22話 見習い少女、不満を言う
遅くなってすみません!
あー、文字数がああ
「で、結局どうするかなあ……」
少し背の高い茂みに3人は隠れ、【ステラスコープ】を覗き込みながら目標を確認していた。【ブラック・オーガ】もとい【デーモンズ・オーガ】はその禍々しい体をゆっくり移動させ、草原の真ん中をうろうろしている。周りの下級モンスター達も後ろからついていき、時々食べられたりと異様な光景だった。
「ボウズよ、ひとまず実力を見ないことにはわからない。ほれ、はよ行ってこい」
「おっさん、頭大丈夫か? 相手は520だぞ? 確実に俺、死ぬぞ?」
冗談交じりの言葉に、宮兎は本気で嫌そうだ。レベル480の【ベルフエル】でさえ、かなりの準備期間があった。今回はその準備をすっとばして、行き当たりばったりでどうにかしようとしている。何も考えなしに突っ込むのは危険だ。
「ジェルズさん、ひとまずコイツをエンチャントしてくれ」
キキョウが取り出したのは2本の【角】だった。ジェルズはそれを見て「おお」と嬉しそうに声を上げる。宮兎も見覚えがあり、少し驚いていた。
「【火山竜】と【氷山竜】の角じゃねえか。こんなレア素材、よく手元にあったな。オニの小僧」
「質屋ですからね。珍しい素材はたまに仕入れますよ。……ミヤ坊、コイツでなにかいい武器は作れないのか?」
「あー、少しまってくださいね」
アイテム覧からそれらしい素材を探す。時間が惜しかったために、適当なものを選んできたので錬金術のリストに載っているか考えながら、素材を選んだ。そして、ミスリル、エメラルド、ルビー、サファイアを取り出す。どれもこれも高級素材だ。これだけでウサギ屋1週間分の売り上げ――それ以上の額はするか。
「まあ、この素材でかなりイイ物は作れます。ジェルズのおっさん、頼むぜ?」
「任せとけ」
ジェルズが足元においていた大槌を持ち上げる。素材を一箇所にまとめて地面へ置いた。大槌に魔方陣が描かれ、そのまま振りかざす。
これがエンチャントスキル【鍛冶職人の大秘宝】と呼ばれるものだ。術者が思い描いた通りのエンチャントが30%の確率で成功する鍛冶屋ならだれもが欲しがるスキルだ。これを習得するまでには数多くの鍛冶パッシブスキルを取得し、全てSSまでランクアップさせる必要がある。世界中でこのスキルを使えるのは片手で数えられるほどしかいない。
ジェルズは何度も素材を打ち込み、汗をかく。
「ところで、何故【転移クリスタル】が使えなくて【デク人形】が使えたんだ?」
キキョウが腕を組み、ジェルズの仕事を見ていたが、思い出したように宮兎へ質問した。
「これは予測でしかないですが、【転移クリスタル】は不浄の魔力に犯されている可能性があります。一昨日のシスター達が一斉に倒れたのと、モンスター達が暴れだしたこと。共通点は皆、魔力に敏感だからです」
「なるほどな。つまりは、【転移クリスタル】は常に魔力をそれぞれ行き来させている。あの鬼が体から出している不浄の魔力が村のクリスタルに侵食し、そこからスタイダストへ魔力が流れ込んできた」
「そうですね。【デク人形】はどんな小さな虫も魔力すらも通さない厳重な【ロックスキル】のかかった地下室に眠ってましたから。この数分ほどで、使えなくなるほど不浄の魔力を浴びてはいなかった」
「となると、ますます鬼を討伐する理由ができたな」
「ええ。もし、【転移クリスタル】を通じて不浄の魔力が大きな街や王都へ流れ着いたら――大惨事ですよ」
スタイダストの比にならないほど、王都は多くのモンスター達が働いている。現在どこまで侵食しているか分からないが――今後ヴァルハラ全土で大きな事件が起こってしまうことになる。未然に防ぐには――鬼を倒すしかない。
「よし、できたぞ。とりあえず、これで作ってくれ」
「ありがとうございます」
素材たちの見た目に変化はない。だが、現在攻撃力上昇、属性効果上昇、そのほか色々なエンチャントが使われている。これらの素材を使って、最高の武器を創り上げなければならない。
「うしっ。やるか」
地面に置かれたままの素材に近づいて、膝を突く。手を合わせて、ゆっくりと開き、そのまま地面に両手をついた。素材を中心に魔方陣が展開され、眩い光が差し込む。素材が魔方陣に吸い込まれ、二つの球体が現われる。
「【ザ・クリエイティブ】っ!」
球体は形を変えて――やがて2本の剣となる。赤と青の剣――長さは長剣に比べてやや短い。剣の中心にはエメラルドが埋め込まれ、それぞれが緑色の輝きも見せる。だが、赤と青それぞれの色を全体からかもし出し、一つの芸術作品――2本の剣は美しい造形を描いていた。
「【竜剣――ホムラ・X】と【竜剣――ツララ・X】、ひとまずこれが限界ですね」
「限界? おいおい、十分対抗できる一品じゃないか!?」
キキョウは興奮気味に言葉を続ける。何しろこの剣はランクSに認定されている。【魔殺しテトラ・クランズ】に劣るとはいえ、一流の冒険者が生きているうちにお目にかかることができるかどうか、かなりレア度が高い。
青を右手に、赤を左手に持って軽く素振りをする。作った本人も悪くない出来栄えに満足したようだ。するとジェルズが慌てた様子で草原の方角を見つめる。デーモンズ・オーガがいる場所だ。
「おい、ボウズ。もうちょっと控えめに作れないのか? 今ので完璧にばれたぞ」
「え? 本当ですか?」
キキョウと宮兎が急いで確認すると、ゆっくりとした動きでこちらにデーモンズ・オーガが向かっていきている。キキョウとジェルズが武器を構えて、立ち上がろうとすると、宮兎一人で前へ出る。これには2人も表情が曇る。
「待て、ボウズ。さっき一人は嫌と言わなかったか?」
「無茶だ、ミヤ坊。ここ3人で様子見を――」
「いえ、大丈夫です。なんだか、この剣である程度やれる気がしました……。しばらく見ていてください。俺が――責任をもってなんとかします」
「おい、ミヤぼ――」
キキョウが立ち上がろうとすると、ジェルズが肩を掴んでとめた。首を横に振って、彼を制した。
「まあ、待て鬼の小僧。むしろ、俺達が足手まといの可能性だってある。ここは一旦様子を見よう」
「ですが! 彼は――」
「キキョウさん、大丈夫ですよ」
宮兎は振り向き、メニュー覧から【装備一括】を選択する。すると、登録していた防具が彼を包み込んだ。輝きを失った赤いヘルム、篭手、プレート、脛当て、クロの長袖のシャツに青いズボン。キキョウは知っている。この装備を身につけている人物を――震える唇で、名前を呼んだ。
「【赤い影】……」
ヘルムの中で宮兎は笑い、そのままデーモンズ・オーガへ走り出した。キキョウは口を大きくあけたまま、数秒ほど動きが止まり、やがて小さく笑い出す。
「くくくく、ジェルズさん」
「なんだ?」
「世界って、意外と狭いものなのかもしれませんね」
「ああ、そうじゃのう」
2人は青年の走り去る背中を見つめ、いつでも援護ができるように武器だけは手に持っていた。
◇
「はあああああぁぁぁ!」
宮兎はデーモンズ・オーガに突進する。襲い掛かってくる下級モンスター達はまるで紙のように簡単に切り捨てられていく。【竜剣――ホムラ・X】と【竜剣――ツララ・X】の切れ味は竜の鱗を簡単に切り裂き、赤い剣からは炎が、青い剣からは氷がまるで柱のようにエフェクトがつく。切り口からそれぞれ炎と氷が溢れているのだ。
勢いを殺さずにデーモンズ・オーガへ切りかかる。鬼も背中から生えた2本の腕で左右から潰すように宮兎へ攻撃する。一瞬で攻撃をやめて、剣をそれぞれ左右へ突き立てる。腕を交差させて、鬼の手のひらに剣が突き刺さる。だが、痛みを感じないのか、鬼は徐々に力を込めて宮兎を押しつぶそうとした。
「ぐっ……。さすがだな、レベル520野郎。力負け……するか……っ!」
ゆっくりと押されていき、それでも耐える。鬼は飽きたのか、ニヤリと笑って、本来の自らの右腕で宮兎へ拳を正面からぶつける。
「っ! 【シャドウ・ステップ】っ!」
鬼の右腕は宮兎を捕らえることはできなかった。霧のように消えた彼を、キョロキョロと探す。鬼の真後ろ――宮兎は空中で霧から人の形を成していき、息を潜んで【竜剣――ホムラ・X】で首を狙う。態々声を出してばらす必要もない。
スカっと剣が空を切った。
「うっそっ!?」
背中に目でもついていたのだろうか。鬼は予期していたと、頭を下げて攻撃を交わした。目を見開いて振り向く鬼の顔を見た。口元がつりあがっている。
(こいつ、笑って――!)
考える余裕も与えず――背中から生えた両腕が、宮兎を下から突き上げる。咄嗟に剣をバツの字に重ねて攻撃を防いだが、衝撃を殺すことはできずに空中へ飛び上がる。宮兎は空に浮かんだまま――【闇の大神殿】のことを思い出した。あの時は天井があって、叩きつけられたが――ここは大空だ。
剣を逆手に持ち替えて頭の上に振りかざす。
「人間なめんじゃねえぞおおおぉぉぉ!」
重力に身を任せ――落ちる。鬼は笑顔を崩さずに、体をねじり、右腕を宮兎へ向かって全力で突き出した。
2本の剣と1本の腕が――激しくぶつかる。
「ぐううっ! さっきよりかてぇ……!」
「ヴォオオオオオォォォ!」
先ほど傷がつけられたはずの皮膚が硬い――宮兎は驚き共に鬼への恐怖心が生まれた。先ほど攻撃を避けたこと、何よりあの【口元】だ。宮兎を馬鹿にしている――ユニークモンスターは知性が高い場合がある。一定の難易度のダンジョンボスは人間の言葉を話、理解する。ただ、オーガ種のモンスターは知性が低い。本能に任せ行動する。このデーモンズ・オーガはその常識を覆す。
(ちぃ! 学習してやがるっ!)
この数秒、一桁ほどの攻防は宮兎の剣にヒビがはいり、砕ける――同時に体を無理やり横に飛んで、地面へ転がった。宮兎は鬼を見上げて、額に汗を流した。鬼が笑い――こちらを見ている。
「ミヤ坊っ!」
「ボウズ、一旦ずらかるぞ!」
キキョウとジェルズが後ろから叫んだ。宮兎はすぐさま頷いて、ポーチから【煙玉】を地面へ叩きつける。煙幕となり、鬼の視界を奪った。無駄に動こうとはせず、視界が広がるまで待った。草原が再び見えるようになると、そこには彼らの姿は無かった。
◇
先ほどの場所――E地点から離れ、A地点まで逃げてきた。3人は円になるように胡座をかいて座り、作戦を練ることにした。
「ミヤ坊がまさかな……って感じだが、今は深く考えないべきだったな」
「ええ、キキョウさん。スタイダストに帰ったら好きなだけ話しますよ」
ヘルムを脱いで、ほっと一息ついた。竜剣が2本とも折れてしまったのはかなり厳しい(経済的に)ところもあるが、致し方ない。あれはあれで、情報を取り入れることができた。
「ボウズが一回目の攻撃――まあ、防いだ結果だが、ヤツの掌に竜剣は刺さっていた。だが、最後の攻撃はまるでダメだった」
「たぶんですがヤツの特性【魔力操作S】によるものだと思う」
キキョウが地面に【魔力操作S】と書き、簡単にだが、鬼の体を描いた。
「【魔力操作S】は基本的スキルや体の基礎の能力を上げるパッシブスキルだ。だが、ヤツは体内にある魔力を体の表面に何十にも重ねて壁を作り上げた。これが二回目、ミヤ坊の攻撃を防いだ正体だ」
「やけに詳しいですね、キキョウさん」
「俺も【鬼】の一族。似たような戦い方をするヤツは見たことがある」
キキョウの説明を受けて、今度はジェルズが書き足していく。
「なら、この【魔力操作S】をぶっ壊して、ヤツの特性を封じ込めれば攻撃が通る。3人でやれば――どうにかできそうだな」
「でも、どうやって? 【魔殺しのテトラ・クラウンズ】でも、流石に魔力そのものは斬れませんよ?」
【スキル】や【魔法】といった、【魔力】から質量を持ったものへ変換したモノであれば【テトラ・クラウンズ】は斬ることができる。だが、魔力は目に見えない不確かな存在――それを斬ることは不可能だ。宮兎の質問に、首をかしげる――と思いきや、2人はまってましたと言いたげに、宮兎へ微笑み返す。
「鬼の小僧がいいものを持っている」
「いいもの?」
「コレだよ」
ポーチから取り出したのは一枚の御札。宮兎にも見覚えがあり、アイテム名を【破魔の護符】。一定時間、触れた相手の魔力を封じ込め、ステータスを半分まで下げる貴重なアイテムだ。これも【課金アイテム】と宮兎に言わせて、材料の関係でこれまた500年に一枚しかつくれない。基本的にダガーなどに巻きつけて、モンスターに突き刺して扱うのだが――。
「強度をどうにかしないと、ダガーじゃ突き刺せませんよ? 最低でも20秒は札に触れさせないと効果が発揮しないのに……」
「そこはウサギ屋、お前の出番だ。お得意の生産系スキルでいっちょ便利アイテムを作ってくれよ」
「んな、ジェルズのおっさん。簡単に言うけど、想像力と素材の組み合わせによって何ができるかどうか――ん?」
ふと、何かを――思い出す。
宮兎はさきほどの鬼のように――不気味に笑った。
「お二人さん、いい商品がありますよ」
(悪い顔してるなあ、ボウズ)
(すげえ悪いこと考えてる顔だな、ミヤ坊)
宮兎はアイテム覧からとあるアイテムを取り出して、作戦を決行することにした。
◇
デーモンズ・オーガは何故、自らの体がこのように進化したのか分からない。だが、一度に多くの知識と力を手にいれて、王者の気分を味わっていた。人間が襲ってきた時、本能ではなく、考えて戦うこと――どれだけ今までの自分が愚かな存在だったか。そして人間がちっぽけな生き物なのか、理解してしまった。
もう、誰も止めることはできない――鬼は心の中で確信していた。
しかしだ、今、目の前に居る3人の人間に対しては頭を傾げたい気持ちになった。宮兎、キキョウ、ジェルズの3人だ。キキョウはカタナ、ジャルズは大槌を構えて、宮兎は手ぶらである。ヘルムは被らずに素顔を晒していた。
「さあて、鬼さん。鬼ごっこをやろうじゃないか。もちろん――俺達が鬼な」
宮兎はにっこりと笑い――左右の2人が動く。キキョウが左、ジェルズが右から攻撃を開始する。脚の早いキキョウはカタナをなぎ払い、鬼の側面から切りかかった。だが、あまりの硬さにカタナは止まる。背中の左腕でキキョウを振り払おうとする。しかし、いつの間にか懐にジェルズが潜り込んでいた。
「ほーらよっと!」
大槌を乱暴に振り上げて、顎へと命中させる。鬼は踏みとどまり、なんと大槌を受け止めたのだ。ジェルズも苦笑いして、キキョウのほうへ飛び込んで、襲い掛かる3本の腕から逃れた。すかさず宮兎が地面を蹴り、正面へ向かった。
手を合わせて、何か錬金するつもりだろう――鬼は体勢を整え、両手を握り合わせて、上から叩きつける。感触がない――鬼の頭の中で、宮兎が使ったスキルが浮かぶ。
背中の腕が動き――真後ろで宮兎の体が霧から元に戻った瞬間には動き出していた。今度は攻撃の余裕すら与えない。やはり、人間とは愚かで同じことしかできない。裏をかいたつもりだったようだが、無駄であった――鬼の見解である。しかしこれも――彼らの作戦通りだ。
「ジェルズさん!」
キキョウが鉄の丸い塊を投げる。
「受取れええええええええぇぇぇ!」
大槌で野球のごとく球体を宮兎へむかって打ち込んだ。大槌には魔方陣が展開され、【鍛冶職人の大秘宝】が発動していた。弾丸の如く飛んでいたった球体――鬼の頭を狙ったようだが、ひょいっとかわす。ちょろいもんだと、余裕を見せ付けて後ろを確認すると――球体は宮兎の手に握られていた。
瞬間――鬼の手が宮兎を押しつぶす前に、スタンっと地面に彼は降りた。
球体には【重力増加】のエンチャントをかけたのだ。宮兎が手にすることによって発動し、体が異常な速度――磁石のように地面へ落下する。すぐさま球体を手放して、ポーチから【破魔の護符】と――【瞬間接着剤】を取り出した。
「そぉーらよっと! はい、タッチ!」
雑に液体を容器から散りばめて、護符へ付着させる。右手に持ったソレを鬼の背中へピッタリと貼り付ける。何を貼られたのか、訳が分からない状態に陥り、鬼の動きが一瞬だけ止まった。
宮兎は後ろに飛んで、離れた場所から2人と一緒に観察する。腕を背中に回すが、とどかない。背中から生えた腕を必死に曲げるが、長さが足りない。絶妙な場所に貼られた小さな護符がゆっくりと鬼の体を侵食していった。
最後は地面に背中をこすり付けるが、生やした腕が邪魔で無駄のようだ。
「ぴったりとくっつくモノなのだな、シュンカンセッチャクザイは」
キキョウはとても関心したように呟いて、ジェルズも頷く。バタバタと暴れる鬼に、宮兎は近づく。手には四つの宝石――両手に魔方陣をつくりあげて、素材を吸収させる。
「鬼さん、タッチされたらゲームは終了ね。だから、ほら、もう諦めろよ」
手を合わせて――離すと一本の剣が生まれる。【魔殺しのテトラ・クラウンズ】だ。鬼はその剣を見た瞬間に、恐怖を覚えた。ブラック・オーガのときには絶対に味わえなかった感情。魔力を封じ込められ、スキルも扱えない。護符の侵食が体を蝕み――100%の力はもう出せないでいた。
それでも――デーモンズ・オーガは四つの拳を宮兎へ叩き込む。
「だから――悪いな」
無残に腕を細切れにされ――最後は心臓の部分から巨大なクリスタルを貫かれた。
こうして――あっけなく、世界は救われた。
◇
「納得いきませんわ!」
後日、ウサギ屋を訪れたティナはレジでぼっーっとしていた宮兎へ怒鳴った。
「だから、赤い影が偶然通りかかってチャッチャカ倒しちゃったの。分かる?」
「わたくしが言いたいのは赤い影様に会えるチャンスだったのに、せっかく……せっかくぅ……!」
「ああ、そっちね」
宮兎はデーモンズ・オーガを横取りされたことに怒っているのかと思っていたが、どうやら赤い影と出会える機会を奪われたことに腹を立てているらしい。ティナらしいと言えばそうだが、冒険者としてどうなの? と心の中で呟く。
結局は、ティナにばれると厄介なので強制送還なのだが、文句をずっと言われるのも迷惑だと、適当な言い訳を考えた。
「俺達みたいな、ザコが居たら邪魔になるだろう? 親愛なる赤い影の邪魔にならなかったと考えれば、それはそれでよかったと思うけどな」
「そうですが……」
結果、彼のためになったと無理やり言い聞かせて、ティナは黙ってしまう。今回の事件は彼女にとってかなり大きなショックを与えただろう。冒険者としてのあり方。リーダーとしてのあり方。そしてアルムント家としてのあり方。様々なことを考える良いきっかけになればと、宮兎やガラドンド、パーティーのメンバー達は思う。
「ですが、やっぱり悔しいですわ! あと数分、あと数分だけあの場所に残れば赤い影様とお話できたのに!」
(まあ、赤い影と話すのは絶対に無理だろうけど)
宮兎の考えていることなど知りもしないティナはぶつぶつ不満を言い続け、とうとう「邪魔」と言われて帰っていた。スタイダストを騒がせたこの事件はしばらくの間、新たな英雄伝を綴った【赤い影】の話題で盛り上がる。
スタイダストは今日も明日も、しばらくは平和のようだ。
てことで今回でこの編は終了です。
ちょっと急いで書いたので明日の朝にでも誤字編集します。サーセン。
次回からは【新商品開発部編】ですね。
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ああ、それにしても腕がー! キーボードの叩きすぎじゃああ!