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21話 見習い少女、ウサギとオニと鍛冶屋無双

次回で見習い少女編終わりますー。

ほのぼの日常お待ちの皆様、たいへん長らくお待たせして申し訳ないです。

 C地点でティナ、デスカント、ナノ、そして意識を取り戻したサマエトの四人は小さな洞穴に身を潜めていた。外の様子を見てみると、未だにモンスターがうようよしている。サマエトは寝かされて、現在もナノの治療を受けていた。


「……ナノ、本当にすまない」


「いいえ。サマエト先輩が岩の防御壁を作ってくれなければ今頃、私達はここにはいません」


「ははは、その言葉が聞けてうれし――うぐっ」


「まだ無理にしゃべらないほうがいいです。傷は塞がりましたが、内側がボロボロです」


 骨折していた右腕を簡易ギブスで首からぶら下げ、サマエトは横になりながら見張りをするティナへ視線を向けた。表情から、悔しさ、恐れ、何より迷いが見える。彼女の背中を見ながら、そっと呟いた。


「ティルブナ嬢、そこまで思いつめても現実は何も変わりませんよ」


「……分かっていますわ。ただ、あのレベル520の化け物――アレがどうやって生まれたのか、考えていただけですわ」


 ティナの質問にほかの冒険者も頭を悩ませた。レベル520のモンスターなどそうそうお目にかかれない。最難関ダンジョンのボスでさえレベル480が現在確認されている最高レベルだ。ユニークモンスターのレベルと人間のレベルの数値はイコールではない。レベル520ともなると、カンストした冒険者がコンビで倒せるのがやっとか。


「……救援は呼んでいるわ。明日にはきっと必ず助けが来る」


「ですが、あのモンスターは? ギルドの冒険者で討伐できるのでしょうか?」


 ナノの質問にティナは黙り込んだ。スタイダストに在籍するカンストした冒険者は【赤い影】のみ。レベル400超えはたったの20人。そして300超えが約150人。あとは、皆レベル200台。レベル300が鬼門とされる冒険者が一つの街に170人超えていることはかなり珍しい。あのモンスターも大人数で狩れば倒せるはずだが、どれほどの被害が出るかは予想できない。


「【赤い影】、そして【精華のレジニー】が駆けつければ、可能性はあります」


 サマエトの言葉に3人は小さく頷く。彼らが体験したあの恐怖――あれを例の2人が乗り越えられるのかどうか正直なところ分からなかった。デスカントは2人を見たことはない。ナノも同じで、どことなく心に不安が残る。一方のサマエトとティナは赤い影を間近で見て、その実力を知っている。とはいえ、あの化け物に対抗しゆる力を持っているのかどうか――疑いを持っていた。


 ――突然、四人が囲む中央に光のベールが現われる。


「なんだっ!?」


 デスカントが剣を抜いて立ち上がった。ティナもエストックを構えようとしたのが、その光が【転移のデク人形】と呼ばれるアイテムのものだと思い出し、彼に剣を収めるように指示した。


「ふう、無事に到着だな」


「み、ミヤトっ!?」


 彼女達の前に現われた三人組――質屋、鍛冶屋、そして雑貨屋。誰もが一度は店に寄ったことがあり、誰もが見たことのある顔が三つ、そこにはあった。


「【オニガシマ】のキキョウ・クチナシ、さん?」


 ナノは1週間前にモンスターのドロップアイテムを売りに立ち寄った店の店主の顔を見て、驚いた。


「【ハウリングウェポン】のジェルズ・ハウリング……」


 デスカントはこの日のためのエンチャントを依頼した鍛冶屋の親父をみて、唖然とした。


「【ウサギ屋】、ミヤト・アカマツ? 何故、この人がここに……」


 サマエトは錬金術師が経営する雑貨屋が気になり、一度だけ外から覗いたことがあった。その時に見た宮兎の顔がこの場にあることに違和感を持った。


「ミヤト……何故ここにっ!?」


「アスティア……もともとはセルフィからの連絡だけど、お前達がなにやらピンチってことで【コイツ】でここまで来たわけよ」


 地面に転がした不気味な表情を浮かべる木彫りの人形。これは転移アイテムの一つで【転移のデク人形】と呼ばれるアイテムだ。一度訪れたことのある場所――または、デク人形に一本の髪の毛を結び、髪の毛の所持者の所へ移動できる【呪われた品】である。


「お前の髪の毛店から探すの大変だったからな? クロが1週間掃除サボってなかったらすぐにここまでは来れなかったんだぞ?」


「……………」


 転がっているデク人形には金色の髪の毛が一本巻かれていた。ティナはなんとも言えない気持ちになって、苦笑することしかできない。


「おい、ボウズ。暢気にしゃっべてる暇はないぜ?」


「ミヤ坊、とりあえず彼らを帰すのが先だ」


「ああ、確かに」


 ぽいっともう一つのデク人形をティナに投げ渡す。受取った人形には一本の茶髪が巻かれていた。デク人形の転移最大人数は4人。彼らパーティーを帰すには丁度よいアイテムだ。ただ、こんなアイテムがポンポン出てくるほどレア度が低いわけではない。二つの錬金術では、素材が足りなかったり、MPが足りなかったりと大変だった。地下倉庫からやっと見つけたのが二つ――アイテムボックスの奥底に眠っていたのだ。


「これでひとまず帰りな。見た限り、昨日は一睡もしてないだろ?」


 モンスターの軍勢がウロウロしているなかで寝れるわけがなく、彼らは一睡もすることはできなかった。ティナの場合は興奮と怒りにより、眠れなかったらしいが。


 ティナはデクの人形を見つめ、それをナノに渡した。


「てぃ、ティナ先輩?」


「ナノ、デスカント、サマエト、貴方達だけで帰りなさい」


「おい、ティルブナっ!」


 デスカントが叫んだ。彼の顔は怒りではなく、焦りの表情だった。この言葉にキキョウとジェルズは腕を組み、宮兎は黙って立っていた。ナノとサマエトもティナに対して言葉が溢れてきた。


「何を考えているか、僕には分かりません。まさか、残って戦うのですか?」


「その通りよ、サマエト。アルムント家の名を汚すわけにはいかないっ」


「何を馬鹿なことを言っているんですか、ティナ先輩! せっかく救助が来てくれたのですよ! 一緒に帰りましょうよ!」


「……あの魔物は危険すぎる。もし、ギルドの冒険者が助けに来たとして何人犠牲になるか分からない。わたくしが、せめてわたくしがあのモンスターの片腕だけでも……っ!」


 宮兎は大きく息を吐いて、キキョウとジェルズに目を向けた。しかし、2人は首を横に振っただけで何も言わなかった。宮兎は肩をおとして、サマエトへ近づく。


「間違ってたら悪いけど、君はアルケミストかな?」


「……はい、ミヤト・アカマツ。お話できて光栄です。錬金術師の間では、貴方の店の話題で持ちきりです」


「ははは、嬉しいかぎりだよ。ところで、まだ材料は余っているかな?」


「ええ……鉱石系しか扱わないのですが、いくつかは」


「ちょっと見せてもらうね」


 サマエトのローブをもぞもぞと触る。鉄鉱石と、【マテリアル】と呼ばれる何かしらの効果がエンチャントされた球体の素材だ。宮兎は【マテリアル】をじろじろと見て、サマエトへ微笑む。


「悪い、これちょっと借りるわ」


「ええ。お願いします」


 サマエトは力強く頷いた。宮兎も返し、両手に魔方陣を展開させる。


「【ザ・クリエイティブ】っ!」


 マテリアルと鉄鉱石で錬金術を行い――2mほどのチェーンが作られた。未だに下唇を噛んで、俯くティナに宮兎はチェーンを投げつけた。


「え?」


 間抜けな声とともに、ティナの体はチェーンにグルグルに巻きつかれた。ばたりと地面に倒れ、何が起こったのか理解できていない様子だった。


「み、ミヤト! これは何の真似ですの!?」


「悪いな、ティナ。ガラドンドのおっさんが受付嬢に怒鳴りつけて見てられないんだわ」


「お父様は関係ありません! わたくしはっ!」


 ティナに近づいて、横に抱きかかえる。ティナは目が回りそうになり、ジタバタを暴れるが離してくれそうになかった。デスカントへ近づいて、乱暴に渡す。デスカントはティナをお姫様抱っこで受取ると、呆気に取られたような顔で宮兎を見た。


「受付嬢が可哀想って話をしてるんだよ。ほら、お前らもさっさと帰った帰った。俺達もすぐに戻るからさ」


「ミヤト! ちょっと! デスカント! 降ろしなさい!」


 しかし、デスカントは頭を下げてナノへ近づく。


「ミヤト殿、感謝する」


「いいって。ほら、怪我人もいるんだから早く早く」


 四人が固まると、ナノはデク人形を力強く握り締めた。光が四人を包み込み、徐々に体が薄くなっていく。ちなみに、このデク人形に巻かれている髪の毛はアスティアのものだ。ギルドに待機しているので、ガラドンドとすぐに対面できるだろう。


「ミヤト・アカマツ、本当にありがとうございます。同じアルケミストとして、尊敬しています」


「その話もあとな。えっと、僧侶の女の子。帰ったらすぐさまアルケミスト君の容態をギルドに伝えるように」


「は、はい!」


「ミヤト! 無視なさらないで! デスカント! 早く降ろして! デスカ――」


 ティナの文句が言い終わる前に消えてしまった四人。残されたジェルズとキキョウは大きな溜息を吐いて、宮兎へ近づく。


「すぐに帰る……ね。俺が聞いた話と違うんだけど? どうなんだ、ミヤ坊?」


「やだなあキキョウさん、どの道帰る手段なんて用意できなかったんですから最悪、明日来る予定の救助隊のお世話になることは決定なんですよ?」


 そう――彼らは帰る手段を用意できなかった。さきほど四人はこの三人も『帰る手段を用意している』と思い込んでしまった。宮兎のセリフが原因なのだが、彼は反省はしていない。ここに来た大きな目的は果たせた。残ったおまけ――例のワールドモンスターを討伐する予定なのだ。


 あくまで予定――なんせレベル520のモンスターをトリオで討伐など無理な話なのだ。だが、ミヤトはちょっとばかしこの2人の実力を知っていたし、ジェルズも【赤い影】が傍にいることを知っているので不安は感じず、キキョウにとってはセルフィに泣きつかれて、ミヤトと同行することになりどうしたものかと「やれやれ」と呟いた。


「本当に2人には申し訳ないと思います……」


「いやいや、ワシは久々の冒険で腕がうずくのう」


「俺もセルフィについて行ってくれと頼まれただけだしな。ミヤ坊が気にすることじゃないさ」


 2人の言葉に、ほっとした。素材やエンチャントの強力を頼んだはずが、このような形で巻き込むことになってミヤトが混乱していた。だが、結果としてはとても心強い。


「って、セルフィさんと知り合いだったんですか……」


「ああ……色々あってな」


 キキョウの【色々】にツッコミを入れたくなったが、洞穴の出口からはモンスター達の鳴き声が聞こえる。3人はそれぞれアイテム覧から武器――カタナ、大鎚、長剣をとりだす。


「ジェルズのおっさんはあまり無理しないでくれよ? 怪我されたら奥さんに俺が殺される」


「ガハハハハっ。心配せんでも怪我はしないさ。ただ、ちょっと無茶はするかもしれんがのう」


「んで、キキョウさんはこれから色々言いたことがあるかもしれませんが、それは帰ってからでいいですか?」


「これから何が起きようとも驚きはしないさ。まあ、ミヤ坊が強い――それは分かっている」


「ありがとうございます」


 3人はこの会話を最後に洞穴を飛び出して、某ゲームの如く下級モンスターをずっぱずっぱと切り捨てていく。三十分ほど草原が真っ赤に染まり、ようやく鬼を見つけて――彼らはどうしたものかと頭を抱えることになるのであった。

てことで、次回でこの編も終了です。

次回は基本一話完結の【新商品開発部編】です。

くだらない新商品作ってアスティアに怒られるテンプレ話ですね。

明日でこの話も終わります。日常系お待ちの皆様にはご迷惑をおかけしました。あと少しで終わりますので、お待ちください。

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