんじゃないか?」


「黄色は【レモナの実】、黒は【ダーク・ウルフの皮】を使いましょう」


 【ドロドロダンゴ】は瞬間接着剤の材料にもなった素材なので紹介は割愛。【クビナガ草】は湿地帯に多く生息する植物だ。地面から葉が直接、空に向かって伸び、葉の途中で大きく膨らんだ部分があり、さらに先っぽには小さなダンゴができる。大きな膨らみを体、小さなダンゴを頭に見立て、その間の部分を首とし、首が長いようにみえることから【クビナガ草】と呼ばれる。膨らんだ部分には種が入っており、解毒効果がある。解毒ポーションの素材として良く使われるのだ。


 【レモナの実】は見た目はほとんどレモンに近い。だが味はかなり甘く、そのまま食べると舌がヒリヒリするらしい。水や他の果物と少量ずつ合わせてジュースとして飲まれる。


 【ダーク・ウルフの皮】はもちろん【ダーク・ウルフ】と呼ばれる漆黒の体を持ったオオカミ型モンスターだ。不浄の魔力を餌とし、闇属性攻撃無効の特性を持っている。やっかいなのは弱点効果を持っておらず、初心者冒険者は光属性が弱点だと勘違いして、痛い目にあうことがおおい。初心者がこのモンスターと群れで遭遇した場合は逃げることをオススメする。


「んじゃ、残りの青はアスティアが決めてくれ。俺は準備を始めるから」


「分かりました」


 鼻歌交じりに指定されたアイテムを集めて、床に並べ始める。それから座り込んで、最初に置いていた糸を七等分に別け始める。少々時間がかかりそうで、彼が準備が終わる前にアスティアは気に入った【青】を探さなければならない。


「なかなか良い青がありませんね……」


 アスティアが求める青は晴天のように透き通った色だ。だが、机の上にある素材は色が濃すぎたり、違う色と混ざって濁っていたり、理想とはかけ離れている。こうしている間にも宮兎の準備は終わりそうだ。


「……あ、これは?」


 アスティアが見つけた小さな水晶玉。ガラスのように透き通って、親指と人差し指でつまめるほど小さい。そのまま持ち上げて、光に照らすと水晶の中で何かが動いたような気がした。何かというのは水の中にある気泡のようなもの。


「決まったかー?」


「えっと、これは何のアイテムですか?」


「ん? ああ、それは【サファイア・スライム】からドロップする【スライム玉――青】だな。中級のスライム種は体内で結晶体を作ってそこに魔力を貯めるんだよ。理由は俺は知らないけど、高確率でドロップするし、質屋にいけば普通に売ってるぞ?」


「そうだったのですね。なら、これにしましょう」


「んじゃ、空いている糸の前に置いてくれ」


 床に置かれた七つの糸。一番左と四番目の前には着色アイテムは置かれておらず、アスティアは四番目に【スライム玉――青】を置く。宮兎は確認を終えると、メニューを開いてステータスを展開する。慣れた手つきで【ザ・クリエイティブ――転生蘇生リザレクション――】を選び、最初の検索覧に【七色の糸セット】と記入する。


 それから素材も次の検索覧に記入して、ようやく準備が全て整った。


「それじゃあ離れてろよ」


 心の中で決定の意思を伝えると、素材を中心に巨大な魔方陣が描かれる。瞬時に素材は球体となって魔方陣へと吸い込まれていく。全ての確認を終え、宮兎は大きな声で叫んだ。


「知性の賢人達よ! 我の手に栄光と奇跡を与えよ! 【ザ・クリエイティブ――転生蘇生リザレクション――】!」


 魔方陣が凄まじい輝きを見せて――やがておさまった。


「成功……か?」


「え? なんですか、これ?」


 2人の目の前には七色の糸ではなく、ぐじゅぐじゅと音をたてて動いている物体だった。色は透明な青色で、体の中には七つの球体が浮かんでいる。液体のようなジェル状の固体のような、まるでそれは――スライムである。


「……まさか、またやってしまいましたか?」


「……可能性は――高いな」


 やってしまった――今回も【レイン・ゴースト】に続いて未知の【モンスター】を作ってしまったらしい。これには流石に宮兎は頭を抱えた。


「とにかく【ステラ・スコープ】で――きゃっ!?」


「アスティア!?」


 突如、スライム(?)はアスティアに飛び掛った。大きく体を広げて、ベチャリと彼女にまとわりつく。助けようと動こうとしたが、宮兎はうっと小さく唸って足を止めた。


「な、なんですかこれは!? ひゃ! ちょっと! どこ触ってるんですか!?」


 スライムはもぞもぞとアスティアの小さな体を這い回り、うなじや太ももを撫で回している。アスティアは逃げようとするも、完全に座り込んでおり、ヌルヌルとすべって立ち上がることすらできない。


「み、ミヤト! 顔を隠していないで早く助けてくださいよ!」


「無茶言うな! お、お前……す、透けているんだぞ!?」


「え?」


 言われて修道服を確認すると、ほとんどが水分でできているスライムに抱きつかれた結果、服がびっしり透けていた。可愛らしいオレンジ色の下着が上下丸見えである。宮兎とアスティアは同時に顔を真っ赤にして、アスティアはギリっと歯を食いしばった。


「馬鹿! アホ! 変態! エロウサギ!」


「ウサギを悪口に使うんじゃねえよ!」


「いいから早く――ひゃうん!? ちょ、ちょっと! 服の中にまでっ…………!」


「ああもう!」


 宮兎は目を逸らしながら――男は悲しいもので、逸らそうとしてもチラリチラリと見てしまうものだ。それでも何とか理性を抑えつつ、アイテム覧からアイテムを瞬時に取り出して、それをスライムへ投げつけた。


 投げつけたアイテムは手のひらサイズの小さな紙の袋のようなものだった。数は3つ。スライムはその全てを体内に吸収してしまい――急激に大きさ縮む。こんどはアスティアから逃げるように離れて、床を這い蹲る。


「待てコラ、このエロスライム!」


 さりげなくアスティアにアイテム覧から取り出した薄い青色のローブを渡して、同時に取り出した小さな小瓶でスライムを上から押さえつけるようにして捕らえることに成功した。


「ふう、なんとか捕まえたな」


「ですが、またモンスターを錬成してしまうとは」


「ああ、今月で二度目だよ……」


「はい?」


「あ」


 ぽろっと出てしまったが、【瞬間接着剤】を作ったときに生まれた【スライム種】のモンスターがいる。一応、人の言葉も理解できている(はず)なので、地下室の更に地下――地下2階で放し飼いにしている。スライムは水さえられあれば生命を維持できるので、飼うことはかなり楽だ。


「ミヤト? 二度目とは?」


「え、いや、その、あー、あれですよ、あれ! デーモンス・オーガを倒すために活躍した【瞬間接着剤】を創り上げるための過程として必然的に生まれた――」


「言い訳はいいです! また勝手にモンスターを錬成して! 【レイン・ゴースト】のように害がないとは限らないのですよ! 今だって襲ってきたばかりではないですか!」


「俺だって条件がわからないからどうしようにも……」


「ミヤト!」


 こうして、アスティアにこっぴどく怒られて、今日の【ドキドキ! 何ができちゃうかな? みんなで考えよう新商品開発部♪】は終了した。


 蛇足だが、あのスライムはアスティアの怒りの業火に焼かれて、殺されはしなかったものの、さらに小さくなって地下2階で瓶詰めの状態で幽閉されることになった。

てことでちょっとしたお色気回でしたね。

まあ、女の子として少しは意識されたから良かったね、アスティアさん。


お知らせです。


城戸・ししゃも・一輝様にデート回のアスティアのイラストをいただきました!

なろうではじめてイラストをいただき大興奮であります!


かわいくて、ちょっと背伸びをしたアスティアのイラストは15話のあとがきに掲載しておりますので、ぜひぜひご覧ください!


この場をお借りして城戸・ししゃも・一輝様に感謝の言葉を送らせていただきます!本当にありがとうございました!

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