23話 商品開発部、魔性のアイテムを開発する
今回から【新商品開発部編】ですね。
ひたすらくだらないものから見たことあるものまで。
今回は読者の方から「こんなのは?」と感想でいただいた物であります!
ほとんど勢いで書いてますので、ミヤトのテンションがややおかしいですが気にせずに読んでください。
【スタイダスト】の中央区には、オープンしたばかりの雑貨屋さんがある。言わずも知れた100ゴールドショップ『ウサギ屋』だ。スタイダストやヴァルハラではなかなか見ることのできない珍しい雑貨を取り扱い、街ではかなり有名なお店になった。
そんな『ウサギ屋』には、日々【新商品】が棚に並ぶ。便利なものから奇妙なものまで、来店した誰もが一度は目にして興味を引かれる。ただ使い道がなかったり、問題がなにかしらある商品はなかなか売れない。そんな【失敗作】の先に【売れるはずの商品】が生まれる。
今回は、【売れるはずの商品】ができるまで――どのような過程を乗り越えているのか、皆さんに見ていただきたい。
◇
本日は日曜日。正午を少し過ぎて、スタイダストのほとんどの店がクローズの札をかける。『ウサギ屋』も例外ではなく、無理に働かず、休む時は休むと店主が決めていた。その店主、赤松宮兎は『ウサギ屋』となっている一階から大量の素材を持ち出して、自宅となっている二階へ上がった。リビングへたどりつくと、椅子に一人の少女――アスティア・リーリフェルがなんだか半開きの目――宮兎を呆れたような目で見ていることに気がつく。
お構いなく彼女の目の前に、素材を散りばめる。モンスターの素材や鉱石、布や糸、紙、その他色々なものが転がっている。テーブルの上に置かれた素材たちを見て、ようやくアスティアが口を開いた。
「……で? これは何かパーティーでもするのですか?」
「ふふふふ、違うなアスティア。今回は――コイツだ!」
廊下から巨大なホワイトボードを持ってきて、右手でバシンっと叩いた。ホワイトボードには大きな文字で――
【ドキドキ! 何ができちゃうかな? みんなで考えよう新商品開発部♪】
――と書かれていた。
すーっとアスティアの目がさらに細くなる。
ちなみにホワイトボードも宮兎のお手製だ。横の全長は2m、四つ足にキャスターがついており、楽に移動ができる。高さも本人が書きやすい場所に調整されて、自在に変更できる仕組みになっているようだ。普段は邪魔なので寝室となっている和室に保管して、【レイン・ゴースト】達のお絵かき道具になっているらしい。また、錬成した時に意外とMPと体力を消費して「死ぬかと思った」と言わせた一品。【マリンズ・ロッド】に負けないレア度をたたきだしている……とか。
「…………………」
「うわー、人ってそんな目もできるんだ」
「またくだらない商品でも作る気ですか? 人の為になるのですか?」
「アスティアは分かってないなー。実験は男のロマンだよ。新しい商品を開発するために色々な素材を組み合わせて、ベストな錬金リストを更新しなきゃね!」
彼が扱う錬金術師カンスト専用スキル――【ザ・クリエイティブ―転生蘇生―】は『知っていれば』なんでも作れる便利なスキルだ。ただ、【この世界にない物】の場合は、品質の良い素材や組み合わせがベストとされる配合でないと、たまにとんでもないものが生まれてしまう。奇妙な効果がエンチャントされたり、【魔物】として錬成されたり――数々の失敗を重ねてきた。
「そこで今回はアスティアが【こんな商品がほしい】と思ったものを即錬成! 即お届けしよう! ついでに商品化だ! なんとすばらしい企画だろうか!」
「人が冷静になって、馬鹿な物を作らないようになる薬が欲しいです」
「手厳しい!」
付け加えるなら、宮兎のネタが尽きてきたのだ。捻り出しても、基本は失敗で終わる。成功した商品はオープン前に思いついた簡単な仕組みの物ばかり。画期的な物を作りたいのだが、『知っていれば作れる』としても『仕組みは知らない』ので、どうにも上手くいかない。前回の【瞬間接着剤】など、【理由】はしらないけど【似た効果】を持っている素材を組み合わせればそれとなく出来上がる。ほとんど偶然に近いのだが。
「だがしかし! アスティア! 今回は、先に成功例を既に作っている!」
「へ? 本当ですか?」
「おうよ。それがこの商品……だっ!」
「こ、これは…………!」
ポケットから取り出した【成功例】――素材はビニールで出来ているようで、形は平べったい正方形。大きさは縦横それぞれ30cmほどか。表面には小さな突起物が均等にびっしり並べられている。見ただけではコレが何に使うものかアスティアは予想ができない。と言うよりは――。
「え? これ……ですか?」
「うん、これ」
アスティア的にもっとすごい物が出てくるかとちょっとばかし期待していた。彼が今まで創り上げてきた【失敗作】は良い意味で予想を裏切る壮大なものだった。売り物としては失格だが、発明品としてはどれも画期的でヴァルハラに革命を起こしそうなものばかりである。そのほとんどが毎度アスティアに怒られて、地下室で寂しく眠っているのだが……。
「これは【緩衝材】だよ」
「緩衝材? 使い方はどうするのですか?」
「例えばレストランに皿とかを配達する時、中の物がいくつか割れている場合が少なからずあった。それは向こうで箱をちょっと乱暴に置いたり、商品同士がぶつかって割れたり、パターンは様々だ。今までは新聞紙で包んでいたけど、こっちの方が割れにくいかもなってね」
「つまり、割れやすい商品を包むのに使うのですね?」
「そういうこと。別に配達業は俺達だけがやっていることじゃない。道具屋だってポーションの入ったビンを割らないために色々工夫はしているはず。でもやっぱり何かしら包むものがあれば便利だろ?」
「言われれば、このように【ビニール】にしてしまえば色々な形のものに対応して、破れる心配も少ないです」
「ただな、コイツにはもう一つの魅力がある」
「魅力……ですか?」
すると、宮兎はアスティアに【緩衝材】を手渡した。無言で受け取り、手触りを確認する。突起物がどのようになっているか不思議だったが優しく触ってみると、どうやら空気が入っているらしい。2枚のビニールが重なっているようで、1枚は突起――くぼみがついており、もう1枚はただのビニールシート。それを組み合わせて、くぼみの中の空気が逃げないようになっている。仕組みは簡単だが、手作業で作るのはかなり困難ではないかとアスティアは感じた。錬金術師ならではの商品だろう。
「手触りを確認したところで、プチっと突起物を潰してみ?」
「え!? 潰してしまうのですか!?」
「そうそう。ほら、やってみろよ。クセになるから」
「うう………なんだかもったいないような」
これほどまでに見事な商品を潰してしまうことに躊躇した。商品の本質としては包んだものを衝撃から守り、潰れることは仕方がない。だが、人為的にこれを押し潰していいものなのか――迷っている。ここで迷っていても、何もならないし、どうにもならない。アスティアは目を瞑って――親指で突起物を1つだけ潰した。
プチッ
「あ…………」
アスティアに――衝撃が走る。
親指から伝わる、空気が潰れた感触。柔らかい中に抵抗される反発力。だが、人の力には決して勝つことはできない。力に負けて突起物は潰れてしまったが、罪悪感よりも――謎の中毒性を感じてしまった。快感にも似た、胸が踊る感動。
「い、今のは……!」
「これがこの緩衝材――通称【プチプチ】のもう一つの魅力! ついつい親戚から送られてきた荷物に入っているプチプチを無我夢中で押しつぶして、気が付けが全てプチプチしていた! 中毒性! 快感! 感動! 時間を忘れて快楽に溺れる魔性のアイテム! それこそが【プチプチ】なのだ!」
「な、なんと不思議な商品でしょうか。ですが、感動はしましたが時間を忘れるほどのものでしょうか?」
「気づいていないようだが、アスティアくん」
「……キャラがぶれぶれですよ?」
「おっと失礼。それはひとまず置いといて――お前、手が勝手に動いてるぞ?」
はっと下を見れば、アスティアは無意識にプチプチと突起物を潰していた。慌てて手を放したが、既に半分以上が潰されていた。
「お、恐るべし【プチプチ】……。アスティアまでも魅了するか」
「こ、これは確かにすごいですね」
「だろう?」
作ったのは彼だが、開発したのは元いた世界の先人達であり、彼ではない。そんなことを知らないアスティアはキラキラした瞳で宮兎を見つめた。
「そこでだ、今回は改良を重ねて時間を忘れないために【プチプチくん危機一髪】と名づけた商品を作った」
宮兎が自信あり気に取り出したのは先ほどと、ほとんど変わらない緩衝材だった。ただ、何故か黒く着色されている。
「え? 何ですかこれ?」
「プチプチの中に1ヶ所だけランダムでハズレを入れてみたんだ。そこを押したらちょっと強い衝撃がくるようにしている。2人で順番に潰してハズレを引いたら負け、なんて遊びもできる。ちょっと、やってみないか?」
「ええ、いいですけど……」
アスティアは本能で「あ、嫌な予感が」と思ったが口にすることはできなかった。今回は上手くいっている。コレも大丈夫だろうと、決め付けてしまったのだ。
「よし、俺から」
ブチンッ
この時の音をアスティアはこう語る。
『まるで、太いゴムが両側から引っ張られて耐えられなくなり、千切れるような音がしました』――と。
「ああああああああぁぁぁぁ!? いってええええええ!?」
「…………」
突起物を潰した右の差し指を押さえて、地面を転げまわるレベルカンスト者。アスティアは何が起こったのか分からずに、その場で立ち尽くすだけだった。
「ゆびぃぃい!? 俺のゆびついてる!? 無くなってない!? 分裂してない!? 骨とか見えちゃったりしてない!?」
「あ、はい。正常にありますけど………」
それでも痛い痛いと泣き出しそうになる彼の姿を見て、「この改良品は改悪品ですね。ボツ」と宮兎に聞こえるように言ったのだが、本人はそれどころではない。
こうしてウサギ屋に1つの商品が生まれ、1つの商品がボツとなった。
作者もプチプチ大好きです。
お知らせです。
プロローグ2と13話シスター、微笑むでガラス製品と陶器の相場を変更した描写を追加しました。今回の話でもポーションを入れるためにビンを出しましたが、ガラスや陶器の平均の値段を120から80ゴールドにかなりお安く設定しています。模様や造形が珍しいと高級品として扱われることにしています。
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