20話 見習い少女、救援要請
ブックマーク7000人突破! 感謝です!
それと、あまり話し進まなくてすみません(・д・)
「おお、なかなかの出来栄えじゃないか!」
朝から宮兎は大はしゃぎだった。新商品の開発を徹夜でやってのけ、やっとの思いで完成させたのだ。今回は【瞬間接着剤】を創り上げた。材料はクモ型モンスターからドロップできる【ネバネバシルク】、沼地に生息する土属性モンスターがドロップする【ドロドロダンゴ】、入れ物にはよく乾燥する【ガラガラスコーピオン】の殻が採用された。
何故、このような商品を作ったのか。理由は【レイン・ゴースト】達の悪戯だった。未だにアスティアには恐怖心を抱いているが、宮兎は主というより友達に近い感覚で接してきた。彼自身も、ゴースト達との距離感には不満はなく、楽しくウサギ屋を営業していた。
今回はその行き過ぎによる【悪戯】――昨晩、宮兎が座る椅子の脚に切れ込みを入れて、ぽっきり折ってしまったのだ。もちろん、宮兎が座った瞬間に。【レイン・ゴースト】達は大盛り上がりだったのだが、こっぴどく怒られて一日中、接着剤の開発を手伝わされる羽目になった。モンスターといえど、休息は大切だ。彼らも睡眠はとるし、食事もする。疲れることもあれば、楽しいことは大好き。人間と同じで、感情豊かな生物なのだ。
ヴァルハラに存在する接着剤はさほど接着力が強いわけではなく、そもそも道具屋に売っていない。冒険で扱われない雑貨など、彼らは売る気がないのだ。
そこで、今回も作った。
くたくたの【レイン・ゴースト】達を見て、宮兎はにっこり笑って、腕を組んだ。
「これにこりて悪戯はもうするなよ? 今度したら、三日三晩新作の実験台になってもらうからな?」
3体は背筋を伸ばし、大きく頷く。思い出すのは接着剤の実験――レイン・ゴースト達の体に塗って、色々な物を貼り付けられた記憶。お湯で溶かせるようにエンチャントを施しているので問題はなかったが、やはり持続性と瞬間性を、接着力を重視したかったため、数多くの試作品が生まれた。中にはスライムを素材にしたため、勝手に動き出したり、食べ物を食べ始めたりと、散々だった。
「さーってと、片付けて開店の用意でも始める――ん?」
椅子から立ち上がって背筋を伸ばすと、【コール】が鳴り響いた。誰からだろうと、メニューを開き確認する。アスティアからだ。
(こんな朝早くから。また体調でも崩したか?)
考えながらも、【コール】に出ると、第一声は『ミヤトっ!』と慌てた叫び声だった。
「どうした、アスティア? なんか、すげえ慌てて――」
『大変です! たった今セルフィから連絡があって、ティナさんが!』
「…………ティナがどうしたって?」
『一昨日の私達、シスターの体調不良は偶然じゃなかったんです! アレは、アレは前触れ……。そう、前触れで……っ!』
「落ち着けって! ティナがどうしたって? まずはそれを話してくれないと、俺も……」
アスティアの異変に、宮兎は落ち着くように促す。それでも彼女の様子が変わることはなく、何度も似たようなことしか言わない。しばらく黙って聞いていたら、アスティアはようやく落ち着きを取り戻しつつ、震える声で呟いた。
『……ティナさんがユニークモンスターの討伐に向かって、一日帰ってきていません』
「………なんだって?」
『連絡は取れています……。神秘の草原のC地点で待機しているとのことです……』
「……ギルドは?」
『わかりません。私もセルフィから連絡があって、今向かっているところです』
「分かった。俺もすぐに行く」
コールをきり、宮兎は頭の中で何が起きて、どうしてこうなったのか整理をはじめた。その間に、着々とジーパンに黒のTシャツに着替え、一階へ降りる。【レイン・ゴースト】達は不思議そうに後ろをついていった。いつものカッターシャツにスラックスではなかったからだ。
「悪い。今日は店は開けない。それと、留守番を頼む。一回帰ってると思う。けど、たぶんまたすぐ出かけるから」
店主の言葉に顔を見合わせたが、理由を聞かず(聞けないが)それぞれが頷いて、宮兎を裏口まで見送る。「よろしく」だけと伝えて、宮兎はギルドへ向かった。
「くそっ! 【シャドウ・ムーブ】っ!」
早朝の人通りの少ない道で、宮兎の体は黒い霧になり、どこかへ消えた。
◇
【シャドウ・ムーブ】はアサシン専用の移動スキルだ。【シャドウ・ステップ】と違い、霧の状態でも当たり判定があるので回避には使えない。ただ、移動の際は疲れも感じずなにより速度が早い。一分間の短い時間だけだが、インターバルも2分なので連続的に使えることができる。
スキルを駆使してできるだけ早く――スタイダストの北区にある【冒険者ギルド スタイダスト支部】の扉を力強く開けた。
夜が明けたばかりだというのに、多くの冒険者が集まっていた。いつもの雰囲気とは違い、ガヤガヤと皆慌しい。耳を傾ければ「アルムント家の三女がまだ戻ってきていない」との話題だった。小さく舌打ちをして、奥のほうへ進む。案内受付所の前には――セルフィ、アスティア、そしてアルムント家現頭首――ガラドンド・F・アルムントが興奮気味に叫んでいた。
「何故、転移クリスタルが使えないっ!」
「私達にも分かりません! 昨日の朝方から使用ができず、調整をしているのですが、原因が……」
「そんなことはどうでもいいっ! ティルブナが何故、何故戻ってこないっ!」
2mの大男が怒りを露にし、受付嬢に吼えていた。宮兎がじっとその後姿を見た後、ゆっくりと近づく。周りの冒険者達もようやく宮兎の存在に気がついたのか、ざわざわと先ほどとは違う声が聞こえてくる。「ウサギ屋だ」「引退したヤツがなんでここに?」「事件の話でも聞きに来たのか?」などなど。今の彼にとっては――どうでも良かった。
アスティアも宮兎の存在に気がつき、小さな声で名前を呼んだ。
「ミヤトっ……」
「一体何がどうなっているんですかっ………!?」
ガラドンドに近づいて質問を問いかける。この2人は何度か顔を合わせているが、あまり互いのことを良いとは感じてはいなかった。ガラドンドは強さを求めるアルムント家の頭首、怪我で引退したと思っている宮兎を良くは思っていない。一方の宮兎は強さに捕らわれすぎるアルムント家の考え方に疑問を抱いており、ガラドンド本人ではなく、ティナを除くアルムント家に嫌気がさしていた。それは次男や次女と対面したときに思ったことなのだが、それも後日語らせていただこう。
ガラドンドは宮兎の顔を見て、怒りから呆れた表情へ変わった。
「なんだ、お前か」
「連絡を受けました。ティナ……ティルブナが帰ってきてないと?」
「……ああ、昨日【ブラック・オーガ】の討伐クエストに行き、まだ帰ってきていない」
「ブラック・オーガ? あのモンスターは冬だけのはずでは?」
「イレギュラーとして観測したのだが、調査員の結果問題ないとされた」
「討伐は完了したと?」
「報告ではな。ただ、ティルブナから送られてきた【コール】ではレベル520のモンスターへと姿を買えたと」
「レベル……520っ!?」
宮兎はそのレベルを聞いて、血の気がひいた。人間の限界とされるのが【レベル500】だ。だが、ヴァルハラに生息するモンスターの中にその限界を優に越える存在がいる。それを【ワールドモンスター】と呼ぶ。基本的にワールドモンスターはレベル501からのモンスターの名称でレベルを600以上のものがほとんどだ。30人から多い時は100人で討伐するワールドモンスター。冒険者の平均レベルは300程度で、数で挑めばなんとかできる程度だ。レベル500でワールドモンスターにソロで挑んだ場合――運がよければ勝てるだろう。だが、それはきちんとした準備と情報があってこそだ。
宮兎は心の中で頭を抱えた。レベルがカンストしている自分ですら勝てるかどうか分からない相手。それをどうやって攻略すべきなのか……。
「他のレベル300超えの冒険者達は?」
この質問にガラドンドではなくセルフィが答えた。
「かたっぱし連絡したわ。だけど、皆クエストに出てたりして……すぐには帰って来れない。ダンジョンに潜ったりすると転移クリスタルがある入り口まで戻らないといけないし――って、その転移クリスタルが使えないのよ」
「……原因は?」
「はっきりとはいえない。でも、シスター達はみんなこう言っているわ。【良くない魔力が干渉している】って」
「……」
頭の中で思い出されるシスター達の体調不良。そして街で起こるモンスターによる事件。それが全てワールドモンスターの前触れだったとしたら。
「あいつはどうした……」
「あいつって……」
「……『精華のレジニー』」
「彼女は……連絡がつかなかった」
「そう、か」
宮兎は背を向けて歩き出す。アスティアははっとして彼の後を追う。セルフィは出て行く背中を見つめて、ガラドンドの方へ顔を向ける。
「既に救助隊が馬で向かっています。ですが――」
「分かっているっ…………。くそっ!」
ガラドンドは怒りをどうすればいいのか分からず、自分の太ももを殴った。セルフィは見えなくなった宮兎の考えがなんとなく分かっていたが――何もいえなかった。
◇
ウサギ屋へ一度戻り、まっすぐ【ロック】のかかった地下室へ向かった。アスティアも後ろからついていき、初めて入る場所に少々驚く。
地下室は【魔力光】で照らされて、地下とは思えないほど明るい。壁には大量の武器と防具、机の上にはアイテムや素材が散らばっていた。その一番奥に、巨大な木箱が置かれている。無言で宮兎は開いて、ごそごそとあさり始める。
「いったい、どうするつもりなのですか?」
「俺が助けに行く。じゃないと、ティナのパーティーは今日にも全滅するだろう」
「ですが、ワールドモンスターなのですよ! いくら貴方がカンストしているからといって……!」
「勝算がないわけじゃない。もう一度【テトラ・クラウンズ】を作る」
「でも……あれは――」
最難関ダンジョン【闇の大神殿】攻略で使われた剣――【魔殺しのテトラ・クラウンズ】は四つの宝石を使い錬成される武器だ。宝石の希少価値から作り上げることはもちろんのこと、十分なエンチャントをしないと【ベルフエル】の魔法スキルを切り裂くことなど無理だっただろう。あの剣があってこそ、宮兎はダンジョン攻略に成功したのだ。
宮兎が机の上にある素材やアイテムを乱暴にどかし、ありとあらゆる宝石をばら撒く。その中から素材となるものを探すが――。
「……ラピスラズリとダイヤモンドは十分な大きさが揃っている。だけど、オリハルコンが小さすぎる。アメジストにいたっては米粒サイズ……」
「これでは作れません。やはり、他の手を――あ! スキルで宝石を創ることは――」
「【ザ・クリエイティブ―蘇生転生-】はもう、試した。魔力不足でエラーが発生して作れない……。どの道石ころ計算で十分な大きさで20万要求されたんだ。もし創れたとしてもエンチャントされていないからあの威力は出せない」
「……じゃあ」
「いいや、諦めるのは早い」
宮兎の頭の中で頼りになる人物が2人いた。彼らにすぐさまコールして、今から向かうことを伝え、アスティアと共にウサギ屋を飛び出した。
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それと感想の返事遅れてすみません! 一応、すべて返信しましたので、ご確認いただければと思います。